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葉ノ香、懐く


実技試験の次の日。


「りゅーが。」


葉ノ香はニコニコと嬉しそうに笑って龍牙にくっついていく。


ちなみに、今日の葉ノ香の服装は花柄のワンピースだ。

今までの着ぐるみに比べれば幾分かマシというか、まだ周囲に馴染める格好だ。


「わぁー、島崎、葉ノ香ちゃんに懐かれてる……」


晃彦は羨ましいのだが、羨んでいいのか若干迷いながら、そう囁いた。

ぶっちゃけ葉ノ香は可愛いが、それ以上にマイペース自由人すぎて純粋に羨ましがれないのだ。


「くっつくなよ。女子だろうが。おまえは犬か。」


龍牙は少し眉を顰めながらそんなことを言うが、葉ノ香はますます嬉しそうに龍牙にくっつく。


「葉ノ香ちゃん、イケイケー!葉ノ香ちゃんの可愛さで龍牙くん悩殺しちゃえー!」


英理はよくわからないヤジを楽しそうに飛ばしていた。


「わー、なんて言うか、ぱっと見美男美女というか、イケメン不良と美少女なんだけど……ぶっちゃけ島崎が猛獣使いに見えるよな…」


「ちょ、それはいくら何でも失礼よ!葉ノ香ちゃん可愛いでしょ!」


「いやー、可愛くても、あの服魔法はヤベー。その日の服によっては万能じゃん?あと、本人が自由人すぎてヤバイ。」


「あー、わかるー、いつ爆発するかわかんない爆弾みたいなー?」


「えー!葉ノ香ちゃん可愛いじゃん!服魔法も可愛いし、目の保養になるー!」


「いいぞー!葉ノ香ちゃん!不良なんてイチコロにしちゃえー!」


G組の面々はそれぞれ好き勝手にいろいろ言っている。

ぶっちゃけこのクラスのほとんどは奇人変人だ。

葉ノ香の非常識ぶりを楽しんでいるのが半分以上で、他の面々は慣れてないか、引いているフリをして楽しんでいるか、感心しているか……まぁ、何にしても割と受け入れられているのだ。


それから、毎日葉ノ香は龍牙にくっつき、周りがそれを茶化す日々が続いた。


そして、普通の授業だけではなく、魔法学園らしく、前回の実技試験のような戦闘の実技訓練や個々人の模擬戦、チーム戦などが日々行われていた。




「……おい、クソ担任。」


龍牙は死んだ表情で担任に話しかけた。


「何で俺はいつもこいつと一緒なんだ。」


龍牙の言うこいつはもちろん葉ノ香のことである。

そう、実技訓練やチーム戦のチームやペアは全員毎回違うのに、龍牙だけはいつも葉ノ香と同じだった。


「だって、懐かれてるしー?」


「……おまえ、俺にこいつ押し付けたいだけじゃねーよな?」


龍牙か眉間に皺を寄せながら、担任を睨みつけた。


そんな龍牙の横で葉ノ香は首を傾げる。


「龍牙は私と一緒は嫌なの?」


龍牙は眉間に皺を寄せたまま担任から葉ノ香に視線をずらしたが、すぐに逸らした。


「…別に。」


「なら、よかった!」


素っ気ない態度の龍牙に葉ノ香は嬉しそうにニコニコ微笑む。


「ねーねー、あれって脈アリ?ナシ?」


「拒否んないんだから、アリっしょー。」


「葉ノ香ちゃんみたいな美少女に懐かれて嬉しくない男がいるはずないだろー!クソ羨ましいなー!コンチキショー!」


「いやいや、あの葉ノ香ちゃん御し切れるのなんて島崎くらいだろ。」


はたから見たら普通に美男美女カップルよねー。格好がおかしいけど。」


クラスメイトたちは相変わらず好き勝手言っている。

ちなみに、英理もそこに混じっている。


G組の面々は今日は海辺に魔獣退治を兼ねた実戦訓練に来ていた。


ちなみに、葉ノ香の今日の服はセーラー服だ。

それだけ聞くと、随分まともそうだが、セーラー服はセーラー服でも学校で着るようなそれではなく、水兵が着るセーラー服の方で、しかも、葉ノ香好みの可愛い感じに仕上がってて完全にコスプレの粋である。帽子もちゃんとある。

そして、この学園の制服はブレザーだ。セーラー服ではない。


「今日は海辺だから、セーラー服なのー?てか、めっちゃ可愛いね!おっしゃれー!」


英理は楽しそうに葉ノ香の服装を褒めていた。


「うん、これも完全オーダーメイドで、スカートの模様とか帽子の形とかすっごくこだわったんだ!」


葉ノ香もまた楽しそうに答えた。


「今日は水魔法だな。海辺と相性がいい。流石だ。」


そんな葉ノ香を見ながら圭は当たり前のように冷静に褒める。


「そう?気分で選んだだけだけど?」


葉ノ香は圭に不思議そうに首を傾げる。

そして、クルリと龍牙に向き直る。


「龍牙、今日の服可愛い?」


「……まぁ、似合ってんじゃね。」


ニコニコと尋ねてくる葉ノ香に龍牙がいつも通りの素っ気なさで返した。


この2人は噛み合っているのかいないのかイマイチわからないのが現状だ。


今日、葉ノ香は龍牙と圭と3人でチームを組んで魔獣退治を行う。

G組は全員チームごとでそれぞれ海岸や海辺の森などに散っている。

葉ノ香たちもまた海沿いの崖の辺りにいた。


「夢園さん、島崎、魔獣の位置を解析した。」


圭は解析魔法で魔獣の位置を2人に教える。

戦闘における圭の役目はそれだけだ。

いや、厳密に言えば、他の者とチームを組めば、魔獣のタイプや弱点などの解析といった戦闘補助もできるのだが、この2人には必要ないのだ。


圭は魔獣を蹴散らす葉ノ香と龍牙を見ながら、考える。


圧倒的戦闘センスと判断力、それを2人は兼ね備えている。

夢園さんは自由人に見えて、いや、自由人だが、戦闘の判断力はいつもかなり的確だ。

使う魔法、敵の行動、守るべき者、そして、最善の行動、全てを瞬時に判断して迷いなく行動する。

彼女は間違いなく圧倒的強者だ。


彼女は……入学式の次の日、出会ってばかりの俺たちを躊躇なく守った。

それは当然のことなのかもしれない。

戦闘能力がある者が非戦闘員を守る。それは当然のことなのだろう。

それが大人なら、それが何かを守る職に就く者なら。

だが、彼女は違う。

彼女はただほんの少し人と違う魔法を使えるだけの高校に入学したての女の子なのだ。

だが、彼女は何の躊躇もなく、そうした。

それはおそらく彼女の人柄と強者故になせることなのだろう。


……俺でさえそう思ってしまった。

なのに、島崎はすぐに飛び出していった。彼女を怒鳴りつけた。

そうなのだ。

彼女は俺たちと同い年のただの女の子なのだ。

島崎は誰もが彼女に抱く「強いから、すごいから、特別だから」といった表面上のものを全て一蹴し、彼女自身を見ていた。


彼女もまたそれに気がついたから、彼に懐いているのだろう。


俺は自分が情けなくなる。

俺が非戦闘員なのはいい。俺は俺の魔法を誇りに思っている。

この魔法なのだ、女性に守られることだってこの先嫌というほどあるだろう。

だが、そこではない。

守ってもらえることは当たり前じゃない。強いから怖くないわけじゃない。特別だから、傷つかないわけじゃない。自由人だから、何も気にしないわけじゃない。

そんなことにも気がつかずに何が解析魔法だ。聞いて呆れる。


だが、島崎は俺のできなかったことを全てなした。

夢園の考えと行動を瞬時に的確に判断し、それに対していかった。

そして、彼女と同等の戦闘センスと力で彼女を手助けしつつ、彼女の自らを顧みない戦闘を窘めた。

敵わないと、思った。


だが、それでも、俺は強くならねばなるまい。

会って間もない俺を躊躇なく守ってくれた彼女に恥じない人間になりたいと、そう思うから。


「どうしたの?えーと…圭?名字なんだっけ?」


戦いを終わらせた葉ノ香が不思議そうに圭の顔を覗き込んでいる。

そんな葉ノ香に圭はふと表情を崩した。


「圭で構わん。夢園さん、島崎、お疲れ様。」


ほんの少しだけだけど、圭は笑っていた。

そこに怒声が響き渡る。


「葉ノ香!だから、おまえはもっと敵に突っ込む時は後先を考えろ!今は身体能力上がる魔法使えねーだろ!つーか、敵に突っ込むな!遠距離でやれ!素の運動神経なんて並み以下だろうが!!」


相変わらず葉ノ香を叱りつける龍牙に葉ノ香は嬉しそうな顔をして笑っている。


「あはは!ごめん、次からは気をつける。たぶん!」


「たぶんじゃねー!!」


「あははは!」


葉ノ香は強い。

服魔法は無敵ではないが、かなり強く、そして、本人がマイペースな自由人のため、真正面から心配され、女の子扱いをしてきたのは龍牙が初めてであった。


葉ノ香はその強さと異質さ故に自らを顧みない傾向があった。

周りもまた大抵葉ノ香なら大丈夫だろうと考えていた。


だが、龍牙は違った。

龍牙はちゃんと葉ノ香を見ていた。葉ノ香を女の子として見てくれた。

どんなに変な格好をしていても、どんなに強い魔法を使えても、どんなに破天荒で自由人だろうと、おまえは女だろうと、おまえは夢園葉ノ香という人間だろうと、彼は言う。

それが葉ノ香にとってとても、とても、それこそ死ぬほど嬉しいことだったのだ。


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