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【6万PV感謝!】ドラゴンLOVER  作者: eXciter
第四章:想い知り初めて-Dragon's Euphoria-
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第五十五話


 すぐさま水平に刀を振り抜き、動きを止めた蟲型を切り捨てる。

続けて吐き出された鉄の糸を跳んでかわし、再びクロガネの頭部に乗った。


 「いたぞ、地下だ!!」


 表面の岩と震動の仕方が異なる、かなり大きな塊があるのを、彼女は感知していた。

地面から伝わる震動を足の裏に感知して、岩の下の状態を感知したのである。

まさしく地蜘蛛の如く、岩石の中に潜りこんで待ち伏せていたのだ。

そしてヒナが発見した途端、足元の岩が震動し、割れ始めた。


 「出てくる気だ…! みんな、集まって! 土砂崩れになる!」


 アニィが叫び、全員が集合した。

そして全く同時に、巨大な岩の塊の層を破壊し、爆発的な勢いで巨大な蟲型邪星獣が、岩の下から飛び出して来た。


 『GESHSHSHEEEAA!!』


 薄気味悪いうなり声を乱杭歯の間から漏らし、ぎこちない笑顔を浮かべる指揮官個体。

どうやらガ=ヴェイジのような高い知能はもっていないらしい。

だが、そのサイズは過去の指揮官個体や大型と比べてもだいぶ大きい…

否、長大な四肢と副脚によって巨大に見えた。

体躯では大型と変わらないサイズだが、前脚1本とっても全長と同等のサイズ。

副脚に至っては目測でその3倍はある。

それが岩盤を粉々に破壊する膂力を持っている。恐るべき破壊力であった。


 そして同時に、アニィ達には無視できぬ事態が起きつつあった。

指揮官の蟲型は、岩盤のみならず、より深くにある土の層をも破壊したのである。

噴出した大量の土、そして岩石がふもとの方へと転がりつつある。


 大雨によって、既に中腹では地滑りが起こり始めていた。

この破壊、そして震動によってそれが加速する。

地図を見たパルの記憶によれば、山脈と山脈の間に小さな集落がある筈であった。

近辺の村から出奔した者達が集まった集落であろうか。アニィは起こりうる被害を想像した。


 「このままじゃ、集落が土石流に飲み込まれる…!」

 《全員手近な岩に乗って!》


 プリスの叫びに答え、パッフとクロガネは目の前に転がってきた岩石に飛び乗った。

ドラゴン3頭はそれぞれに巨石に乗り、雨に濡れた岩肌を滑り始めた。

滑らかな岩肌のおかげか、ガリガリとこすれたり激突で割れたりすることも無く、波乗りの如く滑降していく。

上空への退避を選ばなかったのは、視界不良の中で指揮官個体を見逃さぬため。

即ちこの山脈から逃がさず、確実に仕留めるためである。


 一方で蟲型の群れは、転がる岩石から岩石へと飛び移りながらアニィ達を追っていた。

中心に指揮官個体が陣取り、その周囲を兵隊たちが防護するように囲む隊列を組む。

指揮官が上空に向けて糸を吐き出すと、鋼鉄の繊維の塊が隊列を跳び越え、アニィ達の頭上から降り注いだ。

繊維の塊は空中でばらけ、ほぼ不可視の糸と化して飛び散る。


 「やぁああっ!!」


 アニィは両手を大きく広げ、全身からプリズムの線を放出。繊維を全てかき消した。

極めて正確なコントロールにより、極細の鉄の糸1本1本を消し飛ばしたのである。


 「やった、流石! ―――アニィは上空頼む、あたし達は正面のを落とす!」

 「グルァァッ!!」


 真正面から飛んできた鉄の糸を、パッフの水の散弾とクロガネの鉄の弾丸が落とし、パルの矢が次々に邪星獣を撃ち抜く。

一方、ヒナは刀で時折地面叩き、地質を調べていた。

数ブリス下れば、岩の層から土の層へと変わる。すなわち、足元がより不安定になる。

アニィ達は想像もしていまい。ならば集中を切らされるよりはと、ヒナは視線だけ送って説明は省いた。


 群れの中から数体が飛びだし、上空からドラゴン達に向けて糸を吐き出す。

アニィが左腕のブレスをかざして結晶の盾を出現させ、糸を反射する。糸は襲い掛かる蟲型を貫いた。

が、その直後。別の個体が群れの中から放った糸が、上空を向いていたアニィの脇腹を抉った。

噴き出した大量の血が滴り、濡れた岩盤ではじけ飛ぶ。


 「ぐぅっ…!」

 《アニィ!!》


 光線を吐き出そうとしていたプリスの動きが止まる。

その隙をついて、プリスに噛みつかんと数頭が列から飛びだしてきた。

ヒナがクロガネの頭部から跳躍し、飛び出した蟲型数頭を、刀の一振りでばらばらに切り刻む。

着地地点を失ったと思われたヒナは、上手い事転がってきた岩を蹴ってクロガネの頭部に戻った。


 「プリス殿、アニィ殿の治癒を!」

 《助かりました―――アニィ、すぐ治しますからね!》


 プリスの翼が光り、アニィの抉られた脇腹がすぐさま癒えていく。

だが予想外に強烈な痛みに、アニィは一瞬意識を失いかけていたらしい。

数度瞬きし、深く呼吸してやっと目を開いた。

皮膚を切り裂かれただけではなく、その中を無数の金属繊維で抉られたのである。

常人なら気を失ってもおかしくない激痛の筈だった。


 「ごめっ…だいじょうぶ、もう大丈夫だから」

 《アニィ……!!》


 あくまでも気丈に無事を主張するアニィの姿に、プリスは言いようのない不快感を覚えた。

アニィの事を不愉快に思ったわけではない。

アニィが痛みを無理に我慢しているのが、無性に不快であった。

意識が不快感に傾きかけたところを、ヒナの声でプリスは我に返った。


 「アニィ殿! 起きて早々済まぬが、しっかり捕まっていてくれ!」


 何かあると察し、アニィとパルがそれぞれプリスとパッフの背にしがみついた。

直後、ドラゴン達は身をかがめる。


 「―――跳べ!!」


 ヒナの合図でドラゴン達が跳躍、すぐに降り立つと、爪が深く地面にめり込んだ。

既に土砂崩れが起こり、土の層の地面はどろどろにぬかるんでいたのである。

先刻まで乗っていた巨石は、泥にめり込むとあらぬ方向に転がっていった。

飛び降りなければ後方に転倒していたことだろう。

プリスは光の糸を生み出し、手近なところの巨大な倒木3本に巻き付け、引き寄せた。

プリス自身、そしてパッフとクロガネが幹に乗り、大量の土砂とともに泥の斜面を滑降していく。


 蟲型の群れはなおも追いすがった。だが足先は泥にめり込み、跳躍も歩行もままならず、群れの進行が一度止まる。

だがすぐに彼らは方針を切り替えた。大きな腹で指揮官個体が滑降し、他の個体はその体にしがみつき始めたのである。

集合したことで重量が指揮官一体に集まり、滑走する速度が上昇した。


 パルはふもとの方を振り向く。

雨に視界を遮られているが、強化魔術を目に施すと、さびれた集落が遥か下方に見えた。

遥か下方ではあるが、滑降の速度は土砂とほぼ同じ、1ジブリスに半ドラカイリ(時速50キロ前後)を越える。

長くとも5フブリス程度あればふもとまでたどり着くだろう。

そして土砂は既に集落の付近に堆積しており、その上にこの量が積み重なれば、間違いなく被害は発生する。

土石流の被害を防ぐこと、邪星獣の群れを全滅させること、二つを両立するには―――


 「みんな、わたしに考えがあるの!」


 逡巡していたパルの思考を遮ったのは、アニィの声だった。


 「麓近くに到着したら全員飛んで! それからあの指揮官の奴を仕留めて!

  それまで悪いけど、何とかしのいで!」

 《―――よし、まかせましたよアニィ!》


 真っ先に同意したのがプリス、そしてパル達も首肯で同意を示した。

幾分変わり出したとはいえ、自己否定を常に胸に抱くアニィにとって、この作戦を伝えることにも勇気は必要だったはずだ。

それが証拠に、彼女の口元は不安と緊張で引き結ばれ、言い終えた後も不安そうにうつむいている。


 起死回生の作戦が失敗したら…発案に対し頭の中に渦巻く自己否定を、アニィは意志の力でどうにか制した。

友を失うかもしれない恐怖、己の意思を口にすることの恐怖を抑え、それでも不安を拭いきれないでいる。

ならば、成功のためになおさら任せなければいけないと、プリスはアニィのアイディアに真っ先に賛同した。

アニィの光の魔術は強力だ。使い道によっては、直接の攻撃以外にも大きな効果がある筈だと。


 『GHEEESHEEE!』


 それをあざ笑うかのように、一塊になった蟲型が、一斉に鉄の糸を吐き出した。

雨あられと注ぐ金属繊維を、全員が魔術の弾丸で打ち消し、あるいは武器で払い落す。

流れ弾で泥が飛び散り、木の根が断たれる。

全て防ぎ切った…そう思った直後、指揮官個体は長い副脚を伸ばし、アニィに先端を突き刺そうとした。


 「どりゃぁっ!!」

 「ハァッ!!」


 それを両脇から、パルが短剣で、ヒナが刀で斬り払う。

硬質な刃が強固な爪を弾き飛ばし、赤い火花を飛び散らせた。

安全が確保されたところで、アニィは両手を胸の前で合わせ、魔力を集中し始めた。

既に作戦の準備に入っているのだ。


 《パルは下見て、タイミングを計りなさい! ヒナとパッフとクロガネはアニィの防護!》

 「あいよっ!」

 「任せたぞ、アニィ殿!」


 パルは後方に集中。他のメンバーは邪星獣への対処を担うこととなった。

作戦が決まった途端、指揮官にしがみついていた蟲型が3頭飛びだし、アニィに襲い掛かる。

ヒナがクロガネの頭から跳び、たちまちのうちに3頭とも切り払う。

吐き出された糸はパッフとクロガネが、それぞれ水と鉄の散弾で叩き落した。

この時点で既に麓にだいぶ近づいている。魔術抜きでも集落が見える程であった。

1ブリス半(3秒)あればふもとに突っ込む、という所まで来た瞬間。


 「―――今だっ!!」


 パルの叫びで、ドラゴン達が上空に素早く飛んだ。飛行に気を取られた邪星獣たちは、堆積した土砂にめり込んだ。

アニィの魔術が完成したのは、正にそのタイミングであった。

アニィの頭上に巨大な結晶の剣が出現する。その長さはヴァン=グァドで見せたものを上回る、9ドラゼン(135メートル)。


 「ぃあああああああっ!!」


 アニィはそれを地面に深々と突き刺し、振り上げて大きく大地を抉ったのである。

生身の人間が落下したら、まず這い上がれない深さだ。

堆積した土、新たに発生した土石流、そして邪星獣の群れが、その谷間に全て飲み込まれた。


 『GHOWAAAA!!』


 突然のことに邪星獣たちは悲鳴を上げ、割れ目にしがみついて這い上がろうとする。

しかしぬかるんだ土はしがみつくたびにぼろぼろと崩れ、無駄に終わった。

当然鉄の糸は引っ掛かることなく、土を削り取るだけであった。


 『GXEEEEE!!』


 悪あがきとばかり、道連れにしようと指揮官個体が糸の塊を吐き出した。

アニィを狙った金属の糸の塊は、高速でアニィの前にクロガネとヒナが現れ、振り抜いた刀で斬り払われた。

立て続けに、深い穴に落下した指揮官個体の真上にパッフが飛ぶ。

その真上では、指揮官個体に向けてパルが弓を構えていた。

鏃の先端に雨のしずくが集まり、超巨大な水の塊の矢と化す。


 「ぶち抜けっ!!」


 放たれた水の矢は、狙いをたがえることなく指揮官個体を直撃、爆散した。



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