第17話:烈火の狩人
「ひ、火の精霊だって!?」
自らを『火の精霊』と名乗った炎の生物・・・サラマンダーに僕とシルヴァは驚きをみせる。まさか本当に精霊が居たっていうのか!?
「貴方が・・・本当にサラマンダー様なの?」
『左様、長年眠っていた我でも分かる。ここまで辛かったろう。我が信徒よ。』
目をうるうるさせながら見てくるシルヴァにサラマンダーは優しい声色で励ました。
「グハハハハ!まさか本当に居たとはなァ!」
すると炎から解放されたイノクマが立ち上がってサラマンダーに歩み寄ってくる。
「しまった!サラマンダーが!」
僕らの制止も虚しく遂にサラマンダーと対面したイノクマが高らかに両手を掲げた。
「サラマンダー!俺は長年お前を探していた!こんな力のない奴に構うつもりはねぇ!俺に・・・不老不死の力を与えろ!!グハハハハ!!グーハハハーッハッハッハッ!!!」
「イノクマ・・・アンタ!!」
遂に自らの願いをサラマンダーに伝えたイノクマにシルヴァがやり場のない怒りを顕にする。彼がイノクマの手に渡ってしまう。そう思った瞬間・・・サラマンダーはイノクマにカッと目を見開くと奴の身体を再び真紅の炎が襲った。
「ギャァァァァ!!熱い!熱い!ギャァァァァ!」
『愚か者が!貴様の様な雑兵如きに叶えてやる願いなど無い!恥を知れ!』
炎に苦しむイノクマをサラマンダーは睨みつけると僕の方へ顔を向けてくる。えっ?僕?
『我がこうして目覚めたのは貴殿に付いていく為である。』
「僕に!?」
サラマンダーの思わぬ言葉に驚愕する。どういうことだ!?
『驚く必要など無い。貴殿には我を従える権利を持っている。』
「僕に精霊を従える権利が?」
「それってどういう事なの?」
『それを持っておるだろう?』
するとサラマンダーは僕が手にしている剣を指差す。それは幼い頃、師匠から譲ってもらった白亜の剣だった。
「ん?この剣がどうかしたのか?」
『何?貴殿はその剣の事を知らぬのか?』
「そういえばシエルの剣って真っ白で綺麗よね。刃も綺麗だし。」
シルヴァも僕の使う白亜の剣を見てそう言うとサラマンダーはその剣の正体を明かした。
『その剣の名は"エクスカリバー"。嘗て我ら精霊を従えた剣士が神から授かりし聖剣である。』
「せ、聖剣!?これが!?」
明かされた事実に思わず手にしている白亜の剣・・・エクスカリバーを見る。これが聖剣!?そんなことあるのか!?
「嘘、じゃあシエルは・・・」
『その剣は嘗てそれを得物とした我が主と同じ素養を持つ者にしか鞘から抜くことを許されぬ剣。そしてそれを手にした貴殿は我ら精霊を従える権利がある。我はその剣と信徒の「誰かの力になりたい」という願いに呼応し、こうして目覚めたのだ。』
「僕の持つエクスカリバーとシルヴァの願いで目覚めた・・・。」
『その通り、さあ・・・我が新たな主よ!』
するとサラマンダーは身を委ねるかのように両手を広げてくる。
『時は満ちた・・・この我が身。その聖剣に納めるのだ。』
「サラマンダーを・・・エクスカリバーに?」
息を呑んだ僕は恐る恐るサラマンダーの刃をサラマンダーの目の前へ掲げる。するとサラマンダーは赤い光に包まれるとまるでエクスカリバーに吸収されるかのように呑み込まれていき、剣の中へ吸収された。
「・・・ッ!?」
刹那、身体中からサラマンダーのものと思しき炎の力が湧き上がってくる。これが・・・エクスカリバーの力!!静かに目を閉じ、身体中に齎された炎を力を感じ取るとゆっくり目を開く。
「シエル・・・。」
「シルヴァ・・・行くよ!」
シルヴァもまた僕から何かを感じ、深く頷くと先程の炎によって苦しんでいたイノクマへ身体を向ける。
「っぐ・・・なんだ!?何が起こったんだ!?」
こちらを見るや否や、焦りと畏怖の表情を浮かべたイノクマに僕はエクスカリバーを通じて身体に真紅の炎を纏わせた。
「ひいっ!?」
「行くよ!シルヴァ!」
「うん!」
強く返事をしたシルヴァは弓を構え、一本の矢を汲むと僕はエクスカリバーを地面に突き刺し、彼女と身体を合わせ、弓を持つ手を重ねて互いに弦を引くと僕とシルヴァ、彼女の持つ弓矢にも業火が纏わり、辺りに燃え盛った。
「や、やめろ!!よせ!わ、悪かった!俺が悪かった!!だから許してくれぇ!!」
そう命乞いと謝罪の言葉を投げかけるイノクマをシルヴァは無視して弓の弦を引き、狙いを定める。最早、奴に聖なる炎を前にして成す術はない。
「これで終わりよイノクマ!!・・・シエル!」
「うん!」
「ああっ!ああああっ!」
恐怖の表情を浮かべるイノクマにシルヴァはそう言うと僕と共に烈火の矢を放った。
"烈火の矢"
「「いっけぇええええええっ!!!」」
その一矢は瞬く間にイノクマの腹部へ直撃すると断罪と聖なる赤い火柱を空高く聳え立たせ奴も身体を焼き尽くした
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!」
炎が燃え盛る中、イノクマの悲痛な叫びが聞こえると彼は一瞬で骸だけの姿となり、その屍も焼かれ塵へ、そして塵すらも焼き尽くした火柱は音を立てながら渦を巻くと何事も無かったかの様に消え去って辺りに静寂が広がった。
サラマンダーの力を解除し、僕は一息付くと地面に刺していた得物・・・エクスカリバーを引き抜いてゆっくりと鞘へ納める。まさか、長年使ってきた剣が聖剣だったなんて・・・ビックリだな。
「シエル」
するとシルヴァがこちらへ歩み寄り、恐る恐る聞いてくる。
「終わったの?アタシ達・・・もう、自由よね?」
その言葉に僕は微笑んで頷いた。
「うん、終わったんだよ。」
僕らの背中を心地よい風が撫でると空に満点の星空が広がっていた。
◇◇◇
イノクマ山賊団を討伐した僕とシルヴァが帰還した後、サラマ村では瞬く間に彼らから解放された喜びでお祭り騒ぎとなり、三日三晩宴が行われた。僕もまたイノクマを倒した村の救世主として改めて村人達からもてなされ楽しい夜を過ごした。
「皆!踊れ!呑め!はっはっはっはっ!」
村の広場では巨大な松明を明かりにして村の男達が腕を組みながら踊っていた。
「ふふっ、皆よくはしゃぎますね。」
「あぁ。まさか本当にイノクマから解放されるとは思いもしなかった。シルヴァもあれから元気な姿を見せてくれている。本当にありがとう。シエル殿」
ウッド村長は僕に頭を下げて感謝する。
「礼なんて良いですよ。僕もこうして宴を楽しめてますので。」
「この宴を盛大に出来るのも君のお陰だ。」
「シルヴァも凄く頑張ったと思います。」
「そうだな。イノクマを倒すのは本望では無かったと思うがこれでマーニも安らかに眠って貰えると嬉しい。」
そう言ってウッド村長は亡き妻を想いながら松明の火を見つめる。彼の目には安堵と同時に一粒の涙が流れていた。
「ん?」
すると宴の席から外れて独り村長宅の裏庭まで歩いていくシルヴァの姿を見かける。ずっと姿を見ていないと思ったら・・・
「村長、すみません。ちょっと席を外します。」
「シルヴァだな?すまないな。」
「あ、ごめんなさい。ありがとうございます。」
直ぐに察したウッド村長に申し訳ない表情を浮かべながら離席するとシルヴァを追って村長宅の裏庭までやって来た。
「シルヴァ、宴やってるぞ。」
そう声を掛けながら裏庭までやってくるとそこには林檎の木の下にある墓標に酒をかける彼女の姿があった。
「ママ、イノクマ達は居なくなったよ。もう村を脅かす奴らは居ない。だからあの時みたいに笑ってくれるといいな。敵討ちなんて望んでないかもだけど・・・アタシは村を守れて良かったと思ってるよ。」
亡き母の墓標の前で優しく微笑むシルヴァを見ながら彼女の背後まで歩み寄る。
「・・・来たんだ。」
「ちょっと気になっていたからね。」
こちらに振り向いたシルヴァは立ち上がると僕に白い花を渡した。
「じゃあこれ、ママに手向けて上げて。」
「うん、いいよ。」
渡された白い花を受け取るとそれをそっと墓標の前へ手向ける。出来るなら会ってみたかった。きっとシルヴァと同じくらい明るい人だったのだろう。
「ありがとう。きっとママも貴方の事を歓迎してると思うわ。」
清々しい表情でそう言ったシルヴァは満点の星が輝く空を見上げる。
「・・・ねえ、シエル。アンタは騎士として旅をしているんだよね?」
急にそんなことを聞いてきた彼女にややキョトンとしながらも頷く。
「そうだよ。そろそろここを出ようとは思っているけど・・・」
「そう・・・だったらさ!」
彼女はこちらへ顔を向けて手を差し伸べた。
「アタシも付いてきていい?ママが果たせなかったこの世界を見て回りたいの。ママが見れなかった分をアタシがみたいなって。・・・ダメかな?」
共に旅に出たいと言ってきた彼女に目を見開く。それは僕にとって最初の仲間が出来た瞬間でもあった。答えは勿論・・・
「僕で良ければ構わないよ。」
「ありがとう!じゃあ改めて宜しく!シエル!」
「うん!」
彼女の手を握り、互いに握手を交わす。そんな僕を墓標は優しく見守ると同時にこう言っている様だった。
『私の代わりに色んな所を見てきなさい。シルヴァ。』と。
◇◇◇
そして旅立ちの日。
「村長さん色々とお世話になりました。」
雲ひとつない快晴の空の下、多くの村人達に見送られた僕はウッド村長と握手を交わす。
「少し寂しくなるが君の旅に幸がある事を我々も我々も願おう。サラマンダー様にお祈りしてな。」
「ありがとうございます。」
「それと・・・」
ウッド村長はそっと後ろを振り向くとそこには旅支度を終え、皆の前にやってきたシルヴァの姿が現れた。少し寝坊したようだが間に合ったようだ。
「娘をよろしくお願いします。」
「シルヴァちゃん。元気でな!」
「辛くなったらいつでも帰ってくるのよ?」
「大丈夫!アタシは何処でだってやれるわ!」
村人達にそう答えながら僕と並び立ち、父であるウッド村長と向かい合う。
「じゃあねパパ!行ってくる!」
「あぁ、お前がまさか旅に出るとは思わなかったがマーニの夢だったもんな。アイツの代わりにこの世界を見てこい。・・・元気でな。」
「うん」
シルヴァとウッド村長はそう言うと互いに抱き合って親子として別れを告げる。そんな姿を僕と村人達は優しく見届けるのだった。
「じゃあね皆!行ってくるわ!」
そして別れを惜しむウッド村長達に見送られ、僕とシルヴァは共にサラマ村を後にする。
「外の世界・・・ワクワクするわ!」
「シルヴァは火精の森から出たことは無かったんだよね?」
「そうよ!だから存分に外の世界を見てみたいわ!」
「そっか。それなら僕も嬉しいな。」
意気揚々なシルヴァを見て僕は微笑みを浮かべる。彼女には多くの景色を見せてやりたいな。初めての外の世界だし。
「それで?先ずは何処に行くの?」
「そうだね・・・最初は『アイル共和国』へ行くよ。海が見える綺麗な街らしいよ。僕も行くのは初めてなんだ。」
最初の行き先を聞いてくるシルヴァに僕は地図で当初の目的地だったアイル共和国の場所を指差す。
「海!?アタシ見たことないから一度見てみたかったの!」
「だったら都合がいいね。それじゃあ行こうか?アイル共和国へ!」
「うんっ!」
元気よく頷いたシルヴァと共に僕はどこまでも蒼い空と緑溢れる森が広がる道を歩き出す。悲しき過去と火の精霊を信仰する村を守った狩人の少女シルヴァを最初の仲間に加えた僕は改めてアイル共和国へ向け、快晴の空と緑溢れる森が広がる道を歩き出す。
僕らの旅はまだまだ始まったばかりである。




