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Chevalier『シュバリエ』〜約束の騎士達の物語〜  作者: JACK・OH・WANTAN
第零章 騎士と王子
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第2話:王子の苦悩

何故、シエルがここまで強さを求める様になったのか?それはテルの存在と王族としての環境が原因だった。


彼は元々余り勉強が出来ず、学問に於いては弟のテルに全て劣ってしまっており、多くの重臣や文官から「出来損ない」と言われ、テル本人からも「愚兄」と馬鹿にされるようになったらしい。


こうした背景もあってか重臣の殆どがテルに王位継承権を引き継ぐべきだと支持するようになってしまったのだ。


何をしても比較され、「第一王子なのに全てが劣っている」と言われる様になってしまったシエルは気が付くと剣を手にし、テルが唯一触れていない戦う力を付けることにしたという。


しかし、幼い王子に剣術を教えてくれる者など居る筈もなく使用人や兵士の目を盗んでは城の図書室や武器庫に侵入し、戦いの知識を得ながら早朝の海岸で木剣を振るう日々を送り始めたそうだ。自分の未来も全く見据える事が出来ず、ただ虚ろな目を浮かべたまま・・・そんな時、ここを訪れた私と出会って現在の様な関係になったという経緯だ。とても幼い少年が経験していい境遇はないのは火を見るより明らかだろう。


「師匠ごめんね。僕のせいで師匠もテル達から悪く言われて。」

「大丈夫だ。気にしていない。その代わり国王、女王様からは良くして貰っているからな。」


暫くして落ち着いたシエルは自分の事よりも私の事を悪く言われた事に謝罪する。・・・シエル、君は優しいな。君の方が遥かに辛い筈なのに。


「あら?オーディン様?」


突然、何者かに声を掛けられ、城の玄関に目をやると白いドレスを着た美女がこちらを見ながら立っていた。


ルシェル・ワース・・・ワース王国で一番美しいと評される女性にしてワース王国女王その人であり、シエルの母だ。


「母上!」


シエルは彼女を見るや否や、真っ先にそちらに駆け寄ってドレスのスカートにしがみついた。


「シエル、お帰りなさい。」

「女王陛下。申し訳ございません。送り届けるのか遅くなったでしょうか?」

「いいえ、花壇に向かおうとしたら丁度テル達と出くわしたので不意に貴女達の事が気になって様子を見に来たのです。」


女王は私に外へ出てきた理由を告げる。シエルとテルの関係を彼女は知っているせいか心配そうな顔をしていた。


「そうでしたか。ご心配をおかけした様で・・・。」

「いいえ、それよりもごめんなさい。シエルとテルの事情に巻き込んでしまって。」


私に首を振った女王は抱きついているシエルに目を向けて哀しい表情を浮かべた。


「女王陛下、部外者の私が申し上げる筋合いはないのですが・・・やはりこの事は国王陛下に話された方が良いのでは?」

「そうもいきませんわ。主人は公務や執務で多忙を極めておりますし何より重臣や文官、民も大切にされたいお方・・・二人の事を話すのはかえって心労させてしまうだけでは無いのかと思いまして。」


二人の事情を全く知らない国王にこの事を話しづらい彼女を見て、私は苦悩する。何かいい方法は無いのだろうか?シエルが城を自分の家だと思える方法は・・・


「でも、オーディン様がここに来られてからシエルは明るくなっている気がします。この事は本当に感謝しきれません。」

「とんでもございません女王陛下。私は騎士(シュバリエ)です。困った人間を助けるという本来の仕事を全うしているだけに過ぎませんから。」

「そんな事はありません。オーディン様がいてこそシエルは変われたのです。」


謙遜する私に女王は優しく笑みを浮かべる。元気になってなによりだ。シエルにとっては女王が味方で居るだけでも安心だろう。


「さあ、立ち話も疲れるでしょうしお茶でも召し上がって行って下さい。恐らく主人も執務を一段落終えて玉座に戻って来られると思いますので。」

「そうだよ!良いでしょ?師匠。」


お茶でも飲んで行けという女王にシエルも目を輝かせながらこちらを見つめてきた。・・・全く。お前と言う奴は。


「・・・ありがとうございます。でしたらお言葉に甘えて頂くとしましょう。」

「やった!早く上がって!師匠!」

「こ、こら!シエル!腕を引っ張るな!」


再び元気を取り戻してはしゃぎながら手を引くシエルに叱る私を見て、女王は静かながらも楽しそうな笑い声を上げた。私とシエルの長い一日はまだ始まったばかりである。


◇◇◇


玉座の間がある城の最上階へやって来た私はシエルと女王に連れられて長い廊下に敷かれたレッドカーペットを歩き、奥にある大きな扉の前まで辿り着く。私達を見た屈強な門番は笑顔で歓迎すると大きな扉を開いて玉座の間への入室を許可する。


「師匠!早く入って。」

「ああ」


シエルに手を引かれながら玉座の間へと入室すると一面黄金色の装飾と大きなシャンデリアが明かりを灯す豪華な部屋が私を出迎えた。部屋の隅には国王の趣味であろう高そうな壺が厳重に置かれており、その中には女王によって手入れされた生け花が飾られており、部屋の奥では玉座に深々と座り、私に笑顔を見せている男の姿があった。


オセオン・ワース17世・・・彼こそが何を隠そうワース王国国王その人にしてシエルの父である。


「やぁ!オーディン!久しぶりだな!会えて嬉しいぞ!はて・・・いつぶりだったかな?」

「はい。一週間前にシエル様を連れて来た時以来であります。」

「おや?そうであったかな?」


自信の前で跪きながら答える私に彼は目を丸くして首を傾げる。


「ご記憶にございませんか?」

「あぁ、いや。すまんの・・・最近、物忘れをよくしてしまってな。仕事のし過ぎかも知れぬ。」

「国王様、偶には休まれた方がいいのでは無いですか?」


多忙な国王を案じて彼の隣に立った女王は心配そうな顔をした。


「いや、そうもいかんよ。今日まで民が平和に暮らせているのも私達の努力あっての事。そしてこの様に素晴らしい部屋に住まわせて貰っているのも民のお陰だ。その恩を返さなくてはな。」


国王は女王にそう答えて首を横に振る。ワース国王は民を優先する稀にみる権力を誇示しない国王だ。それ故に私も尊敬している。


「オーディン、いつまで跪いておる。そちらに腰を掛けると良い。」

「はい。ありがとうございます。」

「僕、師匠の隣に座る!」


私は国王に勧められて部屋の片隅にある応接台の椅子へ腰掛けるとシエルが真っ先に私の隣に座って無邪気な笑みを浮かべた。


「はっはっはっはっ。シエルは本当にオーディンが好きなのだな。」

「うん、だって師匠だもん!」

「そうかそうか。はっはっはっはっ!」

「では、お茶淹れますわね。」


女王は慣れた手つきで紅茶を淹れ始めると部屋中に茶葉の香ばしい香りが漂い始め、自然と心が安らぐ気分になる。


「オーディン、私は感謝している。お主が我が国に訪れてからシエルはここまで元気になってくれた。ついこの間までは感情の乏しく私も心配していた程だったのだ。本当にありがとう。」

「と、とんでもございません!頭を上げてください!国王陛下。」


頭を下げた国王に私は慌てて頭を上げさせて首を横に振る。頭を下げられる程のことはしていない!


「人に何かをされたら頭を下げるのが礼儀というもの。お主には本当に頭を下げに下げきれん。」

「私はどの国にも忠義を示さない騎士です。お気待ちだけで十分です。」

「そうであったな。だが、それでも私は感謝したい。それが人と言うものだからな。」


そんな会話をしている内に紅茶を淹れ終わった女王が私達の前へ割賦を差し出していく。


「どうぞ、オーディン様。ゆっくりなさって下さい。」

「ありがとうございます。紅茶までご馳走になって。」

「いいんだよ。これが母上の「おもてなし」だから。」


シエルがそう言う彼女は微笑んで自分の割賦に紅茶を注ぐと国王の隣の席へ腰掛けた。


「では頂くとしようか。」

「ええ、頂きます。」


割賦を手に笑みを浮かべたワース国王に私も笑みを返し、紅茶を堪能しながらた玉座の間で楽しい時間を過ごすのだった。


◇◇◇


その夜・・・城から戻り、船の中にある自室の書斎に座った私はワース王国を出た後の次の航路を画策していた。あと二、三週間後には此処を出発して航海を再開しなければならない。半年は少し長い気もしたがいいリフレッシュにもなった。だが、いつまでもワース王国に留まる訳にはいかない。


私が旅立つと言えばシエルはきっと悲しむだろうな。いや、いつまでも彼の面倒を見てはやれない。その時が来たら・・・と考えていた矢先、部屋のドアをノックする音が聞こえてくる。


「誰だ?」


返事をするとヘーニルが葉巻を咥えながら部屋に入って来る。彼は私の右腕である副団長であり、航海士だ。恐らく次に航路に関しての話で来たのだろう。


「オーディン、坊主の子守りで忙しい所、申し訳無いが至急、耳に入れて欲しい事が起きた。」

「シエルの事は坊主の子守りでは無いんだが・・・耳に入れて欲しい事とは何だ?」

「今日の昼の事だ。城下町をバルドルと歩いていたら悪い噂を聞いた。」

「悪い噂?」


私は眉を寄せ、彼に顔を向ける。次の航路の話じゃない?一体何の話だ?


「奴が・・・"王殺しのロキ"がワース近隣に潜伏してるって噂だ。」


その名を聞いた途端、私は静かに目を見開いて驚き、戦慄が走った。

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― 新着の感想 ―
xより来ました。 外の世界を自由に渡り歩く孤高の女騎士オーディンと、王族という重圧と劣等感に押し潰されそうな幼い第一王子シエルが偶然出会い、剣術を通じて互いに影響を与え合いながら成長していく様が、荒削…
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