第32話:オラルド王国首都アルステル
前回までのあらすじ
アイル共和国にて水の精霊ウンディーネの力とカイを二人目の仲間に加えたシエルは次なる目的地オラルド王国のあるローロッパ大陸へ向かう為、ダイダニック号へ乗り込む。船内にて自分たちの事を知る謎多き魔導士ルーチェに声を掛けられたシエル達は彼女の思惑に警戒しながらも一時行動を共にすることになった。
そんな中、ウェールズ王国の貴族ルーカン卿が何者かによって殺害され、シエル達はルーチェと共に事件を解決するため捜査を開始する。
捜査を続けていく内にルーカン卿を殺害した犯人がダイダニック号の船長マグカップであることが判明すると同時に彼がロワ帝国軍少佐にして諜報員のジョッキーであると判明した。
ダイダニック号防衛の為、ジョッキーと戦ったシエル達はルーチェの力もあり見事これを退けることに成功する。
事件解決後、新たな体制で航海を続けるダイダニック号の船員達を見届けたシエル達もまたルーチェを三人目の仲間に加え、次なる地オラルド王国を目指す。
一方その頃・・・アフラン大陸最南部喜望峰にて十二神騎総長ゼウスとラグナロク騎士団オーディンがアレスの帝国軍介入を巡って剣を交える。
この出来事を機にこの世界の秩序を保つ騎士達に大きな波紋を齎そうとしていた。
うっすらと靄がかる大海原・・・穏やかな波に乗りながら進むダイダック号の宿泊部屋で僕は目を覚ました。
「んっ・・・んん〜もう朝か。」
ルーカン卿殺害事件から数日経ち、平穏を取り戻した船内で思う存分羽を伸ばして過ごしていた。
恐らく今日くらいにはオラルド王国に到着することだろう。
「日も昇って来てるしそろそろ起きるか。」
ベッドから身体を起こし、青い海が広がる外の景色を眺めながら寝室を出るとリビングには銀髪のセミロングの髪を束ねた魔道士・・・ルーチェがソファに座って紅茶を呑みながら読書をしていた。
「あら、おはようシエル君。」
「おはようルーチェ。」
「よく眠れたかしら?」
「うん」
「そう、それは良かったわ。」
静かに微笑むルーチェの前に座った僕は暫く沈黙しながら恐る恐る彼女に声を掛けた。
「あのさ・・・ルーチェ」
「何かしら?」
彼女は視線を本に向けたまま返事をする。
「ルーチェって何処から来たの?」
「・・・答える必要があるのかしら?」
「えっ?そ、それは・・・仲間だから。」
「仲間だから・・・答えないといけないの?」
突然、冷たい視線を送ってくるルーチェに返す言葉を無くしてしまう。
「あう・・・ご、ごめんなさい。」
「謝る必要は無いわ。今は話せないの。それと・・・」
彼女はやや悪戯っぽい微笑みを浮かべてこちらを見た。
「弱気は禁物よ?特に女に弱気になったら・・・ね?」
「は・・・はあ」
「それより紅茶呑むかしら?今日は"フレンチ共和国"産の茶葉なの。」
「じゃあ・・・頂こうかな。」
「淹れてくるわ。待ってて」
ルーチェは笑みを浮かべながらポッドがある棚へ歩き出して紅茶を淹れ始める。
にしても・・・さっき自分の事を聞かれた時、なんであんなに怒ったのだろう?言えない理由とかがあるのかな?だとしたら申し訳ないな。
先程まで向けられていた冷たい視線を思い出しながらそう考える。
・・・これ以上、余計な詮索はやめよう。
「さ、出来たわ。」
「ありがとう」
ルーチェから紅茶の入った割賦を貰い、紅茶を堪能する。
「これも美味しい!ルーチェって色んな紅茶の茶葉を持っているんだね。」
「うふふっ口に合って良かったわ。」
「ふわぁぁ・・・おはよー」
直後、寝室からシルヴァが欠伸を一つかきながら現れる。
「おはようシルヴァ。」
「あっ!シエル、それにルーチェも!早いね二人共。」
「早起きは三文の徳って言うのよ?シルヴァちゃんも心がけてみたらどうかしら?」
「あはは・・・アタシ、早起きは苦手なんだよね。」
頬を少し赤くして苦笑しながらシルヴァはそう答える。
「あっ!カイもおはよう!」
「・・・おう」
続けてカイも起床してくると僕の隣に腰掛けた。
「確か今日だったな。この船がオラルドに着くのは。」
「うん、そうらしいよ。」
「なんか・・・あっという間な気がするよね。初日から大変だったけど。」
シルヴァはため息を吐きながらダイダニック号で起こった殺人事件を思い返す。
「ええ、そうね。でもあの事件がきっかけで私達は知り合えた。悪いことばかりじゃないわ。」
「うん・・・色々思う事はあるけど。」
「今更くよくよしたって仕方ねぇだろ。前を向け。」
「分かってる。」
カイに励まされ深い頷きを返したときだった。
ポーン
天井にある拡声器からチャイムが鳴り、僕らはほぼ同時に天井を見上げた。
『ご乗船ありがとうございます。当船はまもなくオラルド王国首都"アルステル"へ入港致します。皆様ここまでの長旅お疲れ様でした。またのご利用をお待ちしています。』
「・・・いよいよか!」
拡声器から流れたアナウンスを聞き、遂に辿り着いた新天地に胸を踊らせながら船を降りる準備に入る。
こうして約六日間の渡航を終えた僕らは新天地・・・ローロッパ大陸にあるオラルド王国へと足を踏み入れるのだった。
◇◇◇
オラルド王国首都アルステル・・・ローロッパ北西部に位置するこの国は人口凡そ1700万人を誇る大きな国で最先端の造船技術を持つ『船工房』を持つ事で知られている。
造船技術だけでなく首都アルステルの港には多くの騎士団が集まる場としても知られ、通称『騎士達の楽園』とも呼ばれているそうだ。
そんな場所へ辿り着いた僕らはようやく停泊したダイダック号から出ると新天地ローロッパ大陸への第一歩を踏み出した。
「ここが・・・オラルド王国!!新しい・・・大陸!!」
賑やかな街並み、海猫が飛び交う港、そしてそこに停泊する多くの騎士団達の船・・・まさに世界の入口とも呼べる景色を目の当たりにし、僕は目を輝かせた。
「うわぁ〜凄い賑やかね!」
シルヴァもまたアルステルの街並みを見て目をキラキラさせる。そんな彼女を見て僕は更に嬉しい気分になった。
「オレもアルステルには初めて来たが噂通りの賑やかさだな。流石は騎士達の楽園と呼ばれるまであるな。」
「騎士達の楽園か・・・思ったんだけどなんでアルステルがそう呼ばれているんだ?」
「ここは騎士達の乗る帆船が立ち寄りやすい海流にあって補給がしやすいの。だからこそ多くの騎士団が自然と集まる街へ成長したのよ。」
「そうなんだ」
ルーチェの説明を聞いて騎士団が集まる理由に納得する。正に騎士達によって栄えた街と言っても過言では無いだろう。
「それにしても・・・」
ふとルーチェは港に停泊している多くの帆船へ目を向けた。
「結構有名な騎士団が集まっているのね。」
「この船って皆、有名な騎士達のものなの?」
「ええ、でもまだ有名になり始めた騎士団が多いわね。・・・そう考えると貴方のライバルは多いわよ?シエル君。」
「大丈夫だよルーチェ!シエルだったら誰にも負けないわよ!ねっ?」
「えっ?あぁ・・・うん。」
笑みを浮かべながら肩を組んでくるシルヴァに戸惑いながらも返事を返す。
なんだ?まるで僕がリーダーみたいになってるみたいな言い方だけど・・・
「無駄話はそこまでにしてそろそろ街を回るぞ。折角、騎士達の楽園に来たんだ。ぶっ殺し甲斐が有る騎士も居るんだからよォ!」
「他の騎士に喧嘩を売るつもりは無いけど街を回るのは同感だよ。」
僕はカイにそう答えると早速、アルステルの街を回ることにした。
「凄く賑やかね。酒場とかに剣とか銃を装備した人達が居るけど皆騎士なのかな?」
「そうよ。なんせここは騎士達の楽園と呼ばれる街・・・騎士が居ない方がおかしいわ。」
喧騒が飛び交うアルステルの街の大通りまでやってくるとそこに居る人々を見たシルヴァにルーチェはそう答える。
「街の散策をするのは良いんだけど何処に行こうか?目移りしちゃうなぁ・・・。」
「・・・とは言っても酒場ばっかだがな。」
「ゆっくり見て回るといいわ。騎士達の楽園だもの。」
「そうだよね。ゆっくり回ろうか?」
ルーチェに頷き、兎に角街を歩き回ることにした僕は止めていた足を再び進めようとした途端・・・近くの酒場で新聞を呼んでいた騎士達の声が耳に入ってきた。
「おい、聞いたか?アフラン大陸の最南端にある"喜望峰”ってとこで十二神騎総長ゼウスとラグナロク騎士団のオーディンが剣を交えたらしいぜ?」
「・・・ッ!?」
「おいおいマジかよ!?オーディンってあの”生きる伝説”って呼ばれてる騎士だろ?ソイツが十二神騎の親玉と?」
それは師匠・・・オーディンに関する内容だった。
彼らの話が聞こえて来た瞬間、目の前が真っ白になった。傍らではルーチェが話をしている騎士達へ静かに目を向けていた。
「師匠が・・・戦った!?・・・十二神騎と?」
そう呟き、思考よりも行動が先に出て酒場の方へと駆け出した。
「あっ!ちょっと!シエル!」
シルヴァの呼び止めにも応じることなく気が付けば先程の話をしていた騎士達の前に立っていた。
「あ?なんだ兄ちゃん?見ない顔だな?」
「どうした?俺達になんか用か?」
「今の話・・・本当なんですか?」
「・・・え?」
「オーディンが十二神騎と戦ったって話です!!」
「お、おう、そうだ。新聞にもそう載ってらぁ」
勢いよくテーブルを叩く僕に戸惑いの表情を浮かべた騎士は手にしていた新聞の記事を見せてくるとまるで食いつくかのように新聞の記事へ目を通し、額から汗を流した。
『ラグナロク騎士団団長オーディン。喜望峰で十二神騎総長ゼウスと戦闘か?"世界連盟"加盟国緊急会談を決定。』
記事の内容を読んで新聞を持つ手が震えた。
師匠が・・・十二神騎と・・・それもそのリーダーと戦った?
十二神騎・・・それを聞いてアイル共和国で出会ったロワ帝国准将アレスのことを思い出す。
この"ゼウス"という奴がアレスのリーダーなのか?ソイツと師匠が戦いを?それより師匠は無事なのか!?
「な、なあ兄ちゃん大丈夫か?すげぇ顔が怖いぞ?」
「どうした?メシでも食うか?」
「いえ・・・大丈夫です。」
騎士達にそう答え、新聞を彼らに返すと重い足取りで皆の元へ戻った。
「おい大丈夫か?シエル。」
「・・・カイ、ルーチェ。喜望峰って何処にあるの?そこまで行ける船はある?」
「まさか喜望峰まで行こうとしてるの!?」
「当たり前だ!師匠が危険に晒されているんだよ?助けに行かないと!!」
「やめておけ。」
「なんで!?」
喜望峰へ向かうおうとする僕をカイが冷静な表情で制止する。
「ゼウスは十二神騎のリーダー・・・言うなればオレ達がアイルで戦ったアレスより強ぇ。今のオレ達じゃアレスどころか伝説の一角に立つあのジジイに手も足も出ねぇぞ。」
「それに喜望峰はかなり危険な海域にある場所。あそこまで行けるのはオーディンの様に強い騎士で無いと渡航は難しいわ。」
「くっ」
カイとルーチェの言葉にわなわなと拳を震わせてもどかしさを感じる。
「でもオーディンの事なら心配する必要は無いと思うわ。」
「えっ?」
「彼女は十二神騎とも渡り合える伝説の騎士・・・ゼウスもそれを分かった上で戦った筈。二人共SSR級の騎士団を率いる存在。いわば騎士達の頂点に立つ人達・・・そんな立場にいる者同士が戦いを起こせばどうなるかなんて二人共分かっている筈よ。恐らく今回も刃を交えただけで終わったでしょうね。それに・・・」
ルーチェは笑みを浮かべながら続けてこう言った。
「彼女がどれだけ強いかは貴方が一番知っているんじゃない?」
「・・・ッ!?」
その言葉にハッとなり、静かに俯いた。
「・・・そうだ。そうだよね・・・。師匠が強いって一番知ってるのは彼女を間近で見てきた僕が一番分かってる筈だ。取り乱す必要なんて無いよね。」
「オーディンもあのジジイと渡り合える位には強ぇ筈だ。今は心配する事はねぇよ。」
「そうだよ!だってシエルのお師匠さんだもん!」
皆に励まされ僕は元気を取り戻して深く頷いた。
「うん!ありがとう皆。」
「じゃあ気を取り直して街の散策を続けましょうか?」
「そうね!シエルも行こっ!」
「うん」
師匠の出来事を聞いて一時焦りを見せるも前を向いた僕は改めて街の散策を続けるのだった。
皆さんご無沙汰しています。JACKです。お待たせいたしました。本日よりChevalierの投稿を再開致します。執筆の調子もようやく改善してきましたのでこのまま気を落とすことなく活動して参ります。
今後ともよろしくお願いいたします。




