第22話:水面の洞窟
十二神騎の一人にしてロワ帝国准将アレスと邂逅した僕は気絶したカイを連れて何とか彼の自宅へと戻ってくる。
「それでカイは大丈夫なの?」
「うん、身体を強く打ち付けてはいるけど気を失っているだけだから問題ないよ。」
リビングでカイの容態をシルヴァに伝えると階段から老婆・・・カイの祖母が降りてくる。
「おばあさん、カイは大丈夫なの?」
「心配してくれてありがとうねぇ。大丈夫だよ・・・ほら。」
老婆がそう言うと彼女に続いてカイが頭に包帯を巻いた状態で降りてくる。
「カイ!」
「もう大丈夫なの?」
「うるせぇ」
俯いたままそう呟いた彼は玄関の方へ真っすぐ足を進めていく。
「ちょっと!どこ行くつもりなのよ!」
「決まってんだろ!帝国の奴らをぶっ殺す!」
「そんな状態で戦える訳ないでしょ?」
もう一度帝国を倒すと言い出したカイをシルヴァが制止する。
「うるせぇ!テメェみたいなザコにオレの何が分かんだよ!」
「アンタねぇ!そんなこと言うのもいい加減にしなさいよ!」
「二人共やめて!」
睨み合うシルヴァとカイを僕は引き離して仲裁する。こんな時に喧嘩するなよ。
「今、街の方では帝国兵が居ないもののアイル共和国の憲兵隊が張り込んでいるらしい。街に行ったところでアレス率いる帝国軍は居ないと思う。」
「それで?そのアレスって奴はシエルになんて言ってたの?」
シルヴァは僕にそう尋ねる。
「アレスは侵攻を阻止したければここから少し離れた所にある"水面の洞窟"へ来るように言っていた。そこに僕らの求めているものがあるらしい。」
「水面の洞窟?何処なのよそこ。それにアタシ達が求めているものって何なのよ。」
彼女の言葉に僕は首を横に振った。
「分からない。」
「そうよね。どうしたらいいんだろ?」
”水面の洞窟”についての場所が分からず沈黙した時だった。
「水面の洞窟?お前さん!今、水面の洞窟と言ったかい?」
「えっ!?お婆さん知ってるの!?」
突然、老婆が声を上げると僕達は彼女に目を向けた。
「知らないも何もそこには”ウンディーネ様”が眠っているとされる場所だよ。」
「水の精霊が眠っていた場所!?」
思わぬ精霊の情報に僕とシルヴァはほぼ同時に喋った。
「私もお前さん達と同じくらいの歳に親からなんべんも洞窟の事を聞かされたからねぇ」
「それって何処にあるんですか?」
「はて・・・何処だったかねぇ~」
老婆は何とか思い出そうと首を傾げた瞬間・・・
「中心街から東に離れた海岸線の奥だ。」
カイが口を開き、水面の洞窟の場所を答える。
「カイも知ってるの?」
「昔、婆ちゃんから話を聞いたからな。精霊の存在は信じてねぇが何故か覚えていた。」
「シエル。これって!」
「うん、これでアレスが何処いるのかも見当が付いた。」
「ヤツがそこに居るってんなら話は早ぇな。自ら居場所を教えるとは・・・ぶっ殺し甲斐があるぜ。」
笑みを浮かべたカイは腕を鳴らして調子を取り戻す。水の精霊ウンディーネが眠る洞窟・・・アレスの言う僕らが求めているものとは恐らくウンディーネの事だろうか?どっちにしてもこれ以上のアイルへの侵攻を止める為には行かなければならない。
「水面の洞窟へ向かおう。アイルを守る為にも!」
「うん!」
僕の言葉にシルヴァが頷くとカイは呆れたかのように溜息をついた。
「・・・わーったよ。テメェらも付いていくなら好きにしろ。だが、これだけは言わせろよ。」
「何よ?また文句でもあるの?」
シルヴァが嫌そうな顔をすると彼はこう呟く。
「・・・ぜってぇに死ぬんじゃねぇぞ。」
「あ、当たり前じゃない!絶対に生きて帰るに決まってるでしょ?」
カイの言葉にシルヴァは戸惑いながら答えると彼は少しだけ笑みを浮かべる。どうやらこの二人も互いに心を開き始めたみたいだ。
「お前さん達を見ていると若い頃の息子を見ているみたいだよ。」
そんな僕らに老婆は昔を懐かしむかのようにそう言うとカイを見た。
「カイ、気を付けて行くんだよ。」
「婆ちゃん・・・ありがとな。オレ、ボロボロでもやっぱ戦うよ。アイルを奪われたくねぇからさ。」
「今更止めても諦めないのは分かっているよ。でも無理はするんじゃないよ。」
「あぁ、わーってる。」
カイに励ましの言葉を送った老婆は続けて僕とシルヴァへ顔を向けて言った。
「お二人さん、孫を支えてやってくれんか?」
「勿論です。共に戦う”仲間”ですから!」
「そうよ。だから心配しないでよ。」
僕とシルヴァはそう答え、笑みを浮かべる。こうしてアイルを帝国の魔の手から守る為の戦いが始まろうとしていた。
◇◇◇
アイルの街から東へ進んだ海岸線・・・海が穏やかに波打つ中、僕らは荒野を進んでいく。
「この先を進めば水面の洞窟に辿り着ける。」
「その洞窟にアレスと水の精霊ウンディーネが居るのね?」
「あぁ多分な。」
カイはシルヴァにそう言って深く頷いた。
「帝国兵の姿も見えないな。でも何処かで伏兵を構えている可能性もあるから慎重に行こうか?」
「そうね。幾ら見晴らしがいいからって油断は禁物ね。」
「時間も無いし早く進もう。」
「おい」
足を進めた僕をカイが呼び止める。
「どうしたの?」
「お前はここまでして本当にアイツを・・・帝国を止めるのか?」
「当たり前だよ。アイルの人達が危機に晒されている。だから僕は戦いたい。」
「騎士だから助けるのか?オレ達を」
「いいや」
その言葉に僕は首を横に振って答えた。
「"仲間"が守りたい場所だから一緒に守りたいんだ。」
「オレはテメェを仲間と呼んだ覚えはねぇぞ?」
「だったらこの時だけでも仲間と呼んで欲しい。僕は全てを背負う覚悟も出来ているから!」
カイは僕を見ると暫く黙りこみ、満足気な笑みを浮かべた。
「ククククッ・・・お前、やっぱり面白ぇ野郎だな。気に入ったぜ。」
「カイ?」
彼は僕の肩を叩く。なんだ?嬉しそうな笑みを浮かべて。
「どうした?行くぞ。アイルを護るためにテメェを使ってやるから覚悟しろよ。」
「ふふっ・・・臨むところだよ。」
「仕方ないわね。ザコだけど手伝うわ。寧ろそう呼んだことを後悔させてやるんだから。」
僕らは互いに微笑みあって結束を深め、緊迫した空気を和ませると水面の洞窟を目指して再び歩き出すのだった。
◇◇◇
「ここが”水面の洞窟”だね。」
「あぁ、そうだ。」
「中はひんやりしてるのね。風がここまで吹いてきてるわ。」
洞窟の入り口まで辿り着くとシルヴァは中から吹いてくる風を感じる。
「ここに来るまで帝国の軍艦らしきモンが崖の近くで停泊してるのを見た。アレスがここにいんのは間違いないな。」
「どっちにしても僕は向かうつもりだよ。アイルの人達を守る為にもね。」
「同感だ。今度こそアレスをぶっ殺す。」
「うん!」
僕の隣に並び立つ二人に頷くと、いよいよ水面の洞窟の中へと足を踏み入れる。洞窟の中は水滴が滴り落ちる薄暗い空間となっており、僕らは僅かな光を頼りにひんやりとした足場の悪い道を進んでいく。
「ここやっぱり寒いわね。」
「シルヴァ大丈夫?」
「うん」
寒さに震えるシルヴァに顔を向けながら僕は先頭を進む。海沿いということもあってか確かに寒い。それに彼女は寒さには慣れていないだろうし体力を消耗しやすいだろう。
「それにしてもどうしてアレスって奴はアタシ達をここにおびき寄せたのかしら?」
「知るか。それは奴を八つ裂きにしてから吐かせりゃ良いんだよ。」
シルヴァの言葉にカイはそう答える。
「何はどうあれ僕は前に進むよ。アレスや帝国にこれ以上好き勝手させる訳にはいかないから。」
「同感だ。・・・おい、そろそろ気を引き締めろ。もうすぐで洞窟の奥に着くぞ。」
「うん」
カイに頷き、次第に口数を減らして進んでいくと次第に道が広くなっていき、大きな水たまりが広がった空間へ辿り着いた。
「行き止まりか。ここが洞窟の奥地で間違いないみたいだね。」
「にしても不思議な所ね。」
シルヴァは空間に広がる幻想的な景色を見て呟いた。洞窟の奥地は上から海の様に青い光が放たれており、その影響で水面や岩肌全てが青い光に照らされている神秘的な光景となっていた。
「綺麗・・・まるで海の中にいるみたい。」
「景色に見とれてんじゃねぇよ。奴がいるかもしれねぇ。」
「っと・・・そうだったね。」
カイの言葉に僕らは気を引き締め直す。そうだ。ここが奥地ならアレスがいるかもしれない。奴は何処にいる?
「待っていたぞ。」
刹那、何処からか声が聞こえ、僕らに緊張が走る。この声は間違いない!奴だ!僕らに声を掛けてきた人物は水たまりを歩きながら緋色の鎧を纏った姿を現した。
「アイツがアレスなの?」
「うん。間違いない!」
初めてアレスを見たシルヴァはその気迫に脚が竦みそうになるもなんとか気を保って彼を見つめる。
「まさか本当にテメェが待ち構えてたなんてな。次はあんな風にはならねぇぞ!」
「相変わらず威勢がいいな。だが貴様らが束になったところで俺に勝てるのか?」
兜の目から冷たい青い瞳を覗かせてくるアレスに僕らは無言で得物を構えて答えを示す。
「覚悟は出来ている様だな。・・・良かろう。貴様らが俺に勝てればアイルから退いてやる。だが貴様らが負けれた場合、アイルは帝国領にさせて貰うぞ。」
アレスはそう言うと得物である緋色の剣を手にして刃に炎を纏った。
「うっ・・・なんて気迫なの?こ、怖い。」
「今更、狼狽えんじゃねぇ!来るぞ!」
緊迫する中、腹を括った僕らはアイルの命運を懸けて遂にアレスと相対するのだった。




