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Chevalier『シュバリエ』〜約束の騎士達の物語〜  作者: JACK・OH・WANTAN
第三章:海神の槍兵
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第22話:水面の洞窟

 十二神騎の一人にしてロワ帝国准将アレスと邂逅した僕は気絶したカイを連れて何とか彼の自宅へと戻ってくる。


「それで・・・カイは大丈夫なの?」

「うん、身体を強く打ち付けてはいるけど気を失っているだけだから問題ないよ。」


リビングでカイの容態をシルヴァに伝えると2階へ続く階段から老婆・・・カイの祖母が降りてくる。


「おばあさん、カイは大丈夫なの?」

「心配してくれてありがとうねぇ・・・大丈夫だよ。ほら」


老婆がそういうと彼女に続いて意識を取り戻したカイが頭に包帯を巻いた状態で降りてくる。


「カイ!」

「もう大丈夫なの?」

「うるせぇ」


俯いたままそう呟いた彼は玄関の方へ真っすぐ足を進めていく。


「ちょっと!どこ行くつもりなのよ!」

「決まってんだろ!帝国の奴らをぶっ殺す!」

「そんな状態で戦える訳ないでしょ!」

「うるせぇ!テメェみたいなザコにオレの何が分かんだよ!」

「アンタねぇ!そんなこと言うのもいい加減にしなさいよ!」

「んだとテメェ!」

「二人共やめて!」


睨み合うシルヴァとカイを僕は引き離して仲裁する。


「今、街の方では帝国兵が居ないもののアイル共和国の憲兵隊が張り込んでいるらしい。街に行ったところでアレス率いる帝国軍は居ないと思う。」

「それで・・・そのアレスって奴はシエルになんて言ってたの?」

「アレスは侵攻を阻止したければここから少し離れた所にある"水面の洞窟"へ来い。そこにお前の求めているものもある・・・って言っていた。」

「水面の洞窟?何処なのよそこ。それにアタシ達が求めているものって何なのよ。」

「分からない。」

「そう・・・よね。どうしたらいいんだろ・・・。」


”水面の洞窟”についての場所が分からず僕はシルヴァに力なく首を横に振った時だった。


「水面の洞窟?お前さん、今水面の洞窟と言ったのか?」

「えっ!?お婆さん知ってるの!?」


突然老婆が驚いた様子を見せ、僕達は彼女へ目を向けた。


「知らないも何もそこには昔、”ウンディーネ様”が眠っておられたとされる場所さね。」

「水の精霊が眠っていた場所!?」

「えぇ、お前さんたちと同じ位の歳の頃に洞窟の事は親からなんべんも聞かされたからねぇ」

「それって・・・何処にあるんですか!?」

「はて・・・何処だったかねぇ~」


老婆は何とか思い出そうと目線を上に向けた時だった。


「・・・中心街から東に離れた海岸線の奥だ。」


カイが口を開き、水面の洞窟の場所を告げる。


「カイも知ってるの?」

「昔、婆ちゃんから話を聞いたからな。精霊の存在は信じてねぇが何故か覚えていた。」

「シエル・・・これって!」

「うん、これでアレスが何処いるのかも見当が付いた。」

「ヤツがそこに居るってんなら話は早ぇな。自ら居場所を教えるとは・・・ぶっ殺し甲斐があるぜ。」


笑みを浮かべたカイは腕を鳴らして調子を取り戻し始める。


水の精霊ウンディーネが眠る洞窟・・・アレスの言う僕らが求めているもの・・・もしかしたらそれは恐らくウンディーネの事だろうか?


どっちにしてもこれ以上のアイルへの侵攻を止めるために動かないといけない。


「水面の洞窟へ向かおう。アイル共和国を守る為にも!」

「うん!」


僕の言葉にシルヴァが頷くとカイは呆れたかのようにため息をついた。


「はぁ・・・わーったよ。テメェらも付いていくなら好きにしろ。だが、これだけは言わせろよ。」

「何よ?また文句でもあるの?」


シルヴァが嫌そうな顔をして何か言おうとするカイへ顔を向ける。


「・・・ぜってぇに死ぬんじゃねぇぞ。」

「カイ・・・」

「ふ、ふん!当たり前じゃない!絶対に生きて帰るに決まってるでしょ?」


そう言い返したシルヴァに彼は少しだけ笑みを浮かべる。


「お前さん達を見ていると若い頃の息子を見ているみたいだよ」


老婆は僕達に歩み寄ると昔を懐かしむかのようにカイを見る。


「カイ、気を付けて行くんだよ。」

「婆ちゃん・・・ありがとな。オレ、ボロボロでもやっぱ戦うよ。アイルを奪われたくねぇからさ。」

「今更止めても諦めないのは分かっているよ。でも無理はするんじゃないよ。」

「あぁ、わーってる。」

「お二人さん、孫を支えてやってくれんか?」

「勿論です。共に戦う”仲間”ですから!」

「そうよ。だから心配しないでよ。」


僕とシルヴァはそう言って老婆に笑みを浮かべる。


こうして僕らのアイルを帝国の魔の手から守る為の戦いが始まろうとしていた。


◇◇◇


 アイル共和国首都ロンデンから東へ進んだ海岸線・・・海が穏やかに波打つ中、僕らは見晴らしのいい荒野を進んでいた。


「この先を進めば水面の洞窟に辿り着ける。」

「その洞窟にアレスと水の精霊ウンディーネが居るのね。」

「あぁ多分な。」


カイはそう言うとシルヴァに深く頷く。


「帝国兵の姿も見えない・・・でも何処かで伏兵を構えている可能性もあるから慎重に行こうか?」

「そうね。幾ら見晴らしがいいからって油断は禁物ね。」

「時間も無くなるし早く進もう。」


僕は二人に顔を向け、歩き出そうとした時だった。


「おい」


ふとカイが僕を呼び止める。


「どうしたの?」

「お前はここまでして本当にアイツを・・・帝国を止めるのか?」

「当たり前だよ。アイルの人達が危機に晒されている。だから僕は戦いたい。」

「騎士だから助けるのか?オレ達を」

「いいや」


その言葉に僕は首を横に振って真剣な表情で答える。


「"仲間"が守りたい場所だから一緒に守りたいんだ。」

「オレはテメェを仲間と呼んだ覚えはねぇぞ?」

「だったらこの時だけでも仲間と呼んで欲しい。僕は全てを背負う覚悟も出来ているから!」

「・・・ッ!?」


カイは僕を見ると暫く黙りこみ、満足気な笑みを浮かべはじめた。


「ククククッ・・・お前、やっぱり面白ぇ野郎だな。気に入ったぜ。」

「カイ?」


彼は僕の肩を叩くと薙刀を担いで歩き出す。


「どうした?行くぞ。アイルを護るためにテメェを使ってやるから覚悟しろよ。」

「ふふっ・・・臨むところだよ。」

「仕方ないわね。ザコだけど手伝うわ。寧ろ、そう呼んだことを後悔させてやるんだから。」


僕らはそう言うと互いに微笑みあって結束を深め、緊迫した空気を少しだけ和ませながら水面の洞窟を目指して再び歩き出すのだった。


◇◇◇


 陽の光が西に傾き、地平線が暁に染まった頃・・・僕らは海が広がる崖にある大きな洞窟の入り口の前に立っていた。


「ここが”水面の洞窟”だね。」

「あぁ、そうだ。」

「中はひんやりしてるのね。風がここまで吹いてきてるわ。」


シルヴァは洞窟の中を覗きこんでここまで吹いてくる風を感じる。


「それとここに来るまで帝国の軍艦らしきモンが崖の近くで停泊してるのを見た。アレスがここにいんのは間違いないな。」

「どっちにしても僕は向かうつもりだよ。アイルの人達を守る為にもね。」

「同感だ。今度こそアレスをぶっ殺す。」

「うん!」

「よし・・・行こう!」


僕の隣に並び立つ二人に声を掛け、いよいよ水面の洞窟の中へと足を踏み入れる。


◇◇◇


ピチャピチャと水滴が滴り落ちる薄暗い洞窟の中へ入った僕らは僅かな光を頼りにひんやりとした足場の悪い道を進んでいく。


「ここやっぱり寒いわね。」

「シルヴァ大丈夫?」

「うん」


寒さに震えるシルヴァに顔を向けながら僕は先頭に立って進んでいく。


「それにしてもどうしてアレスって奴はアタシ達をここにおびき寄せたのかしら?」

「知るか!それは奴をぶっ殺してから吐かせりゃ良いんだよ。」


シルヴァの言葉にカイは眉間に皺を寄せながら答える。


「何はどうあれ僕は前に進むよ。アレスや帝国にこれ以上好き勝手させる訳にはいかないから。」

「同感だァ・・・そろそろ気を引き締めろ。もうすぐで洞窟の奥に着くぞ。」

「うん」


カイに頷き、次第に口数を減らして洞窟の奥地を目指す。


暫く進んでいくと洞窟の道が広くなっていき、やがて大きな水たまりが出来た広い空間へと辿り着いた。


「行き止まりか・・・ここが洞窟の奥地で間違いないみたいだね。」

「にしても不思議な所ね。」


シルヴァは空間に広がる幻想的な景色を見て呟く。


洞窟の奥地は上から海の様に青い光が放たれており、その影響で水面や岩肌全てが青い光に包まれている神秘的な光景を見せていた。


「綺麗・・・まるで海の中にいるみたい。」

「景色に見とれてんじゃねぇよ。奴がいるかもしれねぇ。」

「っと・・・そうだったね。」


カイの言葉に僕らは気を引き締め直す。


そうだ。ここが奥地なら奴が・・・アレスがいるかもしれない。奴は何処にいる?


「待っていたぞ」


刹那、僕らの前から声が聞こえ、緊張が走る。


この声は・・・間違いない!奴だ!


僕らに声を掛けた人物は水たまりの地面に足音を立てながら緋色の鎧を纏った姿を現した。


「あ、アイツが・・・アレスなの?」

「うん。間違いない!」


初めてアレスを見たシルヴァは脚がすくみそうになるもなんとか気を保って彼を見つめる。


「まさか本当にテメェが待ち構えてたなんてな。次はあんな風にはならねぇぞ!」

「相変わらず威勢がいいな。だが、貴様らが束になったところで俺に勝てるのか?」


兜の目から冷たい青い瞳を覗かせてくるアレスに僕らは無言で得物を構え、答えを示す。


「・・・覚悟は出来ている様だな。良かろう。貴様らが俺に勝てればアイルから退いてやる。だが貴様らが負けれた場合、アイルは帝国領にさせて貰うぞ。」


アレスはそう言うと得物である緋色の剣を手にして刃に炎を纏い始める。


「うっ・・・なんて気迫なの?こ、怖い。」

「今更、狼狽えんじゃねぇ・・・来るぞ!」

「うん!」


緊迫する中、腹を括った僕らはアイルの命運を懸け、遂にアレスと相対するのだった。

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