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Chevalier『シュバリエ』〜約束の騎士達の物語〜  作者: JACK・OH・WANTAN
第二章:少女と精霊
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第15話:母の遺したもの

「マ、ママ!!」


目の前で背中を見せ、斬撃を受けたマーニを見てシルヴァは涙を流す。


「何っ!?この女・・・ガキを庇ったのか!?」

「お、お頭!この村の村長が帰ってきやがった!」

「ちっ、こんな時に・・・あの狩人共は村を制圧してからやろうと思ったが今は分が悪ぃ!おい!ずらかるぞ!」

「「へい!」」


騒ぎを聞きつけた村長達が戻って来たことを知り、イノクマはシルヴァや村人達を手にかけることなくそのまま去って行く。


「シルヴァ!マーニ!大丈夫か・・・ッ!?」


そして入れ違う様に村へ戻ってきたウッドは急いで二人の元へやってくると血まみれのマーニを見て、絶句する。


「パパ、どうしよう!ママがママが!」

「シル・・・ヴァ」

「ママ!喋らないで!アタシが・・・アタシが何とかするから!!」


ゆっくり仰向けに倒れるマーニを庇いながらシルヴァは懸命に止血しようとするも切られた傷が深く、身体中からどくどくと鮮血が溢れていく。


「ううっ、どうしよう血が・・・」

「シルヴァ・・・顔を見せて」

「ママ?」


するとマーニは微笑みながらシルヴァの頬に手を当てると掠れた声で口を開く。


「良かった・・・貴女が無事で。ママ、安心したわ。」

「でもママが!ママがこのままじゃ死んじゃうよ!」

「シルヴァ・・・良く聞きなさい。」

「何?聞くよ!」

「あの人達が・・・誰だろうと・・・憎まないで。貴女は貴女のまま生きなさい。」

「うん、だからママも一緒に生きてよ!お願いだよ!!」


滝のように涙を流しながらシルヴァは頬に当てられた手を握り締める。


「シルヴァ・・・愛して・・・いるわ。」

「ママ、アタシも大好きだよ。」


最期の力を振り絞って半身を起こしたマーニはシルヴァを力いっぱい抱き締め、満足気に微笑む。


「ウッド・・・貴方も愛しているわ。」

「マーニ、ごめんな!・・・ごめんな!・・・私が遅かったばかりに・・・。」


最愛の夫ウッドはそう答えると涙を流してマーニを見つめる。


「シルヴァ・・・」


そして・・・陽の光が赤く染まり出した瞬間、彼女は力尽きると笑みを浮かべたままシルヴァの身体から崩れ落ちる。


「ママ?ママ!!」


倒れたマーニへ目を向けたシルヴァはピクリとも動かなくなった彼女の亡骸を見て泣き叫ぶ。


「ううっ・・・うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」


静かに燃え盛る村の松明・・・笑顔が絶えなった村にシルヴァの悲しみが児玉するのだった。


◇◇◇


 シルヴァの過去を聞いた僕は拳を震わせ、彼女の壮絶な過去に同情すると同時にイノクマに対して怒りを露わにした。


自分の私利私欲の為だけに精霊の安息の地で騒いだだけじゃ無く、村を荒らし、家族の平穏まで奪うなんて許せない!!


「イノクマはそれからあのように度々村にやってきてはサラマンダー様の居場所を聞き、答えられなければ作物や物品を奪っていく様になったのだ。妻を殺した相手だと言うのに何の対処も出来ない自分が不甲斐ない。」

「村長さん・・・。」


もはや、自分たちの力では彼らに抗えないと告げる村長に僕は決意の表情を浮かべる。


これ以上、誰かが犠牲になってはいけない。なにより最愛の母を失ったシルヴァは心に深い傷を負っている。アイツらは排除しないといけない!!


「村長!」


腹を括った僕は立ち上がるとキョトンとした表情でこちらを見てくる村長に告げた。


「イノクマは僕が倒します!」

「なっ!?正気なのか!?しかし・・・何故?」


驚くウッド村長にこくりと頷く。


「当たり前ですよ!僕はイノクマと同じく余所者にも関わらずシルヴァや貴方は手厚くもてなしてくれました。そんなことをされて助けない理由がどこにあるんですか!?」

「シエル殿・・・。」


真剣な表情でウッド村長に村を助ける理由を答える。シルヴァと出会い、此処へ案内させる際、余所者を警戒していると言っていた。今思えばイノクマの事があったからだろう。それでも二人は歓迎してくれた。


それなら・・・助ける理由なんて無いんだ!


「そうだな・・・そうでしたな。シエル殿、貴方は騎士でしたね。助けるのは当然でしたな。」


ウッド村長は目から光るものを流し、ゆっくり頷いた。


「なら、シエル殿。改めて頼む!イノクマを倒してくれ。我々で対処できない以上、今頼りに出来るのは君だけだ。」

「はい!任せてください!」

「うむ!」


僕はウッド村長と頷き合い、互いに固い握手を交わす。


こうしてサラマ村を脅かす存在・・・イノクマ山賊団を討伐する僕の騎士として初めて受ける依頼クエストが始まるのだった。


◇◇◇


その夜・・・イノクマを自分が倒す事を告げたが彼女は食事も喉を通さない程、無感情になってしまっていた。


「はぁ・・・」


入浴を済まし、湯冷めがてら部屋の縁側で今宵もパチパチと音を立てながら燃え盛る松明の灯りを眺める。


そういえば今日の日中イノクマがやってきた時、彼女は僕に物凄い形相で怒っていたな・・・


『なんで助けたッ!アンタが・・・アンタが邪魔しなければアイツらを仕留められたッ!アンタが!アンタが邪魔をしたからッ!!』


あの時のシルヴァ・・・凄く焦っていた。母親の仇を前にしていたからだろうけど・・・


「余計な事・・・したかな?」


幾ら騎士という立場で見逃せないとはいえ、シルヴァは自分で解決したい節があるようだけど・・・彼女一人では相手になりそうにない。


「ん?」


ふと、外を眺めていると玄関の戸が開き出す。


村長が外にでも出たのだろうか?そう思って玄関に目を向けるとそこから綺麗な白い花を手にした部屋着姿のシルヴァが現れた。


「シルヴァ?」


彼女は僕に気付くことなく玄関の戸を閉めるとそのまま一人で村長宅の裏側へ続く道へ歩いていく。


「アイツ・・・」


こんな夜に一人にさせてはいけないだろうと悟った僕は彼女に気付かれないよう縁側から外に出て後を付いて行き、辿り着いた場所に目を見開いた。


「これは・・・」


そこは村長宅の裏庭となっており、広大な木々に囲まれた中で丁寧に耕された畑ですくすく育つ野菜とその傍らで一本の樹が赤い林檎を生やして世風に吹かれていた。


「なんだ・・・裏庭だったのかでも、ここ凄いな。」


初めて訪れた村長宅の裏庭を見渡して息を呑む。家の傍には花も咲いるし、自然に囲まれている・・・母上顔負けの庭だな。


「あっ!」


すると林檎の樹の下までやって来るとそこにひっそり建つ墓標の前で先程持っていた白い花を手向けるシルヴァの姿を見つける。


僕はシルヴァの背後まで歩み寄ると彼女は墓標をじっと見つめながら口を開き始めた。


「このお墓にね・・・ママが眠っているの。」

「シルヴァのお母さん・・・マーニさんが?」

「うん」


彼女は深く頷くと墓標を優しく撫で始める。


「アタシのママ、この庭を造るのが趣味だったのよ。特にこの林檎の樹はお気に入りだったの。アンタにあげた林檎ジュースもこの木からなったものなの。」

「そうだったんだ・・・あの林檎、凄く美味しかったしきっとマーニさんの愛情がまだ生きているのかも知れないね。」

「ママが遺してくれたものはもうこの樹しかないわ。」


シルヴァはそう言って立ち上がると林檎の樹を見上げる。


「アタシのママね。夢があったの。」

「夢?」

「いつかこの村を出て、外の世界に行きたいって言ってた時があったの。アタシとママとパパの三人で外の世界を回れたらいいな・・・って。」

「マーニさんは外の世界にも憧れていたのか・・・それなのに。」

「アタシ、アイツらを倒してこの村が平穏になったら外の世界を見に行こうと思うのよ。ママが見たかった世界をアタシが代わりに見て回るわ。だから・・・!」


シルヴァは瞳から光るものを含ませてこちらに身体を振り向けてくる。


「お願いシエル!アイツらを・・・イノクマを倒して欲しいの!ママは仇討ちなんて望んでいないけど・・・アタシ、悔しくて村の人を守れなくて・・・何も出来なくて・・・悩んでいたわ。アタシ独りじゃ、何も出来ないのは分かってた。でも・・・」


泣きそうな顔で俯くシルヴァを見て僕は優しく彼女の肩に手を置いた。


「シエル?」


こちらを見てくるシルヴァに僕は優しく微笑んだ。


「大丈夫、僕がアイツらを倒す。これ以上、好き勝手されたくないんだろ?だったら尚更だよ。それに・・・お前にも村長さんにも村の皆にも恩がある。助けない理由なんて無いから。」

「シエル・・・ありがとう。」

「礼ならアイツらを倒してから言ってくれよ。」

「・・・うん。」


僕の言葉にシルヴァは涙を拭いて笑みを浮かべる。


「さ、今日も遅いし早く休もう。アイツらがまた来る前に先手を打たないとな。」


そう言って村長宅に戻ろうとした時だった。


「待って!」


ふと、シルヴァが呼び止めてくる。


「アイツらを倒すなら・・・やっぱりアタシも付いていくわ。」

「シルヴァ!?正気なのか?」

「うん、負けっぱなしは嫌だし。それに・・・シエルと一緒なら大丈夫って思ってるわ!だからアタシも戦う!」

「シルヴァ・・・分かった。」


共に戦う意志を見せたシルヴァに深く頷く。


「じゃあ・・・シルヴァ。宜しく!」

「うん!宜しくね!」


僕はシルヴァと硬い握手を交わし、共にイノクマと戦う事を誓う。


その様子を林檎の樹の下に建つ亡き母の墓標が月光に照らされながら優しく見守っているのだった。

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