表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【6万PV感謝!】ドラゴンLOVER  作者: eXciter
第五章:鳥籠の夢-Awaken, wonder child-
99/386

第九十四話


 会員証にある物と同じ、複数の図形を複雑に重ねた印が、ペンダント裏側に刻まれた。

あまりの躊躇の無さに、フリーダの方が驚いていた。


 「…これで、フリーダさんの魔法をかけてもらえるんだね?」

 「え、ええ…でも…でも、アニィさん……信じるんですか? 信じてくれるんですか…?」


 アニィは穏やかに笑い、受け取ったペンダントを首に掛けた。


 「うん。フリーダさんは、きちんと説明した上で、私に『魔力整流』を施してくれた。

  見つかったらお父さんに何を言われるか、判らないのに…」


 露見したらどうなるかなど、フリーダ自身がよく理解していたはずだ。

だがそれを乗り越え、彼女はアニィに施術し、転移の魔術の事までも話した。

アニィなら判ってくれるという甘えが、無いわけではない。

だがそれも、フリーダが父との確執に立ち向かわんとする勇気があってこそのものだ。


 「だからわたし、フリーダさんを信じる…

  勇気を持ってお父さんに立ち向かおうとした、あなたを信じるの」

 「アニィさん……」

 《フリーダ。それって、ドラゴンにも効果あります?》


 次に歩み寄ってきたのはプリス。

そして、刀を納めたヒナ、ケイジェルを投げ捨てたパル、パッフ、クロガネが続いた。


 「あたし達ももらっていいかな。アニィが信じるっていうなら、あたしも賛成」

 「私もだ。フリーダ殿、そのペンダントを一つくれ」

 「クルクル!」

 「ゴゥっ!」


 パル達も次々ペンダントを受け取り、裏側に押印をしていった。

受け取ったペンダントを、人間のアニィ達は首から下げ、ドラゴンのプリス達は上腕に結び付けた。


 「これで落ちないかな…」

 《後でベルトでも買って、加工してもらいましょう》

 「うん―――それじゃあ…一緒に行こう、フリーダさん…!」


 アニィはフリーダの手を取り、ともに立ち上がった。

ほほ笑むアニィを前に、フリーダの両目からまた涙がこぼれた…

だがこれは、怒りでも哀しみでも、喪失感でもない。歓喜と幸福の、温かな涙だった。

拭うことなく、フリーダは泣き続ける。


 「うっぅ…え、へぇ…んぇぇ、ええええ~~…」

 「ばうっ!」


 その横から、クラウがフリーダを抱きしめた。

優しく髪を撫でるクラウの手に、手を取るアニィの手に身を任せ、フリーダは泣いた。


 「ボク、ボク、ぼぐっ、………うれしい…! みなさん…ボク…」

 「フリーダ、よろしくね!」

 「頼むぞ」


 パルとヒナが肩に手を置き、それぞれの背後にいるパッフとクロガネもうなずいた。

そして正面、アニィの背後でプリスもうなずく。


 「―――はぁぃっ!!」


 力いっぱい、フリーダはうなずいた。

そして正にその時、天窓にゾ=ディーゴンの巨大な顔面が現れた。

防壁を破壊し、図書館に直接しがみついたのである。

轟音と共に屋敷が大きく揺れ、割れた天窓や建材の破片が床に落ちた。

屋敷がまたも大きく揺れ、棚が倒れ、机に置いた書籍や発明品が吹っ飛んで転がる。

アニィ達は支え合い、倒れぬ様に踏ん張った。

対するケイジェルは、転がるまいと必死に床にしがみついていた。


 「フリーダ」


 震える声で、彼は娘の名を呼んだ。

既にフリーダは、彼を見ても怒りも憎悪も湧かないことを悟った。

アニィ達が同道を求めている。ならば共に行かねばならない。こんな男に割いてやる時間も感情も無い。

新たな友がいる今、ケイジェルに奪われる物は何も無かった。

天窓の向こうで、ゾ=ディーゴンが邪悪な笑みを浮かべている。しかし、恐怖もまた無かった。 


 「フリーダ、行ってしまうのか…何故…」

 「父さん、もう逃げ場(・・・)は無いんだ」


 ケイジェルの懇願に、フリーダは冷たく首を振ってこたえるだけだった。


 「ボクを閉じ込めて、ボクの夢や魔法を見ないふりして普通の生活に逃げるなんて、もうできない。

  ここは…この部屋は、もうじき粉々になる。ボクの大っ嫌いなこの部屋が、この屋敷が」

 「フリーダ、何故なんだ! 私は父親として…」

 「父親としてボクの全てを奪ってきたね、あなたは」


 彼らの真上では、ゾ=ディーゴンが拳を振りかぶっていた。

極低温の空気が拳に集中し、渦を巻く。周辺の待機中の水分が凍結し、分厚い氷が再び巨大な拳を覆う。

薄い天窓など一撃で粉々に砕き、勢いで床もぶち抜くであろう剛力の一撃。

この時点に限り、フリーダにとってそれはむしろ、解放の最後の一押しになる。


 「じゃあね、父さん! 死にたくなかったら、何とか逃げのびてね!」

 「フリーダ、どこに行くんだ! 待ちなさい!」


 この期に及んで、彼はなお父親であるべく、娘を叱ろうとした。

直後、アニィ達とケイジェルの間に、巨大な拳が振り下ろされた。

砕けた天窓が降り注ぎ、そのままゾ=ディーゴンの巨大な拳は床をぶち抜き、真っ二つに割った。

アニィ達はすぐさま身をひるがえし、バルコニーに出て相棒のドラゴンに乗り、飛び立った。

取り残されたケイジェルは、這いつくばった床の破片と共に吹っ飛んだ。


 「フリーダ―――フリーダ!!」




 アニィ達が飛び立った直後、雲の上で『天空図書館』が真っ二つに割れた。

ゾ=ディーゴンの拳の一撃は、浮遊島底部の巨大な顕現石(ルミナスクォーツ)を砕き、島を浮かべていた魔法を打ち消した。

更に周辺には小型の邪星獣が無数に飛んで、吐き出した魔力弾や、貯めた魔力での自爆で破片を破壊していった。

眼下の学園都市では、既に避難が始まっているらしく、目まぐるしく人々が走っていた。


 邪星獣が都市に向けて吐き出した魔力弾は、着弾せずに上空で弾丸は消滅していた。

どうやら都市全体に魔力防壁が張られているらしい。頑丈な防壁のようで、魔力弾では傷一つついていない。

だが、上空にはゾ=ディーゴン…強大な魔力と巨躯、そして高い知能を持つ邪星獣がいる。

浮遊島の防壁を、氷を纏った拳で叩き割った膂力の持ち主だ。

地上に降下すれば、瞬く間に都市を破壊してしまうだろう。


 「この都市はランドコースト大陸中南部の広域避難場所にもなっています。

  皆さん、絶対に守ってください!」

 「ばうばう!」


 雲海を抜けて雲の下に飛び出したところで、フリーダとクラウが叫んだ。

全員がうなずくと、フリーダは背後を振り向く。右手のセントラルクォーツ、左手の緑の石の指輪が光った。


 「アニィさん、ブレスレットのシールドを出してください! プリスさんは糸で補強!」

 《何する気です!?》

 「あの破片を吹っ飛ばします!」

 「わかった! プリス、お願い!」


 アニィは左腕のブレスレットを掲げ、プリスが翼を輝かせる。

いつものシールドに、プリスが糸を無数に巻き付けて補強するだけ…だった、筈だが。

フリーダが緑の指輪をセントラルクォーツに当て、叫んだ。


 「『魔法合成魔法(マギミクス)』! 風魔法(ハヤテ)!!」

 「バオオオオオオン!!」


 更にクラウが咆える。そしてシールドは、常軌を逸した大きさとなって出現した。

そのサイズは並みのドラゴンより遥かに大きく、16ドラゼン(240メートル)はある。

アニィのみならず、プリスも驚愕した。


 「えっ、えっ、ええええ!? …あっ! これ、クラウの!?」

 《拡張って、こういうことですか…!》

 「そうです! そして!」


 アニィ達が驚愕に眼を見開く中、シールドは凄まじい速度で水平回転し、浮遊島の破片の下に潜り込む。

途端に破片の落下速度が減衰し、そのままシールドの回転によって、都市の外へと吹き飛ばされた。

細かい破片の動きから、アニィ達は何が起こっているかを理解した。

目の見えぬヒナは、籠められた魔力から現象を察した。


 「竜巻か! アニィ殿のシールドが、竜巻のように回転し、風を起こしている!」

 「だーい正解っ! これがボクの魔法、『魔法合成魔法(マギミクス)』です!!」


 魔術や魔法を複数合成する魔法、それがフリーダの『魔法合成魔法(マギミクス)』である。

フリーダのコントロールにより、炎、風、雷の魔法を相手の魔術・魔法に合成。

それぞれの現象の中から一部を抽出…例えば炎の温度のみを抽出、合成することも可能だ。

特筆すべきは、魔術もしくは魔法を行使する前の段階で合成することだ。

互いに了承さえしていれば、強力、あるいは特異な合成魔術を瞬時に行使できるメリットがある。

アニィ達は全員が独自の魔術を持っているため、そこにフリーダの魔法が加わることで、過去に類を見ない効果も得られる…

というのが、フリーダの説明であった。


 アニィ達は引き返し、ゾ=ディーゴンと邪星獣を追う。

その途中、パルがフリーダに尋ねた。


 「で、『ハヤテ』ってのは何なの?」

 「別に宣言とかはしなくても合成できるんですけど、合成する魔法の種類が、皆さんに判るようにって。

  じゃあカッコイイ言葉にしようって辞書を読んでたら、ヤマト皇国風の言い回しがカッコ良くて、つい」


 照れながら答えるフリーダ。

自分を縛る存在から解放されたおかげか、本当に自慢げで、嬉しそうに笑っている。

アニィは素直にフリーダを賞賛した。


 「うん―――フリーダさん、かっこいいよ!」

 「へ…うふ、ふへへ…よぉし、行きましょう! 街を守りましょう!」

 「うん!」


 アニィ達は急ぎ邪星獣を追い、高度を下げていった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ