第52話:霧の町
スコートの町。スコート共和自治体の中心部にある町であり、活気はそこまでないが霧が深い点を除いては不自由なく過ごせる場所である。ルーチェ曰くスコート共和自治体は元々難民や他のブリテン三国から逃げてきた避難民によって構成されたという。
確か約50年くらい前にウェールズ王国が王国時代だったアイルに戦争をしていた時期があったって話を聞いたことがあるな。それが原因でアイル王国が滅んで今の形になったって話だけど・・・やっぱり戦争はやるもんじゃないな。
「霧結構深いけど案外視界はそこまで気にはならないわね。」
町を見渡しながらシルヴァはそう言った。遠くの山や景色は見えないが彼女の言う通り町中はそこまで視界が遮られているわけではないみたいだ。
「人の数は少ないけど皆、明るい様子を見せているわね。」
「うん。なんか温かい感じがするよ。」
ルーチェに頷き、談笑したり店で食事をしている町の人達を見る。皆とても楽しそうだ。
「おや?見ない顔だねぇ?」
すると一人の老人に声を掛けられて僕らは彼に顔を向けた。
「こんにちは。僕達は騎士です。」
「騎士か!大歓迎ですよ。その様だと観光ですかな?」
「えぇ。補給がてら立ち寄らせてもらってるわ。」
ルーチェは老人に微笑みながらそう言った。
「そうか。結構、結構。そうだ!折角いらしたのなら此処の名物でも見に行っては如何ですかな?」
「名物ですか?」
老人は僕に頷いて更に続ける。
「霧で見えんがね。ここから南に行った山を登るとブリテン島の景色を見れる山があるんだよ。絶景だから一度行ってはどうかね?」
「わぁぁ!絶景か!シエル!ルーチェ!アタシ行きたい!」
絶景と聞いてシルヴァは手を挙げながら僕とルーチェを見た。彼女には多くの景色を見せてあげたいから行かない理由はないだろう。
「いいよ。ルーチェも行く?」
「そうね。行きましょうか?」
「ありがとうございます。早速、見に行きます。」
「うむ。道中魔物も出るから気を付けて行きなさいよ。」
こうして山の頂上でみれる景色を見る為、山へ向かう事にする。しかし、この時僕らは気付いていなかった。一人の人影が密かに後を付けているという事を。
◇◇◇
霧が立ちこむ山中を進む僕らは頂上を目指して進む。老人が言っていた通り格下ではあるものの魔物と道中出くわす場面もあったが多くの窮地を乗り越えてきた僕達の相手ではなかった。
「大分歩いたわね。今更だけどカイとエルデも来たら良かったのに。」
「まぁあの二人はこういうのが好きじゃなさそうだし放っておいてもいいと思う。」
船待機組の二人には申し訳ないけど景色を見に行くだけだしわざわざ連れ来なくてもいいだろう。カイに至っては道中の魔物対峙ですら退屈と感じるだろうし
「頂上まであと少しね。頑張りましょうか?」
「えぇ~歩き続けて疲れたよ。シエル!おんぶして!」
シルヴァは立ち止まると僕に自分を背負うよう言ってくる。森の中での散策は君が君が一番得意なはずなんだけど・・・。確かに険しい坂道だから疲れるのも分からなくはないけど甘やかすのも良くないよね。
「あと少しってルーチェが言ってるんだから頑張ってよ。」
「むぅ!シエルのケチ!」
「ケチって・・・」
頬を膨らませてそっぽを向いたシルヴァに困惑するがそんな表情がどこか可愛いと思ってしまい思わず笑いそうになった。
「フン!シエルなんてもう知らないわよ。」
「あら。機嫌を損ねちゃったわね。シエル。謝った方がいいわよ?女の子はこういうのいつまでも引きずるタイプだから。」
彼女を見てルーチェは僕に笑みを浮かべながらそう言ってくる。・・・そう言わずにルーチェも助けてくれよ。え?というかこれ本当に謝った方がいい感じ?どうなの?
未だ拗ねるシルヴァとこちらを見て無言で微笑むルーチェを交互に見る。・・・嘘だろおい。はぁ。謝るしかないか。このままだと先に進めないと判断しシルヴァに謝ろうとした
・・・その時だった。
突然、目の前で爆発が起こると何処からか水流が勢いよく流れて僕達に迫ってきた。
「えっ!?何!?」
「水流よ!でもなんで此処で?」
「分からない!とにかく逃げよう!」
流れてくる水流を見て僕達は一目散に避難する。しかし、水の勢いは凄まじくあっという間に追いつかれると僕らは直ぐに呑み込まれてしまった。
「うわっ!・・あっぷ!はぁ!シルヴァ!ルーチェ!」
溺れた二人を助けようと懸命に手を伸ばすが彼女達はそのまま別の場所へ流されていく。待って!二人共行くな!
「くそっ!二人共・・・うぐっ・・・」
僕もまた流れに逆らえず溺れてしまうととそのまま意識を手放し、二人とは違う方向に流されてしまうのだった。
◇◇◇
「うっ・・・」
どれくらい時間が経ったか分からない。目を覚ました僕は夜が更けた川岸に倒れていた。
「はっ!シルヴァとルーチェは?」
直ぐに起き上がり二人の探すが彼女達の姿はない。あの水流で意識は持っていかれただろうが大事には至ってないだろう。運よく町の方まで流れ着いて捜しに来てくれることを祈るしかない。
「移動してもいいけど・・・ここ何処だ?」
立ちがって辺りを見渡すもそこは全く知らない山の麓。自分が今、何処にいるのか分からない。霧によって遠くの景色は見渡せないし付近に唯一あるのは静かに流れる川だけだ。
「どうする?どっちが町の方向だ?」
一旦、この場を離れて移動することにしたが町の方向が分からず途方に暮れていた時だった。
「おーい。大丈夫ですか?」
ふと声を掛けられて僕は安堵する。たまたま町の人がいたのだろうか?兎に角助かった!安心した様子で声を掛けた人物に目を向ける。
「えっ!?」
しかし、僕は直ぐにその人物から距離を取った。僕の目の前に立っていたのは魚座を模した青い鎧と顔全体を覆う甲に身を包んだ騎士だった。




