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Chevalier『シュバリエ』〜約束の騎士達の物語〜  作者: JACK・OH・WANTAN
第六章:疾風の獣
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第41話:孤高の獣人 エルデ

 成り行きで白翼の装飾を持つ船を修繕する青年エルデの手助けをすることにした僕らは翌日・・・早速、街で取り寄せた作業着に着替えると彼のいる廃港へ向かった。


「驚いた。本当に来るなんてな・・・。」


口実通りにやってきた僕らを見てエルデは驚きながらも少し関心した表情を見せる。


「コイツはやると言ったらそれを曲げねぇ男だ。兎に角、手伝ってやるよ。」


青い作業着に身を包んだカイはそう言って白い作業着を着た僕を親指で差す。


「そういえばルーチェはどこ行ったの?」


ふと、辺りを見渡しながら緑色の作業着に身を包んだシルヴァがそう尋ねてくる。


「少し寄り道をしてから来るって言ってたな。」

「チッ、一丁前のこと言っておきながら遅刻とはな。」

「そんな言い方ないでしょ!カイ。」

「ケッ」


ルーチェに文句を言うカイにシルヴァが怒る。


また喧嘩になるのかよ・・・そう思いながら二人を仲裁しようとした時だった。


「待たせたわね。皆」


ルーチェの声が聞こえ、僕らはこの場にやって来た彼女を見た途端・・・僕はその姿に目を見開く。


紫の作業着を身に纏ったルーチェはいつものセミロングではなく動きやすさを重視したポニーテールへ髪形を変え、上は肩と腕が露出した格好をしており手には先程買って来たであろう茶菓子と紅茶を持っていた。


何だろうルーチェのこの格好・・・いつもと違う格好のせいか凄くドキドキするな。


「シーエール?なんでルーチェをじろっと見てるのよ?」

「ええっ!?いや、そんなことないよ!」


ふとジトっとした目を向けてくるシルヴァに慌ててそう返した。


「やっと来たかと思えば。なんだ?菓子なんか持ってきてよ。」

「あら、お節介だったかしら?」

「全然!お節介じゃないよありがとうルーチェ。」


お茶菓子を用意してきたルーチェにシルヴァは礼を言う。


「どっちでもいい。これ以上は時間の無駄だから早くしろ。」

「うん、宜しくね。エルデ」

「フッ・・・手伝うのは好きにしろ。だが俺の指示は聞いてもらう。」

「分かった。」


エルデに頷き、全員集まった僕らは彼の指示のもと作業を開始するのだった。


◇◇◇


「その木材は船体の取り付けに使う。そこに置いておけ。」

「分かった。ここでいい?」

「あぁ、続けて舵輪の取り付けとメインマストの組み立てをやってくれ。取り付けは俺がやるから組み立てをやってくれ。」

「うん!」


エルデの指示に頷き、僕は汗をぬぐいながら言われた通りに動く。


「おい、そこの青い奴。その木材は反対だ。あと、その持ち方だと加工した部品が壊れる。」

「いちいち細けぇんだよクソが!!あとオレの名前はカイだ!」

「お前の名前を覚える気はねぇ。言われた通りにしろ戦争屋。」

「テメェ!!」

「カイ!言う事を聞いて。」

「チッ」


エルデに怒るカイを宥めた僕は大人しくなった彼を見て溜息を吐く。


・・・巻き込んでしまったのは申し訳ないけど怒らないで欲しいな。


「おい、エルフの女。それは室内に使う木材だ。」

「いいじゃない!これ重いのよ!あとアタシの名前はシルヴァよ。」

「だから覚える気はないと言っただろ。いいから言われた通りに動け。」

「ムキーッ!何よアンタ!」

「シルヴァちゃん。落ち着いて。」


今度はシルヴァが癇癪を起こすもルーチェがフォローを入れる。どうやらエルデと打ち解けるのはまだ難しそうだ。


そう思いながらも気を取り直して僕らはエルデの指示の下、船の修繕を行っていく。気が付くと陽の光は空の真上辺りまで昇っており、キリがいいところで休憩をとることにした。


「はむっ・・・うーん!ルーチェの買ってきたお菓子、紅茶と合うね!」

「うふふっ。シルヴァちゃんの口に合って良かったわ。」


船の傍で腰掛けながら茶菓子を口にしてにっこりするシルヴァにルーテェは嬉しそうに笑う。僕もまたそんな光景を目にしながら紅茶を嗜む。


「あれ?そういえばエルデは?」


ふと、エルデが居ないことに気付き、辺りを見渡す。


「アイツか?なんかあの船の甲板に上がって一人でいんぞ。」


カイが船の甲板を顎で指しながらそう言うとそちらに顔を向け、考えるよりも先に甲板へ続く梯子に手をかけた。


「あっ!シエル!どこ行くのよ!」

「ちょっとね。皆はここに居てよ」

「なんなのよ~」

「放っておけ、またアイツの趣味だ。」


シルヴァとカイの言葉を他所に僕はまだ古い船の上に立ち、甲板まで歩いていくとそこには隅に座って青い空と海を静かに見つめるエルデの姿があった。


「こんなところに居たんだ。皆と一緒に居ないのか?」

「・・・一緒にいて何になるんだ?俺はお前達と一緒にいる意味なんてない。」

「意味はあると思うよ?」

「何故そう言い切れる?お前に俺の何が分かんだ?」


エルデはそう言って僕を睨む。しかし、彼のその目は何処か寂しさがあるようだった。


「君の事は分からないよ。でも、こうしている内は”仲間”だよ。」

「・・・意味が分からねぇな。なんでそれだけで仲間と言える?」

「言えるよ。僕はそう思ってるから。」

「じゃあ・・・俺が”獣人”だと言ってもか?」

「獣人?」


エルデの放った種族の名前に僕は眉を寄せる。


獣人・・・それは月の光や感情が高ぶると獣に変身する種族のことである。獣化すると獣の力と同時に肉体が強化されるが自我を失い、敵味方問わず暴れてしまうらしい。そのような特性があったことから獣人は昔から迫害と差別の対象になっており、今では滅多に見ない種族となっている。


僕も獣人と出会ったのはエルデが初めてだ。


「獣人は迫害と差別の対象だ。俺も昔は肩身の狭い暮らしをしてきた。・・・そんな時に見つけたのがこの船、エール・ブランシュ号だ。」


エルデはそう言って白翼の帆船・・・エール・ブランシュ号の甲板の床を撫でる。この船・・・文字通り”白翼”って船名だったのか。


「俺は素性を隠しながら船工房で造船技術を学び、ここで静かに暮らしながらエール・ブランシュ号を独りで再建してきた。いつかコイツをまた海に連れ出すのが俺の夢なんだ。でもそんな夢を誰かに行ったところで馬鹿にされるだけだ。・・・獣人にそんなことが出来るのかってな。お前もお前の仲間もどうせそうなんだろ?俺が獣人だと言えば・・・どうせ獣人だから・・・と」

「獣人だから・・・何なの?」

「・・・は?」


キョトンとするエルデに僕は微笑むと彼の隣に座り込んだ。


「そんなこと・・・些細なことじゃない?獣人だからってそんな事、僕はこれっぽっちも思わないよ。」

「お前、俺が怖くないのか?俺は急に獣になる種族だぞ?」

「その時は僕が君を止めるよ。そもそも獣人だから、エルフだからとか僕から言わせれば関係ないよ。」

「お前・・・」


唖然とするエルデに構わず僕は自分の思っていることを告げる。


「この世界には色んな人が居るよ。肌の色、耳の長さ、更には言葉や種族が違う人もいる。でも、皆同じ等しく”人”なんだ。生まれつき落ちこぼれだって、肌の色が違ったって、何かしら障がいを持っていたっていい。皆”人”として生まれてきたんだ。それ以上もそれ以下も無い・・・僕はそう思うよ。」


そう言うとエルデに顔を向けて笑みを浮かべる。


「だから獣人だとか獣になって周りを襲うことなんて気にしないでよ。もし、心配なら僕がその時は君を止める。そう言ってくる人が居るなら僕はソイツを懲らしめるよ。」

「おい待て・・・そこまでする義理はお前にないだろ?」

「あるよ。だって君はもう”仲間”だから。」

「・・・ッ!?」


僕の言葉にエルデは目を見開いて驚くと何処か嬉しさと呆れが混じった笑みを浮かべた。


「フッ・・・お前、面白い奴だな。初めてだよ。他人に対してそう思ったのは。じゃあ、手伝ってもらうぞ。この船・・・エール・ブランシュを一緒に直す。約束だぞ。」

「うん!勿論だよ。」


僕とエルデは互いに笑みを浮かべると固い握手を交わし、結束を深めていく。


白翼の船、エール・ブランシュ号の修繕はまだ始まったばかりである。



皆さんこんにちは作者のJACK・OH・WANTANです。今回の話如何でしたでしょうか?こうして作者がコメントすることはほぼないのですが今更ながら今回の章のテーマ的なものをお伝えします。


それは”差別”や”偏見”といったものです。


近年でも人種差別や障がい者の差別に関しての事件等は後を絶ちません。シエルが作中で言っているように肌の色や障がい、言語が違っていたとしても皆、等しく人であることを忘れてはならない。そういう想いがあり今回、このようなシナリオ展開とさせて頂きました。


勿論、誰かと違っていたり皆と劣ることもあるでしょう。後者に関しては作者もその一人だと思っております。


そんな人が身近にいても寛大に受け入れる姿勢が大切なのではないでしょうか?


かなりタイムリーな話題且つ触れると色々問題になりそうな内容ですが今回、意を決してコメント致しました。


最後になりますが日本でも差別は勿論、上記の様な理由でいじめも起こっています。少しでもそれが無くなることを祈るばかりです。


今後とも当作品をよろしくお願いいたします。


JACK・OH・WANTAN


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