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Chevalier『シュバリエ』〜約束の騎士達の物語〜  作者: JACK・OH・WANTAN
第零章 騎士と王子
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第4話:王殺しのロキ

陽の光が西へ傾き、空が夕闇に染まった頃、酒場を飛び出したシエルは人気のない道を歩いていた。


「ぐすん・・・師匠なんて・・・師匠なんて・・・あ、あれ?ここ何処?」


泣くのに夢中だったのか気が付けば町から外れた林道へ迷い混んでしまい、戸惑いつつも先程まで嫌っていた人物の名を呼ぶ。


「し、師匠!師匠!皆!何処なの?」


当然、その場に師匠(オーディン)達の姿は疎か、人の影や形すらも無く次第にシエルは立ち止まったまま動けなくなってしまった。


「ど、どうしよう・・・ぼ、僕、変な所に来ちゃった。師匠に怒られちゃうよ。」


不安は更に高まり、再び泣きそうな表情を浮かべながらもこの場から引き返そうとした時だった。


「あ、あれ?」


ふと目の前の道の端に何かを見つけるとシエルはそこまで恐る恐る近付くとそれはワース王国の王族や要人を乗せる為の馬車だった。


「あれって・・・お城にあった馬車だ。そういえば・・・テルが隣国へ数ヶ月留学に行くとかそんな話しをしてたっけ?」


咄嗟に苦手な人物である実の弟・・・テルが馬車を使う用事がある事を思い出し、拳を握り締める。馬鹿にされるかもしれない。それでも助けて貰うようにお願いしないといけないだろう。罵倒される覚悟で意を決して道の端に止まっている馬車まで歩み寄った。


「あ、あれ?」


馬車を見てシエルは異変に気付く。先頭に車を運ぶ為の馬が居ないのである。それだけではなく車の扉が開いたままになっており、近くにテルと一緒に居たはずの文官達の姿さえも見受けられなかった。


「馬も誰も・・・居ない?あ、あの!だ、誰か居ませんか?」


頑張って大きな声で呼びかけるも反応は返ってこない。テル達は何処に行ったのだろうか?


「車の中に誰か居るのかな?」


シエルはそう思って車の中を覗き込むも人の気配が感じられなかった。


「誰か居ないの?ねえ!」


車の中へ再び声を上げた時だった。


「ううっ・・・」

「ん?誰か居るの?」


車中から呻き声の様なものが耳に入り、シエルは直ぐに後部座席へ顔を覗かせるとそこに居たのは懸命に小さな身体を隠そうとしている我が弟・・・テルの姿だった。


「あっ!」

「ひいっ!?・・・って、お、お前は!?」

「テ、テル・・・な、なんでそこに居るの?」

「ば、馬鹿!!大きな声を出すなって!」


テルは顔を青くしながら焦った様子でシエルに人差し指を立てる。


「えっ?」

「や、"奴"が近くに居るかもしれないだろ!?それよりなんでお前がここに居るんだよ!!」

「そ、それは・・・」


何故、ここに居るのかをテルに尋ねられた途端、ガタンという大きな音が聞こえたと同時に外から荒っぽい男の声が聞こえ始めた。


「あァ・・・やっぱりこの馬車は外れかよ。おい!」

「き、来たッ!?」

「来た?誰が?」


怯え出したテルを見て、シエルは後ろを振り向くと車の前方に血まみれになった文官の亡骸が叩きつけられ、窓に血が付くと亡骸がゆっくりと地面にずり落ちていく。


「・・・ッ!?ううっ!?」

「ダメ!叫ばないで!!」

「んぐっ!?」


恐怖のあまり叫びそうになったテルの口を咄嗟に抑え、シエルは文官を殺害したであろう人物の影を静かに目で追った。


「何処に居るんだよォ・・・この馬車には王族のガキが乗ってんだよなぁ?おい!!」


男はイラついた様子を見せながら車中へ顔を覗かせると遂にシエル達の前へと現す。


「・・・おぉ?みぃーつけたぁ!!」


刹那、男はこちらに顔を向けると狼の様な顔で満面の笑みを浮かべる。その笑みは悪意と快楽を覚えた狂気に近いものを二人に感じさせた。


「うわぁぁぁぁッ!!嫌だ!嫌だぁぁぁ!!」

「あっ!テル!ダメだ!」


怖さのあまり耐えきれなくなったテルは後部座席のドアを開くとそこから一目散に逃げ出してしまう。


「活きのいいガキがいるなァ・・・まずはアイツからだッ!!」


真っ先にテルを標的にした男は目にも止まらぬ素早い動きで彼の目の前まで回り込み、細身の身体で立ちはだかった。


「あ、あああっ!? 」

「ちょこまか逃げんじゃねぇよ・・・楽にしてやるからよォ?金目のモンが無かったからなァ・・・憂さ晴らしに・・・死ねよ!」

「ううっ!?嫌だ!嫌だぁぁ!来るなぁ!!」


顔を青くし、腰を抜かしてしまったテルはじりじりと詰め寄ってくる男を見上げてただ恐怖することしか出来なくなってしまうと無情にも彼目掛けて鉤爪が付いた腕を振り落とされる。


「うわぁぁぁぁぁぁっ!!!」


断末魔の悲鳴を上げ、テルは鉤爪によって自身の身体も引き裂かれる事を覚悟したが二人の間に人影が割り込むと男の鉤爪は彼の身体に届くことなく一本の木剣によって阻止された。


「えっ?」


テルが目を開いて顔を上げるとそこにはシエルが白い稲妻を剣の刃に纏いながら攻撃を受け止めている姿が目に入った。


「な、何!?なんだこのガキは!?」

「お、おい・・・シエル」

「っぐ!テル!・・・逃げて!」


テルを護ったシエルは彼に逃げるよう促す。それはシエルにとって初めて弟を・・・家族を助ける為にとった行動だった。


「で、でも・・・」

「早く!!」

「・・・ッ!?う、うん!」


テルは戸惑いながらも従い、シエルは無事に彼を逃がすことに成功する。


「くそっ!テメェッ!!」

「ぐわっ!」


刹那、シエルは男に突き飛ばされると地面に転がって倒れてしまう。


「ぐっ・・・ま、まだ!」


それでも臆することなく木剣の柄を両手で持ち、果敢に突撃する。


「ぬるいなァ!くたばれっ!!」

「えっ?」


しかし、男は一瞬でシエルの目の前までやってくると素早い動きで鉤爪を振り上げて攻撃を繰り出す。


「ああああああああっ!!!」


そして・・・鉤爪がシエルと捉えた瞬間、悲鳴が児玉すると同時に折れた木剣の刃が鮮血と共に空を舞うのであった。


◇◇◇


「ヨルズ、居たか?」

「ううん、桟橋や船の所にも居なかったよ。」


夕暮れに包まれたワース国王の町中・・・私達は血眼になってシエルの捜索を行っていたが彼の姿は何処にもなかった。・・・まずい!何処に行ったんだ!!


「そうか・・・」

「まずい事になったな。」


頭を抱える私の隣でヘーニルは葉巻を咥えながら顔を顰める。相手は国の王子だ。万が一何かあった場合、両陛下に顔向けできない。・・・言葉が厳しすぎたのか?私は。


「団長、大丈夫ですよ。シエル様ならきっと!」

「私達団員も全力で捜しております。何とか見つけましょう!」

「そうだな・・・そうだよな。」


フリッグとバルドルの言葉を受け、私は深く頷く。悔やんでも仕方ない。


「捜索範囲を広げよう。そろそろ両陛下も戻ってくるんだろ?最悪この事を伝えて協力を要請するといい。坊主にも非はあるんだからな。」

「ああ」


ヘーニルに頷き、用事を終えて戻ってくる予定の両陛下にこの事を伝え、協力してもらう事を考え始めた・・・その時だった。


「あ、あれは!?皆さん!あれを!」

「どうした?」


ふとフリッグが城下町の方を指すとそこには城から出てきたであろうワース王国の兵達が一斉に武装して駆け出している姿が見られた。


「あれは・・・ワースの兵隊!?シエルの事はまだ伝わって居ないはずでは?」


兵隊の姿を見て私は目を丸くする。シエル以外のとこで何かあったのだろうか?


「オーディン様!」


すると数人の護衛を連れた女王が焦った様子で私達の元へと駆け付けると私は思わぬ人物の姿に目を見開いて驚愕した。


「女王陛下!?何があったのですか?」

「は、はい!それが・・・テルの乗せた馬車がウェールズ王国との国境を結ぶ林道で襲われたと聞いたのです!心配になって公務中の主人に代わって急いでやって来たのです!」

「な、何?」


女王の話を聞いて私とヘーニルは顔を見合わせる。テルが襲われただと!?そんな偶然があるのか?


「あれ?オーディン様、シエルはどうしたのですか?」

「あっ・・・そ、それが・・・この状況で大変言い難いのですが。」


シエルが居ないことに気付いた女王に私は顔を顰めながら正直に彼も行方不明であることを告げようとした時だった。


「居たぞ!テル様だ!」

「えっ?」


兵士の一人が林道の入口を指差すとそこには顔がくしゃくしゃになるほど泣きながら独りでこちらまで歩いてくるテルの姿があった。


「テル!!」


急いで彼の元へ向かった女王に続き、私達も彼女に続いて駆けつけて保護した。幸い怪我はなさそうだが取り巻きの文官らの姿がない。


「ぐすっ、あうぅ・・・は、母上ぇ・・・」

「テル!良かった!怪我は無いのね?何があったの?」


テルを抱き締めながら女王は何が起こったのかを尋ねる。


「うぐっ・・・馬車で移動してたら・・・ぐすっ、狼みたいな顔をした・・・怖い人に襲われて・・・ぐすっそれで・・・文官の人は皆、殺されて・・・」

「狼みたいな顔?」


"狼の様な顔をした人"という特徴に眉を寄せた。まさか・・・


「おい・・・ソイツは・・・!?オーディン!」

「ああ、間違いないな。」


ピンときたヘーニルに深く頷く。よりによって奴に襲われたのか!


「ま、まさかテル様を襲った犯人は・・・」

「間違いないよ。ソイツ、"王殺しのロキ"だよね?」

「王殺しの・・・ロキ?」


ヨルズの放った名前に女王は首を傾げると私は彼女に"王殺しのロキ"について説明する。


「はい、最近になって名を上げている殺人犯です。王族の乗っている馬車を襲い、金品を略奪している事から『王殺し』の異名が付いた者です。」

「ッ!?そ、そんな恐ろしい者がワースの近くに!?」

「チッ、悪い噂はこうも簡単に当たるたぁな。」


青ざめるルシェル女王にヘーニルは恐る恐る林道の入口へ目を向ける。どうややらワース近隣に潜伏しているという噂は本当だったようだ。


「兎に角、テル様は無事か。」


私は辺りを見渡してシエルの安否を心配する。後はシエルだ!


「あ、あと・・・シエル、あ、兄上が・・・。」

「テル?何?シエルがどうしたの?」

「ぼ、僕を逃がす為にその男と・・・戦って。」


続けてテルの口から恐れていた事態が放たれると私達に緊張がはしった。シエルが・・・ロキと!?


「シエルが?ああっ・・・」

「じょ、女王陛下!陛下っ!!」


シエルの危機を知った女王は頭を抱えるとそのまま仰け反って気絶してしまい、彼女を兵達が介抱する。


「オーディン!やべぇぞ!」

「分かっている!お前達!」


眉間に皺を寄せた私は直ぐに団員達へ指示を送る。


「今すぐ林道の中を進むぞ!そして・・・ロキを討伐する!」

「「はっ!」」

「兵の皆さん。申し訳ございませんが後は私達に任せて頂きたい。」

「わ、分かりました。」

「女王陛下とテル様は我々がお守りします!どうかシエル様を・・・」

「ああ、必ず!」


団員達に続いてヘーニル達幹部勢も林道へ入ると私は兵士達に深く頷き、マントを翻しながら彼らの後へ続こうとする。


「ま、待って!」


するとテルが咄嗟に呼び止め、私は彼へ振り返った。


「か、必ず・・・あ、兄上を助けてくれぬか?騎士(シュバリエ)よ!」


その言葉に眉を上げて驚きつつも私は優しく微笑んで答えた。


「ああ勿論だ!必ずシエルは・・・君の兄上は救ってみせる。」

「絶対だぞ!!」


そう叫んだテルに無言で手を挙げ、シエルとロキの元へ急ぐ。全ては・・・私の可愛い弟子を助ける為に!!

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