第34話:乱闘
「そこですわ!」
ローゼは勢いよく滑空すると自身の剣の刃に赤い花弁を纏わせながらそれらをオーガイへ放つ。
「”薔薇の舞踏”!!」
「”バイタルサイン”!!」
しかし、オーガイもまた自身の銃に電撃を纏わせると迫ってくる花弁をレーザーの様なもので相殺していった。
「お前達!やめろ!」
直後、ウィルダーが飛び上がってオーガイへ蹴りを入れるも彼はその攻撃すらも銃で受け止めてしまう。
「くっ・・・やるな!流石は未来視の天騎士だ。」
「俺も好きでアンタ達と戦いたい訳じゃない!」
「ウィルダーさん!」
後に続いていた僕は脚と銃で鍔迫り合いをしている二人の元へ駆け寄ると同時にその戦いに息を呑む。
さっきのローゼとオーガイそしてそんな二人と互角に渡り合うウィルダーさん・・・これがこの世界を旅する騎士達の力なのか!?
「隙ありですわ!!」
「何っ!?」
しかし次の瞬間、ローゼがウィルダーの背中を捉えて剣を振り上げるがその間にカイが割り込んで彼女の攻撃を薙刀で難なく受け止めた。
「カイ!」
「問題ねぇよ!・・・にしても。」
カイはローゼに視線を向けてニヤリと笑みを浮かべた。
「確かテメェには”赤薔薇の騎士”っていう異名があったよなぁ?いい機会だ!その名に恥じねぇ程強いのか・・・挑ませて貰うぞ薔薇オンナ!」
「チッ!なんですの貴方は!不快ですわ!それに・・・」
ローゼはカイの言動と剣を持つ自身の腕が彼の薙刀と交錯したまま動かない事に焦りを見せる。
「腕が・・・動かない!?ど・・・どうしてですの!?」
「わりぃなオレはそこらの騎士みたいにあっさりやられる奴じゃねぇぞ!」
カイはそう言うと勢いよく薙刀を振り切ってローゼを吹き飛ばした。
「いやっ!」
「ロ、ローゼ様!!」
団員達が声を上げるのも虚しくローゼは吹き飛んだ勢いで一度バウンドすると派手に倒れて砂埃を上げながら身体を地面に引きずってしまった。
カイは女性相手に容赦ないな・・・
「おいおい・・・マジかよ。あの女をぶっ飛ばしたぞアイツ。」
「流石は聖剣を持った者に付いていくだけはあるな・・・興味深い。」
そんなカイを見てオーガイとウィルダーも冷や汗を流す。
「・・・くっ!こんな屈辱・・・あってたまるかよおおおおおおっ!!・・・ですわッ!!」
「うわぁ・・・なんか豹変した。」
カイに倒され、傷だらけになった瞬間まるで人が変わったかのように怒声を上げたローゼにシルヴァはドン引きする。
「それがテメェの本性か・・・お嬢様とは程遠い性格だな。」
「黙れよタコ!ゴラァ!人を散々ボッコボコにしただけでいい気になるんじゃねぇぞ!!・・・ですわッ!!!」
「語尾はちゃんと言うタイプ!?」
「シエル君、今そこをツッコんでる場合じゃないわ。」
「・・・そ、そうだった!」
ルーチェに諭されて僕は気を取り直す。
「貴方達!あの下民でタコなイノシシ野郎をぶっ殺せ!・・・ですわッ!!」
「「はっ!」」
ローゼは自身の団員達をけしかけるとカイの周りを黒鎧の兵士達が取り囲んで剣や槍、斧を構え始めた。
「カイ!あのバカ!一人で囲まれたじゃない!」
「相手は名を上げている騎士の団員達だわ!私達も加勢しましょう!」
「テメェらが手を出す必要はねぇぞ!」
加勢に行こうとするシルヴァとルーチェにカイはそう声を上げる。
「カイ!無茶だ!僕らが援護する。」
「援護?んなもん要らねぇよ!」
「どういうつもりよ死にたい訳?アンタ!」
「テメェじゃねぇからそんなヘマはしねぇよ雑魚。」
「アンタねぇ!」
「・・・っと言い間違えた。」
「はぁ?」
何かを言い間違えたと言うカイにシルヴァは眉を寄せると彼は僕に顔を向けた。
「援護が要らねぇ訳じゃねぇ。強いて言うなら・・・シエル!ウンディーネの力を寄越せ!」
「カイ・・・まさか!?」
その言葉にカイの思惑を僕は察する。
確かにカイ単騎ではローゼの団員達を相手出来ない。・・・でも、それは精霊の力が無い場合の話だ。カイはそれが分かっていたということとこの戦闘に無関係なシルヴァとルーチェを巻き込みたくないという意図だろう・・・。
「・・・分かった。」
カイに頷いた僕はエクスカリバーを鞘から抜くと精神を集中させて刃を青く光らせ、水の精霊ウンディーネの力を開放する。
「なんだありゃ!?」
「・・・あれは!」
「ッ!?な、何ですの!?あの光は。」
青く輝くエクスカリバーの光にウィルダー、オーガイ、ローゼ、両者の団員達も釘付けになる。
やがてエクスカリバーの刃を渦巻く水が纏うと僕はその一部をカイへ付与する。
「礼を言うぜ!シエル!」
僕にそう返したカイは不敵な笑みを浮かべると青く光りながら渦巻く水を放つと勢いよく薙刀を横殴りに振り回した。
「"海刃叢雲斬"!!」
聖なる水の斬撃は放たれると共に取り囲んでいたローゼの団員達を瞬く間に一掃してしまう。
「「うわあああああっ!?」」
「な、なんだ!?津波が・・・うわあああああっ!」
「ロ、ローゼ様!お助け・・・ぎゃあああああっ!」
まるで波に吞まれるかのように街から港・・・そして海へと流されていく団員達を見てローゼは顔を引き攣らせたままワナワナと身体を震わせた。
「ふぅ・・・これでどうだ?」
やがて自身の周りに誰も居なくなったカイは満足げに薙刀の石突を地面に付く。
「あ・・・あり得ない・・・こんなことあり得て良い訳ないですわッ!」
「あり得んだよ。確かにオレは仲間の力を使った・・・だが!甘えたつもりはねェ!」
カイはそう言うと薙刀の切っ先をローゼへ向ける。
「さぁ・・・次はテメェだ。来いよ薔薇オンナ!」
「・・・ッ!貴様ァ!!」
遂に怒りの沸点が到達したローゼは剣の刃に花弁を纏うと地面を蹴って滑空し、高速でカイに攻め込んだ。
「おらよっ!」
「ぐはっ!?」
しかし、直後にカイが薙刀の石突をローゼの腹部に勢いよく打ち付けて動きを止める。
「あぐっ・・・あっ・・・」
そしてローゼは反吐を吐きながら首と腕をだらんと落とすとそのまま地面に倒れて気絶してしまった。
「嘘・・・アイツ倒しちゃったわよ。」
「まさかあのローゼを倒すなんて・・・流石ね。」
見事、ローゼを倒したカイにシルヴァとルーチェは驚きの表情を見せる。
「ほぅ?ローゼの騎士団を壊滅させるなんて・・・見上げた奴だな。」
「あぁ?」
するとカイの背後へオーガイと彼の団員であるヒデヲともう一人、剣を持ったハーフフット族特有の小柄な体格をした男が白衣を靡かせながら現れる。
「オーガイ!何をするつもりだ!」
そんな彼らにウィルダーがカイの傍らに立つと僕も二人の隣に並び立つ。
「御伽噺と思っていた精霊の力を使う奴とローゼを圧倒する力を持つ奴・・・俺は強い騎士を仲間にしたいがその姿勢だと俺に歯向かいたいようだな・・・めんどくせぇが・・・」
オーガイはゆっくり銃を構えながら弾を装填しながら言った。
「お前達・・・やっぱり今ここで潰しておくか?ヒデヲ、サブロー!やれ!」
「「了解!」」
彼の指示を了承したヒデヲは拳をハーフフット族の男・・・サブローは剣を構えるとそれぞれ二手に分かれて走り出すとカイとウィルダーに襲い掛かった。
「はあっ!」
「ちっ!」
「おらあああっ!」
「くっ!」
カイはサブローとウィルダーはヒデヲと鍔迫り合いになると互いに手に汗握る戦いを繰り広げていく。
「カイ!ウィルダーさん!」
「余所見してると死ぬぞ!聖剣使い!」
「ちっ」
二人を案ずる僕へオーガイは容赦なく弾丸を放つもそれを難なくエクスカリバーで斬り落として難を逃れる。
「俺の弾丸を斬り落とすなんてな・・・聖剣使いは伊達じゃないみたいだ・・・だが!」
オーガイは目を見開くと銃に電撃を纏い始め、周囲に稲妻がはしりだす。
「俺の魔道銃”舞姫”に痺れてくたばれよ!!”エレキソード”!!」
電撃を纏ったオーガイはそのまま銃を振り落とすと銃剣に青白い稲妻を纏わせて斬撃を放った。
あの稲妻・・・剣雷!?
「・・・だとしたらあれは阻止しないと!!」
迫りくる電気の斬撃に臆することなくエクスカリバーの柄を両手で握り締めると刃を蒼白く光らせ勢いよく横殴りに振り回した。
「これで・・・どうだッ!!」
放った斬撃は半月型を描きながらオーガイの斬撃とぶつかると爆発し、周囲に砂埃をおこしながら相殺する。
「ぐっ!威力が強すぎたか!!・・・ん?」
砂埃を腕で庇い、視界が晴れるとオーガイの姿が消えていることに気付く。
「なっ!?いない!?」
「シエル!あっち!」
「えっ?」
シルヴァが指差す方を見るとそこには港の方へ撤退するオーガイの姿があった。
「アイツ・・・あの隙に逃げたのか!?」
「カイとウィルダーもオーガイの団員達を追って先に行ったわ。幸いここまで街に被害は無いしここで下手に戦うよりマシよ。」
「そうだね・・・深追いはしたくないけどカイとウィルダーの後を追わないと!行こう!シルヴァ、ルーチェ」
僕の言葉にシルヴァとルーチェは頷くと港の方へ撤退したオーガイを追うのだった。




