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Chevalier『シュバリエ』〜約束の騎士達の物語〜  作者: JACK・OH・WANTAN
第一章:旅立ち
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第9話:決意の旅立ち

数日後・・・予定通り僕とディナの結婚式前夜祭がワース王国にて開催される事となった。いつものように朝早く起床した僕は結婚の事を冷やかしてくるフロンと数人の兵士達を連れ、挨拶がてら城下町の見回りを行った。


昼頃には一時帰国していたウェールズ国王夫妻とディナが訪れ、彼らの後に続いてウェールズの国賓がワース城へ入城した。


その間に昼食を摂った僕はワース王国将軍として最後の仕事である前夜祭の兵の配置の最終確認を副将軍のフォルスと行い、暫くしてから城の二階にある来賓室で待機していたディナと雑談等をしながら二人だけの時間を過ごした。


そして・・・夕日が沈みかけた頃。


「ウェールズ国王の方々そして親愛なるワース王国を支える者達よ!この度は良く来て下さった!」


ワース城一階、宴会場にて上座に座る僕とディナの前で父上がご馳走の並んだテーブルを囲んだ両国の国賓達へ話し始める。


「今宵は両国の良き日の一日となる日である!我が親愛なる息子シエル第一王子とウェールズ王国ディンドラン王女の結婚の前夜となる。」


父上がそう言うと彼に並んで立ったウェールズ国王が口を開いた。


「皆の者、今宵は上下など関係は無い。この素晴らしい夜を存分に楽しんで貰いたい。では・・・乾杯の音頭をワース国王より」

「うむ」


ウェールズ国王に深く頷き、父上はワインの入ったグラスを手に取ると皆も一斉にグラスを手に取り始める。


「では、我がワースとウェールズの永遠の栄光と繁栄と我が息子、娘の末永い幸せを願って・・・乾杯!!」

「「乾杯!!」」


父上がグラスを掲げた途端、皆もまた近くの人達とグラスを交わしながら酒を呑み始めた。


「うふふっ、皆さん私達の幸せを祝って下さっていますね。」

「そうだね。」


隣に座るディナにそう答えながら彼女と共に飲み食いする人達を優しく見守る。


「さあ、シエル様・・・私達も」

「うん」


ディナに薦められ、僕もまたグラスを手にして乾杯を交わそうとした時だった。


「シーエール!!!!」


突然、フォルスと肩を組みながらこちらへやってきたフロンが声を掛けてくる。


「フロン!」

「将軍〜ヒック、楽しんでますかぁ〜?」

「助けてくれよシエル!フォルス副将軍が出来上がってんだ!」

「いつから酒を呑んでたんだ?」


フロンに肩を貸されながら完全に酔っているフォルスを見て呆れた表情をする。


「良いよな〜シエルはこんなに可愛い女の子と結婚するんだもんな〜」

「冷やかしに来たのか?」

「違うよ〜そんな訳無いだろ?あんなに堅苦しかったお前が立派になってオレも嬉しいんだよ!」

「お前、どの口が言ってるんだ・・・」

「あ、あはは・・・とても愉快な方がいらっしゃるのですね。」


そんな自分も僕と同い年であるとツッコミたくなり、ため息を吐くとディナは苦笑しながらもクスリと笑う。


「それよりフロン、お前は宴会場入口の警備だったろ?」

「うわ!そうだった!!副将軍!行きますよ!!」

「ふぇ?仕事かぁ〜?」


酔っているフォルスを引っ張りながらフロンは慌てて持ち場へと戻っていく。


「賑やかね。シエル」

「母上、テル!」


すると入れ違いで母上とテルがこちらへと歩み寄ってくる。


「ディナ、気分はどう?」

「は、はい!楽しいです。何より私、シエル様とこうして居られるのが幸せです。」

「・・・だ、そうですよ?兄上。」

「お前もフロンと同じように冷やかしに来たのか?テル。」

「いいえ?滅相もございませんよ?」


ジトっとした目を向ける僕にテルは悪戯っぽく微笑みを浮かべる。


「さて母上、もう宜しいでしょう。私はウェールズの来賓に呼ばれておりますので母上も参りましょう。これからはお二人だけのお時間です。」

「そうね、シエル、ディナ。楽しい時間を過ごしてね。」

「はい!ありがとうございます。お義母様。」

「ありがとうございます。母上。」


ディナにお義母様と呼ばれて何処か嬉しそうな表情をした母上はテルと共に来賓達がいる席へと戻っていく。


楽しい時間を過ごしてね・・・か。


「さ、シエル様。改めて」

「うん」


訪れる者が居なくなり、二人だけとなった僕とディナは改めて互いのグラスを交わして乾杯する。


月が夜空を照らし始めた夜・・・いつも以上に明かりを灯してお祭り騒ぎになっている城下町と両国の国賓達を見守りながら僕とディナは前夜祭を思う存分、楽しむのだった。


◇◇◇


「はぁ・・・楽しかった。」


夜が更けた頃・・・この時間になっても疲れひとつ見せないディナと夜風に当たる為、宴会場に併設されているバルコニーで彼女と月夜の空を眺めていた。


既に父上やウェールズ国王夫妻は自室に戻り、就寝しており国賓達もまた用意された部屋で休んだりそのまま宴会場で寝てしまった人までいた。


「シエル様も楽しい日になりましたか?」

「うん、ディナといっぱい話せて楽しかったよ。」


こちらに顔を向けてくるディナに微笑みながら静かにそう答える。


「ねえ、シエル様」

「何?」


すると暫くこちらを見ていたディナが頬を赤くして徐々に顔を近付けてくる。


「・・・キスしてくれませんか?」

「えっ?」

「誰も見ていませんよ?いい・・・ですよね?」

「・・・分かったよ。」


深く頷いた僕は目を閉じて唇を重ね、ディナと短くも長い口付けを交わす。


暫くして互いに顔を離すと彼女は嬉しそうに微笑んで胸元へ頭を埋める。


「うふふっ、私・・・明日が楽しみです。シエル様がお相手で良かったです。」

「僕もだよ・・・」


ディナの頭を撫でながらそっと視線を光り輝く月へ向ける。


・・・そろそろか。


「ディナ」

「何ですか?シエル様」


ディナを自分の身体から離し、両肩に手を置いた。


「君に渡したい物があるんだ。」

「私にですか?」

「うん、でもそれを自室に置いてきてしまったみたいだ。」

「それなら明日でも良いですよ?」

「今渡したい。だからここで待っててくれないか?」

「分かりました。私待ってますので楽しみにしていますね。」

「ありがとう・・・。」


彼女にそう伝え、バルコニーを出た僕は物音をなるべく立てないように宴会場を出た。


騎士(シュバリエ)として旅にでる準備をする為に・・・


「・・・よし、計画開始だ。まずは第一関門クリアか。」


薄暗い城の廊下に出た僕は辺りを見渡しながら自室のある階へ続く階段を登りながらやや罪悪感に蝕まれる。


ありがとうディナ、そして嘘を付いてごめん。僕はもう君の元へは戻らないと決めた。"約束"を果たす為に僕は君を裏切ってでも進むよ。


計画通り兵士達と一人も出くわさずに四階の自室へ戻ってくると部屋のドアに鍵を掛けると真っ先に身に付けていた服をその場に脱ぎ捨てて予めベッドの下に隠していた衣類を取り出し、それに袖を通していく。


「わあ・・・!」


傍らにある鏡に映る新たな自分の姿を見てドキドキする。そこにはこれまで豪華な服を着ていた姿ではなく質素な麻で出来た緑のスボンと濃紺の服に身を包んだ自分の姿が映っていた。


「なんか新鮮だな。でもこの服装を見たらワクワクしてきた・・・っと見惚れている暇は無いな。」


気を取り直し、今度は書斎の下に隠していた麻の袋を取り出すとその中から予め購入していた様々な道具を取り出していく。


王子とはいえ手持ちは人並みに貰っていた為、そのお金を旅に出る必要な物を集める為にこうして使わずにいたのだ。


「えっと・・・まずはこれに」


麻で出来た鞄を肩に掛けるとその中にコンパス、地図、剣を研磨する際に必要な道具、応急処置用の薬等を入れていく。


「よし、後は・・・」


道具を鞄に入れると最後に師匠から譲り受け、今や得物となった白亜の剣を腰のベルトに吊るして背中に黒いマントを羽織った。


「よし!これで準備は完了だ。」


無事、旅に出る準備を整えると自室の鍵を開けて今まで過ごした部屋を振り返る。


「色々あったけどこの部屋で過ごすのも最後か・・・世話になったな。」


自室へ最後の挨拶を零し、ドアを開くと再び薄暗い廊下を歩き始める。


「第二関門クリア・・・後は」


音をなるべく立てずに廊下を駆け出すとここでも誰一人てして城の者と出くわすことなく一階へ戻ってくる。


「えっと・・・あそこか!」


廊下を見渡し、西館にある裏口のドアがある場所まで歩く。


城への出入りは普通、城下町へ続く門を出入りするのだがワース城西館には非常用に使われる裏口があり、ここは普段誰も立ち寄らない場所である為、今の僕にとっては都合よく外へ出れる格好のルートなのだ。


「よし・・・着いたぞ!」


無事、裏口へ辿り着いた僕は辺りを見渡してもう一度人の気配が無いことを確認する。


「予め兵達の配置場所を確認していた甲斐があったな・・・。」


そう呟きながら裏口のドアへ手を掛け、ごくりと息を呑む。ここを出れば僕は念願の騎士として旅に出れる。そう思いながら高鳴る胸を抑え、息を静かに吐く。


そして・・・ゆっくりドアを開け、吹いてきた冷たい風が頬を撫でると月に照らされて草木を揺らす野原と地平線で月を映す海が広がっていた。


「わあ!」


景色を見て、目を輝かせながら騎士として旅立った第一歩を踏み締めるとそのまま風に背中を押される様に野原を駆け出した。


「遂に・・・遂に僕は騎士になったんだ。僕は・・・"自由"だ!やっと・・・なれたんだ!」


未だ信じられない気持ちを零しながら月夜の空を横切る様に走り、嘗て師匠の船が停泊していた桟橋まで辿り着く。


「ふぅ・・・さてと」


後ろを振り向いて先程まで自分がいたワース城を見上げると直ぐに前を向いて笑みを浮かべた。


「これからどんな事が待ち受けるんだろう?皆の期待を裏切ってでも成し遂げたんだ!だから進もう・・・この先を!」


拳を握り締め、桟橋がある海岸より先に続く道を見つめると臆することなく歩を進める。


月夜の空、静かに波打つ海・・・城と町が未だ明かりを灯す中、僕は旅立つ。


師匠との"約束"を果たす為の冒険が今、始まるのだった。

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