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【6万PV感謝!】ドラゴンLOVER  作者: eXciter
第一章:葬星の竜-Dragon of the destiny-
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第八話


 「僕は…僕は教師でありながら、彼女の魔力に気付いていながら、何もしてやらなかった。

  これは僕から、お詫びの印でもあります。許してくれなくても構わないから、せめて役立てて欲しい」

 「…わかった。アニィに渡しとくよ」


 パルは新たな短剣を鞘に納め、マントを一枚羽織ると、腕輪ともう一枚のマントはバッグにしまい込む。そしてセンティと子供達の顔を見回した。


 「皆は地下室に避難してて。あいつらはあたし達がやっつける」

 「アニィちゃんは!?」


 立ち去ろうとしたパルの手を、チャムが握って止めた。


 「アニィちゃんは、大丈夫なの…?」

 「うん。先に行けって、言っておいたよ」

 「…そっか」


 到底納得していない表情で、チャムは手を放した。

かがみこんで目を合わせ、パルは諭すようにチャムに言う。


 「だから、あたしたちも追いつこう。すぐやっつけてやるから、あんな化物」

 「うん…」


 フータを抱きしめ、チャムは涙をこらえながらうなずいた。

パルがその頭を優しく撫でると、壊れた壁からパッフが顔を出した。


 「クルル!」

 「行ってくる。絶対迎えに来るからね、チャム!」


 それだけ言って、パルは学校から出た…が、その足元に這いつくばる姿を見て、足を止める。

両脚の膝から下を断たれ、手には砕けた斧を持った、アニィの父オンリだった。

戦闘能力を奪われて逃げてきたか。嫌いな人物だが、匿った方が良かろうとパルは思ったが―――


 『GXHEEEE……!!』


 彼の背後に迫る怪物を見て考えが変わった。子供達が恐怖に叫び出す。

追われているのも構わず、オンリは子供達の前に逃げ、怪物を連れてきたのである。

オンリは両腕だけで這って校舎の中に転がり込んだ。


 「このクソ親父! よりによって子供らの所に…!」

 「やかましい! こんなガキどもより俺を助けろ!」


 両目は血走り顔は恐怖の汗にまみれ、なおも生に執着して彼は叫んだ。

その姿に同年代のセンティ、そして子供達が愕然とした。

彼は村の若いドラゴン乗り達を導く立場にある…いわば英雄と言って差し支えない人間だ。

そんな人物のこの発言は、彼を称えていた子供達を少なからず落胆させたようだ。


 「俺はこの村の英雄だ! 助けるのが道理だろうが!! どけ! 俺は死ぬわけにはいかな」


 だが、オンリのわめく声は途中で消えた。パルが蹴飛ばしたのである。

瓦礫が砕け、倒れ込んだ彼の体に覆いかぶさった。怪物の眼からは逃れられるだろう。

パルは周囲にある物を集め、学校の壁の前に積み重ねた。無いよりはまし、という程度の防壁だ。


 「皆ちゃんと隠れてなよ。じゃあ行ってくる!」


 それだけ言い置くと、パルは振り向いて走り出し、跳び蹴りで怪物の首を切断した。

その間にセンティに背を押され、子供達は床板を持ち上げ、地下室への階段を下りていった。

センティは子供達全員が下りたのを確認すると、自身も階段入り口に降り、床板を下ろして魔術で壁のろうそくに火をともした。

怪物たちの邪悪な叫び、ドラゴン達の勇ましい咆哮、パルの力強い声が遠くなる。

最下段まで降りた子供達が数人がかりで重い扉を開け、二十人は籠れそうな部屋に入った。

地下室とパルは言ったが、シェルターと言った方が適切である。


 ろうそく数本の乏しい明かりの中、センティは子供達を座らせた。子供たちの何人かはぐすぐすとすすり泣いている。

センティは子供たちの頭を優しく撫でてやった。両手で子供達を抱き寄せて安心させたいが、左腕が傷つき、今は叶わない。


 「みんないますね。ケガはありませんか?」


 子供達は泣きながらもうなずいた。全員の無事を確認し、センティ自身も座り込んだ。


 「せんせい、だいじょぶなの…?」

 「フニ~」


 チャムとフータが彼の左腕を心配そうに見つめる。センティは笑って答えた。


 「なに、気にすることはありませんよ。若い頃にヘヴィージャガーに食いちぎられかけた時と比べれば、こんなもの」


 それだけ言うと、センティはチャムとフータを交互に撫でる。


 「それより、君たちがケガをしなくて本当に良かった」

 「…」

 「しばらくはここで待ちましょう。パル君やドラゴン達が、あの怪物どもをやっつけてくれるはずですから」


 希望的観測ではある。正体不明の怪物を全て倒せるなどと、子供達ですら安易に口にすることはできなかった。

だが、大人である自身こそ子供達を絶望させるわけにいかないと、センティは敢えて希望的観測を口にした。

子供達は縋るように彼を見つめる。センティは一人ひとりにうなずき、大丈夫だと語り掛けた。


 「だいじょうぶ…だよね。ねーちゃん達、あいつらをやっつけてくれるよね」

 「フニ~」


 ぎゅっとフータを抱きしめ、チャムは自身に言い聞かせる。

姉とその相棒、そしてドラゴン達が怪物を蹴散らし、アニィと共に旅に出られるはずだと。


 (アニィちゃん―――)


 チャムはアニィの事を思い浮かべながら、どうか助かるようにと祈った。

抱きしめられたフータが、丸っこい手でチャムに縋りつき頬ずりをする。


 チャムにとって、自身の死よりも恐ろしい事。それはアニィを失うことだった。

アニィはこの村にずっと苦しめられていた。どれだけ助けようと、この村にいる間、彼女の顔はずっと曇っていた。

けれど村の外に出れば、きっとステキな笑顔で笑ってくれるだろう。

アニィの笑顔が見たい。それが何よりのチャムの望みである。


 (アタイ、アニィちゃんの笑顔が見たい―――)

 「それまではアタイは死ねない…アニィちゃんが笑ってくれるまでは…」

 「フニ~」


 額がフータの小さな額と触れ合った。

勇気付けてくれる友に感謝しながら、恐怖に負けてはならぬとチャムは思い直す。

そして改めて祈った。アニィを笑顔にするため、皆で村を出たいと。

その時だった。


 「フニ~」


 フータの鳴き声と共に、胸の中で何かが砕ける感触をチャムは憶えた。

同時に脳裏に閃いた予感に、顔を上げた。どうかしたのかと全員がチャムに注目する。


 「くるよ」


 我知らず、チャムはつぶやいた。突如生まれたその予感には、不思議な程に違和感がなく―――

否。予感と言うより、それは目の前で起こる事実とすら、チャムには思えた。

センティ、そして他の子供達が、発言の真意をチャムに問う。


 「チャム君、来るとは?」

 「だれがくるの?」

 「―――アニィちゃん」


 脳裏に浮かぶのは、大好きなアニィの姿。そのアニィが、今まで見たことも無い勇ましさを湛えている。

両手から純白の光を放つ彼女が駆るのは、見たことも無いドラゴンだった。

それが明確なヴィジョンとして、チャムの脳裏に突如閃いたのである。


 「くる。アニィちゃんが、ドラゴンに―――

  白いドラゴンに乗って、くるよ!」




 センティから受け取った短剣を振るい、パルはパッフやドラゴン達とともに怪物を倒していた。

発動中の身体強化魔術が、腕が延長されたかの如く短剣にも伝わるのが判る。魔力を通す金属でできているようだ。

そして短剣の切れ味はと言えば、加減した一振りで怪物の頭部を水平に両断するほどであった。


 「すごい! 先生に感謝しなくちゃ!」

 「クルル!」


 そしてそれを見たパッフも、吐き出す水の弾丸の形を鋭い刃に変えた。

さらに湾曲させたことで、水の刃はブーメランのように弧を描いて飛び、一つの刃で複数の怪物の頭部を真っ二つにしていく。

強力な武器とパッフの発想により、幾分か闘うのは楽になった。だが…


 (この怪物、どっから出てくんのよ…!?)


 怪物たちは、パルとドラゴン達がいくら倒しても、いつの間にか新手が現れる。結果として数は殆ど減っていない。

一方でドラゴン達は、実力は怪物と拮抗するものの、徒手空拳でのみ闘っている。

魔術を発動しているのはパルとパッフのみ、しかも矢を射尽くしたパルは飛び道具を使えない。

当然、ドラゴン達にも疲労がたまっている。中には疲労から殆ど動けず、怪物に倒されたドラゴンもいた。

まだ命を奪われてこそいないが、戦力は着実に減っていた。


 「このままじゃ皆殺しにされる…!」


 アニィとチャムには必ず怪物を倒す、アニィに追いつくと約束した。無論、それを諦める気はなかった。友としての矜持だ。

だが、果たして本当に全て倒せるのだろうか。ほんの一瞬、不安がパルの胸に翳りを生む。その一瞬が隙となった。


 『GDRAAAHH!!』


 怪物に頭から激突され、パルは地上に落下した。細身の体が地面でバウンドし、気づいた小型の怪物たちが群がる。


 「いってぇ…あぁ、もう!!」

 「グルァアアア!!」


 パルはすぐに起き上がり、襲い掛かる小型怪物の群れに飛び込むと、短剣で頭部を切り裂き、蹴りで砕いた。

さらに上空からパッフが水の散弾で援護する。散弾の一粒一粒が鉱石のように鋭く尖り、怪物の頭部を正確に射貫いていった。

だが、そのパッフが真横から飛び掛かってきた怪物に蹴り飛ばされ、地面に叩き落された。

倒れ伏したパッフの脇腹に、怪物の鋭く尖った爪が突き刺さり、血が飛び散る。


 「ガァアアア!」

 「パッフ!!」


 聞いたことも無い友の痛みの叫びに、パルの胸が痛む。だが立ち止まったパルを、今度は小型の怪物の尾が激しく打った。


 「ぐぇっ!」


 吹き飛ばされ、群れの真っただ中に倒れ込むパルに、怪物たちは容赦なく襲い掛かる。

パルは身体強化魔術で肉体の硬度を上げた。噛みついた牙の方が砕け、撃ち付ける尾や手足の方がへし折れる。

奇妙な手ごたえだった。内部の骨格を感じさせず、腱や筋肉だけでできているかのような、弾力と硬度だけがある肉体。

この怪物は果たして生き物なのか。ドラゴンと同じく、普通の生物とは異なる存在ではないのか。

しかし、その疑問の答えを探す暇はない。パルは無理やり怪物たちをはねのけて起き上がり、短剣で切り払う。


 「パッフ、立って! おねがい!」


 組み伏せられ爪で顔や腹を引き裂かれ、パッフは血まみれになっていた。

だがパルの声を聴くと、振り下ろされた前脚を掴み、力任せに引きちぎった。


 「グルゥォオオオ!!」

 『GGHAA!!』


 さらにパッフは怪物の胴体に爪を突き刺して貫き、頭部を掴んで握りつぶす。恐るべき力技だ。

しかし痛みと疲労から、パッフはついに地に伏せてしまった。

傷つき倒れた相棒のドラゴンに駆け寄り、パルは傷の具合を見ようとする。


 「パッフ…!」

 「クルルル…グルゥ…!」


 威嚇の唸り声を上げ、パッフは尚も立ち上がろうとする。他のドラゴンがそれを護ろうとするが、その数は闘いの開始から明らかに減っていた。

どのドラゴンも命を奪われてはいない。殺すのが目的ではないとパルは思ったが、怪物どもの視線の先を見て、直感的にその理由を理解した。

怪物どもが見ているのは学校であった。学校に何かがあり、それを奪う姿をドラゴン達に見せつけ、気力をへし折ろうとしている。

パッフの相棒であるパルには、ドラゴンの表情がある程度読める―――それゆえに怪物どもの意志も察した。

何があるのかは判らない。だが、子供達がいる学校を襲わせるわけにはいかない。


 「くそっ…!」


 だがパル自身も、今では万全ではなかった。怪物相手のキリ無い闘いは、確実に彼女の心身から力を奪っていた。

足元がふらつき、地面に膝を突く。怪物との闘いの間、ずっと身体強化魔術を維持し続けた末の魔力切れであった。

このまま戦えば確実に怪物に殺される。チャムらが殺され、アニィにも会えなくなる。ぞわり、と絶望が脳裏を支配する。

だがその暇をも許さず、パルとパッフに無数の怪物が襲い掛かってきた。


 「アニィ……!」


 この場にいない友の名を、パルは呼んだ。その両目に怪物の爪が突き刺さらんとした、まさにその瞬間。

目の前の怪物の肉体が、突如頭から尾まで真っ二つに裂け、砕け散った。


 「―――パル!!」


 己の名を呼ぶ声に、パルは空を見上げた。

陽光に照らされ、七色の光を放つ白いドラゴンの背に、アニィがいる。

ずっと待ち続けた、アニィがドラゴンに乗った姿を、自らの眼で彼女は見ていた。


 「アニィ」

 「パル、良かった! 生きてるよね! パッフも!!」

 「アニィ―――アニィ!!」

 「クルルゥッ!」


 ふたりの声に答えるかの如く、アニィは白い光に包まれた両腕を左右に広げた。その指先が怪物を指す。



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