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Chevalier『シュバリエ』〜約束の騎士達の物語〜  作者: JACK・OH・WANTAN
第六章:疾風の獣
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第39話:造船の街

前回までのあらすじ

ローロッパ大陸初上陸と共に”騎士達の楽園”と呼ばれる街、アルステルへ辿り着いたシエル一行は街を散策している中、師匠であるオーディンが十二神騎総長ゼウスと剣を交えたことを知り、助けに行こうとするもカイ、ルーチェの説得により、今は自分の冒険と街の散策を優先することを決意する。


そんな中、街中で未来視の天騎士ウィルダーと隔たり無き医師団団長オーガイ、ローゼ騎士団団長ローゼと邂逅したシエル一行はオーガイとローゼの争いを止めようとするもシエルが聖剣の使い手と知り、いつしか彼と聖剣を巡った争いに勃発していく。


カイの活躍によりローゼ騎士団を沈黙させたもののシエル一行の殲滅に目的を変更したオーガイらと戦うことになる。


しかし、それを狙っていたかのようにシエルそっくりの謎多き魔剣の使い手ノアール率いる黒曜騎士団の襲撃によりシエル以外のメンバーは倒されてしまう。


満身創痍となり、ノアールにとどめを刺されようとしたその時、シエルは無意識に謎の青白い光”騎士王の威光”を発動し黒曜騎士団を撤退に追い込み事なきを得る。


それから三日ほど意識を失っていたシエルは隔たり無き医師団によって治療され回復するとノアール達から皆を救えなかったことを悔いるもここまで付いてきてきた仲間・・・シルヴァ、カイ、ルーチェに励まされ自信を取り戻すと同時に結束を更に深めていった。


治療を終え、回復したシエル一行はウィルダーからの助言をもらって次なる目的地を船工房のあるマルケイルへ定めるとウィルダー、オーガイと別れ、旅を再開する。


一方、一時剣を交えて事を終わらせていたオーディン率いるラグナロク騎士団とゼウス率いる十二神騎は不穏な”何か”の気配を感じ取ると共にそれぞれ違った思惑で動き始めるのだった。

 快晴の空が広がる山道・・・険しくも緩やかでもないこの道を歩いていると僕は後ろに振り返って声を掛けた。


「あと少しでマルケイルに着くよ。」

「結構歩いたわね・・・途中に村とかなかったら大変だったかも。」


シルヴァはそう言ってこれまで歩いてきた道を振り返る。


「ケッ、村が無かったら野宿すりゃいいだろうが。」

「あら、カイ君って意外とデリカシーが無いのかしら?」

「あるわ!シバくぞ魔女野郎!」

「ふうーん、私をシバけるのかしら・・・?ん?」

「・・・すみません。」


笑みを浮かべながら怒るルーチェにカイは大人しくなる。


「ぷっ!馬鹿じゃないの?」

「雑魚は黙ってろよ!」

「カイ君?」

「・・・はい」


しまいにはシルヴァとの喧嘩も阻止されカイは遂に最後尾でだんまりとなってしまう。


今更、喧嘩を止めるなら最初からそうして欲しいよ・・・。


「それよりもうそろそろ着くんじゃないかしら?」

「うん・・・あっ!見えてきたよ!」


ルーチェに頷いた直後、僕らの目の前に大きな工場と港を持った街が顔を出す。


群青の海の上に並ぶ幾多の帆船、絶えず黒い煙を吐く大きな工場、そして・・・その工場と同等の大きさを誇る城・・・まさに心が躍りそうな景色が広がっていた。


「あれが・・・マルケイル?」

「そうよ。そして・・・あれが船工房ファクトリー・・・世界一大規模な造船所よ。」


僕の隣に立ったルーチェはそう言うと大きな工場を指差す。


あれが・・・世界に誇る造船所・・・船工房か。


「すごーい!アタシ、ワクワクしてきた!ねぇねぇ!早く街に行こっ!」

「うふふふっ。シルヴァちゃんは待ちきれないみたいね。じゃあ早く行きましょうか?」

「そうだね。早く行こうか?」

「・・・おう」


こうして僕らは目的地である造船の街・・・マルケイルへと足を運ぶのであった。


◇◇◇


オラルド王国第二首都マルケイル・・・人口凡そ55万人が住む造船の街である。首都であり”騎士の楽園”と呼ばれていたアルステルも首都であるが定義上、行政機関のあるここマルケイルが本来の首都であると言われることが多くアルステルはあくまでも観光地としての首都という印象があるそうだ。


首都が複数存在する特殊な国オラルドだが計三つの首都があるようでそれぞれ役割が異なるとされている。国王の住む”デン・ハアーグ”と産業・行政のマルケイルそして観光と貿易のアルステル・・・王国でありながらあくまで王族は国の象徴であり、国民の代表が国を動かす政治・・・いわゆる民主主義であるオラルドは歴史と文化も重んじていることもあり、このような構想になったとされている。


そんなオラルドの政治と産業の中枢の街へやって来た僕らはアルステルとはまた違った風景を見て更に心が躍った。


「すごい!少し遠くにある船工房がここからも見えるなんて!」

「ある意味マルケイルの顔になってるのかもな。それに見たところ船大工が多い印象だ。酒場も多いな。」

「マルケイルは人口の約半数が船工房の船大工、二割が行政機関の職員、三割は他の職に就いていると言われているからどれだけ船大工が多いかが分かるわね。」


街にいる船大工を見たカイにルーチェはそう説明する。


「凄い数の船大工さんが居るのね・・・」

「でも、一日に何隻の船を造るんだろう?」

「帆船なら大体千隻くらい、軍艦やダイダニックのような旅客船は大体数十隻くらい造船していると言われているわね。」

「せ、千!?そんなに帆船を造れるの!?」


ルーチェから聞いた帆船の生産数に僕は思わず声に出して驚く。


・・・これが世界一の造船所なのか!?


「それだけじゃないわ。船工房はたくさんの帆船を造れることから多くの騎士団の船を造ってきた実績があるのよ。それこそ貴方の師匠・・・オーディンもここで船を造ったらしいわ。」

「師匠も・・・ここで?」


師匠もまたここで自分の船を造ってもらったと聞いて再び造船所を見つめる。


あの船、ここで造ってもらったんだ。初めて師匠の船に乗った時ワクワクしたなぁ~


「シエルのお師匠さんの船もここで造ってもらってたんだね。」

「それだけ船工房の知名度は高ぇんだ。」

「・・・船か。やっぱり居るよなぁ。いくらするんだ?」

「かなりの額だと思うわ。それこそ私達はここまで騎士らしい功績を上げていないから買うお金を集めるのも一苦労ね。」


船を手に入れようにも僕は”ある問題”に直面する。


そう、船を買うお金だ。王族とはいえここまで何事も旅が出来たのは元から潤沢な資金を持っていたからこそ成し遂げられたことだ。でも、流石に船を買うお金は無くカイやルーチェの手持ちと合わせても足りないだろう。


そうなってくると騎士の醍醐味である傭兵稼業をするなりして船を買うお金を買うしかないだろう。


「お金が必要ってなると・・・やっぱ稼ぐことになるよね?」

「当たり前ぇだろ?今更何言ってんだ?」


恐る恐る声を上げるシルヴァにカイはそう返答する。


「兎に角、今は騎士の依頼を探すことと船工房に行ってどんな船があるのか見てくることを同時進行する必要があるわね。先に船の相場を見ておけばいくら足りないか分かるはずよ。」

「船の下見と依頼探しか・・・」


ルーチェの助言に僕は思考を巡らせる。この二つを同時進行させるならここで二手に分かれてもいいだろう。丁度四人いるし。


「よし、一組は船工房にもう一組は街に残って依頼を探すチームに分かれようか?」

「だったらオレは依頼探しをやろう。」


僕の提案にカイは早速、依頼を探す役を買って出る。


「珍しいわねアンタが率先して動くなんて。」

「存分に暴れてぇからな。」

「アンタ!まさかそのつもりで!?」

「ビビってんのか?」

「違うわよ!というかそんなこと言うならアンタ絶対強い魔物の依頼持ってくるでしょ?」

「じゃあ、テメェは選べんのかよ?」

「分かったわよ!アタシも依頼探せばいいんでしょ!」

「えぇ・・・」


カイの言葉に憤ったシルヴァもまた依頼を探す役に回る。・・・これ仲の悪い二人にして大丈夫だろうか?


「うふふふっ。依頼探しは二人に任せましょ。」

「はぁ・・・分かったよ。でも二人共、くれぐれも喧嘩とかしないでよ。」

「大丈夫!任せてよ!」

「コイツじゃねぇんだ。そんなヘマはしない。」

「何よ!その言い方!」

「あぁん?文句あんのか?」

「言ってる側から喧嘩するなって!」

「うふふふっ」


再び喧嘩するシルヴァとカイに僕が注意するとルーチェは再びくすくす笑う。


・・・本当に大丈夫なのかよ。


「じゃあ私とシエル君は船工房に行きましょうか?」

「僕はあっちの二人が心配でたまらないけど・・・今更、どっちかと変わる訳にもいかないからこれで行くしかないか。とりあえず夕方くらいになったらここに集合しようか?」

「オッケー!」

「そっちは任せた。じゃあ行くぞ。」

「って!アンタは待ちなさいよ!」


そう言った依頼聞き込みチームは颯爽と街の方へ走っていった。


「大丈夫よ。あの二人なら。」

「そう思いたいけど・・・心配だなぁ」

「さ、私達も行きましょうか?」

「うん。分かったよ。」


シルヴァとカイの事が心配になるも僕はルーチェと歩き出し、船工房へ向かうことにするのだった。


◇◇◇


その頃、マルケイル近海では一隻の白い梟を模したようなデザインの帆船が一隻停泊していた。


「あれがマルケイル首相官邸ですか・・・」


その船の甲板から望遠鏡を覗かせていた一人の女騎士がそう呟く。


「アテナ様、マルケイルに動きはありません。」


彼女が船内にいる誰かにそう伝えるとそこから女性の声が聞こえてくる。


「ご苦労様です。エニュオ。でしたら私は上陸の準備をしましょう。」

「ですが・・・あの話、本当なのでしょうか?ロワ帝国の内通者がオラルド政府に居るなんて・・・」

「それを確認する為に赴いたのですよ。本当なら私はお父様の招集に応じなければなりませんが状況が状況です。」

「分かりました。くれぐれもお気を付けください。」

「ありがとう」


女性はそう言うと船を降りる準備を始めるのだった。

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