第56話:来客と修羅場と・・・
白翼の騎士団を結成し、航海を始めたシエル一行は補給の為にブリテン島北部にあるスコート共和自治体を訪れ、町への散策組と船番組の二手に分かれて行動する。
前者の組に入ったシエル、シルヴァ、ルーチェの三人は町で山頂から見える絶景の話を聞かされ向かう事にするが道中で起きた水流に襲われ、シエルは二人とはぐれてしまった。
しかし、そんな彼を助けたのは青の十二神騎ネプチューンことユピテルであった。だが、シエルは彼がワース王国先王の元側近であることに気付くと同時に彼から騎士を辞めて国へ帰るように説得されるが師匠オーディンとの約束を理由に拒否して互いに剣を交える。
シエルの強さと意思を受け入れたユピテルはオーディンとの約束を果たした後に清算を行う事を条件に彼の旅を認める。そして再びシルヴァ達と合流したシエルはようやくスコートの絶景を拝むとユピテルから四つ目の精霊である「ノーム」の情報を得ることに成功した。
ユピテルに見送られながらシエル達はノームの眠るアフラン自治区を目指して出航するのであった。
スコート共和自治体を出航してから一晩経った船旅。朝食を食べ終えた僕はリビングで万年筆を滑らせているとシルヴァに声を掛けられた。
「シエル。さっきから何してるの?」
林檎ジュースをストローで啜るシルヴァに顔を向けながら笑みを浮かべて答える。
「うん。手紙を書いてるんだ。」
「手紙?誰宛てに書いてるの?」
「ユピ・・・えっと・・・ネプチューンにだよ。」
「えっ!?あの人に?」
思わぬ宛先に彼女は驚く。まぁ無理はないだろう。こうして僕が手紙を書くのは珍しい事だろうしその宛先が十二神騎なのだから。
彼は僕に道を記してくれた第二の恩人であり、愛すべきワース国民の一人だ。ちょっと王族らしさが出たが騎士になってもワース王国の民を想う気持ちは変わらない。
それにミネルバと同じで僕らに危害を加えない稀有な存在でもある。寧ろ彼はミネルバ以上に僕らに協力してくれるかもしれない人間だ。こうして文通を交わしておくだけでもアレスや帝国の抑止力になるかもしれない。
「シエル。わりぃが船の整備を手伝って・・・なんだ?そんなに黙々と筆なんか。」
すると船の整備中だったエルデが部屋に戻って来るとこちらも筆を持つ僕を見て目を丸くした。
「ネプチューンに手紙を書いてるんだって。」
「そうなのか?随分珍しい奴に手紙なんて書いてんな。」
「うん。彼には色々世話になったから。・・・よしっ!」
そうこうしている内に手紙を書き終えるとそれを丁寧に折りたたんで封筒に入れ、ワース国旗の封蝋を押した。
「それはワース王国の国旗か?なんでそんなもんを?」
「あの人。元々僕と同じワース王国の出身だったみたいだからさ。故郷を思い出してもらおうと思って。」
「あら、ネプチューン相手に良い気遣いね。」
今度はルーチェが現れて僕にそう声を掛ける。彼女の隣にはカイの姿もあった。
「リビングが騒がしいと思えばなんだ?ネプチューンの野郎にラブレターか?」
「ラ、ラブ・・・!?ちょっと何言ってんのよカイ!」
カイの言葉に何故かシルヴァが顔を赤くしながら慌てはじめる。・・・ん?なんでそんなに慌ててるんだ?僕からしたら愛する国民に送ってるし・・・まぁラブレターと言われたら強ち間違ってはないのかな?皆には王族なのは黙ってるけど。
「なんでそんなに騒ぐんだよテメェは。」
「当たり前でしょ?シ、シエルがラブレターなんて・・・書く訳ないじゃん!」
「どっからその自信が湧いてくんだ?」
遂に耳まで赤くしながら騒ぐシルヴァにカイは困惑する。
「ウッフフフ。シルヴァちゃん。もしかして・・・」
「あーっ!ルーチェは黙ってて!あーっ!」
「フフフフフ」
何かを言おうとしたルーチェを黙らせるかのようにシルヴァは更に騒ぎ出す。・・・シルヴァ。急にどうしたんだろうか?そう思っていた時だった。
突然、船室のドアをノックする音が部屋中に響き渡る。
「・・・!何!?」
同時に僕達に緊張が走って全員武器を構えた。・・・明らかに今のノックの音だよね?でも今、僕らの乗るエール・ブランシュ号は海の上。船員も今部屋にいる面子で全員いる・・・まさか!
「ね・・・ねぇ。今のってドア叩いた音よね?」
「チッ。賊が乗ってやがったか?」
「俺達の船に土足で上がるなんてな・・・舐められたもんだ。」
怯えるシルヴァを守るかのようにカイとエルデが険しい顔でドアの前に立つ。僕もまた二人の間に立って剣に手をかけた。
「おい、シエル。カイ。俺がドアを開ける。お前らはその後に・・・」
「バーカ。最初からそのつもりだわ!」
「うん。ルーチェ!念の為に後方支援を!」
「えぇ。そのつもりよ。」
ルーチェに背中を預けた僕は息を呑みながら開けられたドアの先に居る人影を捉えると我先にと歩み寄って剣を抜こうとしたが顕わになった人影の正体が華奢なハーフエルフの少女と分かった瞬間、思わず手と足が止まった。
「えっ?」
皆が驚く中・・・僕を見た少女は満面の笑みを浮かべると突然抱きつきながら言った。
「ダーリン!会いたかったよ!!」
◇◇◇
少女の放った言葉に僕を含めた全員が暫く沈黙すると盛大に驚愕の声を上げた。
・・・えっ?ダーリン?この子僕に今そう言わなかった?聞き間違い・・・いや、だとしたらこんなに抱きしめてこないよな?
「ダ、ダダダーリンってどういう事よ!」
「シエル。テメェ彼女居たのか?」
「そうならそうと早く言えよ。」
「いや居ないよ!というかこの子知らないよ!」
滅茶苦茶に動揺するシルヴァと呆れた表情を浮かべるカイとエルデに少女との関係を否定する。こんな銀髪のショートヘヤーにハーフエルフの女の子の知り合いなんて居ないし・・・
「ダーリン。会いたかったぁ~アタシ・・・ずーっと会えるの楽しみにしてたのよ!」
「ちょっと!アンタ、シエルから離れなさいよ!」
「何よ!貴女はダーリンの何なの?」
「それはどうだっていいでしょ?」
僕から離れない少女にシルヴァは怒りを見せて彼女と睨み合う。
・・・ごめん、どういう状況?ねぇ、僕はどうしたらいいの?一触即発な二人に両腕を引かれながらカイとエルデに助けを求めているとルーチェがくすくす笑いながら少女の前まで歩み寄った。
「ウフフッ。とんだ珍客ね。ヴィーナ。」
「えっ?ルーチェ知り合い?」
「えぇ、だって彼女・・・ミネルバの妹ですもの。」
ルーチェの言葉に僕達は再び静かになった後に驚く。
ええっ!?この子がミネルバの妹!?ってことはまさか・・・
「わぁ!ルーチェ久しぶり~!アタシの十二神騎就任式以来だね!」
「はぁ!?アンタ十二神騎なの!?」
「アテナの妹と聞いて察したがやはりそうか・・・」
ヴィーナと呼ばれた少女が十二神騎と聞いてシルヴァとカイに戦慄がはしる。それは僕やエルデも例外では無かったがなんでそんな子が僕をダーリン呼びしてるんだ?
「そうよ!アタシは桃色の十二神騎アプロディア!本名はヴィーナスよ!あっ!ダーリンはハニーって呼んでくれたら嬉しいな!」
ヴィーナはそう言って頬を赤くする。いや、見ず知らずの人にダーリンって呼ばれてこっちは困惑してるんだけど・・・。
「だが、お前。いつから俺達の船に乗り込んでやがったんだ?」
エルデは焦りを隠して冷静な口調でヴィーナに船へ乗り込んだ経緯を尋ねる。
「えっ?普通におねーちゃんの船から脱走して入ってきた。」
「何してんだ!テメェは!?」
真顔で答えたヴィーナにカイは思わずツッコミをいれる。・・・ん?おねーちゃんの船?
「おねーちゃんって・・・ミネルバさんのこと?」
「そうよダーリン!おねーちゃんも来てたんだからぁ~スコート共和自治体に!」
「なんちゅう偶然だよ・・・」
偶然にもミネルバの団がスコート共和自治体に居たことに対し、カイは冷や汗を流した。
ミネルバさんも来てたのか。もしかしてユピテルに用でもあったのだろうか?二人の事だから騒ぎは起こしてないだろうけど。
「だがどうする?ミネルバも捜してんじゃねぇのか?」
「ギクッ!?」
エルデのその言葉にヴィーナは冷や汗を流した。
「あら、その反応は図星のようね。仕方ないわ。せめてアフラン自治区に着くまで乗せてあげましょ?」
「えぇ・・・やだよ。」
「シルヴァ。そんな顔するなよ。幾ら十二神騎でも海の上に置き去りになんて出来ないから。」
「はぁあ~!ダーリン優しい~!」
「ぐぬぬぬ!!」
僕の言葉に昇天しかけたヴィーナにシルヴァはわなわな震える。こうして僕達は十二神騎の一人であるアプロディアことヴィーナを連れて行くことにする。
だが、これが後にとんでもない修羅場になるのは嫌でも想定できるのであった。
お久しぶりです。JACKです。今週から本作の連載を再開します。
最後の投稿から色々あり、投稿が出来ない状況でしたが投稿が出来るようになるまで落ち着きました。
今後とも御贔屓の程よろしくお願いいたします。




