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葉ノ香の服



A組との全面戦争が行われてから数日経ったある日の実戦訓練にて。


「あー、なんつーか、うちのツートップをずっと同じチームにしとくなって上からのお達しだ。めんどいけど。」


G組の担任は本当にめんどくさそうに言った。

そして、彼は内心意味のないことだと思っているが、一度くらいは従っておくつもりなようだ。


というわけで、葉ノ香は珍しく…いや、初めて龍牙がいないチームで実戦訓練を行なっている。


「あはははー!全部俺が倒しちゃうもんねー!」


雷獣魔法の使い手である橋本太一は雷を纏いながら、人間とは思えない身体能力で魔獣を蹴散らしていた。


「おー、太一のやつ張り切ってるなー。」


晃彦も一緒だ。


「ちなみに、葉ノ香ちゃん、今日は割と普通の格好してるね?いや、可愛いと思うけど…」


晃彦は葉ノ香の服装を見ながらそう言った。

葉ノ香の今日の服は花柄のワンピースだ。


「うん、可愛いでしょー。これは買ったやつ。」


今日の服はオーダーメイドではなく、市販品のようだ。

葉ノ香は相変わらず服のことになると楽しそうにしている。


「一応聞くけど、魔法は使えるんだよね?」


ぶっちゃけ晃彦は不安だった。

いや、G組トップの葉ノ香と、G組でも戦闘力高めの太一がいるから、大丈夫なのはわかっているのだが。


「うん、植物魔法が使えるよー。本当はお菓子柄のワンピースと迷ったんだけど、訓練あるの思い出して。」


葉ノ香はあっけらかんとそう言うが、晃彦は心底お菓子柄じゃなくてよかったと胸を撫で下ろす。

ぶっちゃけこの2人は戦闘力は申し分ないが、いかんせん非常識すぎるのだ。

普段は龍牙がいるから問題ないが、どう考えても晃彦にこの自由人2人を止められない。もちろん言葉でも物理でも。


「何でよりによってこの2人なのかなぁ…いっそ非戦闘員のが……というか、何で今日は山なんだ……」


雷獣魔法で縦横無尽に暴れまくる太一について行きながら、晃彦はそんなことをボヤいた。


そんな中…


「あ……」


太一のそんな声が聞こえてきた。

その声は決して大きいものではなく、焦燥も含まれていなかったが、葉ノ香はすぐさま無言で走り出す。

晃彦も慌てて葉ノ香に続いた。


すると、崖っぷちで今にも落ちそうな太一がそこにいた。


「あー、流石にここから落ちたら死ぬかも?」


悪戯がバレた子供のような顔で太一はそんなことを言った。

そして、崖から落ちた。


「は……はぁー!?ちょ、待って!」


あまりの急展開に晃彦は絶賛混乱中だ。

しかし、流石に学園の生徒であることだけあって、その頭はどこか冷静に「今このメンツじゃどう考えても助けられない」とすぐさま判断した。

そして、「いくら雷獣魔法で身体能力が爆上がりしてるとは言え、この高さから落ちたら流石に助からない」とも。


だが、そんな晃彦の思考をよそに……

葉ノ香はなんの迷いもなく、自ら崖から飛び降りた。


「は、はぁーーー!!??!?ちょ!!葉ノ香ちゃん!?!?」


一切の躊躇のない葉ノ香の行動に晃彦はもはや目を白黒させている。

そして、慌てて崖の淵に駆け寄り、下を見下ろした。



そして、太一は大空を見ながら、絶賛落下中だ。

その割にはどこか冷静に思考する。

走馬灯なようなものなのかもしれない。


割と本気で死んだと思った。

しくじったなぁとは思ったけど、別に悔しいとかそういうのはなかった。


俺は昔から周りとズレていた。

魔法がじゃなく、中身がだ。

子供の頃はまぁ別にそれでもよかったみたいだ。

だけど、年々歳を重ねるごとに変な目で見られるようになった。


大人たちは俺に言った。

いつまでも子供のままではいけないと。


意味は理解できた。

だけど、俺は俺のやりたいことをやりたいし、大人になれって言われてもよくわからなかった。


でも、俺はこの学園で葉ノ香に出会った。

葉ノ香は俺よりももっと自由で、めちゃくちゃで、そんで、その自由を誰にも邪魔なんてさせなかった。

それでいて周りに好かれていた。

かっこよかった。


最初俺が葉ノ香に抱いた印象は「同じだ」と「おもしろそう」だった。

でも、すぐに違うことに気がついた。

だって、葉ノ香は俺よりずっと自由で、ずっと強くて、それなのに、自由で強いのに、葉ノ香は周りを見てないようで見ていた。


俺と同じで一人で自由に魔法を使って暴れているように見えるし、普段の生活でだって自由気ままに周りなんてお構いなしに生きているように見てるのに、葉ノ香はいつも誰かを守っていた。

葉ノ香は周りなんて気にしていないのに、いつだって誰かのピンチを察知する。


葉ノ香は龍牙にいつも怒られるくらい自由で勝手気ままで周りを見ていないのに、それでも、一番大事な時はどんな些細なことでも気がつくのだ。


一回葉ノ香が隼人に「はい、元気がない時は甘い物でも食べて。」とチョコレートを渡していた。

俺はそういうことには疎いけど、隼人はいつも通り元気に見えたし、周りも全然気がついてないみたいだった。

でも、隼人は葉ノ香に渡されたチョコレートを見ながら、「やっぱり葉ノ香ちゃんには敵わないなぁ。」と苦笑いしていた。


葉ノ香はヒーローみたいだと思った。

でも、やっぱり俺たちの葉ノ香は誰よりも自由でめちゃくちゃなのに、それでも、俺たちを守ってくれる。葉ノ香は葉ノ香で、正義のヒーローなんかじゃない。

正義のヒーローよりずっとずっとかっこよくて大好きな俺たちの葉ノ香だ。


そんな葉ノ香に出会えたから、今なら死んでも別にいいかなって思える。


「ほら!掴まって!」


なのに、俺たちの葉ノ香はどんなときでも助けてくれるんだ。

手を伸ばしてくれる。


俺は落ちながらも迷うことなく手を伸ばす。


「よし!じゃあ、よいしょっと!」


葉ノ香が首からペンダントらしきものを取り出したら、その途端に葉ノ香から翼が生えた。

白い白い翼だ。


「翼魔法!ってね!羽のペンダント持ってきてよかった!」


笑ってそう言う葉ノ香は白い翼と陽の光でまるで天使みたいだった。

ああ、でも、天使じゃない。天使なんて言葉は俺たちの葉ノ香には似合わない。

優しいだけの天使なんか葉ノ香の足元にも及ばないに決まってるから。


そのまま葉ノ香は太一の手を両手で握ったまま崖の上まで飛ぶ。


「ちょ!!心臓!!止まるかと思ったから!!!崖から落ちるとかどんなドジだよ!?葉ノ香ちゃんもいきなり飛び降りる!?」


崖の上でそんな光景を見ていた晃彦は未だにハラハラした気分が収まらないままそう叫んだ。


「あはははー、魔獣追いかけてピョンピョン飛んでたらうっかり〜。」


そんな晃彦に太一は笑ってそんなことを言う。


「だって、急がないと太一が死んじゃうし?」


そして、葉ノ香もまたキョトンとした顔でそう言う。


焦っているのは晃彦だけだ。


「いやいやいや!そうなんだけどね!?今日は植物魔法って聞いてたから、本当に肝が冷えたよ!?」


必死にそう訴える太一に葉ノ香は笑って答える。


「ああ、飛び降りてから今日のペンダントが羽だったことを思い出してね〜。」


これには晃彦はもはや二の句が告げれない。

何せ葉ノ香は無計画で飛び降りたのだと言っているのだ。

いや、もちろん、葉ノ香なら無計画でもたぶんなんとかするだろう。

だけど、普通勝算でもなければ崖から飛び降りたりしない。


「……というわけで、ぶっちゃけ俺じゃもう葉ノ香ちゃんに何も言えないから、島崎……龍牙、後は頼んだ。」


晃彦は結局集合場所に戻った後、龍牙にことの顛末を話して、全部龍牙に押し付けた。


龍牙は苦虫を噛み潰したような顔をして額に片手を当てていた。


「……葉ノ香、おまえいい加減俺の言いたいことはわかってるよな?」


龍牙はもはや一周回って怒鳴りもしない。


「えーと、バカ?アホ?」


葉ノ香はそう言って首を傾げる。

それに龍牙はますます眉間に皺を寄せる。

もはや頭痛がするレベルだろう。


「怒られる自覚はあるわけだ。」


いつもより更に低い声でそう言う龍牙に葉ノ香は誤魔化すように笑う。


「えへへ、でも、羽のペンダント持ってたから大丈夫だったよ。」


そんな葉ノ香に龍牙はもはや怒る気も失せたようにため息をつく。


「はぁ……もういい。どうせおまえは何言っても聞かねーんだ。直接見張ってた方が早い。」


葉ノ香はきっと何度だって当然のように誰かに手を差し伸べる。

そこにあるのが優しさや正義感なんかならまだマシだったとさえ思える。

理由がないから、理屈が通じないのだ。


正義感だと言うのなら、「自己犠牲の上に成り立つ正義なんて」とでも言えたかもしれない。

優しさだと言うのなら、「自己犠牲による優しさなんてエゴだ」とでも言えたかもしれない。


「うん、龍牙がいればきっと無敵だね。」


葉ノ香はそう言って笑う。


今日も今日とて葉ノ香はわかっているのかわかっていないのか……

ニコニコとしている葉ノ香に龍牙はため息をつく。


「とりあえずクソ担任、葉ノ香を俺抜きで実戦に出すんじゃねー。」


「あー、はいはい。」


担任は今日もやる気なさげだ。

しかし、龍牙の言葉にクラスの女子たちは盛り上がる。


「きゃー!!何その発言!!やばー!!」


「そういう意味じゃないのはわかってるんだけど、確かにやばいねー。」


「ひゅーひゅー!やったれー!」


「イケメンめー!柄が悪い癖にー!」


なんか違うのも混じっているが。


「つーか、服じゃなくても使えんのかよ。」


確かに龍牙の言う通り今まで葉ノ香が装飾品だけで魔法を使ったことなんて一度もなかった。


「うーん、アクセサリーだけだとイメージしにくいんだけど、まぁ、なんとかなるよー。」


葉ノ香の言葉に龍牙は「ふーん。」とだけ言った。




そうして、しばらく学園生活と実戦訓練を繰り返す平穏な(?)日々が続いた。


「ちょ、龍牙くん!大変大変!」


そんなある日の放課後、とあるG組の女子生徒が龍牙にそう言いながら駆け寄ってきた。


「あ?」


帰ろうとしていた龍牙は面倒くさそうに振り返る。


「葉ノ香ちゃんが男の人と話してる!」


その言葉に真っ先に反応したのは龍牙ではなく、まだ教室に残っていた他のG組の面々だった。


「え!?嘘!?」


「お!まじか!まさかの龍牙にライバル登場!?」


「きゃー!正に少女漫画的展開勃発!」


全員楽しそうに騒いでいる。

当の龍牙は呆れた顔をしている。


「葉ノ香だって男の知り合いの1人や2人いるだろ。」


龍牙の意見は至極真っ当だが、お年頃の高校生たちにそんな正論は通用しない。


「いーから!早く!こっちこっち!」


結局龍牙は女子たちに葉ノ香の元まで連れて来られた。


「あれ?どうかした?」


しかし、そこにはキョトンとした顔の葉ノ香しかいなかった。


「あ、あれ?さっきまで一緒にいた男の人は…?」


「?辰紀たつのりならまた明日来るって。」


首を傾げてそう言う葉ノ香にG組の面々は浮き足立つ。


「呼び捨て!」


「きゃー!まさかの龍牙くんの方に恋のライバル出現!?しかも、明日には因縁の対決!?」


よくわからないことを叫んでいるのは乙女思考で少女趣味な中島綾音だ。使う魔法は人形魔法である。


しかし、当の本人である葉ノ香は意味がわからず首を傾げているし、龍牙は呆れた顔でそっぽを向いている。



そんなこんなで、次の日。

本当に昨日葉ノ香と会っていた男性が放課後すぐにやってきた。


「うっそ、まじでイケメンじゃん。」


「え?え?何この急展開!?」


「きゃー!龍牙くんにライバル登場!あの葉ノ香ちゃんにまさかの男の影!しかも、大人の男!しかもしかも!イケメン!」


G組は全員勢揃いで楽しそうに騒ぎ立てていた。特に女子たちは。


「なんか随分騒がれてるな、葉ノ香。」


そのイケメンは随分親しそうに葉ノ香の名前を呼んだ。


「うん、みんな今日も元気。」


当の葉ノ香は相変わらず騒がれてる理由をわかっていない。

龍牙はただ無言で葉ノ香とその男を見ていた。


そんな中、その男は葉ノ香を上から下までじっくりと見つめた。


「うーん、やっぱり今日も最高に可愛いな。」


男がニヤリと笑いながら言ったその一言にクラスの空気が固まった。

今までふざけ半分で茶化していたのであって、誰も本気でそういうことを考えていたわけじゃなかったのだ。


「頭のてっぺんから爪先まで完璧。アリス服に合わせたドデカいリボンはシンプルな白のリボンの上に水色のリボンを重ねててくどすぎず、葉ノ香の小さい美少女顔が映える。靴は歩きやすさを重視しつつも、服に合わせてだいぶ凝ったデザインだ。肝心なアリス服はそんじょそこらの既製品とは比べ物にもならない。細部まで凝りに凝っている。そして、葉ノ香の体格に合わせて作られているから、見事なるフィット感。」


男は上機嫌でスラスラと葉ノ香を褒め続ける。

その様子にクラスの皆は困惑しているが、葉ノ香は慣れているようで気にしていない。

それどころか上機嫌で頷く。


「うん、今日のアリス服も最高に可愛いでしょ!」


龍牙はだんだんとその目線が鋭くなっていく。

そして、その後の一言が決定打になる。


「それに、やっぱりアリス服ならニーハイだな。フリル満載のスカートとニーハイの間から覗く太ももが絶妙にいい味を出している。」


その一言にクラスの温度が数度下がった。

龍牙だけでなく、他のG組の面々も目線が鋭くなった。


そんな周りの様子を見て、男は思わず吹き出した。


「あははは!おまえ、まじ愛されてるな!」


どうやら、男は周りからの視線に気づいていながら、わざとやっていたようである。


「特にソイツ、すっごい顔で俺を見てるけど、葉ノ香の男?」


男は龍牙を見ながらニヤニヤと楽しそうにそう尋ねた。


「?龍牙だよ。」


葉ノ香は首を傾げながら、龍牙の紹介をした。

龍牙は未だにすごい形相で先ほどまで葉ノ香を褒めちぎっていた男を見ていた。


「あー、はいはい、葉ノ香の男ね。いやー、あの葉ノ香に男ができてるとは。」


「……だったら、どうすんだよ。」


龍牙は珍しく否定しない。

いつもなら、そんな龍牙を周りが好き勝手茶化すが、ただ今G組は絶対零度一歩手前くらいの状態なのだ。


「あー、はいはい。悪かったって。俺はただ自分の作った服を褒めちぎってただけだから。」


男はわざとらしく両手を上げてそう言った。


「は?服?」


龍牙が怪訝な表情をすると、男は楽しそうに自己紹介を始めた。


「俺は二階堂辰紀。とあるデザイン会社の社長兼デザイナーな。ほれ、これ名刺。」


男が、辰紀が取り出した名刺を龍牙は怪訝な顔で受け取った。


「葉ノ香の服は全部俺がデザインしてるんだぜ?俺はいわば葉ノ香の専属デザイナーってやつだ。あ、ちなみに、ガキに興味はないから安心しろ。」


「うん、辰紀は私の想像通りか、それ以上に可愛い服を作ってくれるよ。」


辰紀が楽しそうにそう言うと、葉ノ香が肯定した。

龍牙の仏頂面は変わらないが、その言葉に他のG組の面々の雰囲気は和らいだ。


「なんだ。デザイナーかー。」


「一瞬本気で変質者かと思ったぜ。」


「てか、葉ノ香ちゃん専属デザイナーとかいたんだ!しかも、社長だってー!」


「イケメンデザイナー来た!というか、龍牙くんあからさまに不機嫌!」


各々が楽しそうに言いたいことを言っている。


「それで、辰紀は何の用で来たの?採寸?」


「いや、俺が採寸すんのは流石にまずいだろ。社会的に死ぬわ。そんで、そこの不良イケメンの視線が痛いわ。」


辰紀は葉ノ香の言葉をバッサリ切り捨てる。


「今日はちょっと葉ノ香に提案があって来たんだよ。」


「提案?」


首を傾げている葉ノ香に辰紀は一つ一つ説明していく。


「そうそう、おまえの服さ、流石にかなりの量になっておまえの家やうちの会社の物置きじゃ収まり切らなくなっただろ?」


「うーん、まぁ、そうなんだけど、私みんな気に入ってるし、減らしたくないんだよね。あと、新しい服もほしいし。」


葉ノ香の服はどうやら自宅だけではなく、デザイン会社の物置きも使って保管しているようなのだ。

いつもどこからあんな量の服が出てくるのか疑問に思っていたG組の面々はちょっと納得した。


「あったりまえだ。俺のデザインした最高の服の数々だぞ。捨てられてたまるか。」


葉ノ香は元々服に愛着が湧く方だし、自分が買ったり作らせたりしたものは全て気に入っているため、服は増える一方なのだ。


そして、辰紀は自分のデザインに絶対的な自信を持っている。


「まぁ、ということでな。おまえの衣装保管用のドレスルームというか、倉庫を作ろうと思うんだが、どうだ?」


そう、それが辰紀が今日わざわざやってきた理由だ。


そんな辰紀の提案に葉ノ香は一瞬だけ驚いた顔をしたがすぐに笑顔で承諾する。


「うん、いいよ。」


それに驚いたのはG組の面々だ。


「え!?嘘!?倉庫ってめっちゃお金のかかるやつだよね!?」


「もしかして、葉ノ香ちゃんってお金持ち!?」


そんなG組の生徒たちに辰紀は呆れた顔をした。


「は?んなもん、国費から出すに決まってんだろ。」


「「「……国費ぃー!?!?」」」


G組の数名は思わずそう叫んだ。

叫ばなかった何人かも目を見開いて驚いてるのがほとんどだ。

驚いていないのは仏頂面の龍牙と、解析魔法でだいたいの事情を把握していた圭と、情報魔法で既に葉ノ香の立場を知っていた英理くらいだ。


「あったりまえだろ。つーか、そもそも葉ノ香が普段着てる服だって一着一着が超一級品だぞ?なんたってこの俺が直々にデザインして、素材も厳選に厳選を重ねてるんだからな!そんな服を毎日取っ替え引っ替えしてんだぞ。相当金がかかってんだ。もちろん国費じゃなきゃこんな贅沢はできねーよ。」


葉ノ香が普段着ているオーダーメイドの服は学生からしたら目が飛び出るほどの値段なのだ。

いや、むしろ、あくせくと働いている大人たちの方が気絶するかもしれない。


「だよね!おかげでいくらでも作ってもらえるし、デザインも凝りまくれる!」


しかし、葉ノ香は楽しそうにそう言った。


「いやいやいや!そもそも何で国費!?」


ツッコミを入れるのはお馴染み晃彦くんだ。


「は?そりゃ、葉ノ香の服魔法は貴重だかんな。今はこの国と学園の保護下にあるし、服魔法にかかる費用は全部国費でどうにかなるわけよ。つーわけで、ほら。」


辰紀が葉ノ香に渡したのは鍵であった。


「ありがとー。」


葉ノ香は当然のことのように受け取るが、晃彦が思わずツッコむ。


「いやいや、もう作ってあるのかよ!?」


本人の許可もなしに何をやっているのだという話だが、辰紀はどうせ葉ノ香が了承することくらいわかっていた。


「んで、これはスペアキーな。」


「…………は?」


辰紀から差し出されたスペアキーを見ながら、龍牙は更に怪訝な顔をして眉間に皺を寄せた。


「本当は葉ノ香にスペアも渡すつもりで来たんだがな、何ともまぁ意外なことになってたからなぁ。」


龍牙は辰紀の言葉に不機嫌さを隠しもせずに答える。


「……俺は別にそいつの男じゃねーよ。」


そんな龍牙に辰紀はニヤニヤと笑う。


「はっ、そんなに牽制してよく言う。」


二人の間に火花か見えそうな光景だった。

まぁ、睨んでいるのは龍牙だけで、辰紀は楽しそうにニヤけているが。


「龍牙?どうかした?」


今のこの現状を一番理解していないのは話題の中心の葉ノ香だ。


「…………何でもねー。」


龍牙は葉ノ香をチラッと見て答える。


「?いいよ、龍牙が持ってて。私が持ってたら失くすかもだし。」


葉ノ香は首を傾げながら、あっさりそう言う。


「おまえなぁ……」


そんな葉ノ香に龍牙が呆れた顔をした。


「意味わかって言ってんのかよ……」


「意味?」


首を傾げる葉ノ香に龍牙はキレそうになりながら続ける。


「おまえの魔法は服魔法だろうが!そんなおまえの倉庫だぞ!つまり、おまえの魔法の要だ!おまえの命の次くらいに大事なもんだろうが!おまえはそれを俺に預けるつってんだぞ!?」


いや、ほぼキレている。


「あー…」


葉ノ香はそこまで考えていなかったようで、少し思案を巡らせていたが、すぐに笑顔になった。


「なら、尚更龍牙が持っててよ。」


そんなことを笑って言う葉ノ香に龍牙は何か言いたげにしていたが、仏頂面で黙り込む。


葉ノ香は理解しているが、していないことに龍牙は気がついていた。

だが、そんなことを本人に言ったって無駄だということも龍牙にはわかっていた。




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