第36話:騎士王の威光
「ガレス!ガヘリス!やれ!」
「「イヒヒヒヒッヒヒヒ!!!」」
ノワールは自身の団員である黒いマントに身を纏った小柄なエルフ族の双子の少年に指示すると彼らは俊敏な動きで赤い眼を光らせながら僕にボーガンを向けると矢を同時に放った。
「させないわ!」
しかし、シルヴァが前にでると卓越した弓術でその矢をどちらも相殺させる。
「アイツ、ボクの矢を!!」
「やってやる!やってやる!!」
「何よこの双子!」
それに怒った双子のボーガン使い・・・ガレスとガヘリスは俊敏な動きを駆使してシルヴァを翻弄する。
「そこだっ!」
「ッ!?しまった!」
「シルヴァ!」
そして・・・二人の放った矢の一つがシルヴァに迫ろうとした途端・・・オーガイが自身の銃でそれを撃ち落とし、電撃を纏った。
「おいおい・・・女一人にそりゃ卑怯だろ?お前ら。・・・加勢するぜ。嬢ちゃん」
「お茶はお断りだけど今回はOKって言ってあげるわ!」
シルヴァはそう言うとオーガイの支援を受けながらガレス、ガヘリスとの戦闘を始める。
・・・彼女の事はオーガイに任せて良いだろう。
「余所見するなよ!」
「ッ!?」
直後、黒曜騎士団の大男・・・ローズルが目の前に現れると両腕を大きく振り落としてくる。
「おらあああっ!」
「はあああっ!」
しかし、カイとウィルダーが割り込んでくるとその大きな腕を見事、各々の得物で受け止めて見せた。
「カイ!ウィルダーさん!」
「俺達の事はいい!アンタはノアールを倒せ!」
「そうだ!おい未来視の天騎士!足引っ張んなよ!」
「その言葉・・・そっくりそのまま返してやる!未来視は戦闘では使えないが・・・視えなくとも戦える!」
カイとウィルダーは同時にローズルの巨体を弾き返すとそのまま彼と戦闘を始めた。
「よし!僕はそのまま・・・」
ローズルを二人に任せ、ノアールの元へ向かおうとした・・・その時だった。
「シエル君!危ない!」
「えっ!?」
突然、ルーチェが目の前に出てくると僕目掛けて飛んできていた魔法の光弾を自身の魔法で相殺する。
「あーあ、外れたか。」
そんな声が聞こえると同時に今度は眼鏡を掛けたハーフット族の青年がトンガリ帽子のつばを上げながらこちらを見つめると自身の背丈より長い杖を構えながら身に着けている黒いローブを靡かせた。
「今の魔法・・・貴方ただの魔導士では無いわね?さっきオーガイの団員たちを真っ先に光弾で一掃したのも貴方ね?」
「ご名答、全てこの黒曜騎士団の天才マーリンの魔法さ。」
マーリンと名乗った黒曜騎士団の魔導士はルーチェに杖先を向ける。
「シエル君、彼は私が相手するわ。一人になるけど・・・貴方なら大丈夫よ!」
「ルーチェ・・・ありがとう!」
ルーチェは去り際に優しく微笑むとそのままマーリンと互いの魔法をぶつける戦いに身を投じる。
「気が付けば・・・ボクとキミだけ残ったね。」
するとノアールが黒い稲妻を纏いながら僕の前に現れる。
「キミの持っている剣は知っている。聖剣エクスカリバー・・・精霊の力を扱える代物。果たしてそれがあっても勝てるのかな?ボクとこの”魔剣アロンダイト”に!」
奴はそう言うとあの漆黒の大剣・・・アロンダイトから放っていた黒い稲妻を大きくする。
正直・・・まだあの稲妻から感じる苦しみが襲い掛かってくるのは事実だ。でも、ここで奴を野放しにしたら”自由”がなくなる!自分と同じ顔で何者か分からないけど・・・
「僕は絶対に負けない!」
強い意志を持ちながら勢いよくエクスカリバーを手にすると刃に蒼白い稲妻を纏い、ノアールの黒い稲妻とぶつけ合うと辺りに白と黒の雷が降りかかり地面を焦がしていく。
「はあああああああああっ!!」
そして・・・地面を蹴りながら飛び上がるとエクスカリバーの柄を両手で握り締め、ノアールの持つアロンダイトと刃を交錯させた。
「ぐっ・・・・うおおおおおっ!」
エクスカリバーとアロンダイトの刃から白黒の稲妻が飛び交い、まるで柱の様に聳え立つと暗雲を突き抜けて青い空を微かにむき出させる。
「ぐっ・・・・くううっ!!」
「随分苦しそうだね?キミは聖剣を持っていても力は付いてきていないんだ。」
「まだ・・・だ!まだやれるッ!」
ノアールの言葉に屈することなく僕は鍔迫り合いになったまま刃に炎を纏い、火の精霊サラマンダーの力を開放する。
「それは・・・精霊の力か!?」
「喰らえッ!”烈火の斬撃"!!」
そのままノアールを退けると渾身の力で聖なる炎の斬撃を放つ。
「いっけぇえええええ!!!」
放たれた炎の斬撃はノアールにこのまま直撃すると確信し、その結末を見届ける・・・。
「”闇の空間”」
「・・・は?」
しかし、ノアールはアロンダイトから小さな黒い渦を出すと聖なる炎の斬撃を吞み込んで無効化する。
嘘・・・だろ?精霊の力を無効化した!?
「どう・・・なってんだよ?」
「驚いている暇はないんじゃないか?」
「ハッ!?しまっ・・・」
「”黒の斬撃”」
「がはっ!?・・・・うぐあああああああああああああああああっ!!」
動揺していた隙を付かれ、ノアールの放った黒い斬撃が直撃すると僕は体に大きな斬り傷と鮮血を吐きながら凄まじい勢いで吹き飛ばされ何度も地面に打ち付けられて倒れた。
「あっ・・・ぐうううっ」
立ち上がる力もなく口から血を流すと地面に突き刺さったエクスカリバーを拾い上げようとほふく前進するがそれより先にノアールが僕の目の前にやってきてこちらを見下ろした。
「無駄だよ。そんな傷でどうやって戦えるの?」
「・・・ぐっ・・・ごほっ・・・お前ッ・・・」
まだ希望に満ちた蒼い目で奴を睨む。大丈夫・・・まだ皆が。
「きゃああああああっ!」
「しまった!?うわあああああああっ!」
「・・・は?」
直後、シルヴァとオーガイの悲鳴が聞こえると僕の視界にガレス、ガヘリスに敗北し傷だらけで倒れる二人の姿が映った。
「シルヴァ!シルヴァァァァァァッ!!!」
倒れたシルヴァに声を掛けるも彼女からの返答は無かった。
「くそっ!ぐわああああああああああっ!」
「うわあああああああっ!」
「ッ!?カイ!!」
更に今度はローズルによって互いの身体を打ち付けられて地面へ乱暴に落とされたカイとウィルダーの姿が映る。彼らもまた返事がなく地面に鮮血がどくどくと流れていた。
「嘘だ・・・こんな!」
怒りが頂点になり、痛みを忘れて立ち上がるとノワールへ殴りかかろうとした瞬間・・・僕目掛けてマーリンの放った魔法の光弾が迫ってくる。
「シエル君!!!ダメ!!」
直後、ルーチェが僕の前に出ると魔法を繰り出す暇もなくその光弾を小さな体で受け止めた。
「きゃあああああああああああああああっ!!」
「ルーチェ!!!」
「あっ・・・はぁっ・・・」
ルーチェは傷だらけになると僕に声を掛ける間もなく膝から崩れ落ち、地面にうつ伏せで倒れてしまった。
「そ・・・そんな・・・」
仲間が全員倒れてしまった事実に僕は目からハイライトを消すとその場に崩れ落ちて涙を流す。
「そうさ、キミ達は負けたんだよ。」
「ッ!お前ッ!」
「ほら」
「ぐはっ!」
抵抗する僕をノアールは蹴り飛ばすと先程喰らった傷が痛みその場に倒れる。
最早、彼らに抵抗する力もなく僕は身体を震わせながら無情にも歩み寄ってくるノアールを見つめる事しかできなくなる。
「さて、キミを取り込むとしようか?そうすればあんな剣を使える人物なんて当分現れなくなる。」
奴はそう言って僕を掴み上げようと手を伸ばしてくる。
ここで・・・終わるのか?仲間達を守れず師匠との約束を果たせないまま僕の冒険は終わるのか?・・・そんな絶対に嫌だ!負けたくない!まだ・・・この状況でも・・・僕は・・・勝つ!
「・・・めない!」
「なんだい?」
最後の力を振りしぼり、何とか膝を付いたまま身体を起こす。
「絶対に・・・諦めない!!」
そう叫んだ時だった。
突然、僕の身体が蒼白く光り出すと徐々に辺りを包んで輝き始めた。
「うわっ!?な、なんだこれは!?」
「ま、眩しい!」
「ぎゃああああっ!?」
「これは・・・まさか!?おい!ノアール!」
「ッ!?んぐううううううっ!?」
光に包まれたノアールは苦しみだすと僕からどんどん退いて仲間達の元へ戻っていく。
「間違いない!あれは・・・”騎士王の威光”!」
マーリンは僕に向かってそう言うも感情が高ぶっていた今の僕に彼が何を言っているのか分からず無意識に手をかざすとそこから放たれた衝撃波で黒曜騎士団の面々は軽く吹き飛ばされる。
「んぐ!?んぐあああああああっ!?」
「おい!団長の意識が朦朧としてんぞ!」
「くっ・・・無意識とはいえあれを放てるとは・・・今すぐ団長を連れて撤退するぞ!」
僕から放たれているであろう強い光に怖気付いた黒曜騎士団はその場から撤退する。
その様子を見届けて力を抜かすと蒼白い光もまた嘘のように消え去ってしまい、辺りは静まり返る。
「うっ・・・ぐうううっ」
直後、大きな疲労が襲い掛かり僕は意識を失うとそのまま闇の中へ誘われるのだった。




