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Chevalier『シュバリエ』〜約束の騎士達の物語〜  作者: JACK・OH・WANTAN
第七章:スコートの絶景編
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第54話:王子とユピテル

海剣かいけん津軽海峡!」

「ぐっ!」


月がうっすらと霧の中から光る夜空の下。ユピテルの攻撃を何とか受け止めた僕は全身びしょ濡れになりながらも懸命に防ぎきる。


「どうしましたか?ただ守るだけで何もしない。それで騎士を続けようと言うのですか?」


ひたすら守る事しかしない僕にユピテルはそう厳しい言葉を投げかける。・・・強い。流石は十二神騎と言うべきなのか?そもそもこんな強い人がうちの国の元国王側近だったなんてな。


「平和は時に力を奪う。やがて戦乱にいざ巻き込まれた時に成す術なく崩壊する。国に必要なのは平和を維持できるつるぎのみ。貴方はその道を征くべきなのです。」

「ぐはっ!」


ユピテルの放った一撃に耐え切れず遂に地面に倒れてしまう。しかし彼は直ぐに目の前まで歩み寄ると水を纏った剣の切っ先を向けてきた。


「立ちなさい。倒れていいと許可は出していませんよ?王子。」


彼の言葉に僕はエクスカリバーを地面に刺しながら立ち上がった・・・かかったな!


深海(ディプシー)斬撃(スラッシュ)!!」

「何!?」


隙を突いてエクスカリバーにウンディーネの力を纏うと直ぐに切っ先から水流を放つとユピテルは水流に巻き込まれて地面を転がりながら川まで吹き飛ばされた。


「くっ・・・不意打ちとは・・・やりますね。」


川から起き上がったユピテルは自身の剣を三角描くようにして振った。


「これでどうでしょうか?海剣バミューダ・トライアングル!」


ユピテルが技を詠唱すると三角の水流が勢いよく放たれて僕へ迫る。まだだ!まだ負けない!咄嗟にウンディーネの力を解除し、風の精霊シルフの力を解放すると緑色の風をエクスカリバーに纏わせた。


烈風ヴォンの斬撃!」


聖なる風は三角の水流を見事、真っ二つにすると大いなる風の斬撃をユピテルへ放った。


「ぐわあああっ!」


その攻撃は十二神騎である彼すらも吹き飛ばし、空へ舞い上げてそのまま地面に落下させる。辺りに凄まじい衝撃と砂埃が舞い上がる。


「くっ・・・お見事です。」


暫くして砂埃が治まると仰向けに倒れていたユピテルが起き上がった。・・・やっぱり十二神騎は規格外過ぎる。精霊の攻撃を受けてもびくともしないなんて。


平然とした様子のユピテルだったが剣を鞘に収めてこれ以上の戦闘はしない意思をみせた。僕もまたエクスカリバーを収め、互いに暫く見つめ合った。


「流石は先王の御孫様。剣の才能は彼譲りでしょうか?」

「僕の剣は師匠・・・オーディンから教わったものだ。」

「それもありますが貴方は天賦の才能を持たれている。」


ユピテルはそう言うと甲を脱いで微笑みを浮かべる。その表情はとても柔らかく十二神騎のネプチューンとしてではなくワース王国元国王側近ユピテルとしての顔に思えた。


「貴方の御祖父様は剣の腕が強い方でした。反面、兵は弱く平和を守る剣は彼だけだったのです。」


先王オセオン・ワース16世。僕の祖父にあたる人物だが彼の事は知らない。なんせ自分が生まれる前に崩御したし、活躍を知れるのは数少ない文献のみだ。


「僕は先王・・・御祖父様の事はよく知りません。父上も話してくれなかったので。」

「あの人はそういう人です。戦いを知らぬ王に私は忠誠を尽くさない。」


ユピテルは僕の父である現ワース国王に対し、厳しい評価をする。


「ですが貴方が国王になればきっと変わる。そう思っていましたが・・・オーディンがこちらの道に導いたということですか・・・成程。」

「僕は国を見捨てた訳じゃないです。師匠との約束を果たしたら必ずワースに戻ります。だから黙って出て行ってでもこの約束は果たしたかったんです。」

「分かっています。」


僕の訴えにユピテルは静かに目を閉じながら言った。


「今は貴方の旅を征きなさい。ですが・・・それが終わったら必ず清算するのです。約束ですよ?」

「はい。」


その言葉に深く頷きを入れ、彼と”約束”を交わす。


「あっ!シエル!」


するとシルヴァの声が聞こえ、彼女に続いてカイ、ルーチェ、エルデもやって来た。えっ?・・・皆!なんでここに?驚く僕を他所に彼女達はユピテルの前に立つと一斉に身構えて警戒する。


「チッ。とんだ大物が居やがるとはな!テメェ!十二神騎だろ?シエルに何しやがった!」

「うちの団長に用があんなら俺達を通せ!」


カイとエルデはそう言ってユピテルを睨んだ。


「皆。落ち着いて!大丈夫だよ。彼は僕らの味方だ。」

「えっ?そうなの?」


ユピテルを庇う僕にシルヴァは目を丸くする。


「本当にそうかしら?私達を襲った水流・・・あれは明らかにネプチューンが放ったものよね?」


しかし、ルーチェは彼を睨んで未だ敵と疑っている。それに関しては事実だから擁護出来ないけど・・・。


「貴女は・・・成程。”今はその立場”ですか。」

「ユピテル。何故、私達を襲ったの?言っておくけどミネルバ経由で”あの人”の耳に入りたくなかったら素直に答えるべきね。」

「はっはっはっ。相変わらず貴女は容赦がない。」


彼女の脅しまがいの言葉に観念したユピテルは僕の肩を叩きながら言った。


「彼と二人きりで話したかったのですよ。ですが貴女がいたので少々手荒な真似を致しました。この通りあなた方の団長に危害は加えておりません。」

「・・・チッ。まあいい。」


カイは舌打ちしながらも彼を信じて武器を降ろすとルーチェ達もまた得物を降ろして警戒を解いた。


「はぁ・・・でも無事で良かったわね。でも結局見に行けなかったね。頂上の絶景。」


シルヴァが溜息を吐きながらそう言うとユピテルが反応した。


「頂上の景色ですか?それなら明け方の方がよく綺麗に見えますよ。良ければここで朝になるのを待ちませんか?」

「えっ?いいの?」

「はい。せっかくいらしたのですから。」


ユピテルは笑みを浮かべながらシルヴァ達も歓迎する。


「敵じゃねぇならいいんじゃないか?」

「そうだな。それにシエルもコイツと戦ったんだろ?オレとも遊んでくれや十二神騎!」

「血の気が多いですね。まぁ、稽古位なら相手になりましょうか。」


こうして僕らはユピテルの家で夜を過ごすことになる。霧深い山の麓に住んでいたのは救国の王を待つ心優しき騎士だった。

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