第42話:迫る危機
「どうぞ・・・。」
シエル一行とエルデがエール・ブランシュ号の修繕作業を行っている中、船工房の会議室では恰幅のいい壮年の男が貴族服を着こなす政府高官の男とそのボディーガードと思しき男女二人を迎え入れていた。
「それで・・・今回はどのような用件で来られたのです?」
恰幅のいい男はソファに腰掛けると向かい側に座った彼に来訪目的を尋ねる。
「私が来たことに驚いていらっしゃるでしょう?世界に誇る船工房の工房長である貴方の前にオラルドの首相である私が居るのですからねぇ?そうでしょう?カークス工房長。」
自信を首相と名乗った男はそう言うと細い眼でカークスと呼んだ恰幅のいい男を見つめて微笑む。
「・・・政府のお偉いさんが来ようが国王が来ようが俺の態度は変わらないつもりです。それよりも早く用件を言ってくれませんか?こう見えて軍艦造りに急がしくてね。」
「では・・・早く用件を申し上げましょうか。」
オラルド首相は早速とばかりに用件を答えた。
「”原初の騎士”と言われている”アーサー・セルカーク”の乗船が船工房にあると伺ったのですが本当でしょうか?」
「・・・ッ!?」
それを聞いたカークスは先程までとは打って変わり動揺しはじめる。
「な・・・何故それを政府関係者の貴様が知っている!?」
「おや?政府の人間が歴史的なものに興味がないと思っていたのですかな?」
オラルド首相は勝ち誇ったの様に口角をどんどん上げていく。
「・・・し、知らん!そんな代物はうちにはない!」
「ほう?何かを知っていそうな素振りですが・・・いいのですかな?」
男がそう言った途端、彼の傍に控えていた男女が得物を構えてカークスの首元に突きつけた。
「貴様!まさかそれが狙いでここに来たのか?首相!いや・・・アヌビス!」
カークスは眉間に皺を寄せながらオラルド首相ことアヌビスを睨んだ。
「クククククククッ・・・このまま私と来てもらおうか?さもないと船工房の従業員もただでは済まないぞ?」
「俺を捕まえてどうする?アーサー・セルカークの船はここには無いぞ!」
「えぇ、それも想定内の言葉です。あそこにあるんでしょう?こことは反対側の・・・廃工房に?」
「ッ!?」
不敵な笑みを浮かべたアヌビスの言葉にカークスの顔が青くなった。
「・・・まさか・・・貴様!」
「既に兵を派遣しておいた。私の・・・いえ、”我が軍”のとっておきの兵をねぇ!クククククククッ!」
「・・・!貴様ッ!!」
高らかに笑うアヌビスに激昂したカークスは自身に刃を向けていた男女を退かせると怒りに任せて彼に殴りかかるのだった。
◇◇◇
エルデと交流し始めてから二日程経つと彼はあれから僕だけには心を開くようになって次第にシルヴァやカイとも多少のコミュニケーションがとれるようになっていた。
その甲斐もあってかエール・ブランシュ号の修繕も順調に進んでいき、気が付けば船の外装の修繕はほぼ終わりと言っても過言ではない段階まで終わっていた。
「コイツをはめて・・・っと!」
「すごーい!!船がキレイになったよ!」
「あぁ、あんなに苔やカビで汚かった船とは思えねぇな!」
真新しい木材で修繕されたエール・ブランシュ号を見てシルヴァとカイは笑みを浮かべる。
「後は外装を水に強いペンキで塗装して防腐剤を塗れば完成だ。・・・だが、後は船の内装がある。」
「そうね、幾ら船の外装が綺麗でも船の内装・・・居住区も綺麗にしないといけないわね。」
エルデの言葉にルーチェは深く頷いた。内装か・・・確かに航海するにあたって最低限の生活は出来ないといけないよね。
「エルデ。僕らはどうしたらいい?」
「シエル達は家具を造ってくれないか?」
「家具?それが必要なの?」
僕の問いにエルデは静かに頷いた。
「そうだ。ルーチェも言っていたが船の内部は居住区・・・即ち家みたいなものだ。その為には家具も必要になってくる。」
「そっか!家具がないと色々不便だもんね。」
「俺は一人で船の内部の木材をばらす作業をする。後からお前達も呼ぶからその間に家具を造ってくれ。」
エルデの指示を聞いて僕は拳を握って答える。
「任せてよ!」
「あぁ、頼んだぞ!」
彼は優しく微笑むとそのまま船に乗り込んで船室へと入っていく。するとシルヴァがニコニコしながら僕達に言った。
「ねぇねぇ!エルデってさ最初に会った時よりもなんか態度が優しくなったよね?」
「そこに関しては何処かのお人よしに感謝しないとな。」
「それって僕の事?」
少し呆れた様子でこちらを見るカイに僕はそう返す。
「テメェ以外に誰が居るんだよ。」
「だったら感謝してよ?カイなんかエルデと喧嘩になってたし。」
「今でも喧嘩してるわよ。」
シルヴァはジトっとした目でカイを見た。
「ケッ、アイツが強ェ癖に相手になんねぇからだ。」
「エルデと手合わせしたの?」
「あぁ、うっぷん晴らしに付き合ってくれてな・・・強かったぜェ・・・アイツ。」
ニヤリと笑みを浮かべながら彼の言葉に僕はエルデの居る船内を見つめた。造船だけじゃなくて戦闘の腕も良いのか。まぁ、確かにエール・ブランシュ号を賊に荒らされる危険があるし船を守る力は持ってないといけないよね。
「でもエルデが獣人って聞いたときはビックリしたわ。」
「獣人だから強ぇって訳じゃねぇがアイツが何だろうと俺は奴の強さを認める。」
「うふふっ、二人共仲良くなった上に興味まで持ってるわね。これならエルデを仲間にしてもいいんじゃないかしら?」
「仲間か・・・」
ルーチェの提案に僕は深く考える。確かにエール・ブランシュ号を直した後、彼がどうするのかをまだ聞いていない。僕としては彼を仲間として認めてはいるし船に対して知識がある船大工を仲間にするのもありだろう。
でも、勧誘したら彼は付いてきてくれるのだろうか?まだ彼はこう思っているかもしれない。自分が獣人であり、それで僕らに迷惑をかけるのではないか?そんな些細なことを思っているかもしれない。
・・・今、考えるのは無粋だろう。
「兎に角、僕らは家具を造ろうか?エルデからマニュアルをもらったしこれ通りに造っていこう。」
「オッケー!じゃあアタシ、ソファ造るね。」
「オレは棚を造ろう。さっき造り方をかじったからな。」
「じゃあ私は机と椅子を造るわ。」
「分かったじゃあ僕は・・・」
各々何を造るか決め、僕も残ったマニュアルに手を伸ばした時だった。突然、大勢の足音が聞こえたかと思うとドックの中に見覚えのある服装の兵士達が僕らと船を取り囲んだ。
「キャッ!何?」
「アイツらは・・・帝国!?何処に伏せていやがった!?」
「分からない!でも奴らが出てきたってことは!」
兵士達を見て、皆に緊張が走る。僕らの前に現れた兵士達・・・それはアイルを侵略せんと目論んでいたロワ帝国だった。




