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Chevalier『シュバリエ』〜約束の騎士達の物語〜  作者: JACK・OH・WANTAN
第六章:疾風の獣
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第43話:エール・ブランシュ号

現われた赤服の兵士・・・ロワ帝国兵を見て戦慄が走る。


なんで帝国の兵士がここに!?何の目的で?しかも奴らが居るってことは・・・アイツも居るのか?


ふと、僕の脳裏にアイルで出会った緋色の騎士・・・アレスの姿が浮かぶ。


「おい!なんの騒ぎ・・・ッ!?なんだ!こいつらは!!」


騒ぎを聞きつけて船内から出てきたエルデはロワ帝国の軍勢を見て驚く。


「話は後だ!テメェら!なんの目的でここに来やがった!?」


カイが帝国兵達を睨みながら得物である薙刀を構えた途端・・・何処からか声が聞こえてくる。


「クククッ・・・それは私達の上官がその船をご所望だからですよ。」

「誰だ!」


帝国兵の群れから声が聞こえ、身構えると彼らの中から見覚えのある男が現れた。


「貴方はダイダニック号にいた・・・」

「あの船長さん!?」


男の姿を見たシルヴァとルーチェが驚く。僕達の前に現れた声の主はダイダニック号で船長を装ってルーカン卿を殺害したジョッキーだった。


「クククククククッ、覚えて頂き光栄ですねぇ~そうですよ。私、あれから大変でしたよ。まぁ、こうして生きて帰れただけ良しとしましょう。」

「待て、今この船をどうするって言った?」


エルデが船から飛び降りるとジョッキーに対してそう尋ねる。


「ですが貴方達がここにいたのは誤算でしたねぇ~」

「おい!無視するな!」


自身を無視するジョッキーに痺れを切らしたエルデが彼に近付こうとした時だった。


「ぐああああああああっ!」

「ッ!?エルデ!」


突然、彼は控えの兵士に殴られ僕らの足元まで吹き飛んでしまう。


「お前達・・・何のつもりだ!」


エルデを殴り飛ばした帝国兵に憤りの言葉を上げるとジョッキーの口からとんでもない言葉が飛んでくる。


「当たり前ですよ。彼”獣人”でしょう?獣人を無視して何が悪いのです?」

「・・・は?」


それを聞いた途端、僕の何かが吹っ切れそうになった。


「我が上官、”アヌビス大佐”は”ヒューマン史上主義”を掲げている御方でねぇ!私もそれに倣っているのですよ。」

「アヌビス・・・大佐?首相じゃないのか?」


ジョッキーからでたアヌビスという名を聞いたエルデはそう言葉を漏らす。


「アヌビス・・・確か彼は六年前にオラルドの首相となった人物よね?まさか・・・」

「あぁ、そのまさかだ・・・」


カイとルーチェは何かを察して顔を顰める。僕もまた眉間に皴を寄せて二人と同じく最悪の答えが出てしまう。そしてそれは次のジョッキーの言葉により現実となった。


「その通り!オラルドの首相アヌビスは我々の上官・・・ロワ帝国諜報部部長アヌビス大佐その人なのですよ!最早オラルドは我々帝国のものといっても過言ではないのです!」

「ふざけんな!そんなバカみてぇなことがあって良い訳ねぇだろ!!」

「そう言われましても・・・事実を言ってるわけですよぉ?」


怒るカイに対しジョッキーは両手を上げて返答する。


「兎に角、ここにある船は我々ロワ帝国が引き取りますよ!」

「それで引き取らせるわけがないだろう!この船は・・・エルデのものだ!!」


僕はそう言って腰にあるエクスカリバーを構えると帝国兵達と相対する。


「君達はその船の価値を分かっていないのですよ。その船、エール・ブランシュ号がなんなのかご存じですか?」

「何って・・・それは・・・」

「答えられないでしょう?クククククククッ、いいでしょう。私を退かせたその実力を見込んで特別に説明しましょう。」


不敵な笑みを浮かべたジョッキーはエール・ブランシュ号について説明する。


「エール・ブランシュ号はかのアーサー・セルカークが渡航の為に使用した帆船なのですよ。」

「アーサー・セルカーク?」


ジョッキーの放った人物の名に僕は眉を寄せるとルーチェがその疑問に答えてくれた。


「アーサー・セルカークは二、三十年前に活躍していた冒険家にして・・・”世界初の騎士シュバリエ”と言われている人物よ。」

「世界初の・・・騎士!?」

「えぇ、後に”円卓の騎士団”という団体として活動し、二十年前に解散するまで騎士として活動していたそうよ。その直後に彼は病気でこの世を去ったそうね。」


ルーチェから聞かされたアーサー・セルカークの活躍を聞いて僕は息を呑む。


世界初の・・・騎士。そんな人が乗っていた船がここにあったなんて。


「そうです!その船はアーサー・セルカークが乗った船そのものなのですよ。」

「それと帝国に何の関係があるのよ!」


シルヴァはジョッキーを睨んでそう返す。


「エール・ブランシュ号は原初の騎士と呼べるアーサー・セルカークの産物・・・言わば後世に残すべき文化財なのです。それらは我々ロワ帝国が管理・運営をしなければならないのですよ。」

「つくづく意味が分からねぇな!テメェらにその権利はねぇだろ?」

「いずれロワ帝国は世界を支配する。当然のことでしょう?」

「その前に・・・オレがてめぇらを地獄に送ってやるよッ!!」


怒りだしたカイは素早い動きで地面を蹴るとその勢いで薙刀を振り回しながら複数の帝国兵を吹き飛ばす。


「「うわああああああっ!」」

「チッ、相変わらずしぶといですね。貴方達!彼らを殺しなさい!特にあの獣人とエルフは念入りにね!」

「「はっ!」」

「エルデ!しっかり!」

「あ、あぁ・・・」


僕はエルデを起こすと帝国兵の数名が剣を振り上げてくる。


「もらったああっ!」

「邪魔だッ!!」


すぐ様奴らに振り返ると手にしていたエクスカリバーを横殴りに振り、キーンという音を響かせる。


「「ぎゃああああああああっ!」」


僕に斬られた数人の帝国兵達は仰け反って気絶するとあっという間に戦闘不能になってその場に倒れる。


「そこっ!」

「はあっ!」

「「ぐわああああっ!」」

「なんだ!?こいつら・・・しかもあの魔法は・・・ぐわっ!」


シルヴァとルーチェもまた各々の攻撃を繰り出すと次々と帝国兵達を翻弄して倒していく。


「オラオラオラオラッ!!」

「「うわああああああっ!」」


カイもまた薙刀を巧みに扱って帝国兵達を蹴散らすと気が付けばその数は半分近くまで減っていた。


「ジョッキー少佐!奴ら・・・想像以上に強いです!もう兵の半分近くが戦闘不能に・・・」

「チッ、流石はこの私を蹴散らした奴ら・・・物量の暴力も意味を成しませんか。」

「当たり前だ。テメェらに負けるかよ。さあ、どうすんだ?テメェが相手になるかぁ?ダルマ野郎!」


不敵な笑みを浮かべたカイはジョッキーに薙刀の切っ先を向ける。


「・・・魔石の力をもってしても貴方達に勝てないのは明白。仕方ありませんね。”奴”を繰り出すとしますか。」

「奴?」


ジョッキーの言葉に眉を寄せると共に嫌な予感を感じ取る。


・・・何をする気だ?アイツ。


「とっておきの・・・切り札ですよ。」


ジョッキーがそう言うと彼らの近くに魔法陣の様なものが浮かび上がり、巨大な影がその中から現れる。


ドーンという地響きと共にエール・ブランシュ号とほぼ同じくらいの高さを誇った石の巨人が目を光らせながら僕らの前に立ちはだかった。


な、なんだよ!?・・・あれ。


見たこともない石の巨人を前に僕は静かに震える。


「わわわっ!何よあれぇ!!」

「あれは・・・ゴーレム!?」

「ゴーレム?」


石の巨人・・・ゴーレムを見たルーチェに僕は恐る恐る彼女を見つめる。


「シエル、前にも少し話したと思うが奴らはゴーレムとドラゴンを兵器として持っている連中だ。オレも見るのは初めてだがな・・・」


カイは僕にそう言いながら冷や汗を流し、ゴーレムと距離をとりだす。


「おや?先程までの威勢は何処に行ったのですかね?早く動かないとゴーレムの餌食になりますよ~さあ、ゴーレム!」


ジョッキーの声に呼応したゴーレムは石でできた大きな両腕を上げるとそのまま僕ら目掛けて振り落としてくる。


「きゃあああ!潰される!」

「くそっ!」


ゴーレムに圧倒され、怯んだ僕らはそのまま潰されるのを覚悟した時だった。


「うおおおおおおおおおっ!」


突然、何者かが僕らの前に飛び出て迫るゴーレムの左腕を拳で殴りつけ、そのまま亀裂を入れながら崩壊させた。


「エルデ!?」


ゴーレムの左腕を破壊したエルデを見て僕らは唖然とする。


「シエル!お前達は・・・ここから逃げろ!」

「に、逃げろって!?アンタを置いて逃げられる訳がないでしょ!?」


自ら殿を努めようとするエルデにシルヴァがそう返す。


「この船は・・・エール・ブランシュは俺が守る!守ってやりてぇんだ!」

「だったら僕達も戦うよ!」

「それは・・・できねぇ!」

「なんで!僕達・・・仲間だろ!」

「だからこそだ!俺はお前達と・・・エール・ブランシュを守る為にここに残る!」

「そんな・・・」


こちらに背を向けてゴーレムと相対するエルデに僕は顔を顰める。


「なんだ・・・んな事かよ。」

「カイ?」


するとカイがエルデの隣に立ち、薙刀を構えた。


「おい!話を聞いていなかったのか?とっとと逃げろ!」

「帝国の連中から逃げるくらいならオレはここで死んだ方がマシだ!」

「なっ!?」


ニヤリと笑みを浮かべるカイにエルデは目を見開いた。


「それに帝国のゴーレムとは一度戦ってみたかった。・・・そういうことだ。」

「・・・お前。」

「悪いな。オレも帝国とは訳アリでね。アイツらには死んでもらわねぇと困るんだよッ!」


そう言い放ったカイは薙刀を勢いよく振り落として斬撃を放つとゴーレムの胸部に直撃し、ゴーレムは後ろに下がりながら大きな体をよろめかせた。


「チッ・・・しぶといですねぇ~・・・貴方達!ゴーレムに続くのです!」

「「はっ!」」


痺れを切らしたジョッキーは残った兵達全員をけしかけてカイとエルデ、僕らを取り囲んだ。


「貴様らも・・・生きて帰れると思うな!」

「もう!しつこい!シエル!どうするの?」

「くっ」


じりじりと距離を縮めてくる帝国兵に僕は思考を巡らせる。


カイとエルデはゴーレムと戦っている。正直、この距離だとシルヴァの弓矢は対処が遅くなるしルーチェの魔法もシルヴァ達が巻き込まれる恐れがある。精霊の力も同じ理由だしなにより巨大すぎるあの力をここで使うと折角修繕したエール・ブランシュを壊す可能性もある。


・・・どうする?どうやってここを突破する?


迫る帝国兵を前に必死に策を練っていた・・・次の瞬間。


「ホー!」


突如として僕らの頭上に綺麗な白い梟が現れるとそれはまばゆい光を放ってきた。


「うわっ!」

「な、なに!?眩しい!なによ!これ!」

「この光・・・あの梟・・・まさか!」

「うあああ!何事ですか!?」


何かを察したルーチェの声が聞こえたと同時に今度は近くでゴーレムが破壊される音が響き渡った。それは僕らだけでなく帝国側も同様だった。


「うわっ!んだよ!この光は!」

「分からない!・・・だがゴーレムが!」


直後にカイとエルデの声が聞こえた途端、何者かが綿の様な柔らかいもので僕を包み込まれると暫くしてから眩い光が消え、辺りは静寂に包まれた。


「う・・・な、なんだ?」


暫くしてから恐る恐る目を開けるとそこには先程までいたはずのジョッキーら帝国軍とゴーレムの姿がなく見慣れた平穏なドッグの景色が広がっていた。気が付くと僕を包んでいたと思われるものも無くなっておりただ静寂と夕闇の光がその場を支配していた。


何が・・・起こったんだ?帝国は?ゴーレムは何処に行ったんだ?


「シエル・・・うぅ」

「シルヴァ!」


ふとシルヴァの声が聞こえ振り返るとそこには目を抑えながら立ち上がる彼女の姿があった。


無論、彼女だけでなくカイ、ルーチェ、エルデもまたその場から立ち上がって無事を知らせた。


「皆!無事だったんだ!良かった!」

「気分は最悪だがな。」


カイはそう言いながら立ち上がり手にしている薙刀を杖代わりにして立つ。


「・・・それよりあの光はなんだったんだ?」


エルデが先ほどの出来事に少し動揺した表情を見せた時だった。


「それは私の仕業でしょう。」


ふと、女性の声が耳に入り、僕達は声のした方へ顔を向ける。


そこに立っていたのは全身白い鎧とまるで綿の様にもこもことしたマント、牡羊座を模した顔の見えない甲、両手には白い槍と丸い盾を持ち、肩には先程眩い光を放ったあの白い梟を止まらせた女騎士の姿だった。


「あの・・・貴女は?」

「えぇ、申し遅れましたね。」


白の騎士はそう言うと甲を脱いで金髪のセミロングの髪と美しい顔立ちを露にして僕らに自己紹介した。


「私は十二神騎の一人アテナ、本名はミネルバといいます。以後、お見知りおきを・・・。」

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