第13話:サラマ村の暗い影
「っく・・・貴様は!」
左肩に刺さった矢を引き抜いて放り投げたイノクマはシルヴァを見るや否や笑みを浮かべた。
「ケッ、誰かと思えばいつぞやの小娘か。」
「うるさい!その口を今すぐ黙らせてやるわ!」
眉間に皺を寄せ、強い憎悪を顕わにしたシルヴァは矢を汲んでキリキリと音を鳴らしながら弓の弦を引っ張る。
「シ、シルヴァちゃん!よせ!」
「も、もういいから!後は俺達に任せるんだ!」
「良いから黙ってて!!」
「ッ!?」
慌てて制止する村人達に声を荒らげると身体を震わせながらイノクマをじっと睨み付けて矢を放った。
「へっ!」
しかし、イノクマは余裕の笑みを浮かべるとサーベルを手にして簡単に矢を斬り落としてしまう。
「くっ!」
「へッ、さっきは油断しちまったが所詮お前はこの程度だ。」
「だ、黙れッ!!!」
更に激昂したシルヴァはまるで人が変わったかの様に怒りに任せて次々と矢を放ち続ける。
「おらっ!うあっ!!あああっ!!」
「へっ」
そんな彼女を嘲笑うかのようにイノクマは放たれた矢を全て斬り落とす。やがて矢が尽き果ると地面には無残にも斬り落とされた矢が散らばっていた。
「はぁ、はぁ、はぁ・・・うううっ!!」
「ガハハハハ!!どうした?その程度か?」
「くっ・・・だ、黙れッ!!!!」
ついに頭に血が登りきったシルヴァは我を忘れて弓を投げ捨てて腰にあった短剣でイノクマに突撃した。
「まずい!シルヴァちゃん止まれ!」
「やめろぉ!シルヴァ!!!」
「うわぁぁぁぁぁぁッ!!!」
村人達の声を他所にシルヴァは叫び声を上げながら短剣を振り落とす。・・・その刃がイノクマへ届く。彼女がそう思い始めた時だった。
「なっ!?な、に?」
「どうした?俺に何かしたか?」
「どう・・・して!?」
いつの間にか目の前にイノクマが居なくなっている事に気付き、シルヴァは目を見開いて驚く。彼は既に彼女の攻撃を予測して躱していたのだ。
「おらっ!」
「あぐっ!?ごほっ!」
イノクマは反撃として屈強な右拳でシルヴァの腹部を勢いよく殴りつけると華奢な体格のシルヴァは吹き飛ばされて身体を何度も地面に叩きつけながら倒されてしまった。
「シルヴァちゃん!!」
「っく・・・あうううっ!」
返り討ちにあったシルヴァは悲痛な声を上げてその場に蹲ると頭から鮮血を流し始める。
「ガハハハハ!!!言ったはずだ!お前は誰も守れねぇってな!!お前が俺を倒せる訳がねぇだろ?馬鹿か?ガハハハハハ!!」
勝ち誇るかのように高笑いを上げるイノクマにシルヴァは悔しさと憎悪を募らせ涙を流しながら怒りに燃えるも身体が動くことはなかった。
「仕方ねぇ・・・そんなにあの世に行きてぇなら連れで行ってやるよ!」
イノクマはシルヴァを見下ろすと銃を取り出し、彼女に銃口を向ける。
「や、やめろ!よせ!」
「やめてくれ!シルヴァちゃんだけは・・・」
「あばよ!母ちゃんの所に行きな!!」
村人達の声虚しくイノクマがシルヴァに銃弾を放とうと引き金を引こうとした・・・その時だった。
突如、シルヴァの目の前に人影が現れると耳をつんざく様な剣音が辺りに児玉する。
「ぐわぁぁぁぁッ!!」
同時にイノクマは悲鳴を上げると彼の右手が鮮血で染まり、気が付けば手にしていた銃が粉々に切り刻まれていた。
「お頭ぁ!!」
「な、なんだ!?一体何が起こったんだ!? 」
一瞬の出来事に村人やならず者達は驚愕する。
「な・・・何?アタシ・・・い、生きてる?」
シルヴァもまた恐る恐る顔を上げて目の前にいる人影を見るとそこには白亜の剣を手にして立つシエルの姿があった。
◇◇◇
村に現れたならず者達の前に立った僕はシルヴァに向けられた銃を切り刻んでみせると剣を一振りする。危ないところだった。あと少し遅かったら彼女は撃たれていただろう。よく分からないがあのならず者達が銃を撃っていたのだろう。
「くっそぉ・・・なんなんだ?テメェは!?」
男は斬られた手を庇いながら睨みつけてくる。
「それはこっちのセリフだ。僕の友達に・・・優しくしてくれた奴に手を出すなら許さない!!」
目を見開き、怒りのこもった口調で睨み返す。
「チッ、ガキの癖に調子に乗りやがって・・・おい!お前ら!やれ!」
「「へい!!」」
男は引き連れていた部下達数人けしかけると彼らはサーベルを手にして取り囲んでくる。
「おい、あの人って昨晩シルヴァちゃんが連れて来たっていう・・・」
「大丈夫なのか?まだあんなに若いぞ?」
「くそっ、俺たちは見ることしか出来ないのか?」
村人達から心配の声を他所に僕は取り囲んだならず者達を見た。数はざっと五人・・・あのリーダー格の男の後ろに他にまだ居るが今は彼らの相手をするのがいいだろう。
「お前、この村の奴じゃないな?」
「だったら何だ?それよりひっそりと存在する村に迷惑をかけるお前達よりマシだと思ってるよ。」
「チッ、舐めやがってこのガキが!」
「ガキ一人なら十分だ!さっさと終わらせてやる!喰らいなっ!」
先ずは我先にと一人のならず者がサーベルを振り上げてくる。・・・遅い。遅すぎる。師匠に比べたら動きが遅すぎる。
「なっ!?」
ならず者の攻撃をあっさり躱した僕は直ぐに彼らの背後へ回り込むと剣の刃を蒼白い光と稲妻で纏わせて斬りつけた。
「ぐわぁぁぁぁッ!」
「先ずは・・・一人!」
「なっ!?ちょ、調子に乗るな!」
仲間を倒されたならず者達は次々サーベルを振り上げて攻撃してくる。しかし、幼い頃から師匠に剣術を教えて貰った僕にとって彼らの動きは止まって見えている程遅かった。気が付くと取り囲んでいたならず者達は皆、地面に伏せて気絶していた。剣の扱いが素人のそれだ。話にならない。
「な、なんだこのガキ。つ、強い!」
「馬鹿な!?五人で仕掛けたのに・・・倒しただと!?」
倒れた部下を見て男は顔を引き攣らせながらこちらに顔を向けてくる。
「まだやるつもり?」
そんな彼を見て、剣の切っ先を向けると鋭い眼光で威嚇する。
「く、くっそ!相手が悪すぎる!おい!ずらかるぞ!」
流石に今は分が悪いと判断した男は倒れた部下を見捨てて村から去って行った。
「ふぅ・・・」
去っていくならず者達の背中を見届けた僕はシルヴァの元へ急いで駆け付ける。
「シルヴァ!大丈夫か?」
そう声を掛け、蹲る彼女に触れようとした時だった。
「ふざけるなッ!!」
「ッ!?」
突然、こちらを睨み付けたシルヴァは僕に飛びかかって馬乗りになるとこれまで見せたことがない怒りの表情で身体を強く揺さぶってきた。
「なんで助けたッ!アンタが・・・アンタが邪魔しなければアイツらを仕留められたッ!アンタが!アンタが邪魔をしたからッ!!」
「お、おい!よせ!シルヴァ!」
「落ち着いて!シルヴァちゃん!」
「うるさいッ!」
自身を止めようとしてくる村人達にも物凄い剣幕で怒鳴りつける。急にどうしたんだ!?なんであんなに怒っているんだ!?心の中で動揺しつつも僕は冷静なままシルヴァを見た。
「ふざけるな・・・ッ!アタシは・・・アタシは!いつまで苦悩しなきゃいけないのよ!!」
「シルヴァ・・・」
「っく・・・ぐすっ・・・ううっ」
顔を両手で覆い、僕の上で彼女は泣き始める。その涙はとても哀しく、深い憎しみに包まれているように感じた。
「シルヴァ!」
するとウッド村長と狩りに出かけた村人達が慌てた様子で帰ってくると彼は急いでシルヴァに駆け寄り、僕から引き剥がす。
「騒ぎを聞いて帰ってきてみれば何があったんだ!!何故、シエル殿にこんな事を!」
「アイツらが・・・この村に来た。」
静かになったシルヴァの一言を聞いてウッド村長は驚きの表情を浮かべ、彼女の肩を握っていた手が小刻みに震える。やはりあのならず者達とこの村・・・特にシルヴァにとっては何かしらの因縁がある様だ。
「あの・・・村長。」
立ち上がった僕は真剣な表情でウッド村長に尋ねる。
「村にやって来たあの人達は誰なんですか?なんの為にこの村へやって来たのですか?・・・余所者がこんな事を聞くのは無粋かも知れません。でも!」
拳を握り締め、僕は続けた。
「僕は騎士です。誰かを助ける為に旅に出ると誓った者です。もし、力になれるなら・・・アイツらがシルヴァを苦しめているのなら。力になりたい!お願いします!この村で何が起こったのか?アイツらがなんの為にここへ来たのか・・・話を伺えませんか?」
その言葉にウッド村長はシルヴァへ顔を向けると意を決したかのように静かに頷いた。
「分かった。奴らを追い払った実力を見るからに君は信用に値する。なら教えても良かろう・・・この村とシルヴァの話をしよう。来たまえ。」
ウッド村長は険しい表情をしながらシルヴァを連れて自宅へと戻っていくと僕もまたその後を追うのだった。




