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Chevalier『シュバリエ』〜約束の騎士達の物語〜  作者: JACK・OH・WANTAN
第二章:少女と精霊
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第11話:森の狩人シルヴァ

「アンタ、ケガはない?」

「あ・・・ありがとう。」


現れたエルフ族の少女に僕は恐る恐る頷く。


少女は僕と同じ年頃に見え、緑を基調とした狩人の服とショートパンツを穿き、エルフ族特有の尖った耳、金髪のポニーテールにエメラルドグリーンの瞳をしていた。右肩には青銅で作られた鎧を付け、手には木製の弓を持っていた。


「助かったよ。」

「礼はいいわよ。ここはトロールの溜まり場だから気を付けてね。」

「えっ!?そうなの!?」


少女からここがトロールの安息の場であると聞いて驚く。僕、そんな場所で休もうとしていたのか!?


「アタシはシルヴァ。この近くの村に住んでる狩人よ。」

「僕はシエル。たった今だけど騎士として旅に出たところなんだ。それより・・・村?」


シルヴァと名乗った少女の言葉に思わず目を丸くする。


「そうよ。あまり知られてないけどここには村があるのよ。とは言っても余所者はあんまり来ないけどね。」

「そうなんだ・・・この森に村があるなんて思いもしなかったよ。」

「ところで・・・アンタ、ここで何してたの?」

「あ、いや・・・ちょっと休む場所を探してて」


シルヴァに恐る恐る休む場所を探していたと答える。


「アンタ、よくここで野宿しようと思ったわね。この森に人が安心して休める場所なんて無いわよ。」

「それはさっきのトロールを見てよく分かったよ。」


倒れているトロールに目を向けながら肩を落とす。・・・やっぱりこのまま頑張って森を抜けるしか無いのかな?


「ねぇ、休む場所探してるの?」

「えっ?・・・まぁ、そうだけど」

「それならアタシの村に来ない?今は余所者を警戒してるけどアンタは大丈夫そうだし歓迎してもらえるわよ。夜中に森の中を歩くのは危険だと思うし。・・・ねっ?」

「えっ!?いいのか?でも・・・」


手を差し伸べてくるシルヴァを見て考える。・・・今は余所者を警戒していると言っていたが村に対して粗相がなければ問題は無いだろうし、何よりもう夜更けだ。確かに下手に進んで進路を外れたら元も子も無いだろう。ここは彼女の言葉に甘えるとしようか。


「・・・分かったよ。じゃあ、世話になるよ。」

「オッケー!じゃあこっちよ!」

「ってうわっ!!待って!手、引っ張らないで!!」


善は急げと言わんばかりに突然、手を引いて歩き出したシルヴァに付いていく。


こうして森の中にあるとされるシルヴァの住む村へ向かうことになるのだった。


◇◇◇


エルフの少女、シルヴァと出会った僕は彼女の先導で本来の森道から逸れた木々が生い茂る場所を歩き始める。


「この先を歩くとアタシの住む村があるわよ。」

「本当にこんな場所に村なんてあるのか?」


足元に生い茂る木々を剣で切り分けながら進む僕に対してシルヴァはそんな道を慣れた足取りで進んでいく。


「着いたわ!ほら!」

「うわっ!」


暫く歩くと森の中を開拓して出来た集落が現れる。村の入口には空を照らす月の光にも負けず、明かりを灯す大きな松明が置いてあった。


「凄い・・・こんな森の中に村なんてあったんだ!」

「アタシ達はここに集落を作って狩りをしながら暮らしているのよ。あっ、アタシの家は向こうよ!」


村に入るや否やシルヴァは早速、自身の自宅まで案内を始める。


「だからちょっと待ってくれって・・・ん?」


急かす様に歩き出す彼女を呼び止めながら歩き出すとあるものに気付いて直ぐにその足を止める。


「どうしたの?」

「この村・・・やけに松明が多いんだね。」


村を見渡した僕は至る所に置いてある松明を見る。彼女の住む村は村の入口を含めて爛々と炎を燃やす大きな松明が民家の片隅や井戸の傍、はたまた村の中心と思われる広場と様々な場所に設置されているのだ。


「気の所為じゃないかな?確かに沢山置いてあるけど・・・」


松明の事を尋ねるとシルヴァは何故か口ごもって適当な答えを返してくる。


「いや、気の所為にしては多すぎだろ。これって何か意味があって置いてあるのか?何かを信仰してるとかさ・・・」

「そ、それは・・・」


僕の問いかけにシルヴァが困惑し始めた時だった。


「シルヴァ!」


突然、彼女の名を呼ぶ男の声が聞こえてくる。声のした方へ顔を向けるとそこには筋骨隆々な体格をしたエルフ族の男が厳格そうな顔と腕を組んだ様子でシルヴァの方へ歩み寄ってきた。


「あっ、やっべ・・・」


男を見た途端、シルヴァは冷や汗をかいてそう呟く。


「この馬鹿娘!こんな夜更けに何処をほっつき歩いていたんだ!!」

「あうぅ・・・ごめんなさい。」


ピシャリと叱ってきた男に彼女は小さくなってボソッと謝る。


「全く、あれほど夜には村の外へ出るなと言っているだろう!・・・んで?貴方は?見かん顔だが?」


男は厳格そうな表情を崩さぬまま次は僕へ顔を向けてくる。


うわ・・・凄く怖そう。ログレスの文官もこんな顔はしないな。


「えっと、僕はシエルと言います。先程旅を始めたばかりですけど騎士をやらせて頂いております。」

「そうか、騎士であったか。まさか道中でウチの娘に?」

「はい、トロールに襲われた所を助けて頂いたんです。」

「そうでしたか!ウチの娘が世話になった。私はウッド、この村『サラマ村』の村長でシルヴァの父です。」

「よ、宜しくお願いします。」


ウッドと名乗った男は手を差し伸べると僕は彼と固い握手を交わす。


ん?今、この人村長って言わなかったか?


「ん?あの、今・・・村長って言いました?」

「そうよ、パパはこの村の村長なのよ。」

「えっ!?ええっ!?」


シルヴァの言葉を聞いて驚愕する。


「そんなに驚かんでも良いですよ。兎に角、シエル殿は見たところ怪しくない。村を上げて歓迎しよう。」

「あっ、僕はそこまで歓迎される人じゃないので!」

「はっはっはっ!申し訳ない。アンタの様な来訪者が来るのは久しぶりでね。」

「そうですか・・・。」


ウッド村長を見て思わず苦笑するも少し安堵する。見た目は凄く怖そうだけど根はいい人みたいだ。


「まあ、立ち話も何ですし今日はもう遅い。是非、私の家に上がって休んで下さい。」

「ありがとうございます。」

「って事だし・・・案内するわ!ゆっくり休んでよ。」


シルヴァに再び手を引かれ、僕は再び彼女の案内でウッド村長の自宅へ招き入れられるのだった。


◇◇◇


サラマ村・・・人口凡そ50人の小さなこの村は火精の森の中に作られた村である。村人の多くが自給自足の生活を送っているが村の結束力は非常に強く、村の中でも弓術に優れた者は老若男女関係なく狩りへ向かい、捕らえた獲物を村人達で分ける程だという。


その村を収めるウッド村長の自宅へと案内された僕は村の中でも一際大きい彼の自宅の前まで辿り着く。


「こちらが私とシルヴァの家です。さあ、入って。」

「・・・お邪魔します。」


家の戸を開けたウッド村長の勧めで家の中へ入る。ログレスにいた時は城で生活していた為か正直、普通の人の家に入るのは少し新鮮だ。


中に入ると玄関で靴を脱ぎ、リビングへ案内されると椅子に腰掛けてようやく一息つく。


「何も無い家だがゆっくり寛いでくれ。」

「はい、ありがとうございます。」


キッチンへ入ったウッド村長にそう言われ、部屋を見渡すと片隅の棚に置かれている写真が目に入る。


家族写真だろうか?ウッド村長とシルヴァそれともう一人写っている様だけど・・・


「シエル、どう?アタシの家。」


すると白いワンピース姿に髪をとかした状態でリビングに入ってきたシルヴァに声を掛けられ我に返る。


「あ、うん・・・伸び伸び出来そうだよ。」

「良かった〜」

「シルヴァ、余りシエル殿にちょっかい出すなよ。シエル殿、良かったらウチで取れた林檎で作ったジュース飲んでくれよ。」


リビングに戻ってきたウッド村長はそう言うと林檎ジュースの入ったコップを差し出してくる。


「ありがとうございます。頂きます。」


礼を言いながら差し出された林檎ジュースを口へ運ぶ。


「美味しい!林檎の味がしっかりしてる!」

「当たり前でしょ?アタシの家の林檎はよく育つんだから。」


林檎ジュースを飲む僕の隣でシルヴァは自慢げな笑みを浮かべる。


「この村は自給自足が基本だからな。勿論、助け合いも基本にしている。そうでないと生きていけんからな。」

「森の中の環境を活かしながら皆と連携して暮らしていく。いい村ですね。」


サラマ村の人達の生活を聞いて僕は関心する。森の中という環境で暮らしているのだから自然に人同士の距離が縮まるのも必然だろう。


「ご馳走様でした。林檎ジュース。とても美味しかったです。」

「はっはっはっ!気に入って貰って良かった。さて、もう夜も遅い。もう休むとしようか。」

「はい」

「シルヴァ、シエル殿に部屋と来客用の布団も渡して置いてくれ。」

「分かったわ。ほら、こっちよシエル。」


林檎ジュースを飲み終えた僕はシルヴァの案内で宿泊部屋に案内されるとそのまま騎士として旅に出た初めての夜を過ごす。


しかし、この時は思いもしなかった。


ここサラマ村には深い事情が存在していた事を・・・

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