第33話:集結!騎士(シュバリエ)
新聞で師匠の進境を知り、少し気になりつつも街の散策を再開すると僕らは港近くの閑静な商店街前まで進んでいた。
「この辺は人通り少ないけど騎士達はちらほら居るんだね。」
「アルステルじゃいつもの光景だな。皆ブッ殺し甲斐があるじゃねぇか!」
「はぁ・・・アンタってホント戦う事しか考えないのね。」
「ヘッ、雑魚のてめぇには一生分からねぇな。」
「また雑魚って言ったわね!何よこの野蛮人!」
「何だ?やんのか?クソアマ!」
「はいストップ!」
いきなり喧嘩を始めたシルヴァとカイを間に入って制止する。
この二人・・・喧嘩しかしないな。
「だってシエル。カイが悪いんだよ!」
「舐められるテメェが悪ぃんだろ?」
「喧嘩両成敗。どっちも悪いよ。」
「えぇ~」
「チッ」
僕の言葉に不服そうな表情をするものの二人は渋々了承し、この場は治まる。
「うふふっ貴方も大変ね。」
「ルーチェも笑ってないで喧嘩を止めてよ。」
そんな中、傍らでくすくす笑うルーチェにガックリ肩を落とす。
「とりあえず気になるところがあるかもしれないしゆっくり歩いて回りたいね。そこから何処に行くか決めようか?」
「そうね。先ずは街を一通り回るのも有りかもしれないわね。」
僕の言葉にルーチェはこくりと頷く。
「じゃあ行こ!行こ!」
シルヴァがそう言いながら前に出てこちらに振り返った時だった。
「ええっ!?運勢が最悪なんですか!?」
突然、街の一般女性と思しき人物の声が響き渡る。
「なんだ?」
僕らもその声を聞いてすぐ近くにある店の前に目を向けるとそこには先程の声の主と思われる女性と耳にエラの様なものを生やした男が椅子に座って占いの様なものをしていた。
「アンタにはこれから凄惨な出来事が待ち受けている。俺の占いにはそう出てんだ。」
マゼンタ色の長い髪を靡かせた男はそう言うとテーブルに置いたタロットカードを表にして女性に見せた。
占い師だろうか?そう思った時だった。
「あの人は・・・未来視の天騎士・・・ウィルダーね。」
「未来視の天騎士?」
ふと、男の名を呟いたルーチェに顔を向け、眉を顰めた。
「えぇ、彼もまた私達と同じ騎士として活躍している人よ。」
「そうなのか?見た感じ占い師に見えるけど・・・。」
「ウィルダーは未来を視ることが出来る特殊な能力を持っているの。その力を使って占いを行い、ああやって一般市民に身の危険や災害を伝えて旅をしているそうよ。事実、これまで占いが外れたことは一切無いらしいわ。」
「ふぇえ・・・未来が視えるって凄い能力ね。」
ルーチェからウィルダーの能力を聞いてシルヴァはその力に驚きを見せた。
「勿論、騎士としての腕も確かで彼の実力と能力を見込んでスカウトする騎士団もいるそうだけど彼は敢えてそれを断り、単独で活動しているわ。」
「ヤツの事はオレも知っている。単独を貫いているってことは余程腕に自信があるみたいだな。」
「単独で活動か・・・」
カイすらも一目置く未来視の天騎士ウィルダーの経歴を聞いて僕は彼に目を向けた。
あんな人達がこの世界にはごまんといるのか?と心の中で呟いた瞬間・・・
「おい、お前ら道を開けてくれねぇか?」
そう後ろから声を掛けられて振り返るとそこには白衣を羽織った金髪のオールバックをしたエルフ族の青年が白衣を纏った集団を率いて立っていた。
「貴方は・・・”隔たり無き医師団”団長のオーガイね。」
「隔たり無き医師団?」
白衣の青年を見たルーチェに僕らは顔を向ける。
「ほう?俺の事を知ってるのかネェチャン。いいねぇ~この後お茶でもしないか?」
「あら?女癖が悪いって噂を聞くけど本当みたいね?私、こう見えても貴方より年上だし・・・高いわよ?」
「はっはっはっはっは!こりゃ一本取られたなぁ!冗談だ!改めて自己紹介しよう。俺はオーガイ!見ての通り騎士であり医者だ。」
「騎士なのに・・・医者?訳分からないわね。」
「オーガイ率いる隔たり無き医師団は名前の通り身分や国、地域の隔たり無く患者を治療しているのよ。一応、彼らもれっきとした騎士だから戦闘に於いての実力者もそろえているわ。」
ルーチェはシルヴァに隔たり無き医師団についてそう説明した。
「へぇえ~騎士は騎士でも色々いるのね。」
「あぁ、そんなとこだ嬢ちゃん。良かったら後でお茶でもしないか?」
「えぇっ!?」
「驚くなよ。俺がエスコートしてやるから」
「あの、やめてもらえませんか?」
シルヴァにもナンパしてきたオーガイに僕は少し嫌そうな顔をしながら彼の前に出る。
「ボーイフレンドか?青臭いなぁ~・・・だがアンタ、中々腕が立ちそうだな。どうだ?俺の団に入らねぇか?」
「勝手に決めんなよ。天下の医師団サマがよ?」
今度は僕を勧誘してきたオーガイにカイが不敵な笑みを浮かべながら詰め寄ってくる。
「なんだ貴様。先生に楯突くのか?」
「いいよヒデヲ。俺も火遊びをし過ぎたようだ。」
オーガイは自身の団員の一人である髭面の騎士に顔を向けながらそう言った時だった。
「なんの騒ぎですの?そこ・・・道を開けてくださるかしら?」
ふと女性の声が聞こえ、そちらに顔を向けるとそこには黒い鎧を着た騎士達が担ぐ御輿に乗ったドレス姿の少女が黒髪を靡かせながら赤い瞳をした眼でこちらを見つめると高そうな扇子で口元を隠した。
なんだ?この貴族みたいな子は。年齢的に僕やシルヴァと変わらなさそうだけど・・・
「貴方は・・・”ローズマリー騎士団”団長。ローズマリー・ルーデンベルクね。」
「あら、ワタクシのことをご存じですの?光栄ですわね。」
ルーチェから名前を呼ばれた少女は機嫌が良くなったのか御輿から降りてくると僕らの前に立ち、スカートの裾をつまみながら一礼する。
「改めましてワタクシがローズマリー・ルーデンベルクと申しますわ。ローゼと呼んでくださいまし。」
ローズマリー・・・もといローゼは改めて自己紹介し再び扇子で自身の口元を隠した。
・・・ん?ルーデンベルク?何処かで聞いたことがある苗字だな?確か何処かの国の貴族の家名だったような・・・まさかね。
「なんですの?人のことをじっと見て。」
「あぁ・・・いや、何でもないです。」
鋭い眼光で見られた僕は苦笑しながらローゼを宥める。
「よぉ、相変わらず高く留まってるな。」
「ぐっ!?貴方は・・・オーガイ!」
手を挙げながら挨拶してきたオーガイにローゼは顔を青くした。
「コ、コホン。な・・・何の用かしら?」
「いやぁ~その、なんだ・・・久々に会ったから一緒にお茶でもどうかと思ってな。」
「懲りないわねアンタ。」
性懲りもなくナンパするオーガイにシルヴァは呆れた表情を浮かべる。
「フッ、どうしてワタクシが貴方の様な下民とそのようなことをしないといけませんの?それより貴方も退いて下さる?ワタクシ・・・貴方と違って暇じゃないの。」
「・・・それが人に頼む言葉か?ローゼ。」
ふと、オーガイは先程とは打って変わり低い声でそう言うと腰に装備していた剣付の銃に手をかけ始めた。
「・・・ワタクシとやる気ですの?いいですわ。決めましょうか?どちらが上か・・・」
ローゼもまたオーガイを赤い眼で見つめると彼女の団員達が一斉に武器を構え始め、オーガイの団員達もそれに合わせて各々の武器を構え始めた。
「ちょ、ちょっと・・・急にどうしたのよ!?」
突然、臨戦態勢を摂り始めたオーガイ、ローゼ陣営にシルヴァは思わず言葉を漏らす。
・・・一体何が起こっているんだ?そんな僕の疑問に答えるかの様に一人の男が姿を現した。
「騎士団の争いだ。奴らは自分達の誇り、名誉の為に他の騎士団と争うことがある。」
「テメェは・・・未来視の!?」
「お前は・・・未来視の天騎士!?」
「あら、珍しいお客様ね。」
突如現れた未来視の天騎士・・・ウィルダーに僕やカイ達だけでなくオーガイ、ローゼ陣営からも驚きの声が上がった。
「貴方は・・・未来視の天騎士ウィルダー?」
「そんな肩書で呼ばれたくはない。俺は未来を視る力なんか欲しくは無かったからな。」
「す・・・すみません。」
僕の隣に立ったウィルダーはこちらを睨んでくると慌てて彼に謝罪する。
「まあいい・・・見たところアンタらは駆け出しの騎士か?にしても興味深い。」
「えっ?」
ウィルダーはそう言うと突然、僕を見て瞳を青くひらせると凝視し始める。
・・・な、なんだ!?
「さっきからアンタの事を見ていたが面白い。・・・アンタだけ未来が視えないんだ。」
「えっ!?」
「未来が視えねぇだと?」
「シエルだけ?」
「そうだ」
驚くシルヴァとカイにウィルダーは深く頷く。
「何故、未来が視えないのか・・・それはアンタの持つ武器・・・いや、その武器に認められたからか?」
「・・・どういう事だよ。」
息を呑みながらそう尋ねるとウィルダーは僕の腰にある剣・・・エクスカリバーを指して言った。
「アンタが持っているのは聖剣・・・エクスカリバーだろう?」
「ッ!?」
「何?聖剣!?」
「エクスカリバー!?文献で見たことがございますが・・・まさか本当に!?」
僕の扱う剣がエクスカリバーであるとウィルダーにシルヴァやカイ、更にはルーチェまでも緊張がはしる。
どうして・・・分かったんだ?
「俺はこう見えて色んな歴史ある文献を見てきた。占いや視た未来がどんなものかを理解するために必要だからな。最初はレプリカだと思ったが・・・遠目で見てもその剣から得体のしれない力を感じた。だから俺はアンタに興味を持った。」
「流石は未来を視る・・・いえ、占いで全てを見抜く騎士ね。」
ウィルダーの聖剣にまつわる知識と観察眼にルーチェは冷や汗をかきながら呟く。
「聖剣・・・確かエクスカリバーってのは精霊の力を扱える剣だったな?」
「まぁ、こんな下民がそんな代物を・・・ふぅん・・・」
刹那、オーガイとローゼは不敵な笑みを浮かべた。
「おい、お前・・・シエルとか言ったな?やっぱり俺の団に入らねぇか?」
「いいえ、こんなキザ男ではなくワタクシの団に入りなさい。貴方を特別にワタクシの側近にしてあげますわ?」
「ローゼ・・・引いてくれないか?」
「貴方も・・・引いて下さる?」
再び二人は睨み合うと彼らの団員達も身構える。
「お前ら!手ぇ出すな!ローゼは俺一人でやる。いいよな?」
「結構ですわ。貴方達、引きなさい。」
「し・・・しかし」
「お黙り!」
「は、はっ!」
心配そうな表情をする団員達を退かせたローゼは手にしていた扇子を仕舞うと腰にある花弁の装飾が付いた剣に手をかけた・・・次の瞬間
「オーガイ、引かないのなら仕方ないですわね。ワタクシも本気になって・・・やりますわ!!」
勢いよく地面を蹴って滑空したローゼは自身の剣を勢いよく振り上げ、オーガイへ斬りかかった。
しかし・・・オーガイは素早い動きで銃を取り出すと彼女の剣を銃剣で見事受け止めて弾き返す。
「ぐっ!?」
ローゼは空中で一回転しながらも地面を滑りながら着地し、体制を立て直す。
「まずいな・・・お前、シエルと言ったな?」
「は、はい」
ウィルダーに名前を呼ばれ僕は頷く。
「巻き込んでしまってすまない。奴らを止めるぞ。」
「言われなくてもそのつもりだ!暴れ甲斐があるからなァ!」
「そんなこと言ってる場合じゃないわよ!」
「そうね・・・ここで暴れて貰ったら困るわ。」
「最初からそのつもりだよ。二人を止めよう!」
僕らはウィルダーと並び立つと戦闘を始めたオーガイとローゼを止めるべく戦いに介入するのだった。




