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【6万PV感謝!】ドラゴンLOVER  作者: eXciter
第五章:鳥籠の夢-Awaken, wonder child-
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第八十三話


 そこへフリーダが戻ってきた。薬の調合をしていたのか、両手には手袋を嵌めている。

フリーダは、施術されたアニィの姿を見た途端に眉をひそめた。

ケイジェルは娘の様子に気付かず、用事を済ませてくれたものと思い、声をかけた。


 「フリーダ、彼女たちを部屋に案内して差し上げなさい。薬もできたな?」

 「あ…っ、はい。じゃあ皆さん、宿泊用のお部屋までご案内しますね」


 フリーダはアニィ一行を連れて廊下を歩き出した。

司書室からしばらく歩く間、フリーダはしきりに背後を振りむいていた。

アニィ達よりも司書室…あるいは、そこにいる父ケイジェルの事を気にしているようだった。

しばし歩くと、廊下の途中にある壁の前に到着した。

壁には関係者以外の入室を禁ずる文言が書かれている。

フリーダが壁に手を触れた途端、壁は上方にスライドして天井に収納され、壁の向こうに上階への階段が現れた。


 「みなさんには、ボクの部屋の隣に宿泊していただきます。

  上の階はボクと父さんの住む部屋…つまり、ボクらの『家』なんです」


 フリーダに続き、アニィ達も階段を上がっていく。

薄暗い階段を上り切り、生活用の部屋が並ぶ2階に上がる。

階下の仕事用の部屋が並ぶ廊下と比べ、少しばかり空気が冷たく、湿っぽい。

そして人の匂いがする。確かにこの空間には、人が生活している。

しばし歩いて、アニィ達は一つの大きな扉の前まで案内された。


 「ここです。室内にも通用口がありますから、用事がある時はノックしてください。

  あと、バルコニーは二つの部屋でつながってます。どうぞ、ごゆっくり」


 アニィ達が通された部屋は、3人分のベッド、そしてドラゴン3頭分の寝床が用意されていた。

そんじょそこらの高級な宿よりも広く、設備も整っており、居心地も良さそうだ。

プリスも感心して室内を眺めまわしている。パッフとクロガネはバルコニーに出て、雲海を見下ろしていた。


 《ほお…これは良い部屋だ。アニィを休ませるには丁度いい》

 「ありがとうございます…それじゃあ、お世話になります」


 アニィがフリーダに告げると、パルは武器やアニィのマントをベッドに置いた。


 「じゃ、宿引き払って、荷物持ってくる。ヒナも手伝って」

 「心得た。フリーダ殿、下に降りる部屋は?」

 「ボクの部屋の向かいにあります…」


 廊下を見ると、確かにフリーダの部屋の向かいに、先刻ここに上がってきたのとよく似た部屋がある。

生活空間ということで、ここもフリーダの魔力を認証しないと動かないのだろう。

それを頼もうと、パルはフリーダに向き直ったが。


 「―――あのっ!」


 そのフリーダが、突如声を上げた。驚いて全員がその場で固まり、フリーダに注目する。

フリーダは全員を見渡すと、アニィに近付き、顔を寄せた。

何事かとそばにいたプリスが警戒するが、フリーダの目は真剣そのものだ。

そして彼女は意外なことを申し出た。


 「あの、アニィさん。もう一度しっかり、施術しませんか」

 「どういう…こと……ですか…?」

 「…父さんの施術は、一般の人向けです」


 フリーダが言っていることは、つまりケイジェルの施術は不十分ということであった。

発現が虚言や父への不信だけでないのは、彼女の目と真剣な表情からわかる。


 「…ボクは色々あって、魔力のことをたくさん研究しました。

  魔力の流れや残留量も感知できます。魔力の暴走を鎮静化する魔法も使えます。

  アニィさんには、ご自身の症状と魔力の事をきちんと知った上で、施術を受けて欲しいんです。

  より魔力のコントロールをしやすいように。ちゃんとボクが説明しますから」


 真剣で真摯な目を向けたまま、フリーダはアニィの手を握り、懇願するように再度申し出る。


 「ですから、もう一度きちんと施術させてください。お願いです」


 先ほどまで、フリーダはケイジェルの前では良い娘そのものの姿であった。

だがこの発言は、自分の方が父よりも優れていると言っているようなものだ。

先ほど後方を気にしていたのは、父にこの申し出を聞かれたくないがためだったのだろう。

このことを伏せたのは、父の名誉のためか。それとも…


 しばし逡巡し、アニィはプリス達の顔を一度見回し、了解を取った。

全員が、アニィ自身と同じことを考えている。

この、フリーダという少女を信じて良い物か。彼女の自信、そして真摯さを、本当に信じて良いのか。

しばしの逡巡の末に、アニィはフリーダの申し出に答えた。


 「…お願いします」

 《そうですね。私からもお願いしましょう》


 アニィとプリスの回答に、パッとフリーダの顔が明るくなった。

 

 「じゃ、じゃあ、ボクの部屋に! 来てください! 皆さんで!

  あっそれと、多分同い年くらいですから、丁寧語でなくていいですよ!」

 「は、はい…あっ、パル、荷物は」


 戸惑うアニィに、パルは笑って答える。


 「後でいいよ、今はあたしも説明聞きたいし。ヒナは?」

 「私も同意。まず、アニィ殿の症状について聞いておきたい」


 ヒナ、そしてパッフとクロガネも同意し、揃って隣のフリーダの部屋に上がりこんだ。

室内はやや乱雑で、壁際の大きな棚には様々な道具が並び、少女の私室というより、科学者の研究室を思わせる。

お邪魔しますと言って上がり込んだ所で、パルは見覚えのある物を発見し、棚に駆け寄った。


 「あれ…これって、モフミーヌさん達が使ってる奴じゃない?」

 「はい、ボクが作りました!」


 厄介事引受人協会の受付係が使っている、遠距離通話用の鉱石板だ。

学園の園長室、そしてケイジェルの司書室にもあった物だ。

他には口座引き出し・報酬受け取り等の手続に使う魔力押印台、会員証のひな型のプレートが何枚か。

顕現石(ルミナスクォーツ)の輪を埋め込み、その中に複雑な魔法陣をびっしり彫り込んだ、輝ける鋼(グローリーメタル)の板もあった。


 「これ、質量転移魔術ゲートだ! あたしの矢を送ってもらってる奴!」

 「じゃあ、魔術工学博士っていうのは、フリーダさんの事…?」

 「そうです! えへんっ!」

 「すごい…!」

 「学園にいた頃、研究がてら作ったんです。で、使えそうだから、その頃に発足した協会に提供しまして」


 アニィの賞賛に、ふんぞり返って答えるフリーダ。

加勢とばかりにヒナも称える。


 「そうだったのか…協会では、そなたの作った道具に本当に世話になっている。感謝するよ」

 「そ、そーですかっ! えへへへ…」


 賞賛の嵐にすっかり照れるフリーダ。が、我に返って、アニィ達をこの部屋に招いた用事を思い出す。

アニィ達を並んで椅子に座らせて待つように言うと、部屋の外に顔を出し、誰かに何かを頼んだ。

キョトンとしてアニィ達が待っていると、廊下を走るドスドスという足音が聞こえた。

怪物でも来たのかと、迫る足音を訝るアニィ達。そこにやってきたのは―――


 「ばうっ!」


 持ち運びができる程度の掲示板と何枚もの紙束を抱えた、鮮やかな青の鱗のドラゴンであった。


 「紹介します。ボクの助手にして一番の友達の、クラウディオス。クラウです!」

 「ばうばう!」


 フリーダが抱き着くと、クラウことクラウディオスもフリーダを抱きしめた。

仲の良いその姿は、まさに親友である。


 「クルル!」

 「ばうっ」


 早速握手を交わすパッフとクラウ。続けてクラウは、アニィ達と順に手を握り合った。

社交的で明るく、人見知り(あるいは(たつ)見知り)しないタイプのようだ。

握手が終わったところで、クラウは掲示板に画びょうで紙を張り付け、フリーダに指示棒を手渡した。器用だ。

張り付けられた紙には、人体を簡単に描いた図と『魔力と魔術について』というタイトルが書かれていた。

フリーダが突如眼鏡をかけ、教員風の出で立ちで掲示板の横に立った。

アニィ達が並んで腰かけた後ろに、プリス達が並ぶ。


 「事前の知識として。魔力の最大容量は、体の大きさと関係なく決まります。

  また、そもそも魔力を生み出す仕組みは人体にありません。

  魔力ぶくろのような、都合のいい臓器も無いです」


 フリーダは人体の図の中心に、波打つ線で囲まれた不定形の図形を描いた。

その中心に『魔力』の文字、周囲に疑問符をいくつも書いた。


 「つまり魔力は、人体の構造と一切無関係なエネルギーなんです。

  うっすらとで良いので、最初にこれを憶えておいてください」

 「そういえばわたし達、魔力がどこから生まれるかって、考えたことも無かった…」

 「いつも使ってるせいか、全然気にしないもんね。ドラゴンもそう?」

 「クルル」


 うなずくパッフ。改めて指摘され、アニィ達は自身の体に触れて、魔力の発生源が全く分からないことを実感した。

全員が実感した所で、フリーダは指示棒で簡単な人体の図を指す。


 「ご理解いただいたところで、解説します。魔力は人体の中にある、実体のないエネルギー。

  で、これを体外に出すことで、火、水、風…などに変化する。

  これが一般的な『魔術』。皆さん、子供のころから見てきたと思います」


 ふむふむ、とうなずくアニィ達。

フリーダはペンを取り出し、先ほどの人体図の不定形な図形から、手に向けて矢印を描いた。

手の部分から出た矢印の先端に、火や風などを現わす簡単な記号、そして『魔術』と書き添える。


 「ですが、中にはこの一般的魔術が使えなかった人もいます。

  魔力が無かったのではなく、魔術として体外に出すことができなかったケースです」


 フリーダは、先ほどの人体図に書いた矢印の途中に交差する、1本の線を描いた。

体外に出るのを遮る、壁のような物を現わすらしい。


 「あまりに魔力が大きすぎると、人体から出られない、いわゆる『目詰まり』を起こします」

 「あ…それ、プリスからも聞いたよ。ドラゴンと一緒になると、それが解消するっていう話」

 《ここに来るまでに少し説明しました》


 アニィ、パル、そして途中で合流したヒナも、そこはプリスから説明を受けていた。

事前に知識を持っていたことに対し、フリーダは大いに喜んだ。


 「話が早くて助かります。それがつまり、皆さんのような人たち。

  ―――『ドラゴンラヴァー』です」



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