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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

牛の首

作者: NOMAR

 家紋 武範 様の『牛の首企画』参加作品です。



「おーい、ネタくれー、『牛の首』で」


「『牛の首』というと都市伝説のヤツか。なんでまた?」


「『牛の首』でホラーというのが今度のお題でな。なんかないか?」


「俺に聞くのが間違っている。俺はホラーというのが、いまいち面白さがよくわからない」


「でも都市伝説とか知ってるんだろ? その博学なとこでひとつ助けてくれ」


「だいたい都市伝説の『牛の首』というのは内容不明のものだろ。その話を聞いた奴は恐怖のあまり三日で死ぬという。だったらどんな話か中身を知ってる奴はいないだろうに」


「んじゃ、牛関連でホラーなものとか」


「牛鬼とか午頭とかあるだろ。図書館で調べて来い」


「妖怪か、怪物でもいいけど牛に纏わるゾッとする話とか無いか?」


「ゾッとする話ねえ。じゃターボ牛なんてどうだ?」


「なんだ? ターボ牛って? ターボおばあちゃんの牛版か?」


「そっちも都市伝説か。時速100キロ以上の速度で車と並走するおばあちゃんか。そういうのが出てくるのも高齢化社会の影響か?」


「いや、そこまで元気なお年寄りは妖怪しかいないだろ。時速100キロで走れる人間て、若くてもいるのか? オリンピック選手でも時速45キロとかだろうに」


「人の限界が時速50キロらしい」


「ターボ牛の速度はどんくらい?」


「走る速度でターボ牛と呼ばれてるわけじゃない。それにターボ牛は実在するぞ」


「都市伝説じゃ無いのかよ」


「このターボ牛というのは品種改良された乳牛のことだ。牛乳が売れるというなら乳をいっぱい出す牛がいるといいなあ、と頑張って品種改良したわけだ。

 人工受精技術が生まれてから品種改良は加速した。1965年には一頭当たり年間4,250kgだった乳量は、2020年には8,806kgまで増加した。

 ターボ牛っていうのはドイツで生まれた乳牛で、一生の乳量が88,000ポンド、約4万kgを超えるスーパー乳牛だ」


「4万kgって、40トンか。ということは10式戦車1台分か」


「合理的な国民性と言われるドイツ人の酪農家が頑張った結果かな。1頭でガンガン牛乳を作れる乳牛が誕生したことで、こう思う人も現れた『なんか、こんなに乳を出す牛って不自然で気持ちわりい』と」


「やるだけやらかしてヒドイ感想だな?」


「人間で例えると、6~8世代で母乳の出る量が2倍に増えるという進化をしたようなものか? やるだけやらかしたからこそ分かることもある。人は自然に近いものを健康的と感じ、自然からかけ離れた不自然なものを身体に悪そうと感じる」


「いやまあ、不自然なことって病気になりそうってイメージあるか」


「こういうのは世界共通らしいな。ドイツで急速に菜食主義が増えたのは、大量生産の為の畜産の開発を合理的にやり過ぎた。そこで取れるものが不自然で健康に悪そうというイメージが現れたから、というのもあるんじゃないか?」


「あー、牛も牛乳を噴出する装置として開発された生物、という言い方したら恐くなるか。ミュータントみたいなもんか」


「乳牛以外で言うと、成長促進の為のホルモン剤とか、病気にならないようにするための抗生物質とかを家畜のエサにドンと混ぜたりとか。薬まみれのエサって不自然じゃないか? これで日本では国産の鶏肉の59%から薬剤耐性菌が検出されたりとかある。

 薬剤耐性菌の入った鶏肉を健康な人が食べても問題は少ない、ということになってはいる。だが、高齢者が摂取すると病気治療の際に抗生物質が効かなくなる可能性がある。この辺りはまだ研究中か」


「鶏肉食ってたら抗生物質が効かなくなるのかよ?」


「1971年、イギリスでは世界で初めて畜産における抗生物質の一部使用を禁止した。これはイギリスで起きた食中毒が原因だ。

 抗生物質に耐性を持つ大腸菌による集団感染で多くの子供が死ぬことになった。その大腸菌の感染経路を調べると、家畜に大量の抗生物質を使っていた飼育場が見つかった。

 家畜の飼育場で大量の抗生物質相手にサバイバルして、鍛えられた大腸菌がメッチャ強くなったわけだ」


「なんだよそのスーパー大腸菌Zは? 人は知らずに大腸菌のブートキャンプやってたのかよ?」


「合理的に大量生産しようとしたら、ドンドン不自然になるって例かもな。乳牛なんて人工受精技術が普及してから現役寿命が短くなったぞ。かつては現役寿命が20年くらいだったが、人工受精でバンバン作れるってなってからは今の現役寿命は約5年だ」


「5年で潰されるのか、なんか……、なんとも言えねえ」


「生産価値が落ちた家畜はすぐに屠畜場に送って肉にする。生産性を高めるには合理的か」


「合理的って、血も涙もねえな」


「使い方次第だろ。このあたり人間の社畜も家畜を参考にするといいのかもな。生産性を高める為には社畜も人工受精でバンバンつくる。歳をとって生産性が落ちたら屠畜場に送って肉にする」


「うおい! 人間でそれやるのはヤベエだろ!」


「現状の畜産業の家畜を見れば、人が70代80代まで現役で働くのは難しいって分かりそうなもんだがな。生産性を高めるには若くて元気な社畜の方がいい。生物は老化すれば身体に不調が出るもので、老化した個体はどうしたって労働生産性は落ちる。生涯現役と企業の成長の両立というのはかなり難しいことだぞ」


「だからって人を牛とか豚みたいに体外受精で増やすってのはアカンだろ」


「なぜ牛でやっていいことが、人でやっちゃダメなんだ? ついでに人間の品種改良でもしたらどうだ? より生産性の高い社畜をつくるとかな」


「やめれ、優生思想やめれ。生物が環境適応した結果が進化で、遺伝子に優性も劣性も無いだろが」

 

「自然な生物ならな。ところが人間とは不自然で経済的な生き物でもある。ま、現代のなんちゃって優性思想は他人にマウントを取りたいって欲の捻れのようなものだけどな」


「なーんか違う意味でホラーになってきたような」


「会社をクビになった社畜を屠畜場に送る無慈悲社会なんてどうだ? 社会派ホラーになるんじゃないか? 高齢化の社会問題も解決してしまうぞ」


「もっとマシな解決法は無いのかよ。そんな社会はイヤだ」


「じゃ、無人島にでも行くか? 案外、人が国の家畜になる国畜化は、既に始まっているのかもな」


「これでどうやって『牛の首』のホラー作ればいいんだよ?」


「『牛の首』っていう怪談は、『聞いた人が死んでしまうほどの怖い話』という都市伝説だ。その実態が無いまま、聞いた人が死ぬという部分が広がっている。

 その中身は無く、知れば恐ろしさのあまり死んでしまうというもので、『牛の首』そのものでは無く、『牛の首』に纏わるものが都市伝説の主体になる。

 乳牛を含めた現代の畜産業界の実態そのものが、『牛の首』みたいなものかもな。深く中身を知れば日頃の食事にも疑念を持ち、これで恐怖心が高まれば安心して食べられるものが食卓から無くなってしまう」


「そんなにヤベエのかよ? 畜産って?」


「だから『牛の首』の反対が、知らぬが仏、ということになるのかもな。ドキュメンタリーの『Food, Inc』を見てみるか? しばらく肉が食えなくなるぞ」



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[良い点] ∀・)おぅ……この会話で恐怖を煽る感じ。はてまた斬新な作品を投稿されてますね。知らぬが仏なりか。 [気になる点] ∀・)牛からしてみれば人間こそホラーね。牛の首企画の感想欄に必ずと言ってい…
[気になる点] 知らぬが仏のケース。 普通の豚肉を黒毛豚の肉と偽装表示したり、肉の重量かさ増しのために原料の肉塊やペーストにした肉に水を入れるってやつですかね? [一言] 違う意味で怖かったですね。…
[良い点] だから私はヴィーガンです。ウソです。 (ーωー) 牛さんからすると、人の存在こそホラーかもしれません。
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