第35話:黒曜騎士団
アルステル港南ブロック・・・人気の少ない港までたどり着いた僕とシルヴァ、ルーチェは一番奥の桟橋で睨み合うカイとウィルダー、オーガイ、ヒデヲ、サブローの姿を見つけた。
「いた!カイ!ウィルダーさん!」
「おう、来たか。」
ようやく二人と合流した僕らは並び立つとオーガイが大きなため息を吐いて口を開いた。
「はぁ・・・お前達もしつこいねぇ~ローゼとやり合うはずがまさかお前達ともやらないといけなくなるなんてな。」
「先に仕掛けてきたのはアンタでしょ?何言ってるのよ。」
オーガイの言葉にシルヴァはイラッとした表情をする。
「先生、どうしますか?相手は未来視の天騎士がいますが・・・。」
「そうだ、しかもローゼとの戦いのときのあの力・・・聖剣ってやつの力に間違いないと思うぞ?」
「分かってるよ。俺も下手に喧嘩を売るほど馬鹿じゃない。」
自信の仲間であるヒデヲとサブローにを向けたオーガイはそう言うと僕達を見て銃の弾を装填すると再び電撃を纏い始めたと同時に隠れていた彼の団員達が一斉に現れ、僕らを取り囲んだ。
「・・・ってことだ。こちらは数で圧倒させて貰うぞ。」
「チッ、上等だぜ。」
オーガイの言葉にカイは笑みを浮かべると薙刀を構えて戦闘態勢を執る。
「ね・・・ねぇ。これって戦わないといけないの?」
「そのようね。」
震えるシルヴァにルーチェは淡々と答える。正直、僕もシルヴァと同じ気持ちだ。騎士同士で争う意味なんて・・・
「シエル!テメェも本腰上げろ!これが・・・騎士の世界だ。」
「くっ・・・やるしかないのか。・・・分かった。」
カイに諭され、腹を括った僕はエクスカリバーを鞘から抜くと刃に剣雷を纏って身構えた。
「あぁーんもう!分かったわよ!!」
遂に自分以外が得物を構えたのを見てシルヴァも弓を手にすると僕らはウィルダーを合わせた五人で互いを守るかの様に背を預ける。
「いい度胸だ!俺達隔たりなき医師団の前に・・・消えちまいな!」
オーガイが笑みを浮かべながらそう言った・・・次の瞬間。
「残念だけど・・・その前にボクらが君達を倒す・・・かな?」
「何?誰だ!?」
突然聞こえてきた少年らしき声にオーガイが辺りを見渡した瞬間・・・どこからともなくレーザーの様なものが降りかかるとそれらは僕らを囲んでいた隔たり無き医師団の団員達へ一斉に襲い掛かった。
「「うわあああああっ!?」」
「な・・・なんだ!?ぐはっ!」
その攻撃を凌いだ他の団員達が驚くのも束の間・・・今度は高速で矢が降ってくると彼らも地面に倒れて戦闘不能にされてしまった。
「な・・・何?何が起こってるの!?」
「皆!気を付けて!さっきの魔法・・・只者じゃないわ!」
「わーってるよ!んな事は!」
「でも今の攻撃・・・何処から?」
「俺にも分からん・・・だが、嫌な未来が視えた。」
「えっ?どういうこと・・・?」
ウィルダーの言葉に僕は冷や汗を流しながら彼に顔を向けた時だった。
「「せ、先生!!」」
「あぁ?今度はなん・・・だ?」
オーガイがヒデヲとサブローへ振り返った途端、絶句すると共に大きな人影が二人の首をがっしりと掴んで持ち上げていた。
「邪魔だお前らッ!!」
「ごはっ!」
「ぐはっ!」
大きな人影はそう言った途端、両腕で掴んだヒデヲとサブローを勢いよくぶつけるとそのまま地面に叩きつけて沈黙させてしまった。
「ヒデヲ!サブロー!!」
両腕とも言える仲間二人までも倒され、顔を青くしたオーガイの前に大きな人影は青と黒の迷彩柄の服装と屈強な肉体姿を露にする。
「がははははははははは!」
「誰だ・・・テメェ!」
現われた大男にオーガイがわなわなと身体を震わせると。少年らしき声が再び聞こえてくる。
「あぁ、名乗るのが遅くなったね。自己紹介するよ。」
声がそう言った瞬間、大男の背後から禍々しい黒い稲妻が放たれ僕らはその気迫に圧倒される。
「キャッ!何よ!あれ!」
「んだ・・・ありゃあ・・・」
「分からないわ・・・でも何?この・・・不気味な感覚は?」
「これか?俺の視た未来は?」
「・・・・ッ!?」
シルヴァ達も顔を顰めながら稲妻を見つめていると僕は稲妻の先にある何かの気配を感じ取ると凄まじい不快感と苦しみが身体を襲った。
「ぐあああああああああっ!?」
「シエル!?どうしたの!?」
「うっ!?ううっがはっ・・・うあああああっ!?」
「おい!どうしちまった!?シエル!?」
声を掛けてくるシルヴァとカイに言葉を返す余裕は無く僕は余りの苦しさに悶絶する。
なんだ!?これは!?か・・・身体が・・・苦しい!?
「うっぐううううっ!?ぐううっ!?」
倒れそうになったものの何とか膝を付きながらこらえて息を整えるも苦しみはじわじわと僕の身体を侵食していく。
「あぁ、やっぱりそれ・・・本物なんだ。」
「誰だ・・・お前は!」
稲妻を放っているであろう少年の声をした者に問いかける
「ふふふふふふっ・・・誰だと思う?きっと君は驚くよ?それでもいいのかい?」
「どういう・・・意味だ!」
ゆっくり立ち上がりながらそう言うと遂に声の主がその姿を現す。
「ッ!?・・・な、何!?どう・・・なってんだ!?」
「なんだ?アンタは?」
「おいおい・・・どうなっていやがる!?」
「私にも・・・分からないわ。」
「噓でしょ?シエルと・・・同じ顔!?」
僕だけで無く仲間全員が驚愕した。
黒い稲妻を放っていた声の主・・・それは身長も顔も全て僕の顔瓜二つな少年の姿をしていた。
◇◇◇
「だ・・・誰なんだお前は!?どうして僕と同じ顔を!?」
冷や汗を流しながら自分と同じ顔の少年を見る。
髪の色も目の色も顔つきも生き別れの双子の片割れと言われても疑わない程、僕そっくりだった。強いて似ていない部分を上げるならば身体全体を覆う黒いローブと背中にある不気味な漆黒の大剣だろう。
一体、こいつは誰なんだ?生き別れ双子だとしてもワース王家・・・父上と母上の間に生まれたのは僕とテルだけだし双子がいたなんて話も聞いたことがない、いたとしたら母上が教えていただろう。
それと彼の背中にある漆黒い大剣・・・あそこから先程の苦しみと同じ感覚が僅かに漂ってきている。この冷たく苦しく胸が引き締められる感覚・・・これは・・・”闇”?
「動揺しているようだね?ボクが同じ顔をしているからさ。」
僕そっくりの少年は笑みを浮かべながらそう言った。
「アンタ・・・誰なのよ!シエルと同じ顔をして!」
「その面で口を開くなよ偽物が。」
「同感ね。その顔をしているの・・・不愉快よ。」
シルヴァ、カイ、ルーチェも僕と同じように不快な表情を浮かべる。
「酷いなぁ・・・キミ達の仲間と同じ顔をしているのにそんな事言われるなんてさ。」
「どういうことだ?」
少年の言葉にウィルダーは眉を寄せる。
「だって・・・ボクはキミ自身だからさ。」
「お前が・・・僕自身?何を言っているんだ?」
彼の言葉に僕は困惑する。
「自己紹介するよ。ボクはノアール。黒曜騎士団団長にして・・・”魔剣”の力で世界の王を目指す者さ。」
ノアールと名乗った僕そっくりの少年は背中の大剣を手にしながら黒い稲妻を微かに放った。
「黒曜騎士団だぁ?聞いたことない騎士団だな。」
同時にオーガイはノアール率いる騎士団の名前に心当たりがない表情をする。
「知らないのも無理はないよねぇ~ついこの間立ち上げたばっかりだからさ・・・ねぇ?ローズル」
「あぁ!」
ノアールはそう言うと先程ヒデヲとサブローを圧倒した大男・・・ローズルに顔を向けると彼は笑みを浮かべながらこくりと頷いた。
「それで?ノアールだったかしら?貴方は何が目的なの?」
ルーチェは曇った表情をしながらノアールに尋ねる。
「目的?そうだねぇ・・・先ずは・・・」
彼はそう言うと僕に顔を向けた途端・・・ニヤリと笑みを浮かべたかと思うと僕の目の前に瞬間移動して抱きしめてくる。
「なっ!?」
「シエル!?」
突然の動きに僕は呆気なくノアールに捕らわれると彼は顔を近づけて呟いた。
「捕まえたっ。先ずはキミを吸収しないと・・・」
「んんっ!?」
そして、容赦なく彼は唇を重ねキスをしてくる。
「ちょアンタ!何してんの!?」
「おいおい・・・マジかよ。」
その様子をみてシルヴァは赤面し、オーガイは思わずドン引きした表情を見せる。
「んくっ!やめろ!」
しかし、僕はすぐにノアールを突き放すと息を切らしながら口元を腕で庇った。
なんなんだコイツ!急に口づけなんかしてきて・・・。
「あーぁ、残念。」
ノアールは残念そうな声を漏らすも何処か嬉しそうな表情をする。
「あと少しで・・・キミをボクのものに出来たのに。」
「僕を?どういう意味だ?」
「言葉の通りさ。ボクは魔剣も手に入れた。腕利きの騎士も集めた。後は・・・聖剣を使えるキミをボクが取り込むだけ。そうすればボクは世界を掌握する王になれるんだ!」
「世界を掌握だと?そんなことが許されていいと思っているのか?」
ノアールの野望を聞いてウィルダーは怒りの表情を見せる。
「光栄なことだろう?力を持った人に”支配”・”管理”されるなんてさ!」
「くだらねぇ。そんな理由で騎士をやんのかよ?」
「それが騎士の在るべき姿じゃないの?」
「違うに決まってるでしょ?何言ってんのよ!」
「そんなに反対するなんてね・・・キミはどうなんだい?」
シルヴァとカイもまた怒りの表情を見せてノアールに反発すると彼は僕に顔を向けてくる。
・・・彼は支配を望んで騎士団を創ったということだろう。世界の王になって全てを支配するなんて・・・間違っている!
拳を握り締め、ノアールの野望に危機感を募らせると彼にきっぱりと自分の答えを出した。
「それは・・・間違っている!!」
「違う?何が違うの?」
僕の答えにノアールは今まで浮かべていた笑みを消して真顔になる。
「支配は人を苦しめる。人の自由を奪う最低な行為だ!僕達は”自由”がある!自由を約束されているんだ!どんな身分でもどんな種族でも皆、自由なんだ!だからこそ騎士が存在する。だからこそその騎士に憧れてこの世界を自由に回りたい人が増えるんだ!それが・・・平和そのものだと僕は信じる!だから僕も騎士になりたいという”夢”を持ったんだ!」
「・・・ッ!?」
師匠の面影を浮かべながら僕は”自由”に対する”夢”と想いを語るとノアールは一瞬、動揺した素振りを見せ深く溜息を吐いた。
「はぁ・・・キミまでボクのことをそう言うんだ・・・分かってた。分かっていたよ。だからさ・・・」
ノアールは再び漆黒の大剣から黒い稲妻を放つと。ローズル以外の黒曜騎士団の面々が姿を現し、僕らと相対する。
「全員死ねよ!ここで!」
「・・・ぐっ!あの剣・・・やっぱり凄まじい力を感じる。」
「シエル!大丈夫!アタシ達が付いてるから!」
「あぁ!あんな得体のしれねぇ連中、ここでぶっ飛ばすぞ。」
「そうね。私達で止めましょう。黒曜騎士団を!」
「皆・・・」
黒い稲妻に怯む僕にシルヴァ、カイ、ルーチェは傍らに並び立って励ましの言葉を贈ってくれると次第に勇気が湧いてきて黒い稲妻に対するダメージが和らいでくる。
「オーガイ、俺達も止めるべきだと思わないか?」
「当たり前だ。こっちは仲間が倒されてんだ。きっちり医療費は払ってもらうからな!!」
ウィルダーとオーガイも身構えると僕らに続いて黒曜騎士団と相対する。
「全員・・・殺してあげるよ。」
こうしてノワールの野望を止めるべく僕らは黒曜騎士団と戦闘を始めるのだった。




