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Chevalier『シュバリエ』〜約束の騎士達の物語〜  作者: JACK・OH・WANTAN
第二章:少女と精霊
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第17話:烈火の狩人

「ひ、火の精霊だって!?」


自らを『火の精霊』と名乗った炎の生物・・・サラマンダーに僕とシルヴァは驚きをみせる。


まさか・・・本当に居たっていうのか!?


「貴方が・・・本当にサラマンダー様なの?」

『左様、長年眠っていた我でも分かる。ここまで辛かったろう我が信徒よ。』


目をうるうるさせながら見てくるシルヴァにサラマンダーは優しい声色で励ます。


「グハハハハ!まさか本当に居たとはなァ!」


すると炎から解放されたイノクマが立ち上がってサラマンダーの前まで歩み寄ってくる。


「しまった!サラマンダーが!」


僕らの制止も虚しく遂にサラマンダーの前まで立ってしまったイノクマが高らかに両手を掲げた。


「サラマンダー!俺は長年お前を探していた!こんな力のない奴に構うつもりはねぇ!俺に・・・不老不死の力を与えろ!!グハハハハ!!グーハハハーッハッハッハッ!!!」

「イノクマ・・・アンタ!!」


遂に自らの願いをサラマンダーに伝えたイノクマにシルヴァがやり場のない怒りを顕にする。


彼がイノクマの手に渡ってしまう・・・そう、思った時だった。


サラマンダーはイノクマにカッと目を見開いた途端、奴の身体を再び真紅の炎が襲った。


「ギャァァァァ!!熱い!熱い!ギャァァァァ!」

『愚か者が!!貴様の様な雑兵如きに叶えてやる願いなど無い!恥を知れ!』


炎に苦しむイノクマをサラマンダーはキッと睨みつけると僕の方へ顔を向けてくる。


「な、なんだ?」

『我がこうして目覚めたのは貴殿に付いていく為である。』

「僕に!?」


サラマンダーの思わぬ言葉に驚愕する。


『驚く必要など無い。貴殿には我を従える権利を持っている。』

「僕に精霊を従える権利が?」

「それってどういう事なの?サラマンダー様」

『それを持っておるだろう?』


するとサラマンダーは僕が手にしている剣を指差す。それは幼い頃、師匠から譲ってもらった白亜の剣だった。


「ん?この剣がどうかしたのか?」

『何?貴殿はその剣の事を知らぬのか?』

「そういえばシエルの剣って真っ白で綺麗よね。刃も綺麗だし」


シルヴァも剣に目を向けてそう言ってくるとサラマンダーは僕が得物として使ってきたこの剣の正体を明かす。


『その剣の名は"エクスカリバー"嘗て、我ら精霊を従えた剣士が神から授かりし聖剣である。』

「せ、聖剣!?これが!?」


明かされた事実に思わず手にしている白亜の剣・・・エクスカリバーを見る。これが・・・聖剣!?そんなことあるのか!?


「嘘、じゃあシエルは・・・」

『その剣は嘗てそれを得物とした我が主と同じ素養を持つ者にしか鞘から抜くことを許されぬ剣・・・そしてそれを手にした貴殿は我ら精霊を従える権利がある。我はその剣と信徒の「誰かの力になりたい」という願いに呼応し、こうして目覚めたのだ。』

「僕の持つエクスカリバーとシルヴァの願いで目覚めた・・・」

『その通り、さあ・・・我が新たな主よ!』


するとサラマンダーは身を委ねるかのように両手を広げてくる。


『時は満ちた・・・この我が身。その聖剣に納めるのだ。』

「サラマンダーを・・・エクスカリバーに?」


息を呑んだ僕は恐る恐るサラマンダーの刃をサラマンダーの目の前へ掲げる。


するとサラマンダーは赤い光に包まれるとまるでエクスカリバーに吸収されるかのように呑み込まれていき、剣の中へと吸収されていく。


「・・・ッ!?」


刹那、身体中からサラマンダーのものと思しき炎の力が湧き上がってくる。


これが・・・エクスカリバーの力!!


静かに目を閉じ、身体中に齎された炎を力を感じ取るとゆっくりと目を開く。


「シエル・・・。」

「シルヴァ・・・行くよ!」


シルヴァもまた僕から何かを感じ、深く頷くと先程の炎によって苦しんでいたイノクマへ身体を向けた。


「っぐ・・・なんだ!?何が起こったんだ!?」


こちらを見るや否や、焦りと畏怖の表情を浮かべたイノクマに僕はエクスカリバーの柄を握り締めると自身に真紅の炎を纏わせる。


「ひいっ!?」


イノクマは腰を抜かし、後ずさりするもそんな彼を他所に僕はシルヴァに顔を向けた。


「行くよ!シルヴァ!」

「うん!」


強く返事をしたシルヴァは弓を構え、キリキリと一本の矢を汲むと僕はエクスカリバーを地面に突き刺し、彼女と向かい合うと弓を持つ手を重ねて互いに弦を引く。


すると僕とシルヴァ、彼女の持つ弓矢にも業火が纏わり、辺りに轟々と燃え盛る。


「や、やめろ!!よせ!わ、悪かった!俺が悪かった!!だから許してくれぇ!!」


そう命乞いと謝罪の言葉を投げかけるイノクマをシルヴァは無視して弓の弦を引き、狙いを定める。


「あぁっ・・・ああああああっ!!」

「これで終わりよ・・・イノクマ!!シエル!」

「うん!」


恐怖の表情を浮かべるイノクマにシルヴァはそう言うと僕と共に烈火の矢を放つ。


"烈火(バーニング)(アロー)"


僕とシルヴァの放った烈火の炎は渦を巻きながらイノクマ目掛けて直行する。


「「いっけぇええええええっ!!!」」


そして・・・その一矢は瞬く間にイノクマの腹部へ直撃すると断罪と聖なる赤い火柱を空高く聳え立たせ奴を焼き尽くしていく。


「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!」


炎が燃え盛る中、イノクマの悲痛な叫びが聞こえると彼は一瞬で骸だけの姿となり、塵となって消えていくのだった。


そして・・・その塵さえも焼き尽くした火柱は音を立てながら渦を巻くと何事も無かったかの様に消え去り、辺りに静寂が広がった。


「ふぅ・・・」


サラマンダーの力を解除し、僕は一息付くと地面に刺していた得物・・・エクスカリバーを手にしてゆっくりと鞘へ納める。


・・・まさか、長年使ってきた剣が聖剣だったなんて。ビックリだな。


「シエル」


するとシルヴァがこちらへ歩み寄り、恐る恐る聞いてくる。


「終わったの?アタシ達・・・もう、自由よね?」


その言葉に僕は微笑みを浮かべて頷いた。


「うん、終わったんだよ。」


僕らの背中を心地よい風が撫でると空に満点の星空が広がっていた。


◇◇◇


イノクマ山賊団を討伐した僕とシルヴァが帰還した後、サラマ村では瞬く間に彼らから解放された喜びでお祭り騒ぎとなり、三日三晩宴が行われた。僕もまたイノクマを倒した村の救世主として改めて村人達からもてなされ、楽しい夜を過ごした。


そんな宴が行われてから三日後の夜・・・


「皆!踊れ!呑め!はっはっはっはっ!」


村の広場では巨大な松明を明かりににして村の男達が腕を組みながら踊っていた。


「ふふっ、皆よくはしゃぎますね。」

「あぁ」


そんな彼らを脇で見守る僕の言葉にウッド村長は深く頷く。


「まさか・・・本当にイノクマから解放されるとは思いもしなかった。シルヴァもあれから元気な姿を見せてくれている。本当にありがとう。シエル殿」

「礼なんて良いですよ。僕もこうして宴を楽しめてますので。」

「この宴を盛大に出来るのも君のお陰だ。」

「シルヴァも凄く頑張ったと思います。」

「そうだな・・・イノクマを倒すのは本望では無かったと思うがこれでマーニも安らかに眠って貰えると嬉しい。」


そう言ってウッド村長は亡き妻を想いながら松明の火を見つめる。


「ん?」


すると宴の席から外れ独り村長宅の裏庭まで歩いていくシルヴァの姿を見かける。


ずっと姿を見ていないと思ったら・・・


「村長、すみません。ちょっと席を外します。」

「シルヴァだな?すまないな。」

「あ、ごめんなさい。ありがとうございます。」


直ぐに察したウッド村長に申し訳ない表情を浮かべる。


「何、気にする事はない。寧ろ娘の面倒を見てもらってすまんな。」

「い、いえ!では・・・」


ウッド村長に頭を下げながら離席するとシルヴァを追って村長宅の裏庭まで歩いていく。


「シルヴァ、宴やってるぞ。」


そう声を上げながら裏庭までやってくるとそこには林檎の木の下にある墓標に酒を掛ける彼女の姿があった。


「ママ、イノクマ達は居なくなったよ。もう村を脅かす奴らは居ない。だから・・・あの時みたいに笑ってくれるといいな。」


亡き母の墓標の前で優しく微笑むシルヴァを見ながらゆっくり足を進めると僕は彼女の背後までやってくる。


「・・・来たんだ。」

「ちょっと気になっていたからね。」


こちらに振り向いたシルヴァは立ち上がると僕に白い花を渡してくる。


「これ、ママに手向けて上げて。」

「うん、いいよ。」


僕は頷いて渡された白い花を受け取るとそれをそっと墓標の前へ手向ける。


「ありがとう。きっとママも貴方の事を歓迎してると思うわ。」


清々しい表情でそう言ったシルヴァは満点の星が輝く空を見上げる。


「ねえ、シエル。」

「何?」


するとシルヴァは僕へ声を掛けてくる。


「アンタは騎士として旅をしているんだよね?」

「そうだよ。そろそろここを出ようとは思っているけど・・・」

「そう、だったらさ」


彼女はこちらへ顔を向け、手を差し伸べた。


「アタシも付いてきていい?ママが果たせなかったこの世界を見て回りたいの。ママが見れなかった分をアタシがみたいなって。・・・ダメかな?」

「僕で良ければ構わないよ。」


共に旅をしたいと志願するシルヴァを僕は快く迎え入れる。


「ありがとう!じゃあ改めて宜しく!シエル!」

「うん!」


元気よく頷いた僕は差し出された手を握り、固い握手を交わすのだった。


◇◇◇


そして・・・旅立ちの日。


「村長さん色々とお世話になりました。」


雲ひとつない快晴の空の下、多くの村人達に見送られた僕はウッド村長と握手を交わす。


「少し寂しくなるが君の旅に幸がある事を我々も我々も願おう。サラマンダー様にお祈りしてな。」

「ありがとうございます。」

「それと・・・」


ウッド村長はそっと後ろを振り向くとそこには旅支度を終え、皆の前にやってきたシルヴァの姿が現れる。


「娘をよろしくお願いします。」

「シルヴァちゃん。元気でな!」

「辛くなったらいつでも帰ってくるのよ?」

「大丈夫、アタシは何処でだってやれるわ!」


村人達にそう答えながら僕と並び立つと彼女は父であるウッド村長と向かい合う。


「じゃあねパパ!行ってくる!」

「あぁ、お前がまさか旅に出るとは思わなかったがマーニの夢だったもんな。アイツの代わりにこの世界を見てこい。」

「分かってるわ」

「・・・元気でな。」

「うん」


シルヴァとウッド村長はそう言うと互いに抱き合って親子として別れを告げる。そんな姿を僕と村人達は優しく見届けるのだった。


「じゃあね皆!行ってくるわ!」


そして・・・別れを惜しむウッド村長達に見送られ、僕とシルヴァは共にサラマ村を後にする。


「外の世界か・・・ワクワクするわ!」

「シルヴァは火精の森から出たことは無かったんだよね?」

「そうよ、だから存分に外の世界を見てみたいわ!」

「そっか、それなら僕も嬉しいな。」


意気揚々なシルヴァを見て僕は微笑みを浮かべる。


「それで?先ずは何処に行くの?」

「そうだね・・・最初は『アイル共和国』へ行くよ。海が見える綺麗な街らしいよ。僕も行くのは初めてなんだ。」


最初の行き先を聞いてくるシルヴァに僕は地図で当初の目的地だったアイル共和国の場所を指差す。


「海!?アタシ見たことないから一度見てみたかったの!」

「だったら都合がいいね。それじゃあ・・・行こうか!アイル共和国へ!」

「うんっ!」


元気よく頷いたシルヴァと共に僕はどこまでも蒼い空と緑溢れる森が広がる道を歩き出す。


悲しき過去と火の精霊を信仰する村を守った狩人の少女・・・シルヴァを最初の仲間に加えた僕は改めてその足をアイル共和国へ向け、快晴の空と緑溢れる森が広がる道を歩き出す。


僕らの旅はまだまだ始まったばかりである。

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