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Chevalier『シュバリエ』〜約束の騎士達の物語〜  作者: JACK・OH・WANTAN
第零章 騎士と王子
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第5話:約束の船出

「ぐはっ・・・」


日が沈み、宵闇の世界へと誘われた林道・・・走らぬ馬車が力無く佇む横でシエルは折れた木剣を手にしたまま地面に転がると辺りに鮮血を残し、青い瞳から光を消していた。


「ケッ、ガキのクセに調子に乗るからだ!」


そんな彼の目の前まで歩み寄った"王殺しのロキ"は狼の様な目付きを更に細めた。


「うっ・・・ゴホッ、ゴホッ」


最早、抵抗する力すらも失ったシエルは血を吐き出しながらも傷付いた身体をなんとか起こそうとする。


「うぐっ!?」


しかし、想像以上に伝わる痛みに耐えきれず直ぐに身体を地面に倒してしまうと息をするのがやっとの状態まで陥ってしまう。


「おいおィ・・・ここまでボッコボコにされておいてまだ戦う気かよォ?つくづく生意気なガキだなァ。」


呆れた表情を浮かべたロキは腰のホルスターからピストルを取り出してそれを突き付けた。


「ッ!?っぐ!ううっ!」

「安心しろォ・・・狼狽えなくてもスグ楽にしてやる。金目のモノは奪えなかったが王族のガキを殺せるならそれでいいからよォ。」


向けられた銃口を見て、シエルは遂に己の死を覚悟したのか光のない瞳から涙を流し出す。・・・僕はここで死ぬんだ。師匠と喧嘩して「ごめんなさい」も言えないまま弟やお城の皆に馬鹿にされたまま惨めに死ぬんだ。


嫌な人生だったな。もし生まれ変われるなら・・・自由なとこの家に生まれたいな。お金持ちとか王族じゃない自由な家に・・・。


でも、師匠に「ごめんなさい」だけじゃなくてあの事も言えてないな。


強くなって皆を見返した後どうするのか?・・・それが切っ掛けで生まれた「夢」を叶えるどころか師匠にすら言えないなんて・・・死にたくない。死にたくないよ。


そう心の中で呟いたシエルはロキが銃の引き金に指を置いた瞬間、目をゆっくり閉じ、短かった自分の生の終わりの瞬間を受け入れようとした。


・・・その時だった。


雷鳴の様に轟く銃声が響いたと同時にロキの手にしていた銃が一発の弾丸によって破壊され、地面に落下する。


「何っ!?」

「・・・えっ?」


その銃声と驚くロキの声を聞いたシエルはゆっくり目を開き、銃声が聞こえた方へ目を向けた瞬間、視界に映りこんだ人達の姿にシエルは涙を流し、瞳に光を灯して涙した。


彼の視線の先には愛銃に白煙を吹かせながら葉巻の煙を吐くヘーニルと自身の師、オーディン。その仲間達の姿が映っていた。


◇◇◇


「な、何だ!?お前らは!?」


ロキの前に現れた私は怒りの表情を浮かべながら腰にある濃紺の剣に手をかける。遂に見つけた・・・いや、そんな事よりとんでもない事をしてくれたな!


「貴様が王殺しのロキだな?」

「な、何故!?オレの名前を!?」

「当たり前だろ?テメェはお尋ね者なんだぜ?」


ヘーニルは愛銃を下ろしながらロキに当然の答えを放つ。


「し・・・師匠。」

「シエルちゃん!?だ、大丈夫?」

「ヨルズ・・・姉さん。」


力無く声を出す愛弟子(シエル)にヨルズは心配そうに声をかけた。あんなボロボロになって・・・よくロキ相手に持ってくれたな。


「シエル・・・。すまないな。遅くなった。」

「師・・・匠」


シエルに謝罪の言葉を上げ、キッと奴の方へ鋭い眼光を向け直した。どうやら本気で奴は死にたいらしい。


「王殺しのロキ・・・。丁度良い。貴様に用があった。」

「な、何だと?オレにか?」

「ああ、どうやらウチの可愛い愛弟子が世話になった様だな?」

「へ、へへっ・・・なんの事かサッパリ分からねェな?」

「この後に及んでシラを切るつもりですか?貴方は!!」


冷や汗をかきながら後退りするロキにフリッグも怒鳴り声を上げる。


「へへっ、ガキ独りなら仕留めるつもりだったが・・・怖そうな姉ちゃん達が相手なら話は別だなァ・・・オレはこれにて失礼するぜッ!」


そう言い残すとロキは素早い動きで逃走を図った。


「ぐわっ!?」


しかし、それよりも遥かに速い人影が目の前に現れるとロキに蹴りをお見舞いして地面に倒すと彼は自信を蹴り飛ばしたバルドルを見て、驚いた表情を浮かべた。


「な、何だと!?このオレが・・・速さで負けたのか?」

「そう簡単に逃げられると思わないことです。貴方はここで散る運命のなのですから。」

「チッ、大勢で舐めてかかりやがって!上等だ!全員斬り殺してやるよォォ!!」


逃げられないと悟ったロキはバルドル目掛けて鉤爪の付いた腕を振り上げた。


「はあっ!!」


刹那、ヨルズが蹴りを入れるとロキを制止して身動きを取れなくする。


「何っ!?」

「アタシは今怒ってるよ?アタシの可愛いシエルちゃんをあんなにしたんだからね?許さないよ!アンタ!!」


憤怒の表情を浮かべたヨルズはそのまま一回転すると今度は右頬に気持ちの良い蹴りをお見舞いした。


「オラッ!」

「ぐわぁぁ!!」


蹴られた衝撃で馬車に頭をぶつけたロキは痛みに悶絶しながらもしぶとく立ち上がって鋭い目を光らせる。


「クソッ・・・ふざけるなァ!」

「ふざけているのは貴方の方です。」

「ッ!?」


続けてフリッグが剣を振り落とし、ロキを攻撃して追い詰めた。


「うわっ!?何だコイツら!?つ、強い!!」

「当然だろう?ロキ。貴様は喧嘩を売る相手を間違えたのだからな。」

「何?どういう意味・・・ッ!?ま、まさかお前ら!?」


フリッグに退けられ、再び倒されたロキ私を見て、遂に誰なのかを理解する。


「私はオーディン!ラグナロク騎士団の団長として貴様の首を貰いに来た!」

「オーディン・・・だと!?」

「そうだ。私の名、貴様も私を知っている筈だな?」

「ウ、ウソだろ!?ち、畜生!畜生ォォォッ!!」


私達の素性を知ったロキは先程の威勢から一転、取り乱して頭を抱え始めると恐怖に満ちた表情を浮かべる。


無論、シエルを傷つけた者に慈悲など当然与えるはずも無く私は腰にある濃紺の剣・・・『グングニル』を手にして紺色の光と稲妻を刃に纏わせた。


「わ、わ、悪かった!!だから命だけは・・・命だけは勘弁してくれェ!!」

「聞こえないな・・・何を言っているのだ?」

「ああっ・・・ああああっ!」


無表情のまま怒り、剣を振り上げる私にロキは口を開けたまま為す術を失ってしまう。奴には地獄という相応しい場所へ送り届けてやろう。


「地獄の底へ堕ちろ・・・"王殺しのロキ"。」


剣を振り落とすと同時に背後から不気味な濃紺の霧で形成された骸が現れるとそれは大きな口を開けてロキの身体に刃が斬りこまれたと同時に彼を呑み込んだ。


「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!」


骸の口の中でロキは悲痛の悲鳴を上げるとまるで喰われるかのようにそのまま濃紺の霧の中で肉体ごと消滅してしまった。


「ふっ・・・」


濃紺の霧と骸を剣の中へ封じ込めた私は何事も無かったかのように一息吐くとグングニルをしっかり鞘の中へと納める。


「・・・これで一件落着だね。団長」

「ああ、ロキは私の手で消した。もうこの国に脅威はない。」

「"冥界の王"の力を持った剣か・・・相変わらずおっかねぇな。」


ロキを容赦なく剣の餌食にした私にヘーニルは苦笑する。


「そうだ!?シエルは?」


ふと、私はシエルの事を思い出し、彼がいた方へ顔を向けると傍にバルドルとヨルズが治療を施しながら寄り添ってくれていた。


「ヨルズ!バルドル!シエルは大丈夫なのか?」

「うん、何とか応急処置で止血したから問題ないよ。」

「この後直ぐに城で治療を受ければ数日で回復なさるかと思います。」

「そうか・・・良かった。」


二人の報告を聞いて私は安堵する。


「師・・・匠」

「シエル?」


意識を取り戻したシエルを私はそっと抱き寄せる。同時に糸が切れたように彼は大声で泣き出した。


「うわぁぁぁぁぁん!!怖かったよぉぉぉぉ!!僕、死ぬんじゃないかって思って。師匠に謝りたかったのに・・・師匠、ごめんなさい!ごめんなさい!」

「何を言うんだ。お前は懸命に戦った。よく頑張ったな・・・流石は・・・流石は私の自慢の弟子だ!」


泣き喚くシエルを強く抱き締めた私を月の光が優しく照らす。それは小さな騎士(シュバリエ)の活躍を静かに祝福してくれるのだった。


◇◇◇


王殺しのロキによるテル王子襲撃事件は我々が奴を討伐した事により幕を閉じた。城に帰還したシエルは直ぐにヨルズとバルドル、そして国が手配した医師の懸命な措置によって三日後には元気に歩ける程にまで回復した。


ただ、残念な事にテルを除く文官や護衛達は全員ロキにより殺害されてしまい王子二人が無事だった反面、数人の尊い命が犠牲となってしまった。この事件を切っ掛けにワース国王は自国の兵力増強とある程度の軍事力を保有する事を検討する迄に至った。


しかし、この事件は悪い事ばかり起きた訳では無かった。


それはシエルとテルが本来の兄弟と同じく互いを認め合う仲へ発展した事だ。これによりテルだけに忠誠を誓っていた重臣や文官達も二人を対等に評価する様になり、シエルは城の中で少しずつ自分の居場所を見つけられる様になったのである。同時にそれは・・・私との別れも意味していた。


そして、遂に・・・。


「もう、行くんだね。」


多くの町の人、国王や女王、テル王子が海岸へ見送りに来ている中、シエルは一人で桟橋までやってくると私を見て言った。


「ああ、騎士はどの国にも尽くしてはやれないからな。私達は次に助けを必要としている人達の所へ向かう。この遥かなる海を渡ってな。」


少し寂しそうな顔をするシエルに私はそう答える。本当はもっと彼と一緒に居たかった。剣の腕が成長していく彼の成長をもっと見たかった。でも、私は騎士だ。旅を続けねばならない。


「オーディンよ、これまで世話になった。儂からも礼を言わせて欲しい。ありがとう。」

「オーディン様、また機会があればワースへいらしてくだい。とっておきの紅茶をご用意してお待ちしておりますので!」

「オーディン、ありがとう!次来た時には僕にも剣術を教えてくれ!」


続けて両陛下、テルが別れを惜しむ声を掛けると町の人達もそれぞれの言葉を挙げながら一斉に手を振り始める。


「国王陛下、女王陛下・・・それに皆さんもお世話になりました。」


見送ってくれる彼らに頭を下げると再びシエルに顔を向けて別れの言葉を告げた。


「シエル、もうお前は一人じゃない。お前を貶す人もこの国は居ない。これからは胸を張って生きるといい。」

「師匠・・・」

「一つ残念なのは強くなってどうするのか?の答えを最後まで聞けなかった事だがな。まあいい、私から学んだ事はいずれ為になるさ。」


シエルの頭を撫で優しく微笑むとヘーニルの声が耳に入ってくる。


「おーい!オーディン!そろそろ出港するぞ!」

「シエルちゃーん!またねぇ!」

「うん!皆!またね!」


私が乗り込むのを待っている団員達は甲板から顔を出してシエルと互いに手を振る。時間か・・・。


「それじゃあシエル。元気でな。」

「うん・・・師匠。」


振っていた手をゆっくり降ろすシエルを見て、マントを翻しながら船の方へ向かおうとする。


「師匠!待って!」


しかし、直ぐ彼に呼び止めるとこちらまで駆け寄り、皆に聞こえない様に耳元でこれまで内に秘めいたであろう自身の"夢"を告げ始めた。


「僕・・・夢が出来たんだ。師匠だけに聞いて欲しい夢、最後に聞いてくれるかな?」

「ほう?お前に夢か?良いだろう。聞いてやる。」


私は微笑むと空の様に青い瞳を見つめながら"夢"の内容を聞く。


「僕、師匠の様な騎士になりたいんだ。今まで剣の練習をしてきたり僕を助けに来てくれた師匠達を見て、自分もああなりたいって思ったんだ。それが僕の夢で力を得て強くなる答えだよ。・・・王子の僕にもなれるかなぁ?」


そう、尋ねてきたシエルに私は確信する。彼はいずれ一国の王では無く、一人の騎士として世界に名を馳せるだろう・・・と。


「・・・騎士になりたいか。騎士になってどうする?」

「いつかは師匠を越える強い騎士になるよ。だからもう船に乗せてなんてって言わない。僕は自分で騎士になって今まで負けた分、勝ちに来るから!」

「ほう?この私を越えるのか?成程、ならば・・・」


シエルの最終目標を聞いて私は嬉しそうな表情を浮かべると腰に吊るしていた"白亜の剣"をベルトから外してそれをそっと手渡した。


「ならこの剣は餞別だ。いつか必ず騎士となってその剣を手に挑みに来い!これは"約束"だぞ?」

「師匠・・・。うん!必ずこの剣を持って強い騎士になって来るよ!」


白亜の剣を受け取ったシエルはそれを大事そうに握り締め、力強く頷いた。この剣は大事にしていた代物だが彼ならば有効に使ってくれるだろう。


「私は待っているぞ。この広い海の果てでな。それまで・・・暫し別れだ!」


愛弟子にそう告げた私は桟橋から勢いよく跳躍して甲板に乗り込むと船は帆を広げ、遂にワース王国の桟橋を出港する。


「師匠!!約束だからね!!僕は絶対忘れないから!約束だよ!!」


桟橋の先までやって来たシエルは託した剣を片手に力強く手を振って。見送る。


「おい、シエルがまだ手を振ってるがいいのか?」

「ああ、また会える気がするからな。」

「ん?」


甲板でヘーニルにそう答えると私はシエルでは無く、先の見えぬ海の地平線を静かに見つめた。海猫が優雅に飛び交う蒼天・・・絶好の冒険日和の中を私は船に乗って旅しながら待ち侘びる。


いずれ"約束"を果たしにこの海へ出てくる一人の騎士の誕生を・・・。

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