第43話:エール・ブランシュ号
現われたロワ帝国兵を見て、僕は冷や汗を流す。なんで帝国の兵士がここに!?何の目的で?しかも奴らが居るってことは・・・アイツも居るのか?僕の脳裏に浮かぶあの緋色の騎士・・・アレス。奴が今度は此処に来たのだろうか?
「おい!なんの騒ぎ・・・ッ!?なんだ!こいつらは!?」
騒ぎを聞きつけて船内から出てきたエルデはロワ帝国の軍勢を見て驚く。
「話は後だ!おい!テメェら!なんの目的でここに来やがった!?」
カイが得物である薙刀を構えながら帝国兵達を睨んだ途端・・・
「クククッ・・・それは私達の上官がその船をご所望だからですよ。」
「誰だ!」
帝国兵達の後ろからそんな声が聞こえてくると見覚えのある男が姿を現した。
「貴方はダイダニック号にいた・・・」
「あの船長さん!?」
男の姿を見たシルヴァとルーチェが驚く。声の主はダイダニック号にて船長を装ってルーカン卿を殺害したジョッキーだった。
「クククククククッ、覚えて頂き光栄ですねぇ~そうですよ。私、あれから大変でしたよ。まぁこうして生きて帰れただけ良しとしましょう。」
「待て、今この船をどうするって言った?」
エルデが船から飛び降りるとジョッキーに対してそう尋ねる。
「ですが貴方達がここにいたのは誤算でしたねぇ~」
「おい!無視するな!」
自身を無視するジョッキーに痺れを切らしたエルデが彼に近付こうとした時だった。
「ぐああああああっ!」
「ッ!?エルデ!」
突然、彼は兵士に殴られると僕達の足元まで突き飛ばされてしまった。
「お前達!何のつもりだ!」
エルデを殴り飛ばした帝国兵に憤りの言葉を上げるとジョッキーの口からとんでもない言葉が飛んでくる。
「当たり前ですよ。彼”獣人”でしょう?無視して何が悪いのです?」
「・・・は?」
それを聞いた途端、僕の何かが吹っ切れそうになった。
「我が上官。”アヌビス大佐”は”ヒューマン史上主義”を掲げている御方でねぇ!私もそれに倣っているのですよ。」
「アヌビス・・・大佐?首相じゃないのか?」
ジョッキーからでたアヌビスという名を聞いたエルデはそう言葉を漏らす。
「アヌビス・・・確か彼は6年前にオラルドの首相となった人物よね?まさか・・・!」
「あぁ、そのまさかだな・・・。」
カイとルーチェは何かを察して顔を顰める。そしてその勘は次のジョッキーの言葉により現実となった。
「その通り!オラルドの首相アヌビスは我々の上官・・・ロワ帝国諜報部部長アヌビス大佐その人なのですよ!最早オラルドは我々帝国のものといっても過言ではないのです!」
「ふざけんな!そんなクソみてぇなことがあって良い訳ねぇだろ!!」
「そう言われましても・・・事実を言ってるわけですよぉ?」
怒るカイに対しジョッキーは両手を上げて返答する。
「兎に角!ここにある船は我々ロワ帝国が引き取りますよ!」
「それで引き取らせるわけがないだろ!この船は・・・エルデのものだ!!」
僕はそう言って腰にあるエクスカリバーを構えると武装する帝国兵達と相対する。
「君達はその船の価値を分かっていないのですよ。その船・・・エール・ブランシュ号がなんなのかご存じですか?」
「何って・・・それは・・・」
「答えられないでしょう?クククククククッ!いいでしょう。私を退かせたその実力を見込んで特別に説明しましょう。」
不敵な笑みを浮かべたジョッキーはエール・ブランシュ号について説明する。
「エール・ブランシュ号はかのアーサー・セルカークが渡航の為に使用した帆船なのですよ。」
「アーサー・セルカーク?」
ジョッキーの放たれた初めて聞く人物の名に眉を寄せるとルーチェがその疑問に答えてくれた。
「アーサー・セルカークは二、三十年前に活躍していた冒険家にして・・・”世界初の騎士”と言われている人物よ。」
「世界初の・・・騎士!?」
「えぇ。後に”円卓の騎士団”という団体として活動し、二十年前に解散するまで騎士として活動していた・・・直後に病気でこの世を去ったけど。」
ルーチェから聞かされたアーサー・セルカークの活躍を聞いて息を呑む。世界初の・・・騎士。そんな人が乗っていた船がエール・ブランシュ号だなんて!
「そうです!その船はアーサー・セルカークが乗った船そのものなのですよ。」
「それと帝国に何の関係があるのよ?」
シルヴァはジョッキーにそう言って彼を睨んだ。
「エール・ブランシュ号は原初の騎士と呼べるアーサー・セルカークの産物・・・言わば後世に残すべき文化財なのです。それらは我々ロワ帝国が管理・運営をしなければならないのですよ。」
「つくづく意味が分からねぇな!テメェらにその権利はねぇだろ?」
「いずれロワ帝国は世界を支配する。当然のことでしょう?」
「その前にオレがてめぇらを地獄に送ってやるよッ!!」
怒りだしたカイは素早い動きで駆け出すとその勢いで薙刀を振り回しながら複数の帝国兵に突撃して吹き飛ばしていく。
「「うわああああああっ!」」
「相変わらずしぶといですね。貴方達!彼らを殺しなさい!特にあの獣人とエルフは念入りにね!」
「「はっ!」」
「エルデ!しっかり!」
「あ、あぁ・・・」
僕はエルデを起こすと帝国兵の数名が容赦なく剣を振り上げてくる。
「もらったああっ!」
「邪魔だッ!!」
すぐ様奴らに振り返ると手にしていたエクスカリバーを水平に空振りすると襲ってきた帝国兵達はその衝撃で次々と倒れた。
「そこっ!」
「はあっ!」
「「ぐわああああっ!」」
「なんだ!?こいつら・・・しかもあの魔法は・・・ぐわっ!?」
シルヴァとルーチェもまた各々の攻撃を繰り出すと帝国兵達をどんどん倒していくと気が付けばその数は半分近くまで減っていた。
「ジョッキー少佐!奴ら・・・想像以上に強いです!もう兵の半分近くが戦闘不能に!」
「流石はこの私を蹴散らした奴ら・・・物量の暴力も意味を成しませんか。」
「当たり前だ!テメェら如きに負けるかよカス!さあ、どうすんだ?テメェが相手になるかぁ?ダルマ野郎!」
不敵な笑みを浮かべたカイはジョッキーに薙刀の切っ先を向けて言った。
「・・・魔石の力をもってしても貴方達に勝てないのは明白。仕方ありませんね。”奴”を繰り出すとしますか。」
「奴?」
ジョッキーの言葉に眉を寄せると共に嫌な予感を感じ取る。・・・何をする気だ?アイツ。
「とっておきの・・・切り札ですよ!」
彼がそう言うと彼らの近くに魔法陣の様なものが浮かび上がって巨大な影が現れると地響きと共にエール・ブランシュ号とほぼ同じくらいの高さを誇った石の巨人が目を光らせながら僕らの前に立ちはだかる。・・・な、なんだよ!あれ!得体のしれない石の巨人に僕の体が静かに震えた。
「わわわっ!何よあれぇ!!」
「あれは・・・ゴーレム!?」
「ゴーレム?」
石の巨人・・・ゴーレムを見たルーチェに僕は恐る恐る彼女を見つめる。ゴーレムって確か帝国が使っているっていう兵器の一つだっけ?あれが・・・そうなのか?にしてもデカすぎる!それにこの威圧感・・・戦闘を好むカイですら冷や汗を流して距離を取っている。
「おや?先程までの威勢は何処に行ったのですかね?早く動かないとゴーレムの餌食になりますよ~さあ!ゴーレム!」
ジョッキーの声に呼応したゴーレムは大きな両腕を上げるとそのまま僕ら目掛けて振り落とした。
「きゃあああ!潰される!」
「くそっ!」
怯んだ僕らはそのまま潰されるのを覚悟した・・・その時だった。
「うおおおおおおおおおっ!」
突然、何者かが僕らの前に飛び出ると迫るゴーレムの左腕を拳で殴ってそのまま亀裂を入れながら崩壊させた。
「エルデ!?」
ゴーレムの左腕を破壊したエルデを見て僕らは唖然とする。凄い!あの巨大な腕を一撃で!?
「シエル!お前達は・・・ここから逃げろ!」
「に、逃げろって!?アンタを置いて逃げられる訳がないでしょ!?」
自ら殿を努めようとするエルデにシルヴァがそう返す。
「この船は・・・エール・ブランシュは俺が守る!守ってやりてぇんだ!」
「だったら僕達も戦うよ!」
「それは・・・できねぇ!」
加勢しようとする僕に彼は首を横に振って断る。
「なんで!僕達・・・仲間だろ!」
「だからこそだ!俺はお前達と・・・エール・ブランシュを守る為にここに残る!」
「そんな・・・」
こちらに背を向けてゴーレムと相対するエルデに僕は顔を顰める。そんな事出来ない!でも・・・
「なんだ・・・んな事かよ。」
「カイ?」
するとカイがエルデの隣に立って薙刀を構えた。
「おい!話を聞いていなかったのか?とっとと逃げろ!」
「帝国の連中から逃げるくらいならオレはここで死んだ方がマシだ!」
「なっ!?」
ニヤリと笑みを浮かべるカイにエルデは目を見開いて驚く。
「それに帝国のゴーレムとは一度戦ってみたかった・・・そういうことだ。」
「・・・お前。」
「悪いな。オレも帝国とは訳アリでね。アイツらには死んでもらわねぇと困るんだよッ!」
そう言い放ったカイは薙刀を勢いよく振り落として斬撃を飛ばすとゴーレムの胸部に直撃しする。攻撃を受けたゴーレムはそのまま後ろに下がって大きな体をよろめかせた。
「チッ・・・しぶといですねぇ~・・・貴方達!ゴーレムに続くのです!」
「「はっ!」」
痺れを切らしたジョッキーは残った兵士全員をけしかけて僕らを取り囲んだ。
「貴様らも・・・生きて帰れると思うな!」
「もう!しつこい!シエル!どうするの?」
「くっ」
じりじりと距離を縮めてくる帝国兵に思考を巡らせる。カイとエルデはゴーレムと戦っている。正直、この距離だとシルヴァの弓矢は対処が遅くなるしルーチェの魔法もシルヴァ達が巻き込まれる恐れがある。精霊の力も同じ理由だ。それに巨大すぎるあの力をここで使うと折角修繕したエール・ブランシュを壊す可能性もある。
・・・どうする?どうやってここを突破する?迫る帝国兵を前に必死に策を練っていた・・・次の瞬間。
「ホー!」
突如として頭上に綺麗な白い梟が現れるとそれは突然、まばゆい光を放った。
「うわっ!」
「な、なに!?眩しい!なによ!これ!」
「この光・・・あの梟・・・まさか!」
「うあああ!何事ですか!?」
何かを察したルーチェの声が聞こえたと同時に今度は近くでゴーレムが破壊される音が響き渡る。それは僕らだけでなく帝国側も同様だった。
「うわっ!んだよ!この光は!」
「分からない!・・・だがゴーレムが!」
直後にカイとエルデの声が聞こえた途端、何者かが綿の様な柔らかいものが僕達を包みと眩い光が消えて辺りは静寂に包まれた。
「う・・・な、なんだ?」
恐る恐る目を開けるとそこには先程までいたはずのジョッキーら帝国軍の姿がなく見慣れた平穏なドックの景色が広がっていた。気が付くと僕を包んでいたと思われるものも無くなっておりただ静寂と夕闇の光がその場を支配していた。
何が・・・起こったんだ?帝国は?ゴーレムは何処に行ったんだ?
「シエル・・・うぅ」
「シルヴァ!」
ふと声が聞こえ振り返るとそこには目を抑えながら座っているシルヴァの姿があった。彼女だけでなくカイ、ルーチェ、エルデもまたその場から立ち上がって無事を知らせた。
「皆!無事だったんだ!良かった!」
「気分は最悪だがな。」
カイはそう言いながら手にしている薙刀を杖代わりにする。
「・・・それよりあの光はなんだったんだ?」
エルデが先ほどの出来事に少し動揺した表情を見せた時だった。
「それは私の仕業でしょう。」
ふと女性の声が耳に入り、僕達は一斉にドックの入り口へ顔を向ける。そこに立っていたのは全身白い鎧とまるで綿の様にもこもことしたマント。牡羊座を模した顔の見えない甲。両手には白い槍と丸い盾を持ち、肩には先程眩い光を放ったあの白い梟を乗せた女騎士の姿だった。
「あの・・・貴女は?」
「えぇ、申し遅れましたね。」
白の騎士はそう言うと兜を脱いで金髪のセミロングの髪と美しい顔立ちを露にする。
「私は十二神騎の一人アテナ、本名はミネルバといいます。以後、お見知りおきを。」




