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問題児だらけのG組


今日はとある学園の入学式。


その学園はあらゆる魔法の才を持った少年少女のみが入学を許される、いわゆるエリート魔法学園であった。

この学園に入学できた時点で将来は半ば約束されたようなものなのだ。

学園の生徒たちは在学中に国や民間のあらゆる組織にスカウトされ、卒業後はあらゆる分野で活躍する。


それがここ、世界連邦立大魔法学園である。

通称は学園だ。

この世界で学校ではなく学園と呼ばれるのはこの大魔法学園のみである。


そして、この学園のクラス分けは魔法の才能で決まる。

下からD、C、B、Aの順であり、よほどのことがない限り在学中のクラス替えはない。

最も優秀でエリートの中のエリートとされるA組は卒業後の進路なんて選り取り見取りだと世間にもてはやされる。


しかし、この学園で唯一、成績や魔力など関係のないクラスがあった。

それが5大属性魔法に属さない特殊魔法を扱う生徒が一緒くたに突っ込まれた、特殊魔法クラスのG組である。




「なぁ、G組は変人ばっかりが集められてるって聞いたけど……アレナニ?」


「やっばー!やばくない!?アレはやばいって!」


「今日入学式だぞ!?」


エリートが集まる世界唯一の魔法学園の入学式で、人々の視線はとある一点に集中していた。

誰もが慣れない新しい制服に身を包んで入学式の会場に規則正しく並べられた椅子に座っている中、かなり異彩を放つ存在がいた。


「……ウサギの着ぐるみか…?」


とある男子生徒が怪訝そうにそう呟いた。


そう、G組と書かれたプレートからそれほど遠くないところに座っている彼女は世界一のエリート校の入学式にあろうことかウサギの着ぐるみで参列しているのだ。


これには会場にいるほとんどの人間が戸惑いを隠せない。

もちろん、G組も例外ではない。


「ねぇ!ねぇ!何でウサギの着ぐるみなのー!?めっちゃ可愛いんだけど!」


そんな中で視線の中心にいる彼女に話しかけたのは同じG組の女子生徒だった。

クルクルと巻いた髪の毛をサイドテールにして、ケバくなりすぎない流行りメイクをしていて、爪にはさりげないネイルを入れている。

いかにも元気な今時女子という感じの女子生徒だった。


そんな女子生徒にウサギの彼女は少し嬉しそうに笑う。


「可愛いでしょ?会心の出来だと思うんだ。」


「いやいやいや!そこじゃない!」とほとんどの生徒は心の中でツッコミを入れたとか入れなかったとか。


「めっちゃ可愛い!もしかしてそれ自分で作ったのー!?」


「ううん、特注してもらった。」


彼女は笑顔でそう返す。


ウサギの着ぐるみは確かに可愛かった。

全身薄ピンク色の着ぐるみはフードに付いた大きくて長い垂れ耳のうさ耳が非常に愛くるしく、手足だけが出ているダボっとしたデザインや首元もリボンもくどくなくてとても可愛らしい。

ここが入学式の会場ではなく、コスプレ会場やらパジャマパーティーの会場なら大変喜ばれただろう。


結局そのまま式が始まり、式が終わるまでほとんどの生徒がチラチラとウサギの彼女を見ていた。


そして、入学式後のG組の教室では早速担任教師による説明が始まっていた。


「せんせー!そんなことよりも先に!何で夢園さんはウサギの着ぐるみなんですかー!?何で先生ツッコまないの!?」


一人の男子生徒が至極真っ当な疑問を声高々と述べた。

これに関してはG組のほとんどの生徒も同じことを思っていただろう。


「あー、夢園葉ノ香な。そいつは魔法の関係上私服許可されてるわけよ。」


担任はどこかやる気なさげに言った。


「いや、どんな魔法だよ!?」


まぁ、大抵の生徒はそう思うだろう。

何せウサギの着ぐるみだ。

アクセサリーやらベルトやらそんな装飾品のレベルではない。

私服の域も超えてる。


「まぁ、いいや。んじゃ、自己紹介は夢園からな。全員名前と魔法言ってけー。」


そして、唐突に始まる自己紹介タイム。

何人かはこの先生ダメかもしれないと本気で思ったとかなんとか。


「えー、それじゃあ、私は夢園葉ノ香です。魔法は服魔法!可愛い服が好きです!よろしく〜。」


一瞬クラスが静まった。


「いや、わかんねーよ。それだけじゃ。」


別の不良っぽい男子生徒が静まった教室で静かにそう言った。

彼はクールそうなイケメンだが、絶妙に着崩した制服と、シンプルだが存在感のあるアクセサリーが如何にも不良っぽい。


それに対して葉ノ香は素っ頓狂な表情で首を傾げる。


「えーと、服によって使える魔法が変わる魔法かなぁ?ウサギは俊敏性が上がるよ〜!朝遅刻しそうだったから。」


葉ノ香はニコニコと笑いながらそう言う。

ウサギフードから覗くその顔はとても整っていて可愛らしくてまさに美少女そのものだが、奇抜な格好とマイペースすぎる性格に周りは唖然とするしかない。


そんな葉ノ香に入学式で話しかけた女子生徒が声を上げる。


「え、なにそれー!おもしろそうな魔法!あっ!私は斉藤英里!使う魔法は情報魔法!意外と頭脳派な英里ちゃんです!よろしくね!」


英里と名乗った少女はいきなり立ち上がって元気いっぱいに笑顔で自己紹介を始めた。


それを皮切りに周りの生徒たちもいろいろと話し始めた。


「服魔法とか可愛いー!」


「つーか、ウサギの魔法って何??」


「服魔法って案外強そうかも。」


「てか、ギャルが情報魔法とかギャップやべー!」


「いやいや、英理ちゃんはギャルじゃなくて今時女子なんだよー。ギャルとは違うっしょ。」


葉ノ香と英理の自己紹介にクラスのみんなはそれぞれマイペースに話す。


「いやいや!うちのクラス自由人ばっかかよ!?順番とかないわけ!?」


そんな中、唯一まともなツッコミを入れたのは最初に担任にツッコミを入れた男子生徒だ。


「あー、じゃあ、番号順でやれー。」


担任のやる気のない言葉でひとまず全員が順番に自己紹介をしていく。


そして、割と最初の方に先ほどからツッコミ役をしている男子生徒の番がやってくる。


「俺は江川晃彦えがわあきひこです!使える魔法は予知夢魔法!ぶっちゃけ戦闘力0!寝ないと使えないので、だいぶ役立たずです!よろしくお願いします!」


彼の自己紹介は元気というよりほぼヤケクソである。


「なにそれ!すごいのかすごくないのかわかんねー!」


「あははは!寝ないと使えないって!」


「自分で役立たずって…!あはははっ!笑わすなよ…!」


「うるさーい!俺だって好きでこんな魔法で生まれてきたわけじゃないんだよー!コンチキショー!」


ヤケクソ自己紹介は男子生徒たちにある意味好評だったようだ。

きっと彼はクラスの中のいじられキャラというポジションに収まるだろう。


そして、そんな晃彦の少し後に先ほどの不良な彼の番が回ってきた。


「島崎龍牙。魔法は譲渡魔法。今使えるのは炎魔法だけだ。」


不良くん、もとい龍牙はクールな表情のままサラリと自己紹介を済ませる。


「え!?なにそれ!?」


「譲渡魔法―?人から魔法借りれんの?それ、無敵じゃね!?」


「でも、今は炎魔法しか使えないんでしょ?」


「おそらく譲渡に条件があるのだろう。」


「てか、そんなことよりイケメンじゃーん。見るからに不良だけどー。」


さすが特殊魔法の使い手のみが集められたG組。全員割とマイペースなようだ。


そうして、G組のみんなこ学園初日はこうして奇抜な格好の同級生を見ながら行った入学式と、自由過ぎてなおかつ多種多様すぎる魔法の紹介付きの自己紹介で終わった。



そして、次の日。


「そんじゃ、まずは実技テストをしてもらう。簡単に言えば、戦闘力テストだな。」


G組の担任は相変わらずやる気のなさそうな顔と声でその日の予定を発表した。


「うげっ!まじかよ!俺死んだ!」


晃彦は真っ先に反応して嫌そうな顔をした。


「あー、このクラスは非戦闘員もそれなりにいるからなー。非戦闘員は戦闘能力の高いやつとチーム組ませるから安心しろー。」


他のクラスの生徒はそのほとんどが5大属性魔法の使い手なため、非戦闘員なんて存在しないが、特殊魔法の使い手のみが集められたG組は例外だ。


「チーム決めは俺がしといたから、そのチームで魔獣のいる森へ行けー。とりあえず無事に戻ってきたらオッケーだ。でも、班行動だからな、一人だけ先に戻ってくるとかはなしだ。協力し合って森を抜けろ。」


担任のやる気のないザックリとした説明を聞いた後、G組は魔獣の生息する森の前までやってきた。

そして、担任が組んだチームで固まった。


「…いやいやいや!これおかしくね!?せんせー!!うちのチームだけどう考えてもおかしいんだけど!」


今日も今日とて晃彦は元気(?)にツッコミを入れている。


「は?何が?」


担任は気怠そうに聞き返した。

そんな担任に晃彦は身振り手振りしながら全身で抗議する。


「いや、どう見てもおかしいだろ!非戦闘員多すぎ!予知夢魔法の俺と、情報魔法の斎藤さん、そんで、解析魔法の中野!戦闘員は夢園さんと島崎だけ!てか、夢園さんは戦闘員で合ってんの!?」


そんな晃彦のすぐ傍で葉ノ香は我関せずと今日の衣装を英理に見せている。


本日の葉ノ香の衣装は怪獣の着ぐるみだ。

昨日のウサギの着ぐるみ以上に着ぐるみらしい着ぐるみで、怪獣の口から葉ノ香の顔が出ている状態である。

怪獣の顔はかなりデフォルメされていてとても愛くるしく、葉ノ香の体型の倍くらいはあるのではないかと思われる胴体も大きな尻尾が相まってとても可愛らしい。


「その着ぐるみ重くないのー?」


「大丈夫、怪獣は怪力だから。」


「あー、なるほどー。」


2人ともマイペースである。


「あー、問題ないない。まぁ、すぐにわかるさ。ほら、行け。」


担任はめんどくさそうに晃彦をあしらった。


「はぁ!?まさかの一番乗り!?」


そんなこんなで実技テストの始まりである。


「夢園さん、少しあなたの服魔法について聞きたいのだが、よいだろうか?」


森の中を歩く道中、そんな堅苦しい喋り方をしているのが中野圭、解析魔法の使い手である。

彼はメガネをかけた如何にも真面目、堅物、優等生の肩書きが似合いそうな青年である。


「うん?いいよー。」


葉ノ香は圭にあっさりと応じる。


「…その、服魔法は、着ている服によって魔法の種類が変わるのだろう?発動条件は服の着用だけなのか?」


「うん。」


圭の質問に葉ノ香はあっさりと答える。

それに対して圭は少し考えるそぶりをしたが、すぐさま納得したような表情でもう一度葉ノ香に視線を合わせた。


「そうか。」


「え?それだけ?俺どんな魔法使えるのかとかめっちゃ気になるんだけど!」


聞きたいことがあると言っていた割にあっさり済ませた圭に晃彦は不思議そうな顔をする。


「解析は済んだ。」


「まじか!」


「さすが解析魔法だねー!ねぇねぇ!解析ってどこまでわかるものなのー?」


英理は楽しそうに圭に話しかける。


「どこまでか、その答えなら、どこまでも、だ。」


圭はメガネをクイっと上げてそう答えた。


「わーお!すごいんだねー!」


「え!?いやいやいや!まじで!?そんな万能なの!?」


英理は圭の魔法に感心しているが、晃彦は驚きを隠せないでいた。


「俺の魔法は解析魔法。ありとあらゆる物事をどこまでも解析する。ほんの僅かな情報で常人の何倍もの情報を得られるのだ。というか、すごいといえば、斎藤さんの情報魔法も相当だろう。」


圭は冷静に淡々と解説していく。


「えー?私―?私は情報を蓄積するだけだよー。まぁ、平たく言えば記憶力が尋常じゃないくらい?あとは、情報と情報の組み合わせで情報が生まれることもあるけど、解析魔法には遠く及ばないよー。あ、てか、英理でいいよー。」


英理は笑ってそう言う。


「そうか。」


それに対して圭はそう言っただけだった。

英理はそんな圭から龍牙の方へ視線を変えた。


「龍牙くんは譲渡魔法なんだよね?でも、炎魔法しか使えないのー?」


「ちょ、斎藤さん!?」


英理のその問いかけに悪意は全くないが、あまりの言い方に晃彦の方がハラハラしていた。

それに対して龍牙は仏頂面で答える。


「ああ。ただの炎魔法って思っとけ。」


このなんともまとまりのないチームで彼らは森を突き進む。


グァァァ!!!


「ぎゃーー!!出たー!!!」


そして、当然の如く魔獣が出現する。

まぁ、そういう試験なのだから、当然だ。


「おー、出たー。」


能天気な声を上げているのは葉ノ香だ。

晃彦以外は全員落ち着いている。

非戦闘員の方が多いなんていう異例なチームだが、普通に考えてこのチームは戦闘員である2人の力が圧倒的なはずなのだ。


「がーおー、てーい。」


葉ノ香の気が抜けそうなほど能天気な声と共に魔獣が吹き飛んだ。

うん、殴ったら吹き飛んだ。


「え、えぇぇぇ!!??吹き飛んだ!?魔獣が一撃で吹き飛んだんだけど!?」


晃彦は驚きの声を上げるが、他の面々は全く動じてない。


「当たり前だ。夢園さんの服魔法はその装いによって魔法が変わる。今日は怪獣の着ぐるみだぞ。こうなるなんて俺でなくともわかるだろう。」


圭はバカかと言わんばかりに呆れた顔で晃彦を見ていた。


「いや、だって…!」


「あはは!わかっててもすごいよね!葉ノ香ちゃん最強じゃん!?」


英理は楽しそうに笑っている。


「んー。」


当の葉ノ香はさも当然かのようによくわからない返事をした。

龍牙はそんな葉ノ香を黙って見ているだけだ。


そこから規定のコースを葉ノ香、英理、晃彦、圭、龍牙の5人は突き進んでいく。


道中に出会う魔獣やらなんやらは全て葉ノ香に吹き飛ばされるか、龍牙が燃やされるかだ。


「ひぇ…島崎も強…」


晃彦の呟きに当然だと言わんばかりに反応したのは圭であった。


「何をバカなことを言っている。炎魔法だけしか使えないということは炎魔法だけの実力で学園に入学できたということだ。強くないはずがないだろう。」


3人の足手まといをもろともせずに葉ノ香と龍牙の力で彼らは突き進む。


グァァァァァァ!!!!!!


しかし、ここで魔獣の大群が現れる。

この数は流石に厳しそうだ。


「チッ!!」


龍牙は盛大な舌打ちと共に臨戦態勢を取ったが、葉ノ香はお構いなしに魔獣の群れに突っ込んでいった。


「はぁ!?何やってんだ!!!」


ここに来て初めて龍牙が声を荒げた。

しかし、葉ノ香は微塵も足を止めずに魔獣たちに突っ込む。


「だって、近づかれたら面倒でしょ?」


葉ノ香は魔獣をぶっ飛ばしながら振り返りもせず、何でもないことのように答えた。


葉ノ香はこの数の魔獣に接近されたら、流石に3人を守りながらの戦闘は不利だと言っているのだろう。


「そういう問題じゃねーよ!!!」


しかし、龍牙がブチギレながら葉ノ香のすぐ傍まで一瞬で飛んできた。


「おまえだって強くても女だろうが!!真っ先に体張ってんじゃねーよ!!!」


龍牙は葉ノ香の傍の魔獣を炎魔法で倒しながら、葉ノ香にそう怒鳴りつけた。

そんな龍牙に葉ノ香は目を見張る。


「特に今日のその魔法は肉弾戦だろうが!!少しは躊躇しろよ、バカ!!!」


魔獣をぶっ飛ばしながらそう怒鳴りつける龍牙が葉ノ香は目を見開いていたが、ふと笑みを浮かべた。

そして、無言で楽しそうに笑うと、龍牙がいる方向とは別方向に体を向けた。


「がぁー!」


葉ノ香が少し迫力に欠ける声でそう言うと、葉ノ香の口から炎のレーザーが吹き出す。


これには龍牙も目を少し見開いた。

そして、少し離れたところで見ている晃彦は驚きの声を上げる。


「え!?何で炎!?」


そんな晃彦を振り返って葉ノ香は楽しそうに答える。


「だって、怪獣は火吹けるでしょ!」


「何それアリー!?!?」


葉ノ香は楽しそうに笑っている。

そんな葉ノ香に龍牙は少し呆れた顔をした。


「遠距離も使えるなら最初から使えよ…」


葉ノ香は何も言わずに龍牙にニコニコと笑いかける。


「さっすが葉ノ香ちゃん!強いねー!」


「やはりあの魔法はそういうことでしたか。」


英理は楽しそうに葉ノ香の応援をし、圭は納得したように葉ノ香を見ていた。


そんなこんなで、入学早々行われた実技試験は無事に終了した。



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