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【6万PV感謝!】ドラゴンLOVER  作者: eXciter
第五章:鳥籠の夢-Awaken, wonder child-
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第七十七話


 「クルル!」


 パッフは早速ドラゴン用の寝床に飛び込んだ。

分厚い敷物はかなり柔らかく、寝心地が良いらしい。彼女はごろごろ転がっている。


 「あは、ふかふかだ。人間が寝ても丁度いいかもね!

  じゃあ今日は久々に、一緒に寝よっか。パッフ!」

 「クル!」


 隣に座ったパルに、パッフが頬ずりする。2人そろってゴロゴロする姿は、確かに寝心地が良さそうである。


 《それで、これからどうするんです?

  協会支部が閉まってるとなると、お店も同じかもしれませんよ》

 「そういえば…」


 アニィが窓から外を見ると、パルとヒナも並んで街を見下ろした。

商店街らしき区域の明かりはまばらで、客足も少ない。ほとんどの店は閉まっているだろう。

1階に食堂があるので、夕食に困ることが無いのは幸いだ。

既に日が沈み、夜になっている。しばし考え、パルが方針を決めた。


 「今日はもう晩御飯にして、寝ちゃおうよ」

 《それが良いと思いますよ。アグリミノルで闘ってから、皆さん休憩取ってないでしょ》


 言われてみれば、と全員が顔を見合わせる。

戦闘後、メグとモフミネリィに促され、それから休息を取らずに飛んできたのである。

プリスに言われてその事実を思い出すと、全員がやっと心身の疲労を感じた。

特にアニィなど、激烈な怒りとその後の後悔とで精神の振れ幅が激しく、ひたすらに疲れ切っていた。

早く休みたい―――それがアニィの偽らざる心境だ。


 「そう…だね」

 「よし。じゃ、下行こう」


 プリス達に留守番を頼み、アニィ、パル、ヒナは階下に降りた。

パルは弓を置いていったが、何かあった時のためと、ヒナは刀の柄尻の小さな刃を取り外し、懐に入れて置いた。

日が沈み、学生たちは帰宅したかこの宿の別の部屋に泊まったか…となれば、静かに食事ができるだろう。

そう期待していたアニィは、しかし食堂に踏み込んだ途端に立ち止まった。


 食堂には学生らしき少年少女がいた―――だが、先刻いたのとは別の学生たちだった。

先ほどの学生たちより幾分か年上だ。学生服らしい揃いの服という点は共通しているが、高級そうな制服を着ている。

そして雰囲気もどことなく大人びていた。貴族か何かの令息令嬢だろうとアニィ達は推測する。

ただ、時折アニィ達に向けられる視線からは、どことなく悪意を感じた。

立場を笠に着て人を見下す、高慢で冷酷な視線だ。

絡まれると面倒だと、アニィ達は無視して隅のテーブル席に陣取った。

受付係がテーブルに水の入った鉱石グラスを並べ、注文を訊いた。


 メニュー表をしばし眺め、アニィはマッスルサーモンの焼きライス(小)に決めた。

パルはギロチンラビットステーキ入りのシチュー大盛り。

ヒナはグラップル=ドゥシィ(にぎりずしぃ)なる、魚肉をのせて握り固めたライスにした。

ちなみにヒナは受付係に自らの目の事を説明し、読み上げてもらってからの注文だ。

反響定位や指先の感覚でも、紙に印刷された文字は流石に読めない。

注文を終えてから、アニィはメニュー表を見て首をかしげた。


 「気になったから頼んでみたけど、この『ライス』って何だろう…」

 「穀物の一種だ。水と混ぜて炊いて食べる、ヤマト皇国の主食だ」


 どうやらヒナは、主食恋しさで注文を決めたらしい。

ただ、どうやら故郷では高級なものだったらしく、本当にその価格で良いのかと、受付に何度も確認していた。

材料費をだいぶ安くしていると聞かされ、疑いつつも納得はしていたが。


 「それがここに届くんだ。これもマルシェのおばさんのおかげかな?」

 「多分、そうだね…すごいなあ、シーベイの商工会」


 そのおかげでこの街でも食事ができるのだから、アニィ達は感謝しきりである。

注文を終えて水を飲んでいると、先客の男子学生の一人が立ち上がり、アニィ達のテーブルに近付いてきた。

彼はテーブルに手を突き、突然アニィに顔を寄せて尋ねる。


 「君たち、旅の途中かい?」


 突然の質問に、アニィは目を白黒させる。

まさか自分などが訊かれると思わず、つい周囲を見回してしまった。

が、相手はパルでもヒナでもないらしい。自身を指し、本当に自分に質問したのかと確認する。

その横でパルとヒナが警戒しているが、どうやら彼には見えていないらしい。

そう君だ、と答えて彼は話を続けた。


 「いいお店があるんだ。僕達と一緒においでよ」

 「あっ、いえ…あの…」

 「遠慮しないで。大丈夫、怖くは…」


 だが、彼がアニィに向けて伸ばした手は、届く前にパルに掴まれた。

何事かと学生が疑問に思う間もなく、強靭な握力で腕の骨が軋み、鈍い音が鳴る。

突然の強烈な痛みに、学生は凄まじい悲鳴を上げる。


 「いだだだだだだだっ! 痛い! 痛い!! はなせ!!」

 「はーいはい。放してあげますよ、っと」


 パルは掴んだ手首を放すと、今度は学生の襟首を掴むと、彼が座っていた席へと放り投げた。

無論『ドラゴンラヴァー』が全力で投げたら、落下時に間違いなく骨が砕けるため、手加減はした。

間のテーブルを跳び越えて、学生はもんどりうって仲間達の間に転がり込む。

彼の仲間の学生たちは、一見普通の少女であるパルが、片手で軽々と男子生徒を投げたことに驚愕していた。


 呆然とする仲間達の中で、投げられた当人は怒りと屈辱に顔を歪ませ、立ち上がってアニィ達に両手を向けた。

だが、その額に何かが当たる―――冷たい氷だった。

ヒナの指先が水に濡れている。氷はグラスの水に入っていた物だ。彼女が投げたか、指ではじいたか。

いずれにしろ、学生が気づく間もなく当たっていた。刃物や石なら、人間を死に至らしめる場所への直撃だ。


 「次はこれを当てる」


 ヒナは、刀から取り外した小さな刃を見せた。

そこで学生たちは、ヒナが目が見えぬことを受付に説明していたのを思い出した。

盲目の人物が、正確に致命の急所を射る…その事実に気付き、学生は戦慄し、座り込んだ。

彼が抵抗を諦めたと知り、ヒナも刃物を懐に再びしまい込む。

戸惑いつつその様子を見ているアニィに、2人は軽く笑って見せ、学生たちに言う。


 この時、テーブルの下では、アニィの両手が結晶の短剣を纏っていた。

本人も無意識のうちに、学生を敵と見做し、殺害さえしようとしていたのである。

アニィの肩にヒナが手を置いて押さえ、その間にパルが学生を遠ざけた…というわけだ。


 「判ってくれればいい」

 「そうそう。あたし達は静かに食事したいだけだから」


 そう言って、届いたメニューを受け取るパル。

フォークでギロチンラビットの肉を突き刺し、がぶりとかじりついた。

続けてアニィが頼んだ焼きライス、ヒナが頼んだドゥシィが届いた。

故郷の高級料理の味に、ヒナは郷愁にかられる。

その一方、戸惑いつつも焼きライスをスプーンで掬い、一口食べたアニィは、パッと顔を輝かせた。


 「あ……おいしい…」


 初めて食べる異国の食事を、どうやらすっかり気に入ったようだ。

一方、その姿は学生たちには異様にも映った。

絡んできた学生を一方的に痛めつけた友人に戸惑ったかと思うと、平気な顔で料理を食べている。

不気味にすら見え、学生たちは僅かに青ざめた。

彼らは及び腰で少しずつ後退ると、走って逃げだした。


 残されたのはアニィ達3人、そして受付と店主のロジィ氏だけであった。

ロジィ氏は手を出さず、成り行きを見守っていた。

…というより、何かあってもアニィ達の自己責任と、ドライに傍観していたようだ。

そんなロジィ氏を、パルはじっとりした視線で見た。


 「このお店、あんなのが出入りしてるの?」

 「普段は問題行動も起こさないしね。

  キミたちこそ、腕っぷしも危機管理能力もあるじゃないか」


 ロジィ氏は、あくまで店の利益を優先しているだけらしい。

学生の一人がアニィに詰め寄った時も、彼はあくまで淡々としていた。

ここまで言うと、ロジィ氏は急に話を変える。


 「それで、この街には何の用事で?」

 「…」


 アニィはパルとヒナに目配せし、話して大丈夫かと確認を取る。

どちらもうなずき、恐らくプリスもそのくらいの了解はするだろう、と推測した。


 「ええと…『図書館』に用事が、あるんです」

 「図書館? そりゃあ、街中にあるけど。そのためだけにここへ?」

 「あっ、いえ、多分、違うと思います…

  あの、そこに行った人が、『空が見えた』って言ってたとか…」


 たどたどしいアニィの説明を聞きつつ、ロジィ氏は何かを思い出そうとしていた。

しばし思考を巡らせた彼は、もしかして、と前置きして答えた。


 「空が見えるかは判らないが、ハイライズという人が司書を務める図書館があるんだ。

  かなり大きくて、置いている本の種類も、この街で一番多いらしい。

  管理しているのは、この街中央の学校…『マナスタディア中央魔法学園』だ。明日行ってみると良い」

 「あっ、ありがとうございます!」


 街の中央の学校。到着時に見た巨大な学校だと、アニィ達はすぐに分かった。

アニィの礼の言葉を聞き、ロジィ氏はどういたしましてと答え、受付カウンターに戻った。

その後来客は特になく、アニィ達は3人で食事を済ませた。



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