第18話:アイル共和国
前回までのあらすじ
師匠オーディンとの約束を果たす為、騎士として旅に出たシエルはログレス王国とアイル共和国の国境にある森・・・火精の森にてエルフ族の狩人シルヴァと出会う。
彼女の案内もあり、森の中にあった村『サラマ村』にて一夜を過ごしたシエルはこの村が信仰する精霊サラマンダーを目的にやってきたイノクマ山賊団によって苦しめられている事とシルヴァの過去を聞かされる。
村の解放とシルヴァの強い想いを感じたシエルは彼女と共にイノクマ山賊団を討伐する事を決意する。
イノクマはシエル達との戦いで魔石を利用し、姿を変え、シエルは絶体絶命の状況に追い込まれるが彼の得物であった聖剣『エクスカリバー』とシルヴァの「守りたい」という思いに呼応した火の精霊サラマンダーの顕現によって難を逃れるとエクスカリバーに彼を吸収し、見事イノクマを討伐する事に成功する。
村からイノクマの脅威を解放した後、亡き母の見れなかった景色を見たいと言うシルヴァを最初の仲間に加えたシエルは本来の最初の目的地であったアイル共和国を目指すのだった。
アイル共和国・・・ブリテン島の東部に位置するこの国は島に存在する三国の中で最も経済が発展した国である。
夜になっても街の灯りが消えぬアイルの首都『ロンデン』。雲ひとつない月夜の空の一部を突如、艦の様な影が覆い始めるとその艦長室から一人の影が街を見下ろしていた。
「ここがアイル共和国か・・・」
まるで牡牛の様な角を生やした人影は暗闇で姿を隠しながら冷たい蒼い瞳を光らせる。
「時期にこの艦もアイルの廃港へ着水するだろう。それにしても・・・」
人影は外の景色から視線を外すと自身の机の上に置いてある書類を手にする。
「奴も人使いが荒いな。"アイル共和国を侵略しろ"などと・・・まぁいい手伝ってやるまでだ。丁度俺もこの近くで用が出来たからな。」
書類を机の上に置いた人影は再び外の景色に視線を向け、星々が輝く空を見つめた。
「騎士として旅に出たと聞いたが恐らくここへやって来るだろう。会えるのを楽しみにしているぞ・・・”シエル”。」
蒼い目を光らせた人影はとある少年の名を呟くと光り輝く街を静かに見下ろす。
今、アイル共和国と一人の少年に強大な力が迫ろうとしていた。
◇◇◇
サラマ村を出てから暫く経った頃・・・次なる目的地『アイル共和国』を目指して進んでいた僕はようやく火精の森の出口まで辿り着いていた。
「シルヴァ!もうすぐだ!早く!」
「ちょっと!先に行かないでよ!」
後ろを振り返るとエルフ族の少女・・・シルヴァが息を切らしながらやっと目の前までやって来る。
「はぁ、はぁ・・・もう!はしゃいで先に行かないでよ!」
「ご、ごめん。出口を見つけてつい興奮しちゃった・・・」
「・・・もう」
謝る僕にシルヴァは可愛らしく頬を膨らませると直ぐに笑みを浮かべて出口を見つめる。
「ここが森の出口・・・外の世界なんだよね?」
「そうだよ。ここを出たらアイル共和国へ着ける筈だ。」
「なんかワクワクするわ!」
「それは良かったよ。じゃあ・・・」
シルヴァに顔を向けると僕もまた微笑みを浮かべる。
「行こうか?」
「うん」
静かに頷いたシルヴァは一緒に外を出たいのか僕の手を握って隣に並び立つ。
「じゃあ、行くわよ・・・せーの!」
彼女の声に合わせ、一緒に一歩を踏み出すと僕らは火精の森から遂に外へ出る。
「わぁあ!!」
その先に広がっている景色にシルヴァはエメラルドグリーンの瞳を輝かせると、僕もまた初めて訪れた景色に心を踊らせた。
何処までも広がる青い海、雲一つ無い晴天の空、森を出てすぐそこに広がる広大な緑の丘の下には目的地であるアイル共和国の街並みが僕らを出迎えていた。
「凄い!この青いのは・・・海?」
「そうだよ。僕達はこれからこの海を渡って色んな所へ冒険に行くんだ。」
「すごいわ・・・更にワクワクして来ちゃった!」
初めて見る森の外の景色にシルヴァは目を輝かせたまま僕の手を引く。
「シエル!早く行こっ!」
「うん!」
こうして火精の森を出た僕らはそのまま広大な緑の丘を下ると最初の目的地・・・アイル共和国へ足を踏み入れるのだった。
◇◇◇
アイル共和国・・・人口凡そ800万人が暮らす大都市であり、その半数近くが海外または隣国からの移民者で占められている。ブリテン島に存在する他二国のワース王国、ウェールズ王国に比べてアイル共和国は三国で唯一の共和制国家であり、最も経済が発展した国である。海岸沿いの桟橋には多くの貿易船で日夜埋まっており、市場には海外の品が多数輸入されるそうだ。
「凄い人・・・サラマ村の何倍の人がいるんだろ?」
「シルヴァ、大丈夫?」
「うん、ちょっとビックリしちゃった。」
アイルの街へ入り、大通りの前までやってくると余りの人の多さに圧倒するシルヴァを僕は気にかける。
彼女にとって村の人口の数十倍・・・いや、数百倍近くいるこの街は少し衝撃が強かっただろうか?
「でもワクワクが勝ってるかな?こんなに沢山の人が居るなんてビックリよ。」
「そっか。それなら良かったよ。」
直ぐに笑みを見せる彼女を見て安堵する。これなら少しは大丈夫そうだ。
「それにしてもなんで皆、一つの道にいっぱい群がってるの?」
するとシルヴァは一つの通りを指差して首を傾げる。
「確か、あそこの通りは商店が多くある場所だった気がするな。アイル共和国は海外から色んな物を仕入れているから手に入らないものが無い位だし。」
「へぇ〜商店か・・・気になるかも!」
「じゃあ行ってみる?」
「うん!」
シルヴァはこくりと頷くと僕は早速、彼女を連れて商店街を散策する事にした。
◇◇◇
商店街の通りを歩き出した僕らは人混みの中を掻い潜って並び立つ商店を見ていく。
「・・・なんか色んなものがありすぎて逆に言葉が出ないわ。」
「さっきも言ったけどアイルの商店街は海外から色んな物を仕入れているから観光客も多いんだ。”移民で出来た国”なんて言われてる国だからね。」
「移民って・・・他所から人がやってきて住み着くことよね?ルーツはサラマ村と変わらないのね。」
僕の説明を聞きながら彼女は自身の故郷と比較しながらそう呟く。
「ん?何あれ?」
するとシルヴァは一軒の古びた商店のテントを指差す。よく見るとそこはアクセサリーなどを売っている店舗だった。
・・・女の子ってやっぱりああいうお店が好きなのかな?
「アクセサリー店だね。興味あるの?」
「うん!」
「じゃあ行ってみようか?」
アクセサリー店へ向かうべく彼女の手を引いてアクセサリー店のテントへと足を運ぶ。
店に入るとそこには年季の入った商品棚に色とりどりのアクセサリーが並んでおり、テント内の真ん中にあるカウンターでは一人の老婆が椅子に座りながらうたた寝していた。
「意外と色んなアクセサリーが売っているんだな。」
「どれも綺麗だけど・・・沢山あると逆に迷うわね・・・ん?」
「どうしたの?」
ふと何かを見つけたシルヴァに僕は彼女の視線の先へ目を移すと沢山あるアクセサリーの中でも一際青い光を放つ雫の形を模したネックレスがあった。
「これ・・・凄く綺麗なんだけどなんか他のアクセサリーと違って凄く神秘的な感じがするわ。」
シルヴァはそう言って雫型のネックレスを手に取るとそれは彼女の掌で海の様に青く鮮やかな光を放つ。
確かに他のアクセサリーよりも神秘的で鮮やかな感じがする。
・・・まるで”海が具現化した”様な感じだ。
「おや、そのネックレスに興味を持つなんてお嬢ちゃんお目が高いねぇ~」
するとカウンターで座って寝ていた老婆がいつの間にか僕らの前に立ってそう言ってくる。
「このネックレスは昔、アイルの港から船出する漁師達のお守りとして作られたものなんだよ。」
「お守り・・・ですか?」
「えぇ、そうじゃよ。アイルには”水の精霊ウンディーネ”様の加護が付いておるんじゃ。」
「「水の精霊!?」」
老婆から出た思わぬ言葉に僕らは驚愕する。
まさかアイルにも精霊の言い伝えがあったなんて!
「あのご婦人、一つ聞きたいのですが。」
「ん?何かね?」
「水の精霊ウンディーネはもしかしてここに・・・アイルにも祀られているんですか?」
「うーん、私も母親や祖母から聞いた話だからねぇ・・・ウンディーネ様が此処に祀られておるかは分からんけど言い伝えは残っているよ。」
老婆の言葉を聞いて僕らは顔を見合わせる。
アイル村でのサラマンダーに続き、名前と存在が判明した”水の精霊ウンディーネ”・・・明かされていく彼らの存在は僕らの旅の目的を大きく変えるものになろうとしていた。




