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Chevalier『シュバリエ』〜約束の騎士達の物語〜  作者: JACK・OH・WANTAN
第二章:少女と精霊
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第10話:火精の森

前回までのあらすじ

騎士オーディンがワース王国を出航してから七年後、15歳になったシエルは師匠である彼女に騎士となって会いに行く約束を忘れずに過ごしていた。やがてその旅立ちを父である国王に伝えようと思い始めた矢先、隣国ウェールズ国王との会合で王女であるディンドランとの結婚が約束されてしまう。


王族として国の為に自分の夢を諦めないといけないのか?


そう苦悩し始めた彼は嘗てオーディンに言われた言葉を思い出し、自分の自由の為に旅に出ると決意。結婚式前夜祭の最中、遂に城を脱出して旅に出ることに成功する。


多くの期待を裏切りながらも旅立ったシエルの約束を果たす為の冒険が今、始まろうとしていた。

月の光が眩しく輝く森の夜道・・・普通ならこんな時間帯に歩くと危機感が漂う筈だが今の僕はそれよりも好奇心に駆られてずんずん歩いていた。


「やっと騎士(シュバリエ)として旅に出れた。ワクワクするな!」


手にしているカンテラと月の光を頼りに森の夜道を進みながらそう声を漏らす。始まりを告げた旅の歩を進める一歩を踏みしめながら。


「旅をするには師匠の様に仲間を集めないとな。どんな人と出会うんだろう?僕にも仲間を集められるかな?」


まだ出会わぬ旅の仲間も想像しながら騎士になった最初の旅路を噛み締める。


「・・・っと、分かれ道かな?」


暫く歩くとY字路に別れた道が現れ、中央に刺さっている古びた看板の前で立ち止まる。


看板にはそれぞれ進んだ道の行き先が記されており、右側はワース王国の東部にある『アイル共和国』、左側はワース王国西部にある『ウェールズ王国』の文字が書かれていた。


・・・どちらかに進むと看板に書かれた国まで行けるという事らしい。


「成程ね・・・。」


看板を見ながら地図とコンパスを広げると方向を確認しながら地図とにらめっこして行き先を決め始める。


「地図に描かれた場所を見るとここから近いのは・・・アイル共和国かな?ウェールズはディナ達の国だし・・・いや、今は気にしたらダメだ。」


ふと、許嫁であるディナのことを思い出しそうになり首を横に振って気を取り直す。


騎士として旅をすると決めた以上、今は家族や彼女の事は忘れないといけない。


「取り敢えず今はアイル共和国へ向かおう。そこから港で船に乗るなりして他の大陸へ渡ることにしようかな?」


独りでこくりと頷き、地図とコンパスを鞄にしまうとアイル共和国を目的地に選ぶ。


「アイル共和国は実際に行ったことが無いけど貿易が盛んな国って聞いた事があるな。そこで色々旅に必要な物を集めて本格的に騎士としての活動を始めようか・・・よし!」


気合いを入れるかのように声を上げて微笑む。


「それじゃあ行こう!アイル共和国を目指して!」


こうして最初の目的地、アイル共和国を目指す為、右側の道へ進む。夜がかなり更けた時間帯・・・僕の騎士として過ごす最初の夜はここから始まろうとしていた。


◇◇◇


月の光が届かなくなるほど空に木々が生い茂った森の中・・・宵闇の荒れた道をカンテラの光だけを頼りに進んでいく。


ワース王国とアイル共和国の国境にあるこの森はその昔、聖剣に選ばれたとある剣士に使えたとされる神の使徒"精霊"なる存在の一体が眠りに就いたとされる神聖な場所だと言われ、ワースではこの森を『火精の森』と呼んでいる。


そんな森の中を進み始めた僕は魔物や動物に警戒していく。


「少し眠くなってきたな・・・でも、こんな所で迂闊に休めないし開けた場所を見つけたらそこまで行こうか。」


徐々に眠気に誘われ始めるも首を横に振りながら足を進める。


「うん?」


暫く歩くと月の光が差し込む開けた場所へ辿り着く。そこには月光を水面に照らすため池と大きな岩があり、休むには最適な場所だった。


「森の奥深くにこんな場所があるなんて・・・なにはともあれ休む場所が見つかって良かったな。」


ようやく見つけた安息の場に胸を撫で下ろし、開けた場所まで歩くと岩の傍にカンテラを置いた。


「さて、テントとかは流石にないから今日は岩の上に寝転がるしかないかな?」


旅を始めたとはいえ、流石に野宿する道具を持っていなかった僕は辺りを見渡して大きく平らな岩に目を向ける。


この大きさなら十分横になれそうだ。


「早速だ、休ませてもらおうかな?」


背伸びをしてリラックスし、休もうと岩に横になろうとした時だった・・・


グルルル・・・


背後で獣の呻き声の様なものが聞こえてくる。


「むっ?」


同時に気配を感じ取った僕は咄嗟に距離を取り、後ろを振り向く。


「なんだ、岩か・・・」


目の前にある岩の影を見てそう呟く。呻き声は気の所為の様だ。


ん?岩の影?・・・待てよ?岩ってさっき横になろうとしたあの岩しか無かったような?


「ッ!?」


刹那、岩と思っていた影が鮮明になる。それは僕よりも数倍の背丈を誇り、やがて月の光でその姿が顕になると太い木の棍棒を持った魔物・・・トロールが唸りながらこちらを見つめていた。


「げっ!」

「グオオオオオオオッ!!」


冷や汗をかいて目を見開いた直後、トロールは雄叫びを上げ、容赦なく棍棒を振り上げてくる。


「うわっ!!」


間一髪それをかわすとバーンという大きな男と共に地面に大きなクレーターが出来る。


・・・な、なんちゅう威力!?


「グオオオオオオオッ!」

「くっ!や、やるのか!」


トロールはこちらに身体を向け、雄叫びを上がると僕は腰にある白亜の剣に手をかけると月の光で白銀に輝くその刃を光らせる。


この剣は幼い頃、師匠から授かった剣だ。一見、白亜一色の綺麗でシンプルな装飾だが、その刃はまるで鏡のように輝く白銀であり、初めて鞘を抜いて見た時は思わず見とれてしまいそうになるくらいだった。


今や得物となったその剣を一振すると柄を両手で握り締め、トロールと相対する。


正直、トロールの様な大きな魔物との実戦経験は少ないがログレスで将軍をやっていた位に腕を磨いてきた。抜かりはない・・・けど、油断は禁物だ!


「グオオオオオオオッ!ウオッ!!」


トロールは雄叫びを上げながら棍棒を再び振り落として来ると僕はその攻撃を躱し、一瞬、棍棒に飛び乗ると直ぐに跳躍して飛び上がる。


「はっ!!」

「ヌオッ!?」


こちらを見上げたトロールは目を見開いて驚くも僕は構わず剣に念を込めて刃を青白く光らせ、白い稲妻を纏う。


これは剣士が最も会得するのが難しいとされる『剣雷』と呼ばれる剣術の一種だ。剣の内にある魂と自身の内にある魔力を共鳴させて繰り出す技だ。


「はぁぁぁぁぁあっ!!」


剣雷を纏った僕はそのまま白い光の刃をトロールの眉間へと勢いよく振り落とす。


「グオオオオオオオッ!?」


直撃を喰らったトロールは光の刃に眉間を斬られ、白い稲妻に感電させられると巨大な身体を震わせながらゆっくり仰向けに倒れる。


「よしっ!」


着地して、剣を構えたまま倒れたトロールを見て一安心する。これで奴を倒せた・・・と思われた。


「グウウッ!」

「なっ!?」


しかし、眉間に傷を付けられても尚、トロールは身体を動かすと再び起き上がって棍棒を片手に持つ。


しまった!斬り込みが甘かったのか!?


「グウウゥッ!グオオオオオオオッ!」

「くっ!」


雄叫びを上げながら体制を立て直したトロールが再び僕へ棍棒を投げてくる。


まだまだ諦めない!そう、心に言い聞かせ剣の柄を両手で握りしめ、臨戦態勢を執り始めた時だった。


突然、僕の背後からまるで風の様な速さで矢が飛んでくるとトロールの眉間に見事、命中する。


「ングウウウゥ!?グオオッ!」

「何?」


眉間に矢が刺さったトロールは今度こそ白目を向くと棍棒を手放して仰向けに倒れ、ようやく沈黙した。


何とかこの場は凌いだけど・・・


「今の矢は何処から?」


自分の後ろから飛んできた矢を見て首を傾げる。誰が矢を放ったのだろうか?


「ちょっとアンタ!」


ふと少女の声が耳に届き、僕は矢が飛んできた方へ身体を向ける。


そこに居たのは茂みから出てきて弓を手にしながらこちらを見るエルフ族の少女の姿だった。

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