表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【6万PV感謝!】ドラゴンLOVER  作者: eXciter
第五章:鳥籠の夢-Awaken, wonder child-
80/386

第七十五話


 アニィ達一行は、沈みかける太陽に照らされた、暗いオレンジ色の空を飛んでいた。

マウハイランド山脈を抜けた先…と説明はされていたが、その山脈は極めて長大である。

昼過ぎにアグリミノル町を出てから、山脈の一部と定められている地域を抜けるまでは、日没近くまでかかった。

寒村だらけだった山脈付近から、マナスタディアが近付くにつれ、小さいながらも街や都市が少しずつ増えていった。


 人口密度や建物の増加だけではなく、街と街をつなぐ街道も見えた。

山脈に近い方は、草を刈り土を踏み固め、街道と外側を仕切る縁石や植木が置かれているのみ。

しかしマナスタディアに近付くにつれ、幅が広く路面が整った道路が増えていく。


 フェデルガイア連邦において、一般的に街や村同士の間は結構な距離がある。

というのも、ドラゴンによる飛行速度で、距離があろうとも大した障害にならないからだ。

また徒歩や怪物(モンスター)での移動の場合も、魔術を利用して比較的安全な旅ができる。


 現在フェデルガイアにある街は、ほとんどが発展途上である。

シーベイやヴァン=グァドのような大きな街、軍事施設などは稀な部類だ。

加えて、ドラゴニア=エイジが始まってから、時間にして8千ネブリスほどが経っている。

現在の連邦の街の所在は、拡大・縮小・発足・廃止が長い時間で幾度も繰り返された結果である。


 「やっぱり、発展してる都市があると、交通網が発達するなあ」


 パッフの背の上から地上を見下ろしながら、パルが街と街をつなぐ道路を見渡す。

良く良く観察すると、確かに北方…マナスタディアに向かって、道路は整えられ、大きな街が増えていく。

それを受けて、クロガネの背に座ったヒナがパルに問う。


 「パル殿、そなたたちの村からシーベイには、道は無かったのではないか?」


 ヒナが尋ねた通り、シーベイ街とヘクティ村をつなぐ道は無かった。

これは、アニィ達が折に触れて愚痴をこぼしていたことだ。余りに交通の便が悪い、行商は苦労しているらしい…など。

山奥のヘクティから海が近いシーベイに人が移ったのは自然なことだが、そのための道は全く残っていなかった。

パルは苦々しい顔で答える。パッフも村を思い出したのか、同様の表情を浮かべた。


 「村ぐるみで自分からあそこに閉じこもってたし、シーベイからあそこに行く価値も理由も無いし。

  わざわざ道を作る必要なんて無い、って思ったんじゃないかな。昔の人たち」

 「クルル」


 ヘクティ村が廃れた事情について、パルとパッフは先にプリスの話を聞いていた。

移住に関しては必然でしか無いが、村の印象から邪推を混ぜてしまうのは、ある意味仕方のないことである。


 「故郷に対して物言いがドス黒すぎはせぬか…?」

 「ゴウゥ…」

 「イヤな村だったからね。チャム達が待っててくれなけりゃ、戻りたいと思わないね、あたしは」

 「なるほど、なら仕方ない。早く邪星皇を討って、妹君たちを迎えに行かねばな」


 パルにとって、村にいた頃のいい思い出など、幼いころに家族で出かけたことくらいしか無い。

あの頃は、まだまともな大人がいた。アニィやパッフと出会う少し前で、チャムがまだ言葉を話せなかった頃だ。


 その数ネブリス後に両親は死亡し、センティ以外の大人の悪辣さが顕著になり始めたのだ。

ネイヴァ家の父母は、どうも村の大人たちの良心のタガになっていたらしい。

村の有力者だったのか、それとも何か理由があるのか、他の大人は2人に強く出られなかったようだ…

と、パルは残るかすかな記憶から推測している。


 一方、先頭を飛ぶアニィとプリスは、アグリミノル町を出てからずっと黙っていた。

アニィは、アグリミノル町の戦闘で、自分の頭の中が猛烈に熱くなっていたのを憶えている。

死にかけたバルベナのこと。邪星獣の悪意。制御が困難な程に暴走しかけた魔力。

全てが頭の中で滅茶苦茶に混ざり、目の前が真っ赤になった…

比喩ではなく、目が怒りに血走ったのか、本当に真っ赤になったのである。

丁度魔力の光が両目から漏れた瞬間だった。


 そしてそこまでの怒りの真っただ中にありながら、アニィ自身は極めて冷静に、邪星獣だけを攻撃したのだ。

膨大な閃光がほとばしる結晶砲で、狙いを定め、メグ達にも周囲の建物にも傷つけぬように魔力をコントロールした。

余りにも冷徹な己の所業を思い返し、アニィは恐怖に身を震わせた。


 《アニィ…?》


 プリスに名を呼ばれ、アニィは我に返った。

顔を上げ、振り向いたプリスと視線を合わせる。


 「だ、大丈夫…だよ」

 《何も言ってませんよ。…思い出してたんですね、アグリミノルでのこと》


 プリスに言い当てられ、アニィは再び黙り込んだ。

視線を前方に戻したプリスは、深いため息をつく。

アニィは心配を掛けまいとして、体調の事を訊かれるたび、こう答えている。

だがどう見ても大丈夫ではない事は、もちろん仲間達全員にばれていた。

半ば条件反射のように答えたのは、幾度か体調について尋ねられてきたからである。

 そしてそんな最中の考え事は、当然のようにプリスに言い当てられた。

顔を赤くしてうつむくアニィ。プリスはそんなアニィに、優しい笑顔を見せる。


 《…あの時、あなたは明らかに異常でした。戦闘に躊躇が無いどころじゃない。

  凶暴な怒りと、冷酷な殺意が両立していました》

 「……おかしいよね、あんなの。やっぱり私、どこかおかしいんだ」

 《ええ。…でも謝らないでください。あなた自身のせいじゃないんです》


 プリスの優しい言葉に、アニィはおもむろに顔を上げ、振り向いた瞳を見つめ返した。


 《魔力由来の病について、ドラゴンでも知っている者はそういません。

  邪星獣の襲撃も無いようですし、一晩寝て気持ちを落ち着けて、それから診てもらいましょう》


 以前なら高慢ちきかつ偉そうな口調で、文句の一つでも言ってきたであろうプリスが、数ディブリス前からだいぶ優しくなった…

アニィはそれに気づき、かつどうしたものかと疑問に思っている。

だが、今の疲労し混乱している頭では、事情など聴いても憶えられはしないだろう…

そう思い、アニィはプリスの進言に、素直にうなずいた。


 「…うん」

 《都市に着いたら、宿と…それから協会支部でも探しますか》

 「うん」


 気を取り直し、アニィは正面に向き直る。振り向くと、背後にいるパル達が笑いかけてきた。

 太陽が殆ど沈みかけた頃、ひときわ大きな街が見えてきた。パルは地図を広げ、迫る都市と見比べる。

目的の場所、マナスタディア魔法学園都市に辿り着いたことを、パルは確かめた。


 「………大きい。村の学校と全然違う」


 上空から巨大な都市の巨大な校舎を見下ろし、ため息混じりにつぶやくアニィ。

その視線の先にあるのは、都市の中心部にある学校だった。

入り口であろう、巨大で豪奢な門。陶器を思わせる、白く輝く校舎。誇らしげに掲げられた校章。

その周囲を固めるのは、渡り廊下でつながった数々の教室棟だ。


 「都市全体に学校があって、どこも都会のお金持ちの子が通ってるんだって」

 「大きな街なのか?」


 地図を見ながら解説するパルに、ヒナが尋ねる。

初めて歩く街ということで、目の見えぬ彼女は不安なのだろう。

アグリミノルのような小さな町なら、クロガネから学んだ術で周辺の環境は多少わかるが、人工物が並ぶ大きな街となれば、不安は隠せまい。


 「うん、ヒナが一人で歩くのは絶対危ない。あたしたちの誰かと一緒に歩いて」

 「わかった。すまない、世話を掛ける…」


 クロガネが慰めるように一声鳴くと、ヒナは感謝の意を示すように、小さく笑ってクロガネを撫でた。

鈴の音の反響で周囲の状況を確かめられるとはいえ、この大きな街をそれだけで全て把握するのは至難の業だ。

と、視界に何かが映り、アニィは上空を見上げた。

途端に目を丸くして、気が抜けた声を上げてしまう。


 「ええええ…ね、ねえみんな…あれ…」

 「どしたの、アニィ。突然―――」


 つられてパルとパッフ、そしてクロガネも上空を見上げ、そして驚きの叫び声を上げた。


 「でっっっかあ!!」

 「クルぅっ!?」

 「ゴォッ!?」


 さらに目の見えぬヒナも上空に顔を向け、見えないにもかかわらず呆然とする。


 「何だ…あの、巨大な魔力の塊は…?」

 《島が浮遊している…!?》


 プリスが言う通り、真下から見たそれは、まさに浮遊する島であった。

雲の高さに浮き、静止した状態を保っている。

明らかに人工物で、それでいて人間の所業とは思えぬ光景だ。


 「浮遊する島…上空の邪星獣の魔力とはまた違うな…

  そうか、独自の魔術、いや『魔法』で浮いているのか」


 鋭敏な感覚を持つヒナが、的確に分析した。

浮遊する島の底面には、魔術の術式と思われる文字が並んでいる。

底部中央には巨大な顕現石(ルミナスクォーツ)がはめ込まれていた。

底面全体も、恐らく輝ける鋼(グローリーメタル)製であろう。

つまり、この島を作った人物がおり、学園都市の上空には、何かしらの目的を持って浮遊させているのだ。


 「これも、あれかな…魔術工学博士って人の発明かな…

  何か、大きすぎて遠近感が…」

 「クルぅ…」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ