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11月31日に咲く花〜リズム【本編version】  作者: pai-poi
生田桜花は、自身をネコだと思いきや【上弦】
12/31

鯖缶とお泊りに動揺する、11月13日

 ふはっ! ふひひひひ! くふふふふ!

込み上げる笑い声を心の中で押し殺す生田桃花であった! まる(。


 いやぁ、市場調査ってしてみるもんですね! してみるもんですよ!

あ~、昨日は会社に行って良かったなぁ~。

先輩が既読無視するし、どうせ出勤してるんでしょ?と思ったし、忘れ物を取りにきたふりして会社行って、「あら先輩、ごきげんよう。」って声掛けたら面倒くさそうな顔されたし。

でもめげないあたしは「お仕事手伝いましょうか?」と申し上げたのに、「仕事は無ぇ」って、じゃあなんで先輩は出勤してるしっ!


 でも~、でもでもでも~

聞いちゃいました! 盗み聞きとかじゃないですよ? 偶然ですよ?

市場調査ってほら、市井の言葉に耳を傾けることですから!

たまたま偶然、帰ろうかなぁと思って1階ホールを抜けようとしたら先輩の声が聞こえるじゃないですか。思わず立ち止まって、思わず息を殺して、思わず耳を澄まして、思わず聞いてしまったのですよ。


『肉が好きだ。……焼肉屋に行ったら肉しか食わねぇ。』


 いやぁ~、先輩ってば肉食獣! 野獣! 焼肉じゅうじゅう!!



 どうしよっかなぁ~、焼肉屋もいいなぁ~、ビアホールなんかもいいな~。わいわいがやがやな感じもいいな~。「ほら、焼けてるぞ。」とか「あ! それはあたしが育ててたやつですよ! も~~~!」とか。

でもな~、自宅でホットプレートとかもいいんだよな~。

でもな~、先輩んちはホットプレート無いしな~。

流石に買って持ってくのもな~。

え? うち?

え? ええええ?? も~~~先輩ったらッ!


 とはいえ梅ちゃんにも会いたいしね~~~。

あ! 梅ちゃんはあたしの妹分、猫ちゃんの名前ね!


 結局は先輩んちに行きたい生田桃花であった! まる(。




 ピ~~~~~ン ポ~~~~~ン




「は~~~い、はいはいはい、は~~~い!」


 妄想を打ち切り、包丁を置いて手を洗って、インターフォンの画面を見る。

おっと、約束の時間のジャスト3分前とは侮りがたし!

やるな! サラチャンさん! 時間厳守とは秘書能力が高いな!


「いらっしゃいませ~!」


「こ、こんにちは。」


 インターフォンに出ずに、ダイレクトにドアを開けて迎える。

それが功を奏し、サラチャンさんがちょっと驚く。 ん? 戸惑う。

可愛いなぁサラチャンさん!

あぁ……、あたしもこういう細い感じの「守ってあげたい感」が欲しいなぁ。


「ようこそ、おいで下さいまし。ささ、上がってあがって!」


 来客用スリッパを出し促した。

そう、今日はサラチャンさんをうちにお招きして、お料理勉強会を開催するのだ!



「サラチャンさん、なに買ってきたの?」


 エコバッグから突き出ている長ネギ。それはわかる。

でもそれ以外にも結構な食材が入っているみたい……。

パンパンだな! なに買ってきた!


「カレーに使う材料とか、それ以外にも。

 あとお土産に、たい焼きを買ってきました。美味しそうだったので。」


「お~~~! たい焼きいいですね!

 やっぱり寒くなってくるとたい焼き食べたくなりますよね!

 うんうん、サラチャンさんはわかってるな~!」


「あの……、生田さん?」


「はい?」


「その……、サラチャンさんって長くないですか?

 噛みそうですし。」


「大丈夫す! あたし早口言葉得意なのですよ!」


「いや、同い年なんですし、普通にサラでいいですから。」


 静かな微笑み! 涼しげな感じが大人!


「だってサラさん、あたしのこと苗字呼びじゃないですか。」


「わかりました、オウカさん。」


 う~む、ここが落としどころかな? 流石にチャン付けは教授先生と被るし!

そんな一通りの挨拶を終え、あたしは手早く下ごしらえを切り上げてお茶を用意する。緑茶にしようか悩んだけど、ここはあえての紅茶! 二人分を用意してサラさんの元へと運んだ。



「さ~て! 料理にかかる前にたい焼きをご馳走になりますか!」


「そう、なのですか?」


「ん? だって温かいうちに食べたいじゃないですか!

 レンチンしたらせっかくのパリッと感も無くなると思いますしね!

 それに、今日は練習がメインなのでお昼ご飯は遅くなると思いますよ?

 まずは腹ごしらえから、ですね!」


 サラさんを促し、たい焼きを取り出す。

ついで、買ってきてくれた食材を並べ確認する。



 うわぁ……


 人参、じゃがいも、それとカレーの固形ルーまでは正解。

まず玉ねぎが無い。入れない派の方もいるかもしれない。でも玉ねぎの甘みはベーシックに必須だと思う。おろしたり形が無くなるまで炒めたりした本格なカレーだとね、うん、玉ねぎの存在がわからないかもだけど。食べるだけの人にとっては。


 長ネギが玉ねぎの代わりだったのかな? うん、これは斬新。

いや違うかな? 肉類も無いしな……


 代わりにあったもの。

とろけるスライスチーズ、プレーンヨーグルト。あぁ、これは定番のトッピング&隠し味系かな? うん、わからなくもないチョイス。


 鯖缶……、味噌味!

まさかのアジアン系? アレンジ系??


 炒り胡麻、佃煮、パプリカ、納豆……

なんでしょう? なんでしょうね? 方向性が全く分かりません。


 おっと! ラストに肉が出てきた!

うん、でもこれは豚しゃぶ用のお肉だね! ちょっと高級な奴だね!


 ……、あたしは諦めたよね? まる(。




「サラさん、ここで重要な発表がございます。」


「はい。」


 あたしはたい焼きをかじり、もぐもぐ。

飲み込みながら今日のプラン変更を申し上げる。サラさんが手にしていた紅茶を静かにテーブルに置く。少しかしこまった様子。


「まずは今日、カレーライスは作りません。」


「……。」


 驚きと緊張の表情。うん、ごめんね? ちょっと材料的に厳しいからね?


「と、言いますのも。

 先日行った市場調査によりますと、カレーライスは男の子が大好きな定番でありつつ、ハズレの少ない一品です。が、定番がガシッと! 彼のハートをガシッと掴むとは言い切れません。」


「……、はい。」


「むしろ料理そのものよりもッ! シチュエーション、ロケーション、状況設定!

 言い換えるならば場の整え!!」


「はい?」


「か~~~ら~~~のっっ!

 彼のハートを打ち抜く、スナイピングな料理!!」


 ここで感涙! 生田桜花!(泣



 たい焼きの最後、しっぽを食べる。

……、あたしは頭から派です!


「んまぁ、そういうわけでね? まずは基本的な包丁とか、炒め物とか、お味噌汁の練習からしましょうか、という。」


「あぁ、なるほど。」


 あたしの拙い話だったけど伝わったらしい。

このなんていうかなぁ、隙が無い感じなのに隙だらけ。そして素直な感じ。

あたしが惚れるわ!!



「最終目標は、朝食を作ることっす。」


「ちょ、朝食ですか?」


 そして大きな目を、また一段と大きくする表情……


「はい! 朝食を作って差し上げましょう!」


「その……、流石に早朝からお邪魔するのは……」


「泊りましょう!」


 サラさんが顔を横に伏せる。

流れ落ちた髪の間から覗いた耳が赤く染まるのが見える。


「生田さん……、オウカさんはその……

 泊まったりしてるんですか?」


「いや~~~! 残念ながらまだ1回、いや2回だけしか、

 はい、1時間ほどしか訪問してません! それも日中です!」


 だってだって! 無理じゃん!

そんなん、サラさんとはスタートから違いますからね??


「それにですねぇ……

 あたしの場合は戦略の方向が違うんですよねぇ。」


「戦略の方向?」


「えぇ……、あたしの場合は肉方向なので、ね。

 いや流石に朝からがっつり肉食系だと、うん、う…、うん。」


 うわ~~~~~~~~~~~~! うわ! うわ! うわ~~~~~~~~っ!

変な方向に! 変な方向に想像が!!




「さ、さ~~て!

 では早速、心頭滅却、調理開始! じゃんじゃか猪突猛進、医食同源!!

 やりましょうか!」


 あたしはすくっと立ち上がり、飲み終えた二人分のカップを持ってキッチンへと向かう。そうだ! 料理だ! 心を調えるのだ!


 よし考えよう!

カレーライスの付け合わせに考えてたサラダは、冷しゃぶサラダに変更して……

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― 新着の感想 ―
[一言] 料理回は心が躍りますね。腹も鳴りますがw
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