第48話:対戦!帝国VS騎士(シュバリエ)
「オラァァァァッ!!」
カイは勢いよく薙刀を振り落とすとホルスはその攻撃を自身の得物で受け止める。
「貴様、中々やるな!」
「ケッ、帝国のクズに戦闘を褒められるなんてなぁ・・・」
ホルスの言葉にカイは眉間に皺を寄せて愚痴を零した。
「クズではない!我々は世界を一つに統べる為、国々を吸収しているのだ!」
「それが侵略と変わらねぇって話なんだよタコが!」
「随分、口が悪いのだな貴様。」
「なんとでも言えよ!俺はテメェらに生まれ故郷を侵略された・・・」
カイはそう言うと薙刀を握る手を強くしてわなわなと震える。
「まだあの時はガキだったが未だに忘れてねぇ!燃え上がる炎、焦げ臭ぇ匂い。響き渡る悲鳴!どれも全てテメェら帝国のやったことだ!」
「だからなんだと言うのだ?我々に歯向かった貴様らの責任だ!」
「テメェ!!」
怒り出したカイはホルスに斬りかかるも彼の軽い身のこなしで回避されてしまう。
「フン、怒りに任せて薙刀を振るっても私を倒すことは出来んよ!」
「チッ、調子に乗るなよザコが!」
カイは薙刀を一回転させながらホルスを睨むと心の中で葛藤する。
・・・とは言え確かにオレはシエルの様に強くはねぇ。だが、オレはアイツの戦い方を傍で見てきた。
オレにも・・・オレにも"あれ"が出来る筈だッ!!
落ち着け!気持ちを集中させろ!そうすれば・・・
カイは目をゆっくり閉じ、感覚を研ぎ澄まして気持ちを落ち着けた。
刹那、彼の薙刀の刃から微かな稲妻が発生するとそれは海のように青い稲妻となって刃を・・・薙刀全体を纏い始めた。
「ッ!?そ、それは!?」
稲妻を見たホルスは冷や汗をかき始めると後ずさりしてカイを見つめた。
「・・・出来た!遂に纏えた!これが・・・剣雷か!」
剣雷・・・それは剣士が最も会得するのが難しいとされる剣術の一種、剣の内にある魂と自身の内にある魔力を共鳴させて繰り出す技・・・
しかし、カイは薙刀使いであるにも関わらず剣雷を覚醒させることに成功したのである。
「オレには魔力なんてもんはねぇ。だが、気力を代わりに共鳴させることでコイツを生み出せた!ようやくな!」
「ッ!?」
「さて、次こそ終わりだッ!!」
カイは大きく薙刀を横殴りに振り上げると剣雷を全身へ纏い始め、ホルスを捉える。
「終わりだッ!!!"叢雲斬・雷"ッ!」
彼の放った剣雷の斬撃は三日月型の光の刃となるとホルス目掛けて一直線へ放たれた。
「うおおおおおおおおおっ!!!」
しかし、ホルスは得物である両刃の薙刀を回転させると迫ってきた光の刃を全力で受け止め、相殺を図ろうとする。
「いっけぇえええええええええッ!!!」
カイの声と共に光の斬撃はホルスの薙刀の刃を粉々に砕いてしまう。
「ば、バカな!?この私が・・・うわぁぁぁあああああっ!!!」
光の斬撃に呑まれたホルスが悲鳴を上げた瞬間、辺りに爆発が起こり、大きな砂埃が空中へ舞い上がった。
やがて砂埃が晴れ、視界が元に戻るとそこには地面に仰向けで倒れ、ボロボロの状態で戦闘不能となったホルスの姿が見えた。
「はぁ、はぁ、はぁ・・・カスが。俺の力・・・思い・・・知った・・・か。」
倒れたホルスを見て、笑みを浮かべたカイは疲れ果てたのか剣雷が消えたと同時に地面に倒れてしまうのだった。
◇◇◇
「ぐうっ!!」
シルヴァは肩に矢が直撃するとその場に跪いて射られた右肩を庇った。
「あら、この程度なのかしら?」
対するロワ帝国大尉バステトは不敵な笑みを浮かべながらボーガンを突きつけた。
「大佐は帝国の栄光と世界を統べる為にこれまで暗躍してきたの。貴方の様なエルフ族もあの獣人もヒューマン至上主義の下に淘汰されるの!だから・・・大人しく死になさいよ。アナタ」
「ごちゃごちゃ・・・煩いわね!・・・はぁ、はぁ!」
シルヴァはゆっくり立ち上がると右肩に刺さった矢を引き抜くとエメラルドグリーンの瞳でバステトを睨みつけた。
「あら、まだ動けるの?鬱陶しいわね。アナタ」
「・・・アンタ、エルフも獣人も淘汰されるって言ったけど・・・それが何なのよ?」
「はぁ?」
シルヴァの言葉にバステトは眉を寄せる。
「姿形が違っても・・・獣人でも・・・エルフでも・・・アタシ達は同じ人に変わりは無いの!だから・・・アンタ達の野望は絶対に叶えさせない!!」
「うふふふふふっ!威勢がいいのね。じゃあ・・・とっとと死ねよッ!!」
カッと目を見開いたバステトはボーガンから無数の矢を放つ。
「死ねるわけ・・・ないでしょッ!!」
シルヴァはエメラルドグリーンの眼を光らせると迫ってくる矢を次々回避していく。
「ッ!?アタシの矢が全部躱された!?」
「絶対に・・・負けない!!」
驚くバステトをよそにシルヴァは矢を汲むと思い切り弦を引いてキリキリと音を鳴らせる。
アタシは絶対に負けない・・・大丈夫、やれる相手をよく見るの!!・・・そこっ!!
狙いを定めたシルヴァはバステトの動きを完全に読み取ると絶妙のタイミングで矢を放つ。風・・・否、音とほぼ同等の速さまで加速した矢はバステトの腹部を掠める。
「ッ!?」
自信の腹部から鮮血が出てきたことに気付いたバステトは震え出すと何も言わずにそのままうつ伏せに倒れてしまった。
「はぁ、はぁ・・・どう?エルフの弓術は伊達じゃないのよ!!」
倒れたバステトに対してシルヴァはそう言うと勝ち誇った笑みを浮かべるのだった。
◇◇◇
一方、僕とエルデは工房長カークスが囚われている処刑台の目の前までやって来ていた。
「はぁ、はぁ、はぁ・・・工房長!!」
「エルデ!!」
工房長はエルデを見るや否や、半身を覗かせて嘗ての息子同然だった弟子を見やる。
「助けに来ました!工房長!!」
「エルデ・・・この・・・この俺の為にテメェは・・・俺はお前に悪気は無いとはいえ、酷いことを言ったのに・・・」
「そんなの今更気にしてねぇです!だから、戻ってください!船工房へ!!」
「工房長さん、私は騎士です!今、貴方を助けます!」
「騎士か・・・すまん、エルデと来てくれて。」
「大丈夫です!」
救出にきた僕にも頭を下げた工房長に笑みを返す。
しかし、処刑台はとても高いし何処かから登れる箇所もない。あんな高台からどう助けようか?
そう思考を巡らせていた時だった。
「っ!?シエル!危ねぇ!」
「はっ!?」
エルデの声に僕は何者かが迫る気配を感じると直ぐにその場から退いた。
「私の攻撃を避けるとは・・・余程、死にたい様ですね?」
僕を襲った人物はそう言うと怒りの表情を見せながらその姿を顕にする。
「アヌビス!」
「テメェか!アヌビス!」
現れた男・・・アヌビスを前に僕とエルデは身構えて戦闘態勢に入る。
「貴様、この私を怒らせて無事で居られると思うなよ?獣人と騎士風情がこの私を倒せるとでも?」
「貴方はそうやって人を獣人を見下す。なんでそんな事をするんですか?僕には理解できない。獣人に・・・ヒューマン以外の人間になんの恨みがあるんですか?」
僕は剣を手にしながらアヌビスにそう尋ねる。
その答えは単純に身勝手かつスパイとはいえ、とても国の首相とは思えぬものだった。
「恨み?そんなものは無いですよ!ただ"人"としての姿が歪だからだよ!それが目障りなのだ!」
「ッ!?・・・!!」
これ程までに怒りが湧き上がったことは無かった。僕は無言でエクスカリバーの刃に蒼白い稲妻を纏うとそれを衝撃波の様に辺りへ放出した。
「シエル・・・お前。」
僕の静かな怒りにエルデは戸惑いながらこちらを見つめる。
「ハッハッハッハッ!怒っているのですか?面白い!私を倒せるものなら倒してみろ!」
アヌビスがケラケラと高笑いした次の瞬間・・・
静かな怒りが頂点に達した僕は目にも止まらぬ速さでアヌビスの目の前へやって来るとそのままエクスカリバーの柄を両手で握り締めたまま奴へ斬りかかった。
「グホァァッ!?」
余りの速さと突然のことにアヌビスは身体に大きな斬り傷をつくると共に口から鮮血を吐き出して後ろへ下がりながら悶絶する。
「ぐっ・・・がはっ、貴様・・・」
「アヌビス、お前は生かしてはおけない。僕がここでお前を・・・」
「ック・・・クックックッ」
「何を笑っている?追い詰められておかしくなったか?」
僕は恐らく生まれて初めて放った冷たい声でアヌビスの首元に剣を突き付けた。
「フフフフ・・・そうです、そうですねぇ。貴方は私に勝ったとお思いでしょうが・・・私には奥の手がある!」
「何?」
「気を付けろシエル!アイツ、何かしやがる!」
追い詰められても尚、不敵な笑みを浮かべるアヌビスにエルデは警戒する。
僕もそんな彼に目を向けながら奴へ視線を戻し、手にしているエクスカリバーの柄を強く握った。
「私にはまだ・・・奥の手がある!」
奴はそう言うと見覚えのある禍々しい濃紺のオーラを放つ石を懐から取り出した。
「ッ!?それは・・・魔石!?」
「その通り!」
「くっ!」
僕は直ぐにアヌビスから離れると滑るように後退する。
魔石・・・それはダイダニック号でジョッキーが使用していた自信を異形へ変化させ、強大な力を得る代わりに寿命が縮む代物・・・
「まさか!お前もジョッキーの様に・・・」
「ククククッ、一般的な人なら自分の姿を変えてそうするでしょう。でも、私はヒューマン史上主義!自ら異形に変わるバカな真似はしませんよ。」
「何?」
「この魔石の力で変えるのは・・・そこにいる獣人ですから!」
「なっ!?」
アヌビスが魔石を使う思わぬ標的に僕はやや焦った表情でエルデへ振り向くと時既に遅し・・・彼の身体を禍々しい濃紺のオーラが包んでいた。
「ぐっ・・・ぐぁあ!!」
「しまった!エルデ!」
「エルデ!!」
僕と処刑台にいた工房長が慌てて声を掛けるも彼は突然、苦しみ始める。
「やめろ!エルデ!思い出せ!自分を!本当の自分を!」
「うぐぅぅう!グオオオオオオオオッ!!!」
僕の声も虚しくエルデは雄叫びを上げると同時に赤い毛皮の獣の姿へと変わっていく。
「エルデェェェッ!!!!」
「グオオオオオオオオオオオオオオッ!!!」
そして、僕の視界には魔石によって赤いたてがみを生やした獅子となったエルデの姿が映っていた。




