第25話:ダイダニック号
これまでのあらすじ
シルヴァを仲間に加え、アイル共和国へ辿り着いたシエルは街中で水の精霊に纏わる話を聞く。
そんな中、ロワ帝国の兵士達と戦う僧兵カイと出会ったシエルは彼の自宅で帝国の野望を聞き、カイの祖母から彼の過去を聞かされる。
翌朝、帝国軍がアイルの街に襲撃を行い、現場に向かったシエルとカイは十二神騎の一人にしてロワ帝国准将でもあるアレスと邂逅する。
アレスはシエルの事を知っている素振りを見せた後、彼に水面の洞窟へ向かう様言い残し、その場を去っていった。
一度カイの自宅へ戻ったシエルは水面の洞窟が水の精霊がいる場所であると聞かされ、アイル共和国を帝国の侵略から守る為、アレスと決着を付ける事にする。
水面の洞窟でアレスと二度目の邂逅を果たしたシエルはアイル共和国を守りたいというカイの強い意志に呼応して顕現したウンディーネの力を得ると何とかアレスを退けることに成功し、帝国軍はアイル共和国から撤退して行った。
ロワ帝国軍が撤退した後、エクスカリバーの事をカイに話したシエルは全ての精霊と会うことを決意し、カイを二人目の仲間に加えると次なる目的地をローロッパ大陸にあるオラルド王国へ定めた。
更に時を同じくしてアイル共和国で起こったことを新聞で知ったシエルの恩師オーディンとラグナロク騎士団は彼の旅立ちを喜ぶ傍ら、急遽行き先をアフラン大陸へ移す・・・。
シエルの師匠との約束を果たす冒険・・・それはやがて全ての精霊と出会う為の旅へと変わっていくのだった。
「あと少しで”オラルド王国”行きの船がある港へ着く。」
アイルの港までやって来るとカイは僕とシルヴァへ顔を向けながら言った。
「港も結構栄えているんだな。それに貴族も多いような気がする。」
「オレ達が乗る船は貴族も利用する。まぁ、関わることは殆どねぇがな。」
「貴族って国のお偉いさんとかだよね?なんでここの港の船を利用するの?」
貴族が客船を利用することに対してシルヴァは疑問を持つ。
「幾ら金持ちの貴族でも船までは簡単に入手出来ねぇ。それに手に入れたところで管理や整備もしねぇといけねぇからな。騎士団みたいに船を根城にしてるわけでもねぇしあのドケチなクソ共はこうして客船も使うんだよ。」
「へぇえ~船を持つって大変なのね。」
カイの説明に彼女は納得の表情を浮かべた。船か。僕も師匠みたいに騎士団を率いるとなったらいずれは手に入れる必要があるよね。客船ばかりで移動するのも効率が悪いし、便も限られてくる。・・・仲間が増えてきたら考えないといけないな。
「着いたぞ。ここがオラルド行の港だ。んであれが乗る船だ。」
そうこうしている内に港へ到着するとカイは停泊する船を指差した。
「うわぁ・・・」
「凄い!おっきい!!」
船を見た途端、僕とシルヴァはその外観に目を輝かせた。城と見間違えそうな大きさと高級感溢れる白い塗装。帆ではなく煙突が配置されていることから最先端の技術が使われている様だ。凄い!まるでワース城が船になったみたいだ!!
「このバカでかい船は客船”ダイダニック号”。約六日かけてアイルとオラルドを往復する定期船だ。オラルドの造船技術で作られた”石油”を燃料とする動力で動いている。」
「石油?なんなのよ?それ」
「テメェ石油も知らねぇのか??」
石油を知らないシルヴァにカイは困惑する。無理もない、彼女はずっと火精の森で暮らしていたし外の世界をあまり知らないのだ。
「石油は近年見つけられた鉱物資源のことだよ。”産業革命”が起こったのをきっかけにアイル共和国は貿易大国に名を馳せたって聞いたことがあるけど・・・まさか石油が船に使われているなんてね。」
「これまでアイルの”燃料型船舶”は鯨の油を使って運用していたらしいが石油が採掘されたことで劇的に進化したらしい。今じゃ多くの大国は石油が採掘される”油田”って所を血眼になって探してるらしいからな。」
「ふうんそんな事が起こってるんだ。」
「・・・っとそろそろ時間だな。あの列に並ぶぞ。」
カイはそう言うと目の前に並ぶ行列を指差した。既に多くの人で並んでおり、今か今かと乗船を待ちわびていた。
「確か船員さんから切符を買って乗り込めばいいんだよね?」
「あぁ、ここに並べば問題ねぇ。」
こうして僕らは乗船する列に並んで自分達の番を待つことにした・・・その時だった。
「おい!!何故私を先に乗せんのだ!!」
「なんだ?」
突然、列の先頭から怒号が聞こえてくるとそこには一人の男が切符を販売している船員を怒鳴りつけていた。身なりの良さから貴族であることは間違いないようだ。
「申し訳ございませんお客様。当船は貴族の方でも並ぶ決まりになっておりまして・・・」
「うるさい!!貴族が先に決まっているだろう!!船長を呼んで来い!」
「それは致しかねます。」
貴族の男に対して船員は困惑しながらも彼の希望に応えられないことを告げる。
「何?私に楯突く気か!?私はウェールズ王国の貴族だぞ!!無事にオラルドへ行かんというのに優先対応はしないのか?んん??」
「誰であろうと並んでご乗船いただくことになります。」
「まだ言うのか貴様ァ!ウェールズのことは知っているだろう?貴様のせいでアイルに兵を向けることだって出来るのだぞ!!」
ウェールズ王国の貴族と名乗る男に船員は遂に言葉を失ってしまう。後ろに並んでいる人たちも彼を見て顔を顰めている。服装のデザインから確かにウェールズの貴族で間違いないが余りにも横暴すぎる。
「なんか・・・揉めてるの?」
「待ちくたびれた貴族が痺れを切らして船員にキレたみたいだな。これだから貴族はクソ共が多いんだ。」
貴族と船員のやり取りを見てシルヴァはハラハラし始めるとカイは彼らをじっと睨んで見守る。・・・ウェールズの貴族ならこれは流石に放っておけない。僕は考えるよりも身体を先に動かして列の先頭まで歩き出した。
「あっ!ちょっとシエル!」
「おい!待て!」
二人の声を無視して僕は貴族の目の前まで歩み寄る。ここであまり素性を明かしたくないがやむを得ない。今、彼を止められそうなのは僕しかいない。
「うん?なんだね?貴様」
僕に気付いた貴族は険しい顔でこちらを見て眉を寄せるが臆することなく口を開いた。
「お取込み中失礼します。先ほど貴方はウェールズ王国の貴族であると仰いましたがここで醜態を晒すのはどうかと思います。」
「何?貴様も私に楯突くのか!?私の一言で貴様に兵も差し向けられるのだぞ!」
案の定、彼は怒って僕を睨む。テルはよくこんな我儘な人と対等にやり合えていたな。埒が明かないしこっちも攻めるか。
「ならば私もこの件をワース王国国王を経由してガハムレト国王に伝えさせて頂きますが?」
「はっ!笑わせてくれるそんなこと出来る訳・・・ッ!?」
貴族はもう一度僕を見た瞬間、固まると何かを思い出したかのように顔を青くした。ようやく僕の正体に気付いた様だ。
「そのお顔・・・まさか!?いや、何故ここに!?」
ようやく僕がワース王国の王子であると分かった貴族は次第に先程の威勢を無くして冷や汗を流し始めたが直ぐに人差し指を立てた。
「静かに!今私は訳あって国を離れている身です。私の事を他言無用にして頂く代わりに今までの横行を咎めて頂きたいです。ここはウェールズではなくアイル共和国。それもアイルとオラルドの民間が運用している船。貴族ならば出先ではその身分に見合った行動をするべきではないですか?」
「うぐっ・・・確かに貴方の仰る通りだ。寧ろ貴方もわざわざ旅人の格好をなされて並んでいる・・・明らかに私のしたことは我儘だ。」
自分のやったことに悔いの表情を浮かべた貴族は船員に深々と頭を下げた。
「先は失礼した。ウェールズ王国の代表として来ている自覚が薄れていたようだ。それを咎め、私は最後尾に並びなおすとしよう。」
「い、いえ・・・とんでもございません。」
突然、謝罪の言葉を述べて最後尾に並び始めた貴族に他の客達がざわめいた。
「おい、あの少年。ウェールズの貴族を説得したのか!?」
「一体、何者なの!?」
聞こえてくる声を無視してシルヴァとカイの元まで戻ってきた僕は何事もなかったかの様に戻ってくると二人は驚いた様子で話しかけた。
「シエル凄い!貴族の人を黙らせるなんて!?」
「お前何者なんだ?貴族を黙らせるなんて王族位だぞ?」
「い、いやぁ・・・知り合いに王族関係の人がいてね。その人の名前を出したらあっさり引き下がっただけだよ。」
僕はそう言って笑みを浮かべてはぐらかす。彼女達にはまだ自分がワース王国の王子であることを伝えてない。寧ろ明かすつもりもないしこうして本来の立場を使うのもこれが最初で最後だろう。そんな事をしている内にようやく僕らの番まで列が回ってくると船員から切符を購入して船内へ入った。
「わぁ!!広いし綺麗!!まるでお城みたい!!」
船内に入るや否やシャンデリアが吊るされた天井に大きな階段。床に敷き詰められたレッドカーペットが僕らを出迎えた。これは本当にお城みたいだ。
「広いな・・・豪華なのに切符は意外と安い価格だった気がするような。」
「船に乗るくらいならそんなにかからねぇよ。ただ部屋を借りたり、飯を食う時はその都度金がかかる。」
「そうなんだ。宿泊部屋は何処で抑えられるの?」
「あのカウンターだ。」
カイは目の前にあるカウンターを指差した。
「分かった。先ず先に部屋を借りようか?」
「そうね。行きましょうか?」
先に宿泊する部屋を借りるため僕らが歩き出した瞬間、後ろから声を掛けられた。
「そこの貴方達。ちょっといいかしら?」
「なんだ?」
声に呼び止められて振り返るとそこには黒いローブを身に纏った一人の少女が杖を片手に微笑みながら立っていた。
皆さんこんにちは。JACK・OH・WANTANです。約2週間程、突発で休載していましたが本日から連載を再開致します。(執筆が行き詰っていたなんて言えない)
徐々に調子は取り戻しつつありますのでどうぞ今後とも御贔屓の程、宜しくお願いいたします。




