第20話:孤高の槍兵 カイ
商店街が少し離れた郊外までやって来た僕達は少年の後を付けると彼は閑静な二階建ての家の前で立ち止まった。
「ここがオレの寝ぐらだ。取り敢えずアイツらのことを話してやる。」
「ありがとう。僕はシエル、騎士として旅をしているんだ。」
「シルヴァよ」
僕とシルヴァは少年に自身の名を告げると彼は間を置いて名乗った。
「・・・カイだ。自己紹介はいいから早く中に入れ。」
カイと名乗った少年はそう言うとドアを開けて家の中へ入る。
「お邪魔します。」
家に入るとソファとテーブルが置かれたリビングがあり、カイは薙刀を壁に立て掛けるとソファへ座り込む。僕らも彼の向かい側に座って一息ついた。
「それであの兵士達は何者なんだ?明らかにアイル共和国の兵じゃ無いよね?」
「同じ事を何回も言うなタコ。そもそもこの国はロクな兵隊は持ってねぇ。」
「じゃあアイツらは何者なのよ?」
先程の兵士達について尋ねるとカイはとある国の名前を口にした。
「奴らは"帝国"の連中だ。」
「帝国!?それってロワ帝国の事?」
「ロワ帝国?何よそれ。」
明かされた国の名前にシルヴァは首を傾げる。
「ロワ帝国は10年前に建国された国でドラゴンやゴーレム、空飛ぶ艦船を保有している世界一軍事力の高い国と言われているんだ。」
「うわぁ・・・なんかおっかないわね。」
「おっかないどころじゃない。ロワ帝国は"絶対王政"。皇帝や上官の命令は絶対に守らないといけない国だよ。」
「それだけじゃねぇ。奴らは他国を侵略しようとしてんだ。」
カイは補足するかのようにロワ帝国についてそう説明する。帝国の事はワース王国に居た時にも聞いたことがあり、その時には既に軍事力が乏しい何ヶ国かが奴らの手中に落ちてしまったと情報が入った位だ。
初めてロワ帝国の存在を知った時は正直冷や汗をかいた。一歩間違えるとワース王国も落とされていただろう。
「ねえ、他国を侵略って言ったけどそれってまさか・・・」
「そうだ。アイツらはアイル共和国を侵略しようとしている。」
「何だって!?」
カイから明かされたロワ帝国の目的に戦慄がはしる。アイルを侵略だって!?
「奴らは貿易が盛んで尚且つ船を配備しやすい港を保有しているアイルに目を付けた。オマケに此処の軍備は憲兵隊位の戦力だ。奴らにとってはこの上なく刈り取れるカモって訳だ。」
「そんな!それじゃあ奴らを直ぐにでも止めないと!」
「だからオレがやってんだろ?あんな奴らの好きにされちゃめちゃくちゃになっちまう。」
シルヴァに対してカイは怒鳴るかのような口調でそう言った。
「それで単身帝国兵に挑んでいた・・・そういう事?」
「そうだ。アイルの憲兵隊はアテになんねぇからな。」
「シエル・・・」
一通り話を聞いた僕にシルヴァが顔を向けてくる。・・・分かっている。僕らがやる事は一つだ。
「カイ、それなら僕達も協力するよ。一人よりも三人で戦った方が効率がいい」
「なんでそこまでしてテメェらは加勢すんだ?」
「僕達は騎士だ。困っている人は放っておけない。」
僕の言葉にカイは呆れた笑いを零した。
「ケッ、騎士だから何だってんだ?お節介も程々にしろよ。カス」
「アンタねぇ!本当に何なのよその言い方!」
「助けが要らねぇって言ってるのに手を差し伸べるのは無謀なんだよ。頭使えや。」
カイの放った一言にシルヴァは頭にきたのか直ぐに反論する。
「だからってそんな言い方ないじゃない!」
「ザコがギャンギャン吠えんなよ。」
「またそんな事を!アンタ本当にいい加減にしてよね!」
「シルヴァ落ち着いて!」
わなわなと震え、今にもカイを殴りそうなシルヴァを宥める。正直、この二人を見ると連携して行動するのは難しいだろう。
「話は終わりだ。とっとと帰んな。」
カイはそう言うとソファから立ち上がって薙刀を手にし、そのまま階段を登って去っていく。
「何なのよアイツ本当に!」
「おやおや・・・カイも素直じゃないね」
シルヴァが愚痴を零した瞬間、目の前にあのアクセサリー店を経営していた老婆が現れた。
「貴女は・・・アクセサリー店の!?」
「えっ!?おばあさんもしかして・・・」
「ホッホッホ、驚いたかい?まさかあの時のお客さんが孫と知り合いだったなんてねぇ」
老婆の姿を見て驚く僕らに彼女は笑みを浮かべる。このお婆さん。カイの家族だったのか。
「カイのご祖母様だったのですね。勝手にお邪魔して申し訳ございません。」
「いやいや、気にせずゆっくりするといいよ。お茶でも飲むかい?」
「は、はい!頂きます。」
僕らは再びソファに座ると老婆はお茶を淹れてもてなしてくれる。
「さっき話がちらりと聞こえたけどカイが無礼をして申し訳ないねぇ。あの子荒い性格だけど根はいい子なんだよ。」
「大丈夫よ。もう気にして無いわ。」
「ホッホッホ、お嬢ちゃんは優しいねぇ」
愉快に笑う老婆を見て僕は一つ気になる事を尋ねた。
「あの、おばあさんは帝国が攻めてくる事はご存知なんですか?」
「えぇ知ってるよ。確か一週間前だったかね。孫が突然、ロワ帝国が攻めてくると言い出して私に他国へ逃げるよう言ってきたのさ。」
老婆はそう言うと僕達の前にお茶を差し出して椅子に腰掛けた。
「でも私は逃げることはしなかったよ。店もあるし何より"ウンディーネ様"の御加護を信じているからねぇ」
「おばあさんから買ったネックレス。御守りって言ってたけど今思えば本当にそうなんだなって思ってきたよ。」
シルヴァは首にかけているネックレスを見ながらそう言った。
「早速あれを付けてくれてるのかい?ありがとねぇお嬢ちゃん。きっとウンディーネ様はアンタを守ってくれるよ。勿論カイも守ってくれる筈さ。」
老婆はそう言って天井を見上げると暫く間を空けてカイのことについて話してくれた。
「カイの両親はね・・・とある国で軍の兵隊に入っていたんだ。でも10年前にロワ帝国が建国されてから大きな戦いが始まると悟った両親はカイを私のいるアイル共和国へ送り出したのさ。」
「そうだったんだ。」
「そ、それで・・・カイの御両親は?」
僕は恐る恐るカイの両親について尋ねると老婆は残念そうな表情を浮かべて言った。
「残念ながら二人とも帰らぬ人となってしまった。挙句の果てに守っていた国も滅び、ロワ帝国の領土にされてしまったよ。」
「そんな・・・」
残酷な結果にシルヴァは身体を震わせる。なんて酷い結末だ。
「親の訃報を知ったカイは深く嘆いて心を閉ざし、何も出来ない自分を悔やんだ。私は「アンタのせいじゃない」と言い聞かせたが彼は家族がこれ以上犠牲になるのを恐れ始めるようになっていったんだ。根は本当に優しい子なんだけどねぇ。」
老婆の話を聞いて僕は先程までの彼の言動の意味を知る。あの荒い口調は建前であり、彼は自分一人で全てを背負って戦おうとしているのだ。だからわざと荒い言葉で周りを突き放し、孤独になっているのだろう。これ以上、何も失わないために。
「アンタ達、すまんがカイの事を気にかけてやってくれんかの?」
「勿論です。」
「ちょっと嫌な奴だけどアタシもアイツと向き合いたくなったわ。」
老婆の言葉に僕とシルヴァは優しく微笑む。するとカイが階段から降りてくると彼は老婆へ声を掛けた。
「婆ちゃん。戻ってたのか」
「えぇ戻っていましたよ。貴方の連れてきたお客さんと話してたの。」
カイは眉を寄せながら僕とシルヴァを睨みつけるが先程とは違い、表情は和らいでいた。
「話したのか?オレのことをコイツらに」
「ダメだったかしら?」
「余計なこと言ってんじゃねーよ。」
「カイ」
過去を話した老婆に怒り出すカイを僕は制止するかのように声を上げ、立ち上がる。
「僕は君の過去に全て同情したい訳じゃない。でもこの国に危機が迫っているなら今はその為に一緒に戦うべきだと思う。だから一緒に戦おう。僕達は余計なお世話が大好きな騎士だから。」
「・・・チッ、好きにしろよ。どうするかはもうテメェらの勝手だ。目ぇ付けられても助けねぇからな。」
カイはそう言い残すと再び階段を上がって去っていく。しかし僕は見逃さなかった。後ろを振り向く際、彼が少しだけ微笑んでいたところを・・・




