第46話:エルデの過去
工房長に雇われてから俺は毎日、厳しい修行を受けた。杭の打ち方、船の設計の読み方、構造把握のコツ等・・・造船に関する知識全てを教えられた。工房長カークス直々の指導を受けて・・・
最初は投げ出したくなる程辛かった。杭を打つなんてやったこともねぇし、そもそも大工のような仕事は全く持ってやったことがない。しかし、俺はそれでもめげずに修行をした。何故なら・・・
「上出来だエルデ。杭打ちも上達したな。この調子で頑張れよ!」
「・・・!はい!!」
出来なかったことを出来るようになったら褒めてくれる工房長の期待に応えたくなったからだ。褒められる度に俺のモチベーションはますます上がり、数々の修行をこなしていった。
それから約半年後・・・俺は晴れて現場入りを果たし、憧れていた造船業に携わった。現場の監督や他の船大工も俺が獣人であることを気にすることなく接してくれて俺もまた才能を開花させられたのか造船の腕は誰もが羨むほど上達した。
「上出来だ。やっぱエルデが造った船は出来もいいし何より決められていた工期より早く終わるから助かるな~他の奴だとこぞってぎりぎりなのによ。」
「皆の力あっての完成っすよ。監督の管理も上手くいってましたし。」
「お前、言うようになったな。」
そんなやり取りをしては笑い合う日々・・・工房長も皆も最年少の俺を実の息子や弟の様に可愛がってくれた。このまま船大工として順風満帆な日々を送れる。
・・・あの出来事が起こるまでまではそう思っていた。
◇◇◇
今から約2年前のある日・・・俺はいつものように造船作業を続けていた時だった。
「エルデ。悪ぃけど第三ドッグの倉庫から木材持ってきてくれねぇか?」
「えっ?木材ですか?」
監督にそう言われ、俺はキョトンとする。
「あぁ、今丁度軍艦の作成に着手しててよ。」
「随分急っすね。何かあったんすか?」
「オラルドの首相様が変わってなぁ・・・軍艦の造船を急に言ってきやがってよ。」
「上も上で大変っすね。」
困った表情をする監督に俺は苦笑する。
「そういう事だ。頼むぞ!」
「はい!」
監督に頷き、俺は指示通り第三ドックの倉庫へと向かう。
「ここか」
倉庫のドアを開け、加工された木材がずらりと並ぶ部屋を見渡しながら中へ入る。
「えっと軍艦用の木材は・・・」
木材を一つ一つ確認しながら倉庫内を歩いていた時だった。
「・・・ん?」
奥に置いてある机の上にあるものが目に入って立ち止まる。
「なんだ?」
気になった俺は机まで歩み寄るとそこには古びた船の設計図が置いてあった。随分、古ぃな。こんな昔の船の設計図がなんでここに・・・そんなことを思いながら設計図を見た途端、俺はその考えを真っ先に覆すことになった。
「ッ!?これは!?ただの古い設計図じゃねぇ!!"原初の騎士団"と言われている今は無き伝説の騎士団・・・"円卓の騎士団"の船、エール・ブランシュ号の設計図か!?」
そう、ただの古い船の設計図ではなく世界初の騎士団と呼ばれた伝説の騎士団・・・円卓の騎士団が旗船としていた船エール・ブランシュ号の設計図だったのだ。
「こんな伝説に近ぇ代物すらもあんのか!?ここは!」
設計図をまじまじと見ながら俺は目を輝かせた。型式は今の船と比べたら遥かに古い。だがそれ以前に船そのものに価値がある。そんな船を蘇らせ、また海を渡るようにすることが出来れば・・・
「益々名が上がるし船工房の皆もやりがいを感じる!しかもコイツ、旧工房のドックに置いてあんのか?当時のままの状態で!?」
更に船の場所が記されたメモもあり、俺の胸は益々高まった。・・・決めた!俺はコイツを直してまた海へ送り届ける!歴史的価値のある船を直すのも俺達の仕事だ!これで俺達が一人前になることを本望としている工房長にも恩返しが出来るはずだ!!
「早速、コイツを持って行って工房長に修繕の許可を貰おう!」
意を決した俺は設計図と船の在り処が記されたメモを回収すると監督の指示をこなしつつ工房長へ船の修繕する許可を貰うことにした。
高まる胸の鼓動を抑えながら俺はウキウキした気分で工房長にこの事を伝えた。工房長ならきっと・・・了承してくれるハズ・・・だと思っていた。
「バカ野郎!!ダメに決まってんだろ!チクショウが!」
「・・・は?」
しかし、工房長の答えは期待していたものとは全くの逆であった。
「テメェ、その船が何なのか分かってるのか?」
「円卓の騎士団の船なんだろ?俺は知ってます!何回も伝記で読んだんですから!そんな歴史ある船を直すのも俺達の仕事でしょ?」
「それとこれとは別だ!」
「なんでダメなんっすか?」
頑なに拒絶する工房長に対して俺は徐々に苛立ちを覚える。
「兎に角、ダメなものはダメだ!設計図も寄越せ!そいつは処分する。」
「はぁ!?何言ってんっすか!!理由を言えよ!」
「黙れ!設計図を寄越せ!」
「いやだ!」
「貴様・・・!」
設計図を処分することを拒絶し、渡さない俺に工房長はわなわな震えると遂に怒りと"これまで言わなかったこと"を吐き出した。
「"獣人"の分際で生意気だぞ!テメェ!ナメてんのか!!」
「ッ!?・・・い、今、なんて言ったんだよ!?」
「はっ!?し、しまった、つい口が悪くなって・・・」
工房長が我に帰るも時すでに遅し、俺は過去の出来事がフラッシュバックして呼吸が荒くなりだす。戦争に巻き込まれ焼け野原になる故郷。何処へ行っても石を投げられながら逃げる俺に対する罵詈雑言の声・・・やめろ・・・やめろ!
・・・ヤメロォォォォォ!!!
「エ、エルデ!落ち着け!エルデ!悪かった!今のは本気じゃ・・・・」
「ウワァァァァァァァア!!!!」
「ぐわぁぁぁぁあ!!」
必死に宥める工房長の顔を見たのを最後に俺の記憶はそこで一旦、無くなった。
「はぁ、はぁ、はぁ・・・ッ!?」
息を切らしながら気がついた俺は目を見開いて青ざめた。目の前には"獣の爪"の様なもので身体に傷を付けられた工房長が仰向けで倒れ、部屋中に鮮血が飛び散っていた。
「はぁ・・・あ、あああっ!」
まさか俺・・・この獣の爪が自分のものであると気が付くのに時間は要らなかった。
「お、俺が・・・俺が工房長を・・・!・・・あ、あああっ!」
気絶する工房長に背を向け、すぐに部屋を出た俺はエール・ブランシュ号の設計図と在処が記されているメモを持ち出したまま船工房を出て行き、船工房で働く生活は突如として終了した。工房長を傷つけ、そして獣人の差別を受けた以上、もう二度とここへは近付かないと心の底から誓ったのだ。
◇◇◇
エルデの過去を聞いた僕達は皆、無言となる。
「これが俺と工房長との過去だ。」
「そうして貴方はそのままエール・ブランシュのある旧工房のドッグへ向かい、独りで修繕作業を始めることになった・・・そういうことね?」
「そうだ」
ルーチェの言葉にエルデはこくりと頷く。
「でも工房長さんはエルデの事を気にしていたんじゃないかな?確かにカッとなってつい口に出たのは良くないけど・・・。」
「それも分かってんだ。だからこそ俺はもう顔向けできねぇ!あの日、恩人すらも”本能”のまま傷つけた。敵と認識しちまった・・・俺にはもう・・・」
「エルデ・・・」
拳を握りしめながら俯いて悔しげな表情を浮かべるエルデに僕は返す言葉を無くしまう。すれ違いで起きた悲しい過去と言うべきだろうか?僕も師匠と喧嘩したことあったけど僕も下手をしたらエルデみたいに傷つけていたことだろう。
「・・・一つ宜しいですか?」
するとミネルバが手を挙げてエルデに尋ねた。
「貴方はカークス氏に船の修繕をお願いしたとき彼は頑なに断っていたと仰っていましたね?」
「あぁ、そうだ。」
「どういうことですか?」
僕は眉を寄せながらミネルバの質問の意図を探ると彼女は次にこんな質問を返してきた。
「シエルさん。アヌビスがオラルドの首相に就任したのは何年前か覚えていますね?」
「確か・・・2年前ですよね?どうしてそれを・・・はっ!?」
ようやくその質問の趣旨を理解した僕はあることに気付くとカイ、ルーチェもまた察した様子を見せた。
2年前・・・アヌビスがオラルドの首相に就任した年だ。そしてエルデが工房長にエール・ブランシュ号の修繕を打診したのも丁度この頃・・・そして、ドックに現れたジョッキーがエール・ブランシュを狙っていることを仄めかしたこと。その直後に船工房が襲撃されたこと・・・
「ええと・・・つまりどういうこと?」
ただ一人状況を飲み込めていないシルヴァは困惑した顔で僕らを見つめてくるとルーチェが彼女にも分かるように簡潔に説明した。
「2年前。アヌビスが首位に就任した時、彼は歴史的価値のあるエール・ブランシュを帝国の手中に収めるために船工房へ圧力をかけた。工房長は幾ら政府とはいえエール・ブランシュを迂闊に手放すことを躊躇い、保管していることを隠し通す為にエルデにああ言った可能性が高い・・・という訳ね。」
「えっ?じゃあ・・・帝国がアタシ達の所に来たのって・・・」
「あぁ、アイツらは場所を特定して抑えに来たんだろうな。相変わらず反吐がでるぜ。」
帝国のやり方にカイは嫌悪の表情を露にする。
「うん?あれ?なんだろ?」
ふと、空を見上げたシルヴァが何かがこちらに向かって飛んでいることに気付く。僕らもまたそちらに顔を向けるとあのミネルバの白い梟が翼を羽ばたかせながら彼女の目の前までやって来た。
「その梟って・・・ミネルバさんの?」
「はい、名はオリーブ。彼は偵察能力と伝達に長けた子でしてね。此処へ向かう途中に首相官邸へ送り込んでいたのです。私とは特殊な魔力で話をできますので伝達役として重宝しているのですよ。」
「すごーい!賢い梟ちゃんなんですね!」
オリーブの事を褒めるシルヴァにミネルバは笑みを浮かべると早速、彼はミネルバに首相官邸で見たことを伝えた。
「ホー!ホー!」
「・・・えぇ。そう・・・分かったわ。ありがとう。」
「ホー!!」
主人に伝達を終えたオリーブは空高く飛び上がると再び街の方へと姿を消していった。
「それで?オリーブはなんと言ったの?」
ルーチェは険しい表情でミネルバを見るとエルデは首相官邸へ連行されたと思われる工房長を案ずる。しかし、そんな彼の気持ちを踏みにじる事態が僕らに告げられた。
「明日。工房長カークスを公務執行妨害と職権乱用の疑いで処刑することが決まったわ。」
「ッ!?く・・・くそっ!!」
ミネルバの告白にエルデは拳を握り締めてその場に崩れ落ちた。アヌビス!ふざけるな!僕は怒りに燃え、拳をわなわな震わせた。
「そんな・・・工房長さんが!!」
「アイツら・・・やりやがったな!!」
カイとシルヴァもまた怒りの表情を浮かべはじめる。
「工房長の処刑を明日。止められなけれは彼は・・・」
「そんなの絶対に許さない!今すぐ首相官邸に行くべきだよ!」
「お待ちなさいシエルさん。」
「なんで!」
「大丈夫です。このことも私は想定していましたので。」
焦る僕らを宥めるかのようにミネルバがそう言うとルーチェが笑みを浮かべた。
「それって貴女には考えている策がある・・・そういうことね?」
「その通りよ。だから皆さんには今から私の指示に従ってください。これで工房長を助けることができます。」
ミネルバは早速、自身の作戦を僕達に告げた。
「おいおい・・・本気で言ってんのか!?」
「流石に無理があるんじゃない?」
シルヴァとカイはその内容を聞いて唖然とするが僕とルーチェは最善の策であると笑みを浮かべた。この作戦なら・・・工房長達を助けられるかもしれない!
「いや、この状況なら名案だよ。」
「ふふふふふっ。流石ね乗ったわ。その作戦。」
「うん!エルデもそれでいいよね?」
僕はエルデに顔を向けると彼は決意に満ちた表情を浮かべながら答えた。
「もうどうなっちまってもいい。それで工房長が助かんなら本望だ!」
こうして僕達は十二神騎アテナことミネルバの策を決行する為、明日の工房長解放に備えて準備を始めるのだった。




