第30話:光輝の魔導士
ダイダニック号屋上・・・暗闇の空が広がる中、船の明かりだけが微かに照らすその場所で一人の人影が海を見つめながら立っていた。
「貴方だったんですね?ルーカン卿を殺したのは。」
屋上へやってきた僕らは人影にそう言いながら彼の前までやって来る。
「あの時貴方は娯楽室へ向かい、独りになったルーカン卿の前に現れた。そして・・・ビリヤードの台にあったキューを手に取り、隙を突いて彼の頭を殴った。」
事件の流れを淡々と話す僕を人影はじっと睨んでくるも沈黙を貫く。
「しかし、ルーカン卿は死に際に自身の血で英文字を書いた。ただ、貴方の名前を知らなかっであろうルーカン卿は貴方の着用していた服のネームプレートを見て、"CAPTAIN"と書き、息を引き取った。」
「でも、その文字は薄れていたから文字は鮮明に見えなかったの。」
僕の話を紡ぐかのように今度はルーチェが変わって話を続ける。
「だから私達は人の名前だと思っていた・・・トラッシュルームの焼却炉にある返り血を浴びた船員服を見るまではね。そこに捨てられていた船員服の胸元には"キャプテン"という文字が書かれたバッジが付いていたの。」
「キャプテン・・・それはこの船で"船長"を意味するものだった。決定的なのは事件発生直後に貴方はペンを落としたと言っていた。無いのは当然ですよ。だって娯楽室に"キャプテン"と文字が掘られた貴方のペンが落ちていたから。」
遂に明らかとなった事件の全容を聞いた人影はゆっくりこちらまで歩み寄るとその正体を顕にする。
「これで間違いないですよね?・・・マグカップ船長。」
僕らの前に居たのはこの船の船長・・・マグカップの姿だった。そう、彼がルーカン卿を殺害した犯人なのである。
「・・・ふむ、中々鋭い推理をされますな。意外と頭も良いと見ましたよ。」
マグカップ船長は掛けている眼鏡のレンズを曇らせて目の表情を隠す。
「どうして・・・船長さんがこんなことを!」
判明した犯人にシルヴァは少し哀しげな表情を浮かべる。
「貴族はカス共が多いのは分かるがソイツら以外の命を預かってるテメェがやる事じゃねぇだろうがな。なんか裏があんだろ?モグラ野郎。」
カイがマグカップ船長を睨みつけて問い詰める。
「クククククククククッ、ハッハッハッハッ!!!」
「テメェ!何がおかしい!!」
突然、高笑いするマグカップにカイは怒りの表情を浮かべて睨みつける。
「素晴らしい。威勢の良さも百点満点ですなぁ〜」
「おちょくるのも大概にしろよ?テメェ何様のつもりなんだ!!」
「おやおや?貴方がたはお強いのでしょう?全て聞いているのですよこちらは」
「聞いている?誰からだ?」
マグカップの言葉に眉を寄せた瞬間、彼は不敵な笑みを浮かべながらある人物の名を挙げた。
「それは勿論・・・"アレス准将"からです。」
「ッ!?アレスだと!?」
その人物の名を聞いて僕らに戦慄がはしった。
「な、なんでアレスからアタシ達のことを?」
「シルヴァ、聞かなくても分かんだろ!アイツさっき・・・アレスの事を准将って言ったんだぞ!」
「クククククッ!その通り!」
冷や汗をかくカイにマグカップは身につけていた服を脱ぎ捨て、見覚えのある赤い軍服姿を顕にした。
「ッ!?その軍服は・・・ロワ帝国!?」
「やはりな・・・テメェ帝国の軍人か?」
「その通りでございます!マグカップも偽名でしてねぇ〜私の本当の名はジョッキー。ロワ帝国軍少佐にして諜報員の一人でございますよ。」
「帝国の・・・諜報員?」
「帝国軍が他所の国に兵士を派遣して内部からいじくる部隊の事だ。」
化けの皮が剥がれたマグカップ否ロワ帝国軍少佐ジョッキーの役職についてカイがそう説明する。
「つまり彼はダイダニック号の船長としてこの場に潜り込み、作戦遂行の為に暗躍していたのね。」
「えぇ、もう潜伏して八年近く経ちますよ。」
「お前!目的は何なんだ!」
ジョッキーに怒りを見せた僕は彼を問い詰める。
「目的?答える必要があるのですかな?」
「惚けるな!お前のせいでルーカン卿が死んだんだぞ!」
「仕方ないでしょう?ブリテン島の三国で最も高い兵力を有しているウェールズが他大陸の国と接触されてはこちらも困るのですよ〜」
「それが仕方ない?・・・ふざけるなッ!!」
遂に怒鳴り声を挙げた僕は腰にあるエクスカリバーを構えて戦闘態勢にはいる。
「おやおやぁ〜恐ろしいですねぇ〜」
「シエル、テメェの怒りはオレにも分かる。アイツはここでぶっ殺すべきだ!」
「アタシも戦う!許さない!あんなヤツ!」
「同感ね。船の人の命も危険に晒されるわ。偽りの船長さんにはここで沈んで貰いましょう。」
「クククククッ!やれるものならやってみるのですね!私・・・こう見えて諜報員を任されるくらいには強いんですよォ?」
ジョッキーは低い声でそう言うと眼鏡のレンズを光らせると全身から濃紺の光を放ち、掌から触手のような得体の知れないものを出し始めた。
「何よあれ・・・・気持ち悪い。」
「あれは・・・魔石!?」
「魔石?」
ルーチェの放った言葉に僕は眉を寄せる。
それ何処かで聞いた事が・・・はっ!思い出した!確か火精の村でイノクマが使っていたものと同じものだ!!
「シエル、魔石って・・・イノクマが使ってたやつよね?」
「うん。確か使用者に絶大な力を誇るっていうものだった。」
「んな気味わりぃ代物を使ってんのか?」
「それだけじゃないわ。」
ルーチェは僕らに顔を向けながら知られざる魔石の恐ろしさについて言及する。
「魔石は確かに使った者を一時的に異形の姿へと変え、力を与える。ただ代償として寿命が大幅に縮むとされているわ。」
「な、何だって!?」
魔石の使用によるとんでもない代償に僕らは驚愕する。
「おやおやぁよく知ってますねぇ・・・その通り!ですが私は国の為ならば手段は選ばない性分でしてねぇ」
ジョッキーはそう言うと触手の様なものに包まれたと思いきやタコのような化け物の姿へと変わっていき僕らと対峙する。
「ありゃ・・・クラーケンか!?」
「クラーケンって何なの?」
カイが放った言葉にシルヴァが首を傾げる。
「深海に居るって言うタコのバケモンの事だ!アイツ、魔石を使ってクラーケンの姿を再現しやがった!」
「どっちでもいいよ!アイツはここで倒す!!」
「クククククッ!恐ろしいですねぇ騎士と言うものはッ!!」
ジョッキーは高笑いしながらタコ足を僕目掛けて勢いよく振り落として攻撃してくる。
「はっ!」
それを躱したもののタコ足が船体を叩きつけ、船が大きく揺れてしまう。
「ぐっ!」
「クククククッ!どうされますかな?私の攻撃を躱すと船にもダメージがいきますぞォ」
「汚ぇ野郎だ・・・」
未だ微かに揺れる船にカイは顔を顰めながらジョッキーを睨む。
どうする?このままだと奴の思うツボだ!何か・・・突破口は無いのか?
「皆!下がって!」
「えっ?」
するとルーチェが突然前に出て手にしていた杖をジョッキーに向け始める。
「"閃光!!"」
刹那、彼女の杖先から眩い光が放たれまるで奴を包むかの様に輝いた。
「うわぁぁぁっ!!目がぁぁぁぁ!!」
強い光をまともに受けてしまったジョッキーはタコ足となった手で目を覆いながら悶絶する。
・・・今よ!
そうアイコンタクトをこちらに送ってきたルーチェを見て、僕は察するとカイに声を掛けた。
「カイ!今のうちに!」
「任せろや!」
「行くぞッ!」
一気に駆け出した僕とカイはそのまま船を蹴るかのようにして飛び上がると依然として自身の目を庇うジョッキーを挟み撃ちにして互いの得物を横殴りに振り落とした。
「喰らえっ!"斬撃!!"」
「"海の怒槌"ッ!!」
そしてカイと息ピッタリに放った技でクラーケンと化したジョッキーを剣と薙刀で海まで吹き飛ばした。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!!」
空高く吹き飛んだジョッキーはそのまま大きな水飛沫を上げながら海へと落下する。
「やったぁぁ!!」
海に落ちたジョッキーを見てシルヴァが喜んだのも束の間、奴は水面から顔を出して複数のタコ足を拳の様に握り締めながら身構えてくる。
「おのれぇ!!これでも食らうのです!」
「させない!!」
それを見た僕は手にしているエクスカリバから赤色の光を放つと業火に包まれる。
火の精霊サラマンダーの力だ!
「カイ!」
「おう!」
傍らにいるカイに火の精霊の力を付与すると彼もまた業火を纏って燃え上がる。
続けて僕はエクスカリバーを青く光らせると水の精霊ウンディーネの力を解放してシルヴァへ付与した。
「シルヴァ!」
「オッケー!!」
シルヴァもまた渦を巻く水を纏うと矢を一本弓に汲んで準備する。
「それが精霊の力・・・フフッ面白そうね。」
静かに微笑んだルーチェもまた杖を構えると杖先に光弾を纏い始め、肥大化させていく。
「行くよ!皆!」
「「「うん!(おう!)(ええ!)」」」
「喰らいなさい!!乱拳ィ!!」
ジョッキーが数本のタコ足拳を繰り出した瞬間、シルヴァとルーチェが遠距離攻撃で反撃する。
「"深海の矢"!!」
「"光の雨"!!」
シルヴァの放った聖なる水の矢とルーチェが詠唱した無数の光が空から一気に降り掛かると瞬く間にジョッキーへ直撃する。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!!ぐうぅ!な、なんだ!この力はぁ!!」
「この程度でくたばんなよ!タコ!」
「ッ!?」
立て続けにカイが奴の目の前までやって来ると聖なる炎の薙刀を勢い良く振り落とした。
「"炎刃叢雲斬"ッ!!」
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!!」
カイが振り落とした炎の薙刀はジョッキーの胴体に傷を付け、大ダメージを与える。
「はぁぁぁぁぁあっ!!」
「ッ!?」
刹那、僕が最後に飛び上がり渦巻く巨大な水の刃をエクスカリバーに纏わせて振り上げる。
「おのれぇ!!まだだァァァ!!!」
「アイツ!まだ動くのか!?」
しかし、ジョッキーは最後の力を振り絞って拳をこちらへ振りかざしてくるが次の瞬間、光の輪の様なものが三つ、奴を拘束して動きを封じた。
「ぐわぁっ!な、なんだ!?これは!!」
「ルーチェ!?」
船の方に目を向けるとそこには光の輪を放ったであろうルーチェが光る杖を構えながら静かに頷く。
・・・ありがとう!
そう心の中で呟いた僕は一気にトドメを刺す。
「これで決める!"深海の斬撃"!!」
振り落とした聖なる水の刃は見事、ジョッキーの身体を両断して遂に仕留める。
「ああっ!!ぐわあぁぁぁぁぁぁあっ!!」
悲鳴を上げたジョッキーは顔を抑えながら仰向けに海へ倒れると大きな爆発と水飛沫を上げながら深海へと沈んでしまった。
「はぁ、はぁ、はぁ・・・」
息を切らしながら船に着地した僕は小さくなっていく水飛沫を見て気が抜けるかのようにその場へ座り込んだ。
「やったぁぁ!遂に倒した!」
「ったく、手間を取らせやがる。」
喜ぶシルヴァの隣でカイは微笑みながら薙刀を担ぐ。
「シエル君」
するとルーチェがこちらへ歩み寄ると小さな手を差し出して微笑んだ。
「大丈夫かしら?」
「・・・うん、大丈夫!ありがとう!」
僕もまた微笑んで彼女の手を取り、立ち上がると同時に地平線から陽の光が昇り始めるのだった。
Chevalier『シュバリエ』〜約束の騎士達の物語〜をご覧の皆様。こんにちは。JACK・OH・WANTANです。今年5/19から当作品が連載されてから既に半年経過していたことに驚きを隠せません。まだまだご覧いただける方々は少ないですが連載はまだ続きます。
さて、今回作者があとがきに顔を出したのは何を隠そうこの日の投稿を以て2024年最後の投稿となりました。恐らく今頃、年末に向けてお忙しい日々をお過ごしになられていることでしょう。
・・・と前置きはここまでにして2025年の連載再開時期・・・会社でいう仕事始めと言うのでしょうか?その日なのですが1/12の20:00からとさせて頂きます。
Chevalierの物語はこれから主人公シエルを中心に大きく揺れ動く展開となるでしょう!・・・少し言いすぎてしまいましたが果たしてシエルは師匠オーディンとの約束を果たせるのか?アレスの正体は何者なのか?2025年中に明らかにできたらいいなと思っています。
今後ともこの作品が少しでも多くの方の目に入ればと思います。それでは皆さんよいお年をお過ごしください。
JACK・OH・WANTAN




