第47話:奪還
船工房襲撃から翌日の朝。土煙が一吹きした首相官邸の広場にいつもは無いはずの処刑台。そしてロワ帝国の兵達と捕縛された船工房の幹部達がずらりと並んでいた。
「大佐。そろそろカークスの処刑をおこないます。」
「ご苦労だホルス。昨日にかけて全ての大臣と政府関係者を国王の元へ送ったり外国へ派遣したりした。ここに居るのは我々帝国の関係者のみ。最早マルケイルは帝国の領土であることに変わりない。」
オラルドの首相もといロワ帝国大佐、アヌビスは細い目を上げて笑みを浮かべる。
「処刑人、カークス。登壇せよ!」
ホルスの号令と共に鎖に繋がれたカークスが処刑台に上げられると船工房幹部達から抗議の声が上がった。
「工房長!!!」
「お前らふざけんじゃねぇぞ!俺達が何をしたって言うんだ!!」
「これはでっち上げだ!!」
「静まれ!この豚共!」
次々に上がる野次に対してアヌビスが怒号を上げて制圧する。
「次、その汚い声を上げたら貴様らも始末する!」
「くっ・・・お前ら!頼む!俺の犠牲で済むなら下手な真似はするな!」
アヌビスの脅しに対しカークスは部下達へ顔を向けてそう必死に呼びかけた。
「し、しかし工房長が!」
「俺はどうなってもいい!テメェらに死なれて欲しくねぇ・・・頼む!」
「こ、工房長・・・」
船工房の幹部達は泣きながらカークスを見守ると彼の首元に処刑用の剣が突きつけられる。
「これより公務執行妨害と船工房私物化の疑いがあるカークスを処刑する。最後に言い残すことは?」
執行人の呼び掛けに対し、カークスは目を瞑って静かに答えた。
「・・・何も言うことは無い。心残りがあるとするなら俺の"'息子"に謝りたかった。」
「それだけか?」
執行人の問いにカークスは深く頷く。船大工の人たちの嘆きの声が上がる中、彼に処刑の刃が振り落とされ正にそれが首と胴体を切り離そうとした・・・その時だった。突然、風を切るように矢が処刑台へ迫るとそれが執行人の腕に直撃して処刑は阻止される。
「ぐぁああああああっ!!」
「ッ!?何事だ!?」
射られた腕を庇いながら倒れた執行人を見てアヌビスは思わず目を見開いて驚いた。それはカークスや船工房の幹部達も同じで皆、誰が矢を放ったのかと辺りを見渡した。
「貴様ら!何者だ!!」
そんな中、帝国兵の一人が何者かに気付いて声を上げる。
「ッ!?・・・お前は!!」
首相官邸に現れた者の一人を見て、カークスは驚きと共に微かに涙を浮かべた。そこには今の彼にとって一番会いたかった人物・・・エルデとシエル率いる騎士達の姿があった。
◇◇◇
首相官邸に現れた僕は眉間に皴を寄せ、怒りを抑えながら辺りを見渡した。間に合った。処刑台に居る人がカークスで間違いない。
「執行人の人やったよ。」
「ありがとう。シルヴァ。」
執行人を仕留めたシルヴァに礼を言った途端・・・
「お前は・・・エルデか!?」
カークスがエルデを見た途端、彼に大声でそう呼びかけると。彼もまた、たまらぬ想いを吐き出すかのように大声で返した。
「はい!!!工房長!!!!俺です!!エルデです!遅くなってすんません!!!」
「エルデ!?今、エルデって言ったか!?」
「ほ、本当にアイツなのか!?」
エルデの名を聞いた途端、船工房の幹部達からもざわめきの声が上がる。・・・あの反応を見た感じ、相当愛されていたんだな。
「貴様らのこのこと・・・何者だ!!!」
そんな中、僕らに対して怒りの表情を浮かべる細い眼をした男が居た。奴がオラルドの首相・・・いや、ロワ帝国大佐のアヌビスで間違いないだろう。
「誰なのだと聞いているのだ!!」
「・・・お前がアヌビスか?」
「だとしたら何なのだ?先に貴様から名乗れ!!」
激昂するアヌビスに僕はキッと奴を睨んで名乗った。
「僕の名はシエル!騎士だ!」
「騎士だと?貴様・・・私が何なのか分かっているのか?」
「ケッ、こんなに帝国のカス共を集っておいてまだシラを切んのかよ?糸目野郎!!」
依然、自身を首相と名乗るアヌビスにカイは怒りを顕わにする。
「貴様・・・アヌビス様になんという言葉を!」
「ッ!大佐!間違いありません。あの少年。アイルの侵略作戦を阻止した例の指名手配犯です!」
「ほう?貴様がアレス准将の言っていた小僧か?ならばここで仕留めねばな!!オラルドの秩序の為に!!」
僕の事を部下から聞いたアヌビスは睨み返す。
「オラルドの首相?それは間違いでしょう?」
「なんだ?私を疑っているのか!?証拠でもあるのかね!?確証が!!」
オラルドの首相であることを否定したルーチェに奴がそう言った時だった。
「確証?それをないと思っていないとでも?」
「誰だ!!」
僕らに続いて甲を被ったミネルバが現れる。
「なっ!?き、貴様は・・・十二神騎のアテナ!?」
「な、何故・・・白の騎士がここに!?」
ミネルバこと十二神騎アテナの登場にアヌビスは驚きを隠せなくなる。
「オラルド首相アヌビス・・・いえ、ロワ帝国アヌビス!貴方が軍艦を不正に帝国へ輸入した書面はここにあります。」
ミネルバはそう言うとアヌビスがこれまでに犯した密輸入の明細を彼らに突きつけた。
「ッ!?で、デタラメだ!偽装したのだろう!!」
「では何故、カークスの処刑に・・・この場にオラルドの要人や兵は一人もおらず何故、ロワ帝国の兵が居るのでしょうか?」
「うぐっ!?」
彼女の指摘にアヌビスは後ずさりして冷や汗を流して焦りだした。
「それと貴方の不正は既にデン・ハアーグへ渡されています。一部の要人が証人として貴方の暴挙も密告しています。既に貴方が綿密に移動させたオラルドの兵がこちらへ向けて進軍しています。”国王の命”によってです!!」
「ぐっ!!くっ・・・くっそおおおおおっ!!」
遂に確たる証拠を暴かれ、化けの皮が剥がれたアヌビスは頭をくしゃくしゃとかき回した。流石は十二神騎と言うべきだろうか?既にオラルド国王へアヌビスの不正を伝えていたのは驚いたけど。
「くっ・・・アテナ貴様ァ!!もはや・・・ここまでだ!!十二神騎だろうが騎士だろうが関係ない!!お前達!あの邪魔者共を排除しろ!特にあのエルフと獣人は徹底的にな!!」
「りょーかーい!」
「了解です!!」
アヌビスの指示を受けた側近の男女二人がそう答えると多くの帝国兵達が僕らを取り囲み、容赦なく帝国兵の軍勢が僕らへ迫った・・・次の瞬間。
「"光の雨"!!」
「はああっ!!」
ルーチェとミネルバの攻撃によって帝国兵の大半がハチの巣にされると次々と地面に伏せていく。
「ッ!?こんな一気に!?」
「怯むな!!進めッ!」
「邪魔だ!どけッ!!!”ビースト・ガントレット”!!」
残った帝国兵が斬りかかってくるとエルデがボディーブローを放つと衝撃で一気に数人の帝国兵を制圧してしまった。
「やるね!エルデ!」
僕はエルデと互いの背中を合わせながらそう言った。
「あぁ、俺はぜってぇに工房長と皆を助けるからな!」
「させませんよ!」
「っ!エルデ!上!」
「ちっ!」
刹那、アヌビスの側近の男が現れると両刃の薙刀を振り落としながら僕らに迫ってきた。服装を見るからに帝国の士官・・・少佐以上だろう。
「おらあああああっ!!!」
しかし、その攻撃をカイが阻止すると彼は男と鍔迫り合いになりながら地面に着地して互いに向かい合った。
「貴様。この私・・・帝国軍少佐ホルスの邪魔をするか?」
「だったら何なんだよ?オレは徹底的に帝国を叩くって決めてんだ!大人しく死ねよカス!」
「偉そうに・・・!!」
カイの言葉にアヌビスの側近の男・・・ホルスは眉間に皴を寄せて怒り出す。
「おい!シエル!エルデ!コイツはオレにやらせろ!!」
カイは僕とエルデにそう言うとホルスへ再び顔を向けて一騎打ちの戦いを始めた。
「あの人はカイに任せて僕らは早く工房長を助けよう。」
「あぁ!」
「あら、行かせる訳ないでしょ?」
僕らが処刑台に向かって駆け出そうとすると今度は女性の声が聞こえて目の前に矢が飛んでくる。
「くっ!」
「うっふふふふふ・・・大佐と死刑囚の元には行かせないわよ。」
矢を放った褐色肌の女性はそう言うと得物のボーガンを僕らに突きつけてきた途端・・・彼女の頬を別の矢が掠めた。
「シエル!」
するとシルヴァが現れて女性の前に立ちはだかると矢を汲みながら言った。
「ここはアタシに任せて先に行って!ルーチェとミネルバさんは既に拘束された船工房の人達を助けに行ったから。」
「あら、この帝国軍大尉のバステト様の相手をしてくれるのかしら?」
シルヴァを見た女性・・・バステトは彼女に不敵な笑みを浮かべる。
「だったらなによ!アタシじゃ不満?」
「うっふふふふふふふ。いいえ?」
シルヴァはそのままバステトと互いの矢を飛ばす遠隔戦を開始すると僕とエルデは彼女の言う通りこの場を任せて先を急ぐのだった。




