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葉ノ香とG組



「「「「はぁ!?キスーー!!!???」」」」


G組が犯罪組織を壊滅させた次の日、G組の面々は最上階での出来事を主に晃彦から聞いていた。

昨日は組織の面々の引渡しやらなんやらでドタバタしていたのだ。


「きゃー!やっと進展したー!」


「あー!私も見たかったー!」


「というか、譲渡魔法の条件ってキスかよ!?」


今日も今日とてG組は大賑わいだ。


「いや、おそらくそれだけではないな。相手の合意も必要なのだろう。」


圭は龍牙が葉ノ香の合意を得ていたのを考慮に入れて冷静に解析していく。

実際合意なしで魔法を譲渡できるのなら、それはどちらかというと、強奪魔法に近いだろう。


「強奪魔法との違いはそれだけではなく、譲渡をした相手もそのまま魔法が使えることだな。」


そう、葉ノ香は龍牙に服魔法を譲渡した後でもちゃんと魔法が使える。

ちなみに、今日の服は白のブラウスにお菓子柄のメルヘンチックで甘いスカートだ。


「でも、それじゃ、譲渡というよりは貸与じゃねーの?」


孝は首を傾げながら、圭にそう尋ねた。

孝はゲーム好きなので、そこのところの違いが気になったのだろう。


「いや、一度渡された魔法はそのままずっと使い続けれるようだし、譲渡で問題ないだろう。まぁ、相手の魔法を複製してから譲渡してもらっているようなものだ。」


龍牙の魔法なのに、当然のように圭が解説する。


「じゃあ、龍牙はこれからも服魔法使えるんだ!」


葉ノ香が楽しそうにそう言うと、龍牙は「げっ」みたいな顔をした。


「俺は使わねーぞ。」


「えー、なんでー?」


まぁ、当然の如く、龍牙がコスプレするはずもない。

葉ノ香は若干残念そうだ。


そんな2人を横目に圭は話を続ける。


「おそらく、もう一つ条件がある。これは俺の予測だが、譲渡条件には“相手への心からの信頼”が含まれているはずだ。」


圭の言葉に龍牙が一瞬眉を顰めた。

そして、クラスは一瞬静粛に包まれたが、すぐにみんな笑い出した。


「……ぷっ!あははは!何それ!龍牙くんツンデレすぎでしょ!」


「葉ノ香ちゃん大好きじゃねーか!あははは!素直じゃねー!」


笑い出すクラスメイトたちに龍牙はより一層眉を顰める。


「私も大好きだよ!」


葉ノ香はとびっきりの笑顔で龍牙にそう言うが、それでも、龍牙の眉間の皺は取れない。

むしろ、胡乱な目を葉ノ香に向ける。


そんな中朔乃が口を開いた。


「……前々から思ってたけど、葉ノ香って無自覚よね。」


鎖魔法の使い手である朔乃は結構クールなタイプだ。

G組のほとんどが気づいていながら、言わなかったことをズバッと言ってしまった。


「あー……やっぱり?」


「前々からもしかしてとは思ってたけど……」


「え!?嘘だろ!?あんな龍牙好き好き大好きな葉ノ香ちゃんが!?自覚ないの!?」


一部気がついていなかった鈍ちんもいるが。


もちろん龍牙が気づかないわけがない。

葉ノ香はおそらく恋愛感情なんてものを理解してないだろうということに。


「………まぁ、別にいい。」


龍牙はふと眉間の皺をなくして、ポツリとそう呟く。

そして、葉ノ香の頬に手を添える。


「何はともあれ、もう俺のものだ。」


キョトンとしている葉ノ香を見つめながら、そう言う龍牙にクラス中が一瞬固まる。


「……はぁ!?なんでそうなるの!?」


「いやいやいや!!葉ノ香ちゃん理解してないから!キョトンとしてるから!」


「え!?え!?まじで!?龍牙くんのツンデレどこいったの!?」


「きゃー!!!龍牙くんの俺のもの発言キターーー!!」


もはやG組は大混乱、阿鼻叫喚である。

当の本人は素知らぬ顔をしているが。


「葉ノ香は俺が好きだろう?」


「うん!大好き!みんな大好きだけど、龍牙が一番好き!」


葉ノ香は満面の笑顔でそう言い切った。

その瞬間クラスの全員が固まる。

主に『みんな大好き』のあたりに反応しているのだ。

なんだかんだで、全員現金なやつらで、全員葉ノ香大好きっ子なのだ。


「ほら、問題ねーだろ。」


「いや、あるだろう」とはもう誰もツッコまない。


どうせあの葉ノ香を御し切れる人間なんてこの世界で龍牙しかいないだろうし、「龍牙が一番都合がよくね?」とクラスの全員が思ってしまったのだ。

みんな葉ノ香が大好きなので、葉ノ香の傍にいることができて、葉ノ香に大好きと言ってもらえるなら、龍牙の多少強引なソレにも目を瞑るのである。


「どうかした?」


葉ノ香は無邪気に問いかける。

龍牙は頬に添えた手を葉ノ香の頭に乗せて撫で回す。


「どうもしねーよ。おまえはずっと俺と一緒だってことだ。」


「うん!」


葉ノ香は無邪気に楽しそうに笑う。


龍牙の決心はもうとっくに固まっていたのだ。

葉ノ香の魔法奪還作戦より前、いや、もっと前かもしれない。


龍牙は最初から葉ノ香を放っておけなかったし、もうとっくに葉ノ香から離れられなくなっている。

誰よりも強く自由で、正義感や仲間意識なんてものがなくとも誰かを守ろうとする葉ノ香をG組の連中は信仰に近いほど憧れ、尊敬し、愛している。

だが、龍牙は違う。

龍牙にとって葉ノ香は危なっかしくて、バカで、自分を省みようとしない、自由すぎる自由人で、放っておけない存在なのだ。


別にどっちが正しいかなんてものはない。

どっちがよりいいとか、どっちがより愛情が深いとか、そんなものはない。


だが、龍牙も、G組のみんなも、「葉ノ香の隣に立つのは龍牙だ」というのが共通認識である。


強いからではない。

いや、強さが関係ないわけではないが。

ただ、G組の面々と龍牙の間にある確かな違いはそこに明確に現れる。


「龍牙くん、私は、私たちは、葉ノ香ちゃんが笑って、葉ノ香ちゃんの好きなように生きてくれれば、それでいいの。」


英理は穏やかに微笑む。


「きっかけも、理由も、何でもいい。葉ノ香ちゃんの笑顔を守り続けてくれるなら、文句はないよ。」


それがG組の総意である。

そして、どこか穏やかな雰囲気に包まれたG組で無自覚カップルがカップルとして成立した。

まぁ、当の葉ノ香にその自覚も実感もないだろうが。



それから数日、G組はいつも通りな平和な日常を取り戻すかのように思われた。


だが、G組に訪れたのはG組の生徒たちへの一般企業や組織のスカウトの嵐である。


そう、もともとG組は優秀で、いろいろなところから注目されていた。

それが今回生徒のみで犯罪組織丸々一つ壊滅させたことで、どこもかしこも我先にとG組の面々をほしがったのだ。


「……何で、何で……何で俺にだけスカウト来ないのぉー!?確かに予知夢魔法は地味だけど!!!」


晃彦は自分の能力がすごすぎて一般企業や組織が手出し不可なのを知らないため、自分だけスカウトが来ないことにふてくされていた。


「まぁ、まぁ。というわけで、俺たちのところに今山みたいなスカウトが届いてんの。」


葉ノ香にそう説明しているのは藤川康平というスポーツ万能な狼魔法の使い手である。


「そー!そー!俺たち超人気者!正に選り取り見取り!期待のルーキー!」


隼人は相変わらず絶好調である。

音速魔法でお調子者の隼人くんだ。


「というわけで、うちらは葉ノ香の意見を聞きに来たわけ。」


野沢美波はそう葉ノ香に投げかけた。

それに葉ノ香は首を傾げる。


「意見?」


龍牙はG組の面々の意図はわかっているようで黙っている。


「そうそう!私らできれば葉ノ香と同じところがいいなぁって!全員は無理かもしれないけど!」


「うんうん、というか、葉ノ香ちゃんより先に私たちが将来を決めちゃうのもねぇ。」


つまり、G組の面々は葉ノ香が将来どうするのかそれを聞いてから、スカウトを受けるか蹴るか決めたいようである。

そして、トップである葉ノ香より先に決めるのは如何なものかという意図もある。


そんなG組の面々に葉ノ香は一瞬キョトンとしたが、すぐに思い出したように口を開く。


「ああ、言ってなかったっけ?」


葉ノ香は思い出したように、あっさりと言う。



「私は卒業したら、私の完全独立部隊を作ることが決まってるんだよ。」



うん、サラッと言った。

もちろんクラスは静まり返る。

そんな返答を想像してた人間なんて誰一人もいないだろう。


「「「「「………は、はぁーーーー!!!!?????」」」」」


今日も今日とてG組には絶叫が響き渡る。


そのタイミングでガラリと教室に入ってきた担任はそこに更に爆弾を落とす。


「あー、ちなみに、おまえら全員卒業後は夢園の部隊入りが決まってるから。」


「「「「「はぁーーーー!!!???」」」」」


担任はそもそも全員進路は最初から決まっていると宣ったのだ。


「え!?ちょ!?聞いてないけど!?」


「は!?嘘!?葉ノ香ちゃんの独立部隊!?しかも、俺たちまで!?」


「まじかよ!?スカウトどうしようとかそういう次元じゃねーじゃん!!」


G組は絶賛混乱中である。

平気な顔をしているのは龍牙と英理と圭と、後は顔に出にくい何人かだけだ。


「あれ?言ってなかったっけ?わりーわりー。おまえらは夢園の部隊に所属させるために選ばれた精鋭だ。まぁ、性格も考慮に入れたらしいが。」


担任は悪びれずにやり気なさそうにそう言った。


「え!?は!?ちょ!?まじで!?」


「つーか、入学時点で決まってたって…!俺たちの意思は!?」


流石のG組もこの展開には混乱せざるを得ないようである。

まぁ、無理もない。

入学した時点で将来が決まっていたなんて聞かせられたら。

しかも、葉ノ香による独立部隊だ。余計混乱するだろう。


「うるせー。」


しかし、龍牙は煩わしそうにそうG組の面々に言い放つ。


「いやいやいや!これは混乱必須でしょ!てか、何で龍牙はそんなに落ち着いてんの!?もしかして知ってたの!?」


晃彦が言っていることはごもっともだ。


「別に……ただ、言われたら納得するだろ。どんな組織だって国だってこいつは手に余るだろうが。」


龍牙は至って冷静に納得していたのだ。

葉ノ香は制限付きとはいえ、万能魔法の使い手で強大すぎる力を持っている。

そして、本人に地位や政治に対する欲がない。

「なら、いっそ何にも属さない独立組織を形成させた方がいい」というのが世界の出した結論だ。


本人にその気がなくとも、葉ノ香の存在は戦争の火種になるほどなのだ。

その力はどんな国だろうと、組織だろうと手に余るし、本人の性格も性格で扱いにくさを増している。

だから、いっそ独立させて部隊という型に嵌めてしまった方がいいということなのだ。


まぁ、葉ノ香が世界征服や世界滅亡などを企めば、独立は裏目に出るが……そこは賭けなのだろう。

どうせ、殺せない。


葉ノ香の母は確かに葉ノ香を守ったのだ。

葉ノ香の魔法を自他共に服魔法だと思い込ませたことで、葉ノ香が確実に力を付けるまでその魔法が実は“万能魔法”だと世界に悟らせなかったのだ。


「つーか、ごちゃごちゃ言ってやがるが、てめーら、葉ノ香の部隊じゃ不満だとでも言う気か?」


龍牙は言外に「そんな気更々ない癖に文句言ってんじゃねーよ」と言っているのだ。


しかし、葉ノ香は龍牙の言葉を文面通りに捉えたらしい。


「え?そうなの?私みんなも一緒だって知らなかったから、すっごく嬉しかったんだけど……」


そんな葉ノ香にG組の全員はハッとする。


「「「「「そんなわけない!!!」」」」」


息ぴったりである。


「いやいやいや!唐突な話に驚いただけだし!めっちゃ嬉しいに決まってるし!」


晃彦は焦ってまくし立てる。


「うん、本当よ?私たちはずっと葉ノ香ちゃんやG組のみんなといられてとても嬉しいのよ。」


美和は優しく微笑んだ。


「うん!うん!卒業後も葉ノ香とG組のみんなといられるとか最高じゃん!しかも、独立部隊とかかっこいいし!自分たちの部隊じゃん!」


弥生は今日も元気で楽しそうだ。


他の面々も各自弁明に励みながら、嬉しいという事実を伝える。


ちなみに、英理と圭が驚かなかったのは当然知っていたからだ。

英理は既に葉ノ香の独立部隊結成予定の情報を知っていたし、圭はそれくらい簡単に解析できた。

そう、葉ノ香を学園に入学させた時点でその存在を公にしつつ、学園の生徒として安全を保証することが約束されていたため、圭は様々な状況を考慮に入れて葉ノ香の独立という割とぶっとんだ結論に至ったのだ。


「良かった!じゃあ、みんな卒業してからも一緒だね!」


ニコニコと楽しそうに笑う葉ノ香にクラスのみんなようやく実感が湧いてきたようで、嬉しそうに笑った。



一方、A組では。


「ということで、G組は将来夢園葉ノ香ちゃんの部隊に所属することが決まっているのです。いいえ、そのために集められたメンバーなのです。」


担任である紗香はA組に葉ノ香の部隊について、G組の存在意義について説明する。


「本当はA組からも優秀な生徒が何人か選ばれて入るはずだったんですけど……」


彼女はとびっきりの笑顔で容赦なく言い放つ。


「あなたたちがG組と葉ノ香ちゃんに喧嘩を売ったので、それはできなくなりました。」


A組の面々はもやはどんな顔をしてそれを聞けばいいのかもわからない。

笑顔で容赦なく過去の愚行がどれほど愚かな行動だったのか説明されているこの現状にどういう心境で臨めばいいのかわからない。


「“あの”葉ノ香ちゃんの部隊ですよ?それこそエリート中のエリートで、将来の富も地位も約束されています。」


いや、まぁ、地位に関してはかなり特殊な位置づけになるだろうが。


「あなたたちは自分の将来の大事な選択肢を一つ潰したんです。自分の手でね。」


紗香は終始笑顔である。


1人の生徒が苦い顔で手を上げた。


「……先生は一体俺たちに何が言いたいんですか…?」


そう聞きたくなるだろう。

自分の生徒にそこまで言い募るのだ。

罵倒ではない。

述べているのは事実だ。

だが、流石に度がすぎていないかと、第三者が聞いていれば思ったはずだ。


すると、紗香は先程までの貼り付けた笑みではなく、生徒たちを慈しむかのような笑みを浮かべた。


「あなたたちは決定的な挫折を知りました。取り返しのつかないことをしたことを知りました。上には上がいると知りました。」


紗香はA組全体を見渡してゆっくりと一言一言紡いでいく。


「相手を傷つければ報いが返ってくると知りました。自分たちのプライドがどれだけ幼稚なのかを知りました。」


紗香は微笑む。


「なら、それを糧をしなさい。あなたたちのしたことは取り返しのつかないことです。でも、過去は変えられなくても未来は変えられます。」


紗香の言葉は今のA組の生徒たちの心にすんなりと入ってくる。

怒っているわけでも、説教をしているわけでもないと生徒たちも感じているからだ。


「あなたたちみたいな実力のあるエリートがその歳でここまでの挫折を味わうことなんて早々ありません。」


そりゃ、高校生のうちに将来の重要すぎる道を丸々一つ完全に潰すなんて早々ないことだろう。


「なら、それを糧にしなさい。失ったものは大きいわ。でも、どんなに嘆いてもそれは戻ってこない。だからこそ、前に進みなさい。」


紗香は本気でそう言っているのだとわからないほどA組の生徒はバカではない。


「だからこそ、強くなりなさい。誇れる自分になりなさい。誰かを蔑むのではなく、優しくできるほど強くなりなさい。力だけではなく、心も強くなりなさい。」


紗香が笑顔で言う言葉はとても力強い。

そこにあるのは同情でも優しさでも先生としての義務感でもなくて、本当にA組のみんなのために言ってくれているのだ。

だから、響く。


「私の出世コース丸々潰したんだから、それ以上の成果を出してちょうだいね?」


教室全体がガクッとずっこけるような気分になったのだ。

まぁ、最後の一言も先生なりの激励の一つだったんだろう…………たぶん……


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