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【6万PV感謝!】ドラゴンLOVER  作者: eXciter
第三章:鋼鉄剣武-Super sonic samurai-
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第四十五話


 「いた…あの眼差し、憶えている…! クロガネ、追え!! 早く!!」

 「グッ…」


 一瞬だけためらったクロガネは、アニィとプリスの方を見た。

いざとなれば止めてくれと、その目は懇願していた。直後、クロガネが加速して角付きを追いかける。

群れの真っただ中を突っ切り、ヒナが高速で刀を振るい、邪星獣の兵隊たちを切り捨てていく。


 「グゴォォッ!!」


 クロガネが鋼鉄の散弾を吐き出し、行く先を切り開く。

一瞬のうちに、ヒナとクロガネは大きく前進していた。

止めようとしたアニィの手は、クロガネの尾にすら触れることなく、虚空をつかんだ。

 海上からはパルが呼ぶ声も聞こえる。だがヒナはアニィもパルも完全に無視し、角付きのみを追っていった。

鉄の覆面に目元が覆われてこそいるが、それこそ怪物のごとき怒りに満ちたヒナの顔に、アニィは一瞬恐怖すら覚えた。

そして直後に訪れたのは、強烈な不安だった。


 「―――駄目。プリス、あれじゃヒナさんは勝てない…殺される!」

 《完全に冷静さを失ってますね。追います!》

 「お願い!」


 ヒナとクロガネを追うべく、プリスも加速しようとした。

だがヒナたちに気を取られた一瞬、背後から兵隊の邪星獣が迫り、魔力弾を放った。

連射された弾丸をプリスは回避するが、最後の2発がアニィとプリスの背中を直撃した。


 「ぐぁああっ…!」

 《ぐぅっ…アニィっ!》


 どうにかプリスがバランスを取ってアニィの落下は免れたが、それでも2人は大きく下方へ落下した。

海面に落下する寸前で、パッフが空中に海水のクッションを作って2人を受け止め、水没は免れた。


 「アニィ、プリス、大丈夫!?」

 「クルル!」

 「うん、でもヒナさんが…!」


 アニィ達は行先、ヴァン=グァドがある方向を見た。

かなりのスピードで飛んできたためか、既に巨大な城塞都市の姿が見えている。

邪星獣の群れが向かった地点も。そこは要塞から離れ、港湾や民家が並ぶ、居住区画であった。

そして群れから外れ、角付きを相手にヒナとクロガネが空中で闘う姿も見えた。


 「アニィとプリスはヒナを止めて! あたし達は群れを少しずつ削ってって追いつく!」

 「お願いね、パル、パッフ!」

 《2人とも気を付けてくださいよ! 指揮官の奴は早めに見つけるように!》


 プリスが飛び立つと、パッフは海水のクッションを分解し、海面を泳ぐ魚類型の群れにぶつけた。

無数の散弾と化した水の球体が頭部を破壊、消滅させていく。


 「グルォァアアアッ!!」


 更に海水から巨大な円盤を何枚も作り出し、上空に飛ばして飛行型の群れを真っ二つにしていく。

邪星獣たちは肉片と化し、次々と落下していく。

海の上と言う、水を操るパッフにとって最も有利なフィールドだ。

水の形状のコントロールに長けるパッフの実力が、いかんなく発揮される。


 「パッフ、シーベイで考えた奴! あの時使わなかったけど、今ならいける!」

 「クルっ!」


 パルは跳躍し、パッフが作り出した水の回転円盤に乗って高く飛ぶと、飛行型の群れの真っただ中に突っ込んだ。

短剣を鞘から抜き、振りかぶる。その刃に海面から水が集まり、1本の長大な鞭を成型した。

その長さは10ドラゼン(150メートル)。水が超高密度で凝縮し、硬度と柔軟さを兼ね備えた刃でもある。

パッフの魔力が宿る水にパルの魔力を通すことで、両者の魔力により形を維持。

更に独学の格闘術『テンペストアーツ』の空中機動と合わせることで、広範囲と高い殺傷力、殲滅力を兼ね備えた武器になる。


 「おりゃあっ!!」


 鋭利な水の刃が蛇の如くのたうち、周囲の邪星獣数頭を切り裂いた。

消える直前の死骸を蹴り、パルは群れの列の真っただ中を駆け抜けつつ、敵を切り捨てていく。

戦闘中に矢が尽きた時のために開発した技だが、直線状の群れに対しては思った以上に有効であった。


 「アニィ、頼むよ!」


 暴走しかけた新たな友を、パルは親友に託した。

爆発する怒りは、的確に敵に向けてこそ真の強さを発揮する。

シーベイの海上で、アニィはそれを実現した。ヒナの復讐心もまた、制御すれば角付きを倒す原動力となる筈だ。




 角付きが吐き出した魔力の砲弾を、ヒナとクロガネはそれぞれ刀と鋼鉄の散弾を用いて、空中で打ち消した。

直後、角付きはクロガネの眼前に迫り、真正面からぶん殴る。

筋肉質な腕と硬質な拳により、他の邪星獣とは比較にならない膂力を誇る腕の一撃だ。


 「グゴぁああっ!!」


 吹き飛ばされ、距離を取られる。頭部に乗ったヒナも当然体勢を崩され、角にしがみついて落下を防ぐ。

更に追いすがった角付きは、クロガネの真下に突如潜り込み、真下から野太い角を叩き込もうとした。


 「クロガネ!」

 「ゴォォッ!!」


 腹を狙った突きを、咆哮と共にクロガネは真横に避ける。

上方に突き出された角をクロガネが掴み、お返しとばかり顔面を殴り返した。


 『VGOWAA!!』

 「ゴォウッ!!」


 続けてクロガネは角付きの背中を蹴る。体勢を崩された角付きは、空中で身をひるがえし、立て直そうとする。

その一瞬を逃さず、ヒナは一度刀を納め、姿勢を低くして刀の柄に手を掛けた。必殺の居合いの構えだ。

クロガネが魔術を行使し、すさまじい速度で角付きに迫る。さらに加速の魔術でヒナが刀を抜いた―――

だがその直後、ヒナの周辺の空間に黒い煙が湧いたかと思うと、2人の動きは空中で固定されてしまった。


 「ぐっ…何だ、これは!」

 「ゴゥゥっ…!」


 ヒナに気配を感じさせず、角付きは何かしらの攻撃を仕掛けていたようだ。

関節が固まったかの如く、ヒナもクロガネも身動きを取れずにいる。

2人の皮膚や衣服が、徐々に鈍く輝く金属色(ガンメタリック)に変化、そして硬化し始めていた。


 そこで初めて、ヒナは空中に漂う鉄の臭気を感じた。

鋭敏なヒナにも感じられぬほど、ごくわずかな臭気である。

角付きの翼から散布された、魔力の微粒子であった。生物の細胞を変質させ、肉体を徐々に金属質に変えていく魔術だ。

臓器が固まれば呼吸も血液の循環もできなくなる。無理に体を動かそうとすれば、骨も筋肉も引きちぎれる。

意識を保ったまま全身を固められる…里では見たことの無い魔術だった。


 「おのれっ…!」

 『VHWAAHAHAHAHAHA!!』


 角付きが醜い哄笑を上げ、硬化していくヒナとクロガネを拳で吹き飛ばした。


 「ぐぁあああっ!」

 「ゴゥァアアア!!」


 吹き飛ばされ、身動きを取れずに落下していく2人。角付きはそれを笑い、身をひるがえしてヴァン=グァドに向かおうとした。

その時、白く輝く光の網が、2人を空中で受け止めた。

プリスが魔術の糸で編んだ網であった。飛来したプリスの翼が輝き、金属化した細胞を元に戻していく。


 「ヒナさん、クロガネ! しっかりして!」

 《言わんこっちゃない。怒り狂った頭でアレに勝てるわけがないって、判ってたでしょうに》

 「アニィ殿、プリス殿…」


 アニィとプリスの声を聴き、ヒナとクロガネは冷静さを取り戻して、空中で体勢を整えた。


 「ヒナさん、あの角付きの奴は強いし頭も良い。考えなしに闘っても、ただ殺されるだけだよ!」

 「判っているのだ、そんなことは! 判っている…だが…!」


 ヒナは見えぬ目で角付きを睨みつけた。角付きは先ほどと同様、悪意に満ちた笑みを浮かべている。

そして、目元にある傷を見せつけるように、軽く掻いた。

無論ヒナにその動きは見えないが、挑発している気配は感じられたのか、ギリリと怒りに歯を食いしばる。


 「このままでは里の者達が浮かばれぬ…私は、奴を討たねばならんのだ!」

 「ヒナさん…!」


 怒りに燃えるヒナを止めるすべを、今のアニィは持っていない。何を言っても彼女の復讐心を加速させるだけだ。

アニィの中に迷いが生じる。むしろ今は、その怒りに身を任せるべきではないのか、と。

その時、アニィはふと角付きを見上げた。悪意に満ちた笑みを浮かべるその顔を。

シーベイで遭遇した指揮官個体と、一見すると同様の表情。だが―――直後、異様な声がその口から漏れ出た。


 『フ…ハハ……。オマエ、憶エテ、イル、ゾ…』


 邪星獣としては極めて異様な声。否、明確な言語(・・)であった。驚愕にアニィ達は面を上げる。

シーベイの個体のそれはたどたどしい、いわば人語を真似ただけの発音であった…と、アニィは思っていた。

だが、間違っていた可能性はある。邪星獣は悪意と敵意を以ってアニィ達を攻撃し、記憶を受け継ぐ。

ならば人語を理解する知能、会話に必要な発声器官を作り出す発想力もあるのではないか。


 『アノ里ヲ、壊シタ…時ノ…死ニゾコナイ……ハハハ…待ッテイタ(・・・・・)…ククッ…』

 「貴様っ…待っていただと…!」

 『ワタシノ、名ハ…"ガ=ヴェイジ"…

  …コノ傷…残シテオイタ…ヤハリ…追ッテキタナ…』

 《名前持ちですか。邪星皇の手足代わりと思っていましたが…これは驚いた》


 プリスが驚くのも無理は無かった。使い走りのけだものと思っていた邪星獣が、自ら名乗ったのである。

名乗るということは、邪星皇から独立した自我と高い知能を持つことの裏付けでもある。

それは同時に、角付きことガ=ヴェイジのような個体が、複数存在する可能性の示唆でもある。

そしてヒナはガ=ヴェイジの言葉の意味に気づいた。

彼はヒナの事を記憶し、待っていた。すなわち意図をもって泳がせていたのだ。


 『オマエガ…死ネバ……人類ノ、守リ手…

  ソシテ、連レノ…娘ドモモ……サゾ、悲シム…ダロウ……クク…』


 自らを追わせ、そして復讐心をたぎらせた彼女を、復讐を果たさせず殺害しようという腹積もりだ。

そして仇討ちを果たせぬ屈辱の死を、人類の守りの要とされるヴァン=グァドに、アニィ達に見せつけ、心をへし折ろうとしている。

竜愛づる者(ドラゴンラヴァー)ですら怒り狂い、絶望し、そして容易く殺されると思い知らせ、人類を絶望へと導くために。

ヒナへの悪意であると同時に、シーベイで邪星獣を討ったアニィへの意趣返しでもあるようだ。

自身の復讐心を絶望をもたらす道具にせんとするガ=ヴェイジに、ヒナの怒りは限界に達した。


 「―――斬るッ…!! クロガネ、行けッ!!」

 「ゴウゥッ…!」


 ヒナに促され、クロガネはやむなく突撃する。ガ=ヴェイジは身をひるがえし、ヴァン=グァドの方角へと飛んでいった。

ヒナとクロガネは高速飛行で追う。アニィとプリスも追いかけようとしたが、行く手を名も無き邪星獣の群れが阻んだ。

アニィは一度だけパルとパッフの方を振り向く。

2人とも特に危なげなく闘っていた。だがこの場には指揮官が見当たらない…

そう思い、アニィは思い直した。もしや、と真下の海面を見る。

海面を泳ぐの邪星獣と比べ、一際大きな黒い影が海中を泳いでいた。


 「パル! 指揮官、海の中かも!」

 「あいよっ! ヒナと街の方は任せた!」

 「うん!」


 パル達の方は大丈夫であろうとアニィは確信し、群がる邪星獣たちに向けて右の掌を広げた。


 「どけぇっ!!」


 無数の光の針が飛び散り、邪星獣の全身にいくつもの穴をあけ、粉微塵に崩壊させる。

アニィが道を開くと、プリスはすぐさまヒナたちを追い、ヴァン=グァドへと飛んでいった。

邪魔をされているうちに、ヒナたちの姿はいつの間にか見失っていた。

だがガ=ヴェイジは、ヴァン=グァドでヒナを殺害するのが目的だと言った。

ならば、間違いなく行く先はヴァン=グァドである。


 「プリス、急いで!」

 《いいですとも!》


 高速で飛ぶアニィとプリスを、邪星獣が阻もうとする。

その全身に突如無数の切れ目が走り、いくつもの断片となって消え去った。パルの水の鞭が切り裂いたのである。


 「海の中か…あのでかい奴だな。パッフ、引っ張り出して!」

 「グルァアアッ!!」


 パルが背に乗ったタイミングに合わせ、パッフが一際大きな咆哮を上げた。

途端に海水が巨大な塊となって打ち上げられる。その勢いで、海中から魚類型の指揮官個体が引きずり上げられた。

体型は他の魚類型と変わらないが、体格は二回りほど大きく、翼の代わりに背びれの横に腕が生えていた。

ドラゴンを真似しそこなったような体の構造に、何者かの邪悪な意思を感じ、パルは生理的嫌悪を覚える。


 『GHYOOOO!!』


 魚類型指揮官が醜い声で咆えた。パッフも負けず、すさまじい形相で威嚇する。

周囲には魔術で成型した水の回転円盤が散布され、パルは水の鞭を構えた。


 「グルォオオオ!!」

 「恐いのがアニィだけだと思うなよ。お前達は、あたし達全員を恐れることになるんだ!」


 宣言と共にパルがパッフの背中から跳び、指揮官個体に向けて水の鞭を振るった。



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