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Chevalier『シュバリエ』〜約束の騎士達の物語〜  作者: JACK・OH・WANTAN
第三章:海神の槍兵
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第21話:緋色の騎士

翌日・・・カイと老婆の自宅で一夜を過ごすことになった僕は早朝になってリビングへと顔を出した。


「ふわぁぁ・・・よく寝れたなぁ・・・ん?」


欠伸をしながらリビングに入るとそこにはカイが一人、珈琲を飲みながらソファに座っていた。


「カイ、おはよう」

「・・・テメェかよ。」


僕を見るや否や嫌そうな表情をしてそっぽを向くも臆すること無く彼の向かい側に腰掛ける。


とは言え・・・彼とどう向き合えばいいだろう?怒ってはなさそうだけど・・・話の話題を考えながら暫く沈黙に包まれた時だった。


「おい」


ふと、カイがこちらに目を向けて話しかけてくる。


「お前は騎士だって言ってたが・・・何で始めようと思ったんだ?」


そう尋ねられ僕は微笑みながら答える。


「僕には目標としている人がいるんだ。その人は強くて優しくて・・・いつかその人の様に誰でも助けられる人になりたいと思ったんだ。」

「・・・お前の強さはそこからきているのか?」

「全部が僕の強さじゃないよ。でも、互いに助け合うのが人間なんじゃないかな?」

「そうかよ」


僕の答えにカイは小さく呟きながら腕を組む。


「オレはガキの頃、両親が戦争で死んだ。その時はまだガキだったが力があれば助けられたかもしれねぇってつぐつぐ思うんだよ。あの悲劇を繰り返しちゃいけねぇってな。」


外の景色を眺めながらカイは拳を握り締めて小さく震わせる。


「だからオレは一人で戦おうって決めた。誰の手を借りずにあの帝国野郎共をぶっ飛ばす。それがオレがやれる仇討ちだ。力こそが全てを制する事が出来んだ。」

「カイ・・・」


ロワ帝国に対する憎しみを顕にする彼の瞳を見て返す言葉を失う。親の仇討ちの為に力に溺れた・・・帝国はここまで人を歪ませるのか?僕は彼に何を教えられるのだろう?


そう自問自答を繰り返していた時だった。


ドゴオオオオン


「「ッ!?」」


突然、街の方から轟音が聞こえるともくもくと黒煙が上がり始める。


「今のは・・・砲撃?」

「まさか・・・クソッ!」


カイは血相を変えると直ぐさま薙刀を手にして家を飛び出す。


「あっ、カイ!ちょっと待って!」


そんな彼を僕は慌てて追いかけ、外に出ると黒煙が上がった方へと急いで向かうのだった。


◇◇◇


アイル共和国首都ロンデンの中心街・・・いつもなら多くの人だかりで埋めつくられる街並みは今、一つの放たれた砲弾によって壊滅していた。


炎に燃えながら崩れ落ちる家屋、砲撃の衝撃によって地に伏せている人々、そんな彼らに構うことなく街を歩き出す赤服の軍隊・・・正に地獄絵図そのものの風景であった。


「嘘だろ・・・アイルの街が」


戦場と化した中心街へやって来た僕とカイは辺りを見渡して絶句する。


「ふざけんなよ・・・テメェらはオレ達からどんだけ奪ったら気が済むんだよ!」

「カイ・・・」


わなわなと震えるカイに僕が顔を向けた時だった。


「おい!そこで何をしている!」


前方からロワ帝国の兵士達がやって来ると僕らの前に立ち止まって声を掛けてくる。


「何を・・・しているだと?」


刹那、カイの何かが吹っ切れてしまい彼は顔を上げると鬼のような形相で薙刀を振り上げて言った。


「それは・・・こっちのセリフの何だよクソ野郎共がァァァァ!!」


カイは帝国兵目掛けて容赦なく薙刀を振り落とすと蒼白い斬撃が飛び交い、彼らに直撃する。


「「うわぁぁぁぁぁぁっ!!」」

「失せろォ!」

「「ぐわぁぁぁぁぁぁっ!!」」

「オラァァァァァッ!!!」

「「ぎゃぁぁぁぁっ!!」」

「なんて奴だ・・・」

「あのガキ、強いぞ!」

「まだ・・・失せてねぇのかよ?」

「「ひっ!?」」


残った帝国兵に鳶色の目を光らせたカイは再び薙刀を振り上げて身構える。


「この野郎!くたばれ!」

「させるか!」


すると彼の背後を狙って一人の帝国兵が斬りかかるもそれを僕が間一髪で受け止め、返り討ちにする。


「はあっ!」

「ぐわっ!」

「カイ!落ち着け!周りが見えなくなるのは命取りだよ!」

「うるせぇ!話しかけるな!」


カイが僕にそう怒鳴り返した・・・その時だった。


「そうだ。戦場では周りが見えなくなると命を落としかねない。」

「ッ!誰だ!」


何処からか声が聞こえ僕とカイは辺りを見渡す。


「今の声は・・・准将!?」

「准将?それって・・・」

「アイツらの親玉のお出ましだな。」


ざわめく帝国兵を他所に声の主を探っていると路地裏の方から人影が現れた、その姿が顕になった途端、僕とカイに戦慄がはしる。


「な、なんだ!?アイツは・・・」

「・・・ッ!?」


僕達の現れたのは全身緋色の鎧とフルフェイスの兜を被った騎士の姿だった。


◇◇◇


「な、なんだ・・・お前は!?」


現れた緋色の騎士を見て、息を呑む。


全身炎の様な装飾が施された緋色の鎧、素顔の見えない兜は雄牛を模した白い角が生えており、兜の色も緋色であった。更に羽織っているマント、腰に装備している剣もまた緋色一色であり、角以外全て緋色の姿は傍から見れば異形の姿であった。


それだけではない。彼から放たれている気迫も凄まじく僕とカイは姿よりもその気迫によって圧倒されていた。


剣を交えなくても分かる・・・この騎士はかなりの強者であると。


「准将!何故こちらに!?」

「少し用が出来た。お前達は持ち場に付け。この二人は俺が相手をする。」

「はっ!」


騎士の言葉に帝国兵達は敬礼すると直ぐ様この場を去っていく。


「な、なんで・・・テメェがここにいんだよ!?」


カイは騎士を見るや否や目を見開きながら彼の正体を口にする。


「"十二神騎"が一人にしてロワ帝国准将・・・アレスがよ!」

「十二神騎?」


彼の放った言葉に僕は眉を寄せる。


「十二神騎ってのは十二の神と星座を冠した名前と鎧を授けられたバケモンの集まりの事だ。その一人が帝国軍に入ったと聞いたことがあるがまさか本当だったとはな・・・」


冷や汗をかきながらそう呟くカイを他所にアレスは僕へ顔を向けてくる。


な、なんだ?僕をじろじろ見て?


見つめてくるアレスに僕も冷や汗をかきながら警戒する。


「やはりアイルへ来ていたか。会えて嬉しいぞ・・・"シエル"」

「なっ!?ど、どうして僕の名前を!?」


何故か僕の名前を知っているアレスに衝撃を受ける。


「お前・・・まさかアレスと知り合いなのか?」

「い、いや・・・知らない。」


そう尋ねてくるカイに僕は首を横に振る。


なんでコイツは僕の名前を知っているんだ!?過去にこんな人と会った覚えもない。そもそもこんな姿と気迫を放っている人と会っていたら忘れることなんて無い。


「シエル、お前が知らなくともこの俺が知っている。それだけで十分だろう?」

「お前は一体・・・何が目的なんだ?」

「シエル、聞かなくても分かんだろ。アイツはアイルを支配しに来たんだぞ!」


カイはそう言って薙刀を構えるとアレスと相対する。


「自ら指揮官が出てきてくれて都合がいいぜ!十二神騎だろうが何だろうがオレの手でぶち殺してやる!」

「威勢がいいな。貴様の様な雑兵が俺を倒せるのか?」

「倒せるから威勢張ってんだろうが!!クソ喰らえや!」


薙刀を振り回しながら駆け出したカイはそのまま勢いよくアレス目掛けて振り落とす。


「フン」


アレスもまた得物の剣を手にすると間一髪の所でカイの攻撃を受け止めた途端、カイは目を見開きながら驚愕した様子で交わった刃へ目を向けた。


「な、なんだコイツ・・・腕が・・・動かねぇ」

「どうした?その程度か?」


アレスはそう呟くと剣を横殴りに動かしてカイを突き放すと刃に炎を纏い始める。


「ッ!?」

「カイ!」


仰け反ったカイに声を掛けるも時すでに遅くアレスは彼に炎の袈裟斬りをお見舞いした。


「散れ・・・"炎剣(えんけん)焔緋(ほむらび)"!!」

「ぐわあぁぁぁぁぁぁぁぁあっ!!!!」

「カイ!!」


炎の刃で斬りつけられたカイはそのまま高速で吹き飛ばされると瓦礫に勢いよく身体をぶつけて沈黙してしまう。


「嘘だろ・・・」

「哀れなやつだ。戦いは力だけでは無いというのに過信と軽率で突っ込み、己を散らす。」


アレスは剣に炎を纏ったまま僕へ顔を向けてくる。


「シエル、これで邪魔者は消えた。アイルを制圧するついでにお前を連れて行くことにしよう。お前は私にとって必要な存在なのでな。」

「・・・嫌だ。」


彼の誘いに僕は即答で断りの答えを出す。


「・・・残念だ。お前はもう少し賢い人間だと思っていたのだがな。お前は騎士で収まる様な立場では無い。」


アレスはそう言うと纏っていた炎を解除し、剣を鞘に収めてマントを翻しながら背を向けるとあることを告げる。


「アイル共和国への侵攻は俺の一存で止められる。もし阻止したければここから少し離れた所にある"水面の洞窟"へ来い。そこにお前の求めているものもある。」

「僕の求めているのも?それは何なんだ?」

「お前の目で確かめるのだな。待っているぞシエル」

「おい!待て!・・・って消えた!?」


慌ててアレスを追いかけようと彼は炎に包まれながら姿を消してしまった。


「くそっ・・・何なんだアイツ。そうだ!それよりも・・・カイ!」


アレスの言った「求めているもの」を気にしながらも僕は気絶したカイの方へ駆け付け、彼を介抱しながら戦火の炎に包まれたアイルの街を離脱するのだった。

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