第3話:決裂
三日後・・・この日は両陛下の依頼でシエルを一日だけ預かることになり、私はいつものように朝から剣を教えると昼は行きつけとなった酒場で昼食を執ることにしたが・・・
「えぇー!!なんで連れてってくれないの!?」
シエルは大きな声を上げながらテーブルを叩いて私に顔を近付けてくる。
「ダメだものはダメだ。君を私達の船に乗せることは出来ない。」
「なんで!?僕が王子だから?それともまだ剣の腕が上達してないから?」
彼の言葉に私は首を横に振る。
「そうじゃない。王族でも騎士になるのは勝手だ。寧ろシエルは私と初めて剣を交えてからまともに戦えている。大人の剣士顔負け程度にはな。」
「だったら・・・」
「だが、お前はまだ子供だ。その歳で危険な海を渡らせる訳にはいかん。」
「えぇ〜」
船に乗せない理由を告げるとシエルは残念そうに深々と椅子に腰を掛ける。何故、彼は駄々をこねているのか?それは私の船に入って一緒に冒険したいと言いだしたのだ。
勿論「ダメ」の回答一択である。確かにシエルはこれまで私と剣を交えてきた事もあってか今では8歳の子供であるにも関わらず自国の兵士や私の団員達でさえ顔負けになる程、腕を上げていた。
だが、彼はまだ幼くしかも国王の子供だ。身分はともかくそんな子供を危険と隣り合わせな騎士の世界へ連れて行くには余りにも早すぎる。
「諦めろ坊主。そんだけ厳しいんだよ。騎士の世界はな。」
私の隣に座っていたヘーニルも葉巻を吸いながら言った。
「おじさんは黙っててよ!」
「おじ・・・!?あのなぁ・・・俺はまだおじさんって歳じゃねぇぞ!!」
ヘーニルは立ち上がってシエルにワナワナと拳を震わせるが私はおじさんと呼ばれたことに思わず笑いそうになった。
「シエルちゃん。そんなカッカしたらダメだよ〜?」
「うわっ!?」
突然、白衣を着た褐色肌のエルフの女性・・・ヨルズにシエルは後ろから抱きつかれると彼は大きな胸に顔を埋められてしまう。
「うぅ〜ヨルズ姉さんやめてぇ~酒臭いよぉ。」
「馬鹿お前!真昼間から酒なんか飲むなって言ってるだろうが!!」
「えぇ〜良いじゃない。」
顔が青くなっているシエルに抱きながらヨルズは口を尖らせて反論する。彼女は私の船医だが唯一欠点がある。そう、大の酒と子供好きなのだ。後者はともかく前者に関しては日中にも呑んでいる為、手を焼いている。・・・というかお前何杯吞んだんだ?
「だってぇ〜お酒はハッピーになれるものだもん。ねぇ?シエルちゃん。」
「うぐううぅ」
「お、おい!ヨルズ!それ以上はよせ!シエルが気絶しかけている!」
今にも失神しそうなシエルの顔を見て、私はヨルズから引き離そうと手を伸ばした瞬間、目の前に人影が現れると一瞬にして彼を助け出し、目の前に姿を現した。
「団長、この通りシエル様をヨルズの手から救って参りました。」
「すまない。助かったぞ!バルドル。」
「あぁ〜!バルドル何するのさ!私のシエルちゃんだよ!?」
「いえ、貴方の者では無いのですが・・・。」
シエルを取られたヨルズはシュンとした表情を浮かべて渋々自分の席に座った。ナイスだバルドル!彼の隠密性と速さは団内でも右に出る者はない。
「シエル、大丈夫か?」
「う、うん。大丈夫。」
私はシエルに声を掛けると何とか元気を取り戻して笑みを浮かべる。ヨルズの臭いのせいで気分を悪くしただけの様だ。
「そうだオーディン。ちょっと話があるんだがいいか?」
「ん?あぁ、大丈夫だ。」
ふとヘーニルに声を掛けられた私はバルドルにシエルを預けて彼の方へ顔を向けた。ようやく次の航路の話だろう。
「次の航路についてだが今後の天候を考えるとあと二週間ちょいと考えた方がいい。・・・見ろ。」
彼はそう言うと地図を広げてワース近海を指差した。
「ワース国王から南に下がった"ケルート海域"だが、ここは知っての通り、サイクロンが頻繁に起こる場所だ。あと数週間でこの辺りにサイクロンが起こる事が予想される。」
「つまり、その前にこの海域を出ないといけないのか?」
「ああ、"中心海域"へ到達するにはケルート海域を通るのは必須だ。いつここを出るかだな。」
「うーむ」
航海士兼副団長であるヘーニルの説明を聞いて眉を寄せながら思考する。サイクロンが来るならばここを出るのは早い方がいいだろう。二週間は長すぎる・・・もっと早めに出た方がいい。
それなら・・・
「一週間だ。一週間後に此処を出よう。」
「了解だ。それなら団員達にも・・・」
私の答えにヘーニルは頷いて団員達にも共有しようとした時だった・・・
「えっ!?」
すぐ隣で驚きの声が聞こえてくる。・・・しまった、聞かれてたか。
「師匠達、ここを出ていくの?」
シエルは私達を見つめながら尋ねてくる。いや、いずれ言わなければならなかった。彼には申し訳ないが今、正直に伝えよう。
「・・・そうだ、私達は騎士だからな。色んな場所を旅をしながら人々を救わないといけない。」
「嫌だ!行かないでよ!僕まだ師匠に教わって貰ってないこと色々あるんだもん!」
案の定、涙目になりながら旅立とうとする私達を制止する。ここは敢えて厳しく接するべきだろう。
「シエル、人は別れを経験して強くなる。それにここで私達と一生の別れになるとは限らない。すまないが私も君の傍にはずっと居てはやれないんだよ。」
「やだ!!だったら僕も連れて行ってよ!そしたら・・・」
「我儘を言うんじゃない!!」
再度、自分も連れて行けと言うシエルに怒鳴り声を上げた。恐らく、彼を怒鳴るのはこれが最初で最後かもしれない。でも彼の為だ。心を鬼にしなくては。
「そんな甘い考えで私が連れて行くと思ったのか?私達は遊びで騎士をやっているんじゃない!!この世界は淘汰されるかされないかの時代なんだ!!そんな時代にお前の我儘は通用しない!!!いい加減独りで強くなる事を考えろ!!これ以上・・・甘えるなッ!」
初めて上げた私の厳しい言葉にシエルは泣き出すと青い瞳から涙を流し始める。ヘーニルら団員達もまた私達のやり取りを黙って聞いていた。
「泣くな!別れを惜しんで泣くような弱い奴に育てた覚えは無いぞ!」
「・・・師匠は・・・ぐすっ、じゃあ師匠は僕と別れるのは悲しくないの?」
「悲しいさ!だが、そんな経験を私達は何度もしてきている。そうやって強くなってきた!だからお前に色々教えられた!だから泣くな!!ここからは独りで強くなる事を考えろ!いいな!」
椅子から立ち上がってそう諭した瞬間・・・
「もういいよ!!師匠なんて大ッ嫌いだぁ!!!」
シエルは泣きながら今まで言う事が無かった言葉を大声で吐くと一目散に店の外へと飛び出してしまった。
「あっ!シエルちゃん!待って!!」
「シエル様!!まずいです!シエル様が外へ!」
ヨルズとフリッグが慌てて呼び止めるも彼は既に店からは去ってしまい、団員達の視線は俯いている私の方へ向けられる。大嫌い・・・まさか愛弟子にそう言われるなんてな。敢えて厳しく接したはいいがああ言われると流石に・・・。
「どうすんだ?オーディン。小僧の護衛が仕事じゃねぇのか?相手は国の王子だぜ?」
「・・・分かっている。」
ヘーニルの言葉に頷くと込み上がってくるものを抑えながら顔を上げて言った。
「さて、我儘な愛弟子を連れ戻すとしよう。お前達、行くぞ!」
「「はい!!」」
団員達は一斉に立ち上がるとシエルを連れ戻すべく行動を開始する。しかし、この時の私達は知る由もなかった。この裏で"もう一人の王子"に危機が迫っていた事を・・・。




