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【6万PV感謝!】ドラゴンLOVER  作者: eXciter
第四章:想い知り初めて-Dragon's Euphoria-
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第七十一話


 アニィは先刻の大砲を撃った時、怒りながらも的確に魔力をコントロールしていた。

見境を失っていそうで、実はかなり冷静に、冷徹に、冷酷に邪星獣を殺そうとしているのだ。


 真っ只中に飛び込んできたアニィとプリスを避け、群れが大きく散開する。

だがアニィはこの時、既に魔術を発動していた。

回避した小型邪星獣たちが、突然真っ二つになった。

空中の広い範囲にプリズム線を広げ、トラップにしていたのである。

仕掛けられたと知った指揮官個体3頭が、怒りのうなり声を上げて魔力の光線を連射した。


 『GVUUUGH!!』


 だがプリスは、光の糸を高密度で網んで盾を作った。弾かれた光線はあらぬ方向へと消える。

連射が止むと、今度は自らの光の糸と光線を合わせ、巨大な回転円錐(ドリル)状にして発射した。

閃光が指揮官個体のうち1体の胴体を貫通し、風穴を空けた。

絶命まではしなかったものの、激痛に悲鳴が上がった。他の2頭はそれに気を取られ、動きを止めた。


 『ABVAAAAA!!』

 《今です、アニィ!》


 そう叫んで回転し、尾を振るプリス。その瞬間、邪星獣たちはプリスの姿の違和感に気付いた。

背中にアニィが乗っていない。

合図を送ったということは、アニィは死んではいないということである。3頭は、周囲を見回してアニィを探した。


 直後、同に風穴を開けられた指揮官個体の全身が、突如バラバラのみじん切りにされた。

はるか上空から降り注いだプリズム線が、鋭利な刃となって切り刻んだのだ。

直撃を受けた指揮官個体はそのまま消滅し、空中に消えた。


 『VSHHHEEEE!!!  …―――』


 同時に、地上の群れのうち小型と蟲型の群れが消え去った。

パル達が地上で驚愕したのが、超高高度の空からプリスにも見えた。

残る2体の指揮官個体は驚愕し、周囲を見回す。そして、発見した―――

アニィはその身一つで、雲の中に投げ出されていた。

指揮官個体の上空。遥か高くから落下してくる。


 群れの中に突っ込んだ時、邪星獣たちは急速な挙動についていけず、アニィとプリスを見失った。

アニィがプリスの背から跳んだのは、まさにその瞬間だ。

プリスが光の糸で自らの尾とアニィの体をつなぎ、尾を振る動きで大きくスイングされ、遥か高高度へと跳んだのである。

そして空中に居ながらにして、遥か上空からの奇襲に成功したのである。


 『ドラゴンラヴァー』が超人とはいえ、人間が生身で空中に跳びだすという戦法は、邪星獣にとっても前代未聞であったようだ。

残る2頭は驚愕に固まり、アニィが落下してくるのを待つのみであった。

アニィの頭上には、既に巨大な結晶の剣が出現していた。その長さは13ドラゼン(195メートル)。

山脈を抜ける直前の時から、さらに長さも幅も増した、超巨大な結晶(プリズム)の剣だ。

落下の勢いを乗せ、アニィは必殺の結晶剣を振り下ろす。


 「でぇえあああああっ!!」


 閃光が走り、指揮官個体1体が、頭頂部から尾の先端まで左右真っ二つに割れた。

全身に魔術防御膜を張ったものの、すさまじい殺傷力の結晶剣には無意味であった。

しかもその一撃を追随し、同じ軌道を描く刃が無数に発生。指揮官の全身を幾度も断ち割っていく。

シーベイの海上でも見せた、残像追随型の剣だ。

切り捨てられた指揮官個体が爆発し、空中に塵と消え去る。合わせて空中の小型邪星獣の群れが消滅した。

途端に空中は見晴らしがよくなる。それによって、残る1頭が逃げ出そうとしているのが見えた。


 《アニィ!》

 「うん!」


 プリスが再び尾を振ると、空中でアニィが軌道を変え、逃げる最後の1体めがけて真っ直ぐに飛んでいった。

空を一直線に飛び、アニィは最後の指揮官個体に追いすがった。


 「逃がすかぁああああ!!」


 追いつき、アニィは剣を袈裟懸けに振り抜いた。再び銀光が空中に走る。


 『VGOOOAAAHH!! …―――』


 斜めに真っ二つにされ、絶叫を残し、指揮官個体の最後の1頭が消滅した。

同時に、地上の残る群れ…蟲型と地中型の群れも全て滅びた。アグリミノル町に平和が戻ったのだ。

アニィは遥か高高度の空中から、それを見下ろしていた。


 (…バルベナさん……)


 平和は戻った―――だが、バルベナは残された片方の翼を奪われ、メグは命の危機にさらされた。

アニィが結晶砲で邪星獣を皆殺しにするまで、地中型によって畑は荒らされ、家屋も破壊されていた。

クリン医師を始め何人かの町民が走り回り、他の町民の無事を確かめている。

 そしておそらく、血まみれに怒りの表情で邪星獣を皆殺しにした自分は、大なり小なり人々を恐怖させた…

表面的な平和こそ戻ったが、彼らの懸命な生活を乱してしまった。アニィの胸の内に後悔が満ちる。


 考え事をしていると、虚空に投げ出されたアニィを、プリスが背中で受け止めた。

視線だけで振り向き、プリスはアニィを優しく労い、翼の輝きで傷をいやした。


 《お疲れさまでした。…バルベナの事が気がかりです。一度降りましょう》

 「………うん…」


 姿勢を直して、アニィはプリスの背に座り直した。

その表情は浮かない…無理も無いと、プリスはアニィの心情を慮った。

ゆっくり降下し、プリスは町の中心部に着地した。

パル達はアニィとプリスを出迎えたが、町民達はアニィを恐れて近づかない。

その様子を見てパルは憤慨した。


 「助けてもらっといて、何なのあれは…!」


 怒りに燃えたアニィの顔は、特に子供達を恐怖させたようだ。

遠巻きに見つめる町民の視線は、いずれも異物を見る時のそれだった。

穏やかで内気な客人が、町長とドラゴンを護るためとはいえ、暴力の限りを尽くして敵を皆殺しにした…

例え助けられたとしても、恐怖するのはやむを得ない光景であろう。アニィは怒るパルを宥めた。


 「…パル。いいよ」

 「でも、アニィ……!」

 「いいよ…仕方ないよ…」


 アニィは疲れた笑みを浮かべ、その場を離れて広場の隅のベンチに座った。

プリスは一度アニィの方を振り向くと、バルベナがいるであろう厩舎へと向かう。

装飾された入り口扉や外壁は無残に破壊され、半壊した屋根の下にバルベナがうずくまり、隣にメグが座っている。

愛する者が無残な姿にさせられたことで、メグはバルベナに縋りついて泣きじゃくっていた。


 「……プリス様」

 《テメェか…》

 《バルベナ、生きてます?》


 2人はプリスに気付き、顔を上げた。苦痛に耐えるバルベナの表情、涙にぬれたメグの顔が痛々しい。


 《全身くっそ痛ェけどな。テメェらはどうだよ? 無事か?》

 《何とかね。…バルベナ、傷だけでも治しましょう》


 プリスは広げた翼の光でバルベナを照らした。治癒の魔術が全身にかかり、傷が塞がっていく。

だが、もがれた翼は生えず、潰された目も再び開くことは無かった。

愛する者の翼と瞳が失われたことを改めて知らされ、メグが声にならぬ声を上げてうずくまる。

静かで悲痛な泣き声が、半壊した厩舎の中でうつろに響いた。


 やがて傷が塞がり、バルベナは顔を上げると、メグに頬を寄せた。

泣き続けるメグの耳元で、バルベナは優しくささやく。


 《なあ、お嬢。オレは大丈夫だよ。大丈夫だから。お願いだから、泣くなよ…》

 「でもっ……でも…翼が、目が…!」


 メグの唇に爪の先端を優しく当て、バルベナは悲し気な顔で笑った。


 《じゃあ作れよ。オレの脚と―――翼。お前が作ってくれよ》

 「バルベナ…」

 《いつかまた、走って飛べるように。作ってくれよ》


 バルベナの願いに、メグは何度もうなずいた。

その身を盾に自身を守ってくれたバルべナの願いを、彼女は絶対反故にせぬと決意していた。


 「作りますわ…絶対、わたくしが作ります…だから、待っていて…」

 《うん。待ってるぜ》


 それだけ言って、バルベナはメグを抱き寄せ、髪を優しく撫でた。



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