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【6万PV感謝!】ドラゴンLOVER  作者: eXciter
第四章:想い知り初めて-Dragon's Euphoria-
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第六十六話


 メグの問の直後、その場は完全に沈黙した。

目が点になったプリス。げんなりしたままのバルベナ。いろいろと察したらしいメグ。

三者三様の視線が交わされ、全員の考えがここでやっと伝わる…そして一番に疑問の声を上げたのが、問われている当のプリスであった。


 《    は?    え、私が? アニィを?

  いえ、まあ嫌いではないというか、心配する程度には好きですが》

 「ではなく、こう…慈愛、恋愛、そういった深い深い愛情を。

  バルベナがわたくしに向けてくれるのと同じ視線を、あなたもアニィさんに向けていらしたから」

 《え? いえ、だから、え? は?》


 堂々たるのろけすら聞き流し、疑問符をぼんぼん放り出すプリスを見て、バルベナがまたも深いため息を吐きだした。


 「心当たりすらありませんの…!?」

 《そおなんだよ、こいつ。全然自覚しちゃいねえ…》

 「本当ですわね…あっ、言わない方が良かったかしら!」

 《もう遅ぇよー》


 好き勝手に喋るバルベナとメグを前に、プリスは呆然としていた。

ドラゴンには心がある。生育環境によっては、人類とも良好な関係を築ける。

だが、そういった条件無しでドラゴンが人類に強い感情を抱くことは、少なくとも観測されたことは無かった。

ドラゴンと人類は、共存はするが余程のことが無い限り深い関係にはならない。それがこの世界の常識である。

それを今、『葬星の竜』の宿命を持つプリス自身が破壊しつつある…と、いう状況らしい。


 《…なる、ほど…? バルベナがお嬢さまを愛するように、ねぇ》

 《ばばバカヤロお前ェそこ繰り返してんじゃねェよお前ェ!》

 「バルベナ………!」


 慌ててプリスの話を遮ろうとしたバルベナだが、その慌てっぷりでむしろ本心を表したようなものだ。今度はメグの熱い視線で自分が黙り込んでしまう。

観念したバルベナは、ため息をついて語り出す。


 《……まあな、こいつと会ってるうちに何か、こう、ほら。わかるだろ?》

 《わかりません》

 《察しろよ! あ、無理だったっけ…気持ちがこう…ドンッってしてな、何かが生まれた感じでな。

  恋って奴なんだろうな…オレも、こいつに会いたくなってた》

 「ば、バルベナったら…もう……」


 すっかりもじもじして、顔を赤く染めて照れるメグ。

バルベナも、感情表現が人類と同じなら、メグと同じ仕草をしていたのだろう。


 《恋…》


 人間が言う所の恋愛感情。ドラゴンが人間に対して抱くことが無い筈の感情。

それをバルベナは、抱いていると堂々と言った。

ただそれでも、メグの行動に影響されてのことらしい。

自身はアニィから、そんな熱心なアプローチは受けていない。

にもかかわらず、アニィを愛しているというのか。


 何度考えても心当たりは無い筈―――否、あった。

ヒナを連れ戻す依頼でボルビアス島に赴き、アニィ達3人が食事をしていた時だ。

野外料理を食している時のアニィの幸せそうな顔を、プリスは思い出した。

幸福にほほ笑むアニィの顔を見た時。その時から、体の中に今までにない温かな感情が溢れている。

その一方、人間になってアニィに触れたいと、彼女は考えたことが無い。

アニィと同族になりたいなどとは、微塵も思っていない。

あくまでも1つのドラゴン…否、プリスという存在して、アニィを愛しているということなのだろう。


 《…これが愛》


 プリスは自身の内にある感情を、この瞬間にやっと理解した。

それを見て、メグとバルベナが苦笑して顔を見合わせる。

厩舎の外からは、バルベナの登場を待ちわびる町民たちの声が聞こえた。

皆ドラゴンの義足という、未知の器具への期待を胸に抱いているらしい。


 「さて、では皆さまにもお披露目に参りましょうか」

 《だとよ。ほれ行くぞ、プリス》


 バルベナ達に促され、プリスもともに外に出た。予想通り、町民たちが一斉にバルベナの周りに集まった。

プリスはその喧噪を無視し、アニィを探した。

ヒナと同じ席で、協会の荒くれ者や子供達にせがまれ、似顔絵を描いてはプレゼントしていた。

ほほえましい光景に、プリスはまたも自身の中に、温かい気持ちが溢れるのを感じた。

我知らず、プリスは微笑んでいた―――いつもの高慢ちきで皮肉っぽい表情が、アニィを想う時だけは鳴りを潜める。


 《ああ―――なるほど》


 プリスは人ごみを避け、アニィのそばへと歩いて行った。

足音に気付いたアニィが、助けを求めてプリスを呼び、手を振る。


 「プリス!」


 その幸せそうな顔に、プリスの中で生まれた温かさが、大きく膨らみだした。

これがそうだ。これ(・・)こそがそうなのだと、プリスは実感する。


 《―――私は、アニィを愛しているんですね》


 その声はしかし、喧騒に紛れてアニィには聞こえなかった。

プリスがアニィの隣に立つと、子供達や荒くれ者たちが、白く輝く美しい巨体を見上げた。

20人近くの町民たちの似顔絵を描き終えたアニィは、疲れ切った顔でプリスに縋りついた。


 「プリス。バルベナさん、どうだった? ちゃんと義足で歩けてた?」

 《……》

 「…プリス……?」


 アニィはバルベナの事を尋ねるも、答えずに自身を見下ろす穏やかな視線に首をかしげ、目が合うと慌てて視線を逸らした。

じっと見られて恥ずかしがっているようだ。頬が朱色に染まっている。

その気配に気づき、ヒナとクロガネも不思議そうに首をかしげていた。


 「あ、あの…プリス…」

 《ああ、すみません。バルベナならちゃんと歩けてましたよ。お嬢さまの義足、しっかりドラゴンの体を支えられるようです》

 「本当!? すごい…!」

 「そりゃ、ウチらの姫町長だからな。ずっとドラゴン用の義肢のことを研究してたから」


 そうですよね、とアニィは町民の言葉に同意した。バルベナのために努力したことは、当人から聞いている。

それが恋であることを、彼らは知っているのかどうか。今知らないとしても、両者の関係を知れば祝福するだろう。

一方、プリスはアニィの様子を観察した。丸薬と固形栄養食、そして長時間の睡眠で、心身ともに回復したらしい。

似顔絵も集中して20枚少々描き終えたほどだ。動く分には支障はないだろう。


 《じゃあバルベナとメグの似顔絵でも描いて、後は買い物をして、ちびっ子どもに送りましょう》

 「うん…そう、だね」


 アニィとヒナとクロガネは立ち上がり、町民たちに軽く挨拶すると、バルベナの方へと向かっていった。

町民の昼食を作り終えたパルとパッフは、アニィとヒナに声をかけ、病室に置いた荷物を持ってきていた。

全員が一堂に会したところで、アニィはバルベナとメグの似顔絵を描き始める。

ヘクティ村に残ったセンティと子供達に、ドラゴンと人間が友達…

それ以上の関係になったと、アニィ達は教えてやるつもりだった。

もちろんアニィはメグの許可を取ってからにするだろうが、メグはむしろ全世界に伝えることを良しとするだろう…バルベナの意向を無視して。

 アニィが描き終えた似顔絵を見せると、メグは大喜びし、バルベナは照れまくっていた。


 《バカおまえ、オレぁこんなキレイじゃねえよ! 描き直せ早く!》

 「え…でも…その……」

 「あたしは2人ともキレイだとおもうよ、このくらい。ねえヒナ?」

 「どれ……うむ、アニィ殿がそう見たのなら、それほどお美しいのだろう」

 「クルクル!」

 「ゴゥ…」


 拒絶するバルベナに委縮しかけるアニィに、パルとヒナが助け舟を出す。

ヒナは絵にじかに触れて指先で色鉛筆の感触を確かめたのだが、彼女の指には絵柄がはっきり判るらしい。

パッフとクロガネも同意し、モデルの片割れだったメグも助勢した。


 「バルベナ。あなたはアニィさんがお書きになった通り、とっても綺麗ですわよ!」

 《綺麗とか言ってんじゃねえよかじるぞ》

 「綺麗ですわ。バルベナは―――とても綺麗なんですわ!」


 恥じらいからそっぽを向きかけたバルベナの顔を、力を籠めてぐいと引き寄せ、真正面からメグが見つめる。

普段なら文句の一つでも咆えるだろうバルベナが、真剣な瞳に何も言えず黙り込んでいる。


 「綺麗ですわよ。わたくしのバルベナ…」

 《―――………お、おう》


 そこにはいつの間にかモフミネリィとジャッキーチュンも訪れ、揃って座り込み、顔の前で手を合わせていた。


 「尊厳…尊厳…人類と竜の尊厳…これは姉妹たちに報告せねばならぬよ…」

 「ちゅん…」


 幸か不幸か、彼女たちの念仏は誰にも聞かれることは無かった。



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