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Chevalier『シュバリエ』〜約束の騎士達の物語〜  作者: JACK・OH・WANTAN
第六章:疾風の獣
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第45話:落日の船工房(ファクトリー)

マルケイル北部・・・船工房 オラルドの経済を支える世界一の造船所にしてオラルドの象徴といえる施設。


夕焼けの空の下・・・船工房へ急いで向かった僕らがそこで見たのはそんな栄光が嘘のように思える惨劇のあとだった。


「おい・・・嘘だろ・・・。」


倒壊した外壁と辺りに漂う焦げ臭いと炎にカイは思わず絶望の言葉を漏らした。


「酷い・・・」


シルヴァもまた焦げ臭いに顔を顰め、惨劇の様子を見て顔を青くした。


「遅かったようですね・・・何故、船工房がこのようなことになったのか分かりませんがアヌビスの仕業で間違いないでしょう。」

「だとしたら・・・どうしてこんな事を!」


僕がミネルバに顔を向けてそう尋ねるも彼女は首を横に振る。


「ねぇ!あそこ!!」


するとシルヴァが目の前を指差して声を上げるとそこには変わり果てた工房を上げて立ち止まるエルデの姿があった。


「エルデ!」


僕らはエルデに駆け寄り、彼に声をかけるも返事は無く震えながら船工房を見渡していた。


「嘘だ・・・こんなこと・・・工房長は・・・何処に!!・・・はっ!」


するとエルデは船工房の入り口前で倒れている船大工を見つけると直ぐにそちらまで駆け寄って揺さぶりながら声をかけた。


「おい!!しっかりしろ!大丈夫か!?」

「う・・・うぅ」

「息がある?すぐに手当てをしましょう!ルーチェ!手伝える?」

「えぇ」


怪我人を見るや否やミネルバはすぐにルーチェと手当ての準備を始める。そんな二人を気にすることなくエルデは怪我人の男に大きな声で尋ねた。


「おい!喋れるか?何があったんだ!?説明しろ!」

「う・・・ひ、昼過ぎのことだ・・・船工房に・・・国のお偉いさんが・・・やってきて・・・工房長と・・・会ったのを・・・見た。」


男はかすり声でエルデに船工房爆発までの状況を語った。


国のお偉いさん・・・恐らくは首相・・・アヌビスだろう。


「それで?どうなったんだ!!工房長は?」

「分から・・・ない。その後に俺が・・・煙草を吸おうと・・・外に・・・出たら・・・工房が爆発・・・して・・・瓦礫が・・・うっ・・・ううっ・・・」

「おい!!おい!!!」


男はそこまで語るとエルデの腕の中で力尽きてしまい沈黙してしまった。


「くそっ・・・くそおおおおおッ!!」


エルデは力尽きた男の頭を抱えたまま悔しさのこもった叫びを放つ。


「なんで・・・なんでこうなるんだよ!!!」

「エルデ・・・」


遂に涙を流し出したエルデに僕らは返す言葉を失い、ただ彼の背中を見届けるしかなかった。


でも、一つ気になる事がある。


それは何故、エルデが船工房の話になった途端・・・こんなに必死になったのか?工房長が危険に晒されたと聞いて僕らを置いてまで焦ったのか?


「エルデ君。落ち着いたかしら?」


息絶えた船大工の半身をそっと地面に置いたエルデにルーチェがそう声を掛けた。


「・・・こんなんで落ち着いているように見えんのかよ?」


エルデはキッとルーチェを睨みつけると同時に悔しさを滲ませた表情を浮かべる。


「ごめんなさい。でも、工房長・・・カークス氏が危険に晒されたと聞いた途端、貴方は私達を置いてまでここに来た。なにか理由がある・・・そう、カークス氏と切っても切れない縁が貴方にはある。だからこそ・・・」

「だったらなんなんだよ!助けようがどうしようが俺の勝手だろ!」


エルデは立ち上がるとルーチェに詰め寄り、彼女の胸ぐらを掴もうと手を挙げる。


「待ちなさい。それ以上の争いは私が許しませんよ。」

「チッ」


しかし、咄嗟にミネルバがエルデの手を掴むと彼はやり場のない怒りを渋々抑えながら手を降ろしながら俯いた。


「エルデ」


僕はゆっくりエルデの前に歩み寄ると彼に優しく・・・そして意を決して尋ねた。


「君は僕にとって”仲間”だ。だから・・・僕は君の事を知りたい。工房長と何があったのか?君と船工房にどんな関係があったのかを知りたい。尤も・・・君が船大工になったのも船を造ることが好きになったきっかけが・・・工房長なんじゃないの?」


その問いにエルデは俯いたまま目から光るものを一つ地面に落とすと無言で頷き、暫くしてから口を開いた。


「そうだ・・・俺が船工房になったのも・・・船造りの魅力を伝えてくれたのも全部・・・工房長と・・・ここのおかげなんだ。」


彼はそう言うと顔を上げて自分の過去を語り始め、僕らはそれを黙って聞くのだった。


◇◇◇


 今から約十八年前・・・俺、エルデは獣人が多く住む村に生まれた。だが十歳の頃、村付近の国々が戦争を起こし、両親や村人は他界。唯一の家族だった妹も何者かに攫われ、俺は独り身となった。


当時から獣人による偏見と差別は激しく、ただ戦争に巻き込まれた存在でありながら俺達獣人は逃げた先の村や街で同情どころか巻き込まれて当然と言わんばかりの迫害を受けた。


あまりもクソだった。なんで俺がこんな目に合わねぇといけねぇんだ!ってな。


それから三年、獣人ということを隠しながら俺は此処、オラルド王国のマルケイルに辿り着いた。だが既に俺の体力は消耗しきっており、寧ろよくここまで持ったと思えた程、衰弱していた。


「・・・はぁ・・・うっ・・・」


そして遂に、冬の寒い路地裏の地面に倒れた俺は遠のく意識の中、自分の死の瞬間を覚悟した。


俺もここで死ぬんだ・・・獣人という迫害を受け、誰からも助けられることなくここで・・・そう思った時だった。


「おい、小僧!大丈夫か!?一体どうした!?」


俺に声を掛けた奴がいた。強面で腕っぷしのいい男だった。それが俺の”恩人”・・・工房長ことカークスだったんだ。


「おいおい・・・何日食ってねぇんだお前!!おい!この小僧、ウチまで運ぶぞ!!」

「運ぶったって・・・工房長、そのガキ見てくだせぇよ。明らかに獣人の子供でしょ?」


同行していた船大工が弱った俺を見てそう言った。


当然だな・・・このカークスって奴もどうせ助けやしねぇ。


「馬鹿野郎!!テメェをそんな曲がった奴に育てた覚えはねぇぞ!!」

「・・・ッ!?す、すんません!!」

「獣人だろうが何だろうがガキに変わりねぇ!助ける、助けないに理由なんざ要らねぇんだよ!!」

「・・・ッ!?」


その言葉に俺は驚いた。同時に初めて獣人以外の人間に助けられた瞬間だった。


「兎に角運ぶぞ!おめぇは近くの店で食いモン買ってこい!まずはメシと風呂だ!!」

「は、はい!!」


罵声に近い声で部下の船大工に指示したカークスは俺を軽々抱きかかえると駆け出しながら俺に声を掛けた。


「くたばんなよ!!俺が助けてやるからな!!辛かったよなぁ・・・寒かったよなぁ・・・もう、大丈夫だからな!!」

「うっ・・・くうううっ」


カークスの言葉に涙が止まらなった。俺の為にこんなにしてくれる奴がいるなんて・・・ってな。


それから俺は船工房に運ばれ、数年ぶりの温かい風呂とメシを食った後・・・気を失ったらしい。そこからの記憶はなく、目が覚めたのは三日後のことだった・・・


「う・・・・」


パチパチと鳴り響く暖炉の付いた部屋で目を覚ました俺はふかふかのベッドから身体を起こして目を覚ます。


「俺・・・なんでベッドの上に居んだ?・・・あぁそうか・・・あのオッサンに助けてもらったんだっけか?」


意識を失う前の記憶を思い出すと今の自分の状況を確認する。


「何処だ・・・ここ。」


ベッドから出て裸足で石造りの部屋を見渡すと大きな書斎が視界に入った。


「うん?」


書斎の上にある何かを見つけて目を細めた俺はそこまで歩み寄る。


「なんだ・・・これ」


当時の俺には分からなかったが書斎の上には”とある船”の設計図があった。


俺は設計図を見て胸が高鳴った。言葉には表せない・・・設計図の細かな絵と使う材質、それをどれだけ使うのか?完成したら本当にこの図にある船になるのか?


ふと、近くに置いてある帆船の模型に目を向けて息を呑んだ。


「・・・造船に興味があるのか?」


不意に声を掛けられ俺は少し驚いた様子で目の前に立っているカークスを見る。


「全く、三日三晩も目を覚まさないでヒヤッとしたがその様子だと問題ねぇな。」

「あ・・・ご、ごめんなさい勝手に見て」

「あぁ、気にするな。それよりおめぇ、船に興味あるか?」

「・・・ちょっとは・・・でも俺には無理だよ・・・獣人だから」

「獣人だからなんだ?諦めるのか?」

「えっ?」


ムッとした表情をするカークスに俺はキョトンとする。


「やりもしないのに勝手に無理と決めつけて諦める・・・多くの人間がそうだ。俺はそれが嫌いだ。だから二度とやりもせずに”無理”と言うな。獣人だろうが何だろうが同じ”人”に変わりはねぇ。獣人でも人として胸を張って生きりゃいいのさ。それが当たり前だろう?」


その言葉に感銘を受けた俺はこくりと頷いた。


「小僧、メシも食って風呂も入って三日も寝た。そりゃいいが船に興味持ったんだ。ウチで雇ってやる。船大工・・・やるよな?」

「は・・・はい!」


俺は目を輝かせながら頷く。


「よし!いい返事だ。俺はカークス。今日から俺の事は工房長と呼べ。んで小僧、テメェの名前を言え。」

「・・・エルデです!」


これが・・・船造りを好きになった理由と恩人であるカークスとの出会いだ。


こうして俺はこの日から一流の船大工になる為に船工房で雇われることとなるのだった。

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