第50話:結成!白翼の騎士団!!
数日後・・・エール・ブランシュ号が完成したことを聞いた僕らは早速、エルデ達のいる旧ドックへと向かうことにした。
「遂に完成したのね。どんな仕上がりになるのか楽しみね。」
「ふふっ、そうね。」
「ケッ、どんな出来になったか見てやろうじゃねぇか。」
「うん」
僕はカイに頷き、見えてきた旧ドックの前まで歩き出す。
「そういえばアヌビスと戦った後からミネルバさんの姿を見てないな・・・。」
「ほっとけ。どうせ事が終わったから帰ったんだろ。」
「でも、別れの挨拶くらいはしたかったよね。」
「いや、大丈夫かな」
「えっ?なんで?」
「・・・あの人とはまた会えそうな気がするから。」
驚くシルヴァに僕は果てしなく続く海を眺めながら僕はそう言った。
「おい、お前達。」
すると旧ドックの方から僕らに声を掛けて歩み寄ってくる人が居た。
「エルデ!エール・ブランシュの修繕が終わったって聞いたよ!」
「あぁ、遂に完成した。お前らも手伝ってくれてありがとな。」
「オレはコイツの趣味で手伝ってやっただけだ。」
「そう言いながらアンタ、ノリノリでやってたじゃない。」
「うふふふふっ」
「中で工房長たちが待っている。来いよ。」
エルデに手招きされ、僕らはドックの中へ入ると早速、修繕が完了したエール・ブランシュ号と対面する。
「わああああ・・・!」
その光景に僕らは目を見開いて釘付けになった。
船体に所々装飾された白亜の翼、しっかりと聳え立つ大きなマストと見張り台、チョコレートの様な色をした高級感あふれる茶色と金縁の塗装、そして黄金に塗られ、雄々しい表情をしているグリフォンの船首・・・そこには嘗ての航海を終え、苔生した状態で座礁した船ではなく新たな航海の為に生まれ変わったエール・ブランシュ号の姿があった。
「すごーい!綺麗!!」
「ほう?こりゃあすげぇじゃねぇか。」
「えぇ、円卓の騎士団が使用していた当時のエール・ブランシュとほぼ同じ装飾、色になっているわね。まるで文献に載っていた船をそのまま引っ張ってきたくらいだわ。」
「うん・・・そうだね。」
皆の感想を聞いて僕も目を輝かせる。僕もこんな船でいつか海を渡って師匠と・・・そんな思いが沸き上がり、胸の鼓動が高鳴った。
「どうだ?すげぇだろ」
「あっ、工房長さん」
すると工房長が現れ僕らは微笑みながら挨拶する。
「素材の都合上、塗装の色に多少のズレはあったがほぼ当時の状態に復元できたのは流石と言えるな。アイツらも成長したってことだな。内装は今の時代に合わせて最新式にしたがな。」
「工房長が俺達を育ててくれたおかげですよ。」
「フン、お前は相変わらず素直じゃねぇな。」
謙遜するエルデに工房長はそう言うと腕を組みながら僕達を見る。
「それで、オメェらは騎士と言っていたが見たところ船は持ってねぇみたいだな?」
「あ、はい・・・まだ僕達駆け出しの騎士なので・・・」
工房長に僕は恥ずかし気な表情でそう答えた。
「ってぇ事は俺達に船を提供してもらうつもりで此処に来たってのもありそうだな。」
「それも一応、考えてはいたんですけど船を買うお金が無くて・・・」
「そうか・・・ふーむそれなら」
工房長はすっとエール・ブランシュ号へ顔を向けて言った。
「おい、テメェら良かったらコイツ持っていけ。」
「えっ!?」
エール・ブランシュ号を持って行けと言ったシエルに僕らは驚愕する。これって原初の騎士団が使っていた船・・・それを譲ってくれるというのだ。
「でも、僕らお金そんなに・・・」
「それは気にすんなよ。そんなもの要らねぇからな」
「エルデまで!?」
「なんせ俺らはお前らに命を救ってもらったからな。そこまでしてやる義理があんだ。」
「エルデ・・・」
エルデの言葉を受け、僕は少し考えるも断る理由は無いだろうと判断し、頷いた。
「ありがとうございます。僕達でよければこの船、エール・ブランシュ号を頂きます。」
「あぁ、コイツをまた海へ連れ出してやってくれ。」
「はい!」
「やったぁ!!エール・ブランシュと旅が出来るんだ!!」
「ちょっと待って。」
シルヴァが喜ぶ中、ルーチェが真剣な顔で僕を見た。
「シエル君、騎士が船を持つ・・・という事は行動範囲が増えるだけじゃなくて多くの騎士団と戦う可能性があるのよ。その覚悟が・・・貴方にあるのかしら?」
彼女の言葉に一同に緊張がはしる。カイもまたルーチェに同感と言わんばかりに無言で僕を見つめていた。
騎士が船を持つ・・・それは騎士団を立ち上げ、今の海で覇権争いをしている他の騎士団との戦いに巻きもまれる事を意味していた。
そう、アルステルで出会ったオーガイやローゼ、そして・・・僕そっくりなあの騎士、ノアールとも戦うということだ。
でも最初から僕の答えは決まっている。
「いつかはこんな日が来ると思っていた。それに僕の夢は師匠を越えることだ!それが師匠の騎士団を負かすことなら当に覚悟はできてるよ!!」
僕の答えにシルヴァとカイは笑みを浮かべ、「流石はシエル」と言わんばかりの
「そう・・・ならいいわ。ごめんなさいね。試す真似をして。」
「ううん、大丈夫。ルーチェの言う通りだよ。これから僕らはもっと強い奴らと戦う事になるから!」
拳を握り締め、エール・ブランシュ号に顔を向けると嘗て邂逅してきた敵が脳裏に浮かぶ・・・アレス、ロワ帝国そしてノアール。
「エール・ブランシュ!これからの旅はつらくなると思うけど宜しくね!」
エール・ブランシュにそう声を掛け、騎士団を立ち上げる決意を固める。
「フン、アヌビスとの戦いを見させてもらったが見かけによらず相当、度胸があるみてぇだな。よし、もう一つアドバイスだ。」
工房長はそう言うと僕らに一つ助言を伝えてくれた。
「船は常にメンテナンスがかかせねぇ。最低でも一人は船大工を仲間にする必要がある。オメェらにはいるのか?その船大工が・・・」
「はい、います。」
僕は迷うことなくエルデに顔を向ける。
「俺か!?」
「うん、エール・ブランシュを一緒に直しているときに思ったんだ。もし・・・もし僕に船大工が仲間になったらエルデしかいないって。」
「・・・い、いや・・・でも・・・確かに俺はコイツと一緒に海を渡りたい。その気持ちはある。でも獣人の俺がお前らと旅すんのは・・・」
「無理・・・なんて言わねぇよな?エルデ」
「ッ!?」
自信なさげな表情をするエルデに工房長はムッとした顔をする。
「やりもしないのに勝手に無理と決めつけて諦める・・・俺はそれが嫌いだと言ったはずだ。それとも・・・俺達を気遣って旅に出ねぇつもりか?」
「なっ・・・!?」
図星と言わんばかりにエルデは慌てた様子を見せる。
「全く・・・テメェに心配される時が来るなんてな。俺達のことはいいんだよ。オメェはもう自由なんだからよ。」
「工房・・・長。」
「エルデ・・・。」
僕はエルデに歩み寄ると手を差し伸べた。
「一緒に行こう!僕は君に船大工をやって欲しい。それにエール・ブランシュ号と旅をしたい夢があるならそれを叶えよう!だから・・・改めて僕の仲間になってよ。」
「シエル・・・あぁ!」
エルデは静かに俯いて涙を流すと僕の手を掴んで固い握手を交わした。
こうして僕はエルデを四人目の仲間として迎え入れるのだった。
◇◇◇
その夜、僕らは船工房の人達とエール・ブランシュ号完成・騎士団結成を祝って宴を開いた。
「さあて、オメェら」
暫く宴を満喫していると工房長が酒樽を僕らの前に置き始める。
「酒樽・・・ですか?」
「あぁ、騎士団はな結成したときにこの酒樽をぶっ壊して航海の無事を祈る習わしがあるんだ。団の名前も決めて団長の号令に合わせて樽を一気に壊すってことだ。」
「団の名前か・・・そう言えば考えたことも無かったな。」
「どんな名前が良いのかな?」
僕とシルヴァはそう言って団の名前を真剣に考える。
「だったら・・・”白翼の騎士団”というのはどうかしら?どんな困難でもエール・ブランシュ号の白い翼のように乗り越える意味でつけてみたの。」
「白翼の騎士団か・・・うん!いいね。それにしよう!」
ルーチェの提案した白翼の騎士団という名前を僕は採用することにする。
「よし、準備ができたできたみてぇだな。」
エルデは立ち上がると酒樽に足を乗せるとルーチェ、カイ、シルヴァも続いて足を乗せた。
「シエル!早く早く!」
「早くコイツをぶっ壊すぜ・・・”団長”」
「分かったから急かさないでって・・・団長!?僕が!?」
カイに団長と呼ばれ僕は驚く。
僕が・・・団長!?
「当たり前だろ?テメェ以外に誰が団長をやるんだ。」
「うんうん!そうだよね!」
「そうね、私達をここまで連れてきたのは・・・シエル君。貴方よ。」
「同感だ。俺も誘ったんだからな。団長やらねぇ理由がねぇだろ?」
「皆・・・ありがとう!」
仲間全員が僕を団長と認め、嬉しくなる。
「よし!それじゃあ!」
僕は笑みを浮かべ、酒樽に足を乗せて高らかに宣言した。
「白翼の騎士団、此処に結成だ!!」
「「おおーっ!!!」」
宣言と共に僕らはほぼ同時に勢いよく酒樽を足で壊すと大量の酒がしぶきを上げ、見守っていた工房長達も歓喜の声を上げた。
白翼の騎士団を喜ぶ僕らを旗船エール・ブランシュは優しく見守っているのだった。
◇◇◇
そして・・・翌日。いよいよ出航の日がやってきた。
「エルデ、準備は出来たのか?」
「はい、大丈夫っす」
工房長や船工房の人達に見送られたエルデは別れを惜しむ様に一人一人に挨拶する。
「エール・ブランシュは既に海面で浮かせている。後は出港させるだけだ。」
「工房長さん、それに船大工の皆さん。色々とありがとうございました。」
僕は世話になった船工房の人達へ頭を下げた。
「なあに、礼を言うのはこっちの方だ。助けてくれてありがとうな。それと・・・エルデを宜しく頼みます。手のかかる弟子だがきっとテメェらの役に立つ。俺が保証する。」
「はい!」
工房長にエルデを託され、僕は深く頷く。
「シエル!エルデ!早く!」
「うん!」
先にエール・ブランシュへ上がったシルヴァに手を振られ、僕とエルデは顔を合わせて静かに頷いた。
「エール・ブランシュ・・・これから宜しくな!」
僕は旗船となったエール・ブランシュに挨拶すると梯子を登って入船する。
「じゃあ、皆!行ってくる! 」
「達者でな!」
「気をつけろよ!」
「身体壊すんじゃねぇぞ!エルデ!」
そんな声が聞こえると同時にエルデもまた僕に続いて入船する。
「団長と新人のお出ましだな。」
「ウフフッ、面白くなりそうね。」
「うんうん!」
先に乗船し、甲板にいたシルヴァ、カイ、ルーチェは笑みを浮かべるとエルデが甲板の先頭にある操舵輪の前に立って僕へ振り向いた。
「さあ、団長。出発の合図を送ってくれ!」
舵輪を掴み、何時でも出港可能なエルデを見て、僕は微笑むと元気よく合図を送った。
「よし!出港だー!!!」
僕の合図と共にエルデは勢いよく舵輪の傍らにあるレバーを引いて帆を展開するとエール・ブランシュはゆっくりと数十年ぶりの大海原へ繰り出した。
「わぁ!動いた!」
「・・・問題無さそうだな。後は風の流れに任せて航海するだけだ!」
エール・ブランシュの航海が良好な事にエルデは満足すると操舵を始めて船工房の人達が見送る中、僕らの広大な海を巡る旅が始まる。
「やっと僕も騎士団を立てられたんだ!この海の何処かを師匠は今日も巡っている!・・・よし!」
ようやく立てたスタートラインに僕の胸は高鳴り、師匠との再会が近付いた事を感じる。
こうして僕はエルデと風の精霊、そして拠点となるエール・ブランシュを手に入れ、騎士としての本格的な冒険を始める。
快晴の空と潮風が新たな旅路を果たした僕の頬を心地よく撫でるのだった。
皆さんご愛読いただきありがとうございます。JACKです。いよいよシエル達の騎士団としての冒険が始まります!
遂に描きたかったものを描ける・・・という想いに耽っていますがChevalierの投稿は一旦休載させていただくことになります。
理由としては私の小説の腕をもっと上げたいという気持ちになり、武者修行という訳ではありませんが自分の作品と向き合うために精進したいと思った次第です。
再投稿がいつになるか分かりませんが首を長く待っていただければと思います。




