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【6万PV感謝!】ドラゴンLOVER  作者: eXciter
第五章:鳥籠の夢-Awaken, wonder child-
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第九十話


 怒りに震えるフリーダを、アニィもプリスもなだめようとはしなかった。

少しでも吐き出させなければ、彼女の心が消えない怒りでつぶれてしまう。

自身の経験から、アニィは特にそれを判っていた。

フリーダの吐露は続く。


 「天才ぶって見栄を張ってるだけって、言われたんです。どうせそんな魔法は構築できないって。

  あいつら…勉強できるくせに、悪口は言っちゃダメって、そんな事すらわからないんだ…!

  だから―――」


 荒い息をどうにか整え、フリーダはついに、自身の行為を白状した。


 「だから、未完成の合成魔法をかけて、あいつらの魔力を消してやったんです……」

 《それで当時のチームと険悪になってたんですね》

 「……でもそれって、フリーダさんが全面的に悪いわけじゃ…」

 「…ボクが悪いんだって、ほとんどの先生と、父さんが言ってました」


 ドゥリオが言っていた通り、学校中に広まってしまったのだろう。

そして不幸なことに、事情を知った上で彼女に味方した者は、皆無だったようだ。


 「……やっぱり、フリーダさんは悪くないよ」

 「そう言いたかったんですけど…でも……

  その前に、父さんが休学届を出してしまって…ここに連れてこられました」


 弁明の機会を、彼女は父によって奪われたのだ。

研究した魔法を実践する機会を失い、学友たちからも引き離された。

挙句に、父からは冗談交じりにそのことをなじられて。


 実現できたはずのことを実現できないことが、どれだけ悔しいか…アニィには想像するしか無い。

慰めが却ってフリーダを傷つけてしまいそうで、アニィは何も言えずにいた。

代わって尋ねたのは、横で見ていたプリスであった。


 《それで現在、その『魔法合成魔法』の理論は完成したんですか?

  実践したとして、すぐに成功する?》


 ある意味、あまりに容赦のない質問であった。

フリーダが傷ついていないか、アニィは不安になる。だがフリーダは、こぼれかけた涙を拭って答えた。


 「…わからない、です」

 《わからない?》

 「こっちに来てから理論は完成させて、専用の道具(ツール)は作りましたけど…

  さっきも言いましたけど、魔力の量が違いすぎると、小さい方の魔力が一方的に消えてしまう。

  ボクと同じくらいの魔力の人って、学園にさえもいなかったから…

  だから、成功するか判らないんです。魔力が消えてしまうと思うと、迂闊に実験もできないし」


 フリーダは、自分の魔法…研究と研鑽を重ねた末の魔法が、他人に害をもたらすと思い、行使できないでいる。

アニィは、フリーダの隣に座ったクラウを見上げた。クラウもまた、力になれぬと項垂れている。


 《クラウも駄目なんですか?》

 「クラウのは、他の誰かの魔術や魔法を『拡張する』魔術なんです…」


 拡張魔術に魔法合成を施しても、確かにあまり意味はない。これではフリーダの理論は実証が難しい…

ならばここで父の手伝いをしている方が良いと、諦めようとしているのだ。

そして諦めることも出来ず、一方でアニィ達との同行もできず、もがき苦しんでいる。

父になじられながらも彼女がここに引きこもる、最大の理由だろう。


 フリーダがどうするべきなのか…アニィには答えを出せない。

魔力を鎮める魔法のこともあり、できればともに来て欲しいとは考えている。

だが、最も重要なのは、あくまでもフリーダの意思だ。

全て諦めてここに籠るのも、ここを出るのも、フリーダに決めて欲しい…

だからこそ、ここでアドバイスしなければならないと、アニィは意を決した。


 「…旅に出る前に、パルに言われたの。

  できないって思ってるのは、まだ実現できてないってだけかも、って」

 「……そうでしょうか」


 やはり、そう言われただけですぐ気持ちを切り替えることはできないようだ。

それでもフリーダは縋りつくように、アニィの目を見て話しを聞いていた。


 「うん。朝も言ったけど、わたし、魔術が使えるようになったのは、本当に最近。

  10ディブリスとちょっと前かな。プリスに出会って、初めて使えるようになって…

  フリーダさんの魔法を成功させるのも、もしかして、特別な出会いが必要なのかもしれない。

  だから、まだ(・・)実現できてないだけ…じゃないかな?」

 「………まだ(・・)


 しばし逡巡するフリーダを、クラウが見つめる。どうする、とその目が問いかけている。

アニィはフリーダの意思を尊重し、敢えて同道は求めなかった。

邪星皇を斃す旅に出るということは、いつ死ぬかも知れぬ旅に出るということだ。

魔法合成魔法の理論を実証する前に死んでしまう可能性は、充分にある。

フリーダが命と自由を天秤にかけ、どちらを選ぶか…それはアニィに決められることではない。

答えを待っていると、フリーダはアニィの手を握り、正面から目を見つめた。


 「―――あのっ! あの、ボク、明日、皆さんに、伝えたいことがあります」

 「…うん」


 驚きつつ、アニィはうなずいた。

フリーダの言葉が、果たしてどれだけの決意から出たものか。

かつてプリスに自らの願いを託したアニィには、痛い程判る。


 「ボク、頑張って伝えますから。

  アニィさんだけでなく、クラウに、パルさん、ヒナさん、パッフさん、クロガネさんにも、父さんにも」

 「うん」

 「だから…だからアニィさん、プリスさん」


 一呼吸おいて、絞り出すような声で、フリーダはアニィ達に訴えた。


 「…ボクに、勇気をください。ちゃんと自分の気持ちを言う、勇気をください」

 「………フリーダさん」


 アニィはプリスの顔を見上げた。了承を得ようという視線に、プリスは渋々うなずき返す。

人間にほぼ興味の無いプリスとて、苦しむフリーダを放置するのは本意ではない。

そしてここで放置しておけば、アニィも何がしかの悔いを残すだろう。


 《わかりましたよ。ちゃんとあなたの決意、聞かせてくださいね》

 「っ……はいっ!」


 フリーダは返事をすると、立ち上がり、アニィに一礼した。


 「ありがとうございます、アニィさん! それじゃあまた明日!」

 「うん。おやすみなさい」

 「おやすみなさい! ―――クラウ、行こ!」

 「ばうっ!」


 フリーダが決意を固めたことに、クラウも嬉しそうだった。

振り向き、アニィとプリスに前足を振って見せた。

フリーダが自室に戻るまで、アニィとプリスは見送った。

やがてドアを閉じる音が聞こえると、2人も立ち上がり、客室に戻った。

大きなベッドでパルとヒナが、ドラゴン用の寝床でパッフとクロガネが、眠って―――いなかった。

いつの間にか目覚めていた彼女たちは、戻ってきたアニィを出迎えた。


 「フリーダ、元気になれそう?」

 「クルル?」


 開口一番、パルとパッフが自分の事のように、嬉しそうに笑う。

どうやらバルコニーでの会話は聞こえていたようだ。


 「うん…だから明日、フリーダさんのお話し、ちゃんと聞こう」

 「ああ」

 「ゴゥ!」


 ヒナとクロガネが静かにうなずく。耳の良いヒナには、恐らく会話の詳細なも全て聞こえていただろう。

それを特に尋ねないということは、パル達もだが、全て了承済みということだ。

心のつかえがとれたためか、アニィは途端に眠気を感じた。

小さく欠伸をして、パルとヒナの間に潜り込み、布団をかぶる。

両隣の二人も寝転がり、すぐに寝息を立てた。


 「おやすみ、プリス」

 《ええ。おやすみなさい》


 どうやらプリスも眠りに就くようで、寝床に入ってすぐに寝息を立て始めた。

アニィもまた、心地よい眠りに沈んだ。




 翌日の朝食は、フリーダの部屋で採った。

昨日買った食材を使い、4人で揃って野菜のサンドイッチ、スクランブルエッグを作り、ハムを焼く。

簡易キッチンで作った簡単なメニューだが、フリーダ曰く『いつもの何倍も美味しい』とのことだった。

ちなみに料理上手のパル、刃物の扱いに慣れたヒナ、火の魔術を自在に使うフリーダが主に調理を担当。

料理は下手だと謙遜したフリーダだが、少なくとも食べられるものは作れるようだ。

アニィはと言えば、味見と焼き加減の見張り担当であった。

アグリミノルでは共に料理を作ったはずだが、何度も指を切ったことをパルが憶えていた。

危なっかしいからと、調理器具を握らせなかったのである。


 朝食の後、食器を洗って『魔力整流』の施術後にアニィが薬を飲むと、ノックの音が聞こえた。

返事を待たず、ケイジェルがドアを開けて顔を見せる。


 「フリーダ、頼んでおいた資料はできてるかい?」


 了承も得ずにプライベートな空間を覗かれたが、しかし恐らくはそれも何度もあったのだろう。

フリーダは嫌悪に顔を歪ませるも、何も言わずに机の上の紙束を手に取り、ケイジェルに差し出した。

受け取ろうとするケイジェル。しかし、フリーダは何を思ったか、資料を引っ込めてしまった。

思わぬフリーダの行動に、ケイジェルは瞬きをする。


 「フリーダ? どうしたんだ、それを早く」

 「―――話したいことがあるんだ」


 困惑するケイジェルをよそに、うつむきつつもフリーダは問い詰める。


 「アニィさん達と一緒に、聞いて欲しい」

 「…どうしたんだ、いきなり。今か? 仕事の後か、昼休みでは駄目なのか」

 「駄目。父さん、お願いだからボクの話を聞いて」

 「…フリーダ」


 ケイジェルは身をかがめ、フリーダと視線を合わせ、肩に手を置いて優しく諭す。


 「仕事の時間だろう。学園から貸し出しの依頼も来てるんだし、処理しないといけないんだ」

 「でもっ…」

 「ほら、いくぞ」


 ケイジェルはフリーダに背を向け、さっさと司書室に向かった。

娘が自分についてくると、彼は全く疑っていないのだろう。

一方、フリーダは座りこんで呻いた。


 「………一生に一回くらい、ボクの話を聞いてくれたって、良いじゃないかっ…!!」


 どれほどの屈辱であったことか。振り絞った勇気を無碍にされ、両目からは今にも涙がこぼれそうだ。

励まそうと、アニィは歩み寄り、肩に手を掛けた。

フリーダはその心遣いに感謝を示し、しかし気持ちは受け取れぬと、首を振った。



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