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【6万PV感謝!】ドラゴンLOVER  作者: eXciter
第三章:鋼鉄剣武-Super sonic samurai-
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第四十四話


 敵の攻撃の瞬間にクロガネの魔術で一気に近づき、すれ違いざまに超加速した居合いで真横から斬る。

ドラゴンも、ドラゴンラヴァーも捉えられない一瞬。余りの速度ゆえ空間そのものを断ち、魔力の盾さえも両断する。

自ら切り拓いたその一瞬こそ、まさに必殺の一撃の瞬間であった。


 「…ヒナさん」

 「うむ。ありがとう、アニィどの…!」


 クロガネがゆっくりとプリスのそばによると、ヒナがアニィに握手を求めた。

アニィは握手に答えようとするが、気が抜けた瞬間にやっと痛みに気付き、手を引いてしまった。


 「いたた…」

 「すまない、組手なのに傷を…早く手当てを」

 《全くですホント全く! 防壁で防いだから良いものの、生身だったら手から肩まで腕が真っ二つでしょうに…》


 4人は地上に降り、プリスはアニィを背から下ろすと、翼の光ですぐに治療を始めた。


 「うん…ヒナさんが本当に技を極められるなら、って思ったら…つい」

 《まあね。決まると思った瞬間、思いもしない手段で反撃されるのが怖いですからね…

  確実に隙を作らないと、決められないでしょう》


 掌の傷はすぐに癒えた。

そして両者を地上から見ていたパルが、ヒナとクロガネのある動きの事を指摘する。


 「ヒナ。さっきヒナもクロガネも、魔術を使ったよね」

 「魔術…? 私たちがか。クロガネ?」

 「ゴウ?」


 顔を見合わせて首をかしげる二人。が、思い当たる所があったのか、すぐに気づいて揃ってパルの方に向き直った。

パルの分析によれば、パッフがパルの機動力についていけるのは、単純に瞬発力を活かした短距離の高速飛行だ。

対してクロガネのそれは、魔術を行使して走行速度を上昇させているのでは…ということだった。


 「最後の一撃の時か…!」

 「うん。あたしが見た所、ヒナの方は行動を加速する魔術で…パッフ?」

 「クルル!」

 「やっぱり。クロガネは超高速で飛ぶ、あるいは走る魔術。2人で合わせてあの一撃ができたんだ」


 クロガネの超高速の突進、その瞬間にヒナが加速した動きで居合いを放つ。

魔力を籠められないただの刀剣類で、魔力による盾や防壁を容易く切り裂き、敵に必殺の刃を叩き込む、理屈を捨てた問答無用の一撃。


 「あたしが見た所、クロガネの速度は23ドラヴァイク(秒速1035メートル=マッハ3強)は出てる。

  加速した居合いの刃も同じくらいかな。よほどのことが無い限り、そう見切られないと思うよ」

 「クルルっ!」

 「…ってことは、だ」


 パルは分析を続けた。


 「ヒナはクロガネに選ばれた『ドラゴンラヴァー』ってことだね。あたし達と同じだ」


 パルの指摘に、ヒナとクロガネは一瞬呆気にとられた。

ごく普通に修行を重ねた末の技だと思っていたが、どうやら気づかぬうちに魔術を使っていたらしいと、ここで初めて理解したのである。

常軌を逸した動き…それ以前にクロガネが鉄の弾丸を吐いたことなど、明らかに魔術を行使していた。

だがヒナもクロガネも、アニィ達と同様に『ドラゴンラヴァー』のことは知らなかったのである。


 《伝わっていなかったのは、ヤマト皇国でも同じだったようですね》


 アニィの治療を終えたプリスはそう言う。

治療を終えた手を握ったり開いたりしながら、その横からアニィが尋ねた。


 「ヒナさんとクロガネは、どこでどんなふうに会ったの?」

 「……どこでどう、か。私が壊滅した里からどうにか逃げのびて、あれは…

  里からだいぶ離れた渓谷だったな、クロガネ」

 「ゴウ」


 うなずくクロガネ。当時すでに視覚を失っていたヒナは、しかし自分がいた場所のことを憶えているようだ。


 「周囲を悟る技を鍛えたからな。クロガネが助言してくれたのだ。

  それからずっと、クロガネは私のそばにいてくれた…ずっと…それこそ、生涯の友だ」

 「ゴウゥ…」


 ヒナの手がクロガネの首筋を優しく撫でる。彼女本来の人柄があふれ出る、優しい手つきだった。

そして優しい人柄を持ちながら、ヒナが復讐心をたぎらせていることをクロガネは知っている…

この後のことを想い、クロガネは友の心を憂いてため息を吐いた。


 「………そうか、我々は魔術を使えるのだな…ならば、今こそ…」


 仇を討つ力をすでに得ていたことに気付いたヒナは、改めて自らの両手を見つめた。

ヒナ自身のため、仇討ち自体は必要であると、アニィ達は思っている。

だが、その機会が訪れた今、彼女が冷静でいられるのか…当のヒナを除く全員が不安を抱いていた。


 一方で、プリスだけはもう一つの懸念を抱いていた。

アニィと出会い、邪星獣を葬り、村を出てシーベイへ、そしてヴァン=グァドからここへ…

邪星獣と闘いながらの旅は、ほんの数ディブリスでアニィをたくましく成長させつつある。

それは良い。ただ、どうにも引っ掛かる物…妙な違和感を拭えなかった。


 (何でしょうねえ…)


 振り返り、アニィの顔を見る。キョトンと首をかしげるアニィ。

今の所、彼女自身にはその「違和感」に心当たりは無いらしい。

少しずつ自身を肯定し始め、時には自ら決断して行動の指針を決めるようになった。

悪いことではないはずなのに、何かがおかしい…


 考えているうちに、一つのことに思い至った。初めて2人で邪星獣と闘ったときのことだ。

抱きつづけた怒りを晴らすかの如き闘い方、行使した魔術の規模や殺傷力。

いずれも「そういう資質があった」ということで片づけられる。だが、重要なのはそこではなかった。


 闘うことに対し、アニィはあまりにも躊躇が無い(・・・・・)


 別の何かに切り替わったの如く、容易く、微塵の恐怖も無く、アニィは闘いに臨んだ。

ヘクティ村だけではない。シーベイの街や海上、ヴァン=グァド城門前でもそうだ。

そして闘いの最中には、ある種の凶暴さすら見せる。

虐待による鬱屈があったとはいえ、そこまで簡単に踏み切れる物なのだろうか…


 アニィとは出会ったばかりである。単に性格をよく知らないだけなのかもしれない。

だが、彼女は闘いなど知らなかったはずだ。その事実が違和感をより強くしている。

何より、アニィ自身がそれを全く自覚していない。

先刻もヒナとクロガネの相手を自ら申し出て、更には刀の刃を自ら掴んでみせた。

ヒナの復讐心とはまた異なる物だと、プリスは踏んでいる。

いずれ心の健康を専門にする医師でも探し、診てもらった方が良いのかもしれない。


 「どうするヒナ、次はあたし達と組手する?」

 「そうだな。忘れないうちに…」


 パルとヒナの発言でプリスは我に返った。パルとパッフは既に組手の準備を整え、ヒナの返答を待っている。

だがその直後、全員が上空の気配―――邪悪で凶暴な無数の気配に気づいた。

見上げると、いったいいつどこから出現したのか、何頭もの邪星獣の群れが飛んでいく所であった。

ボルビアス島から見て東方向、すなわちヴァン=グァドへ。


 《行きましょう。荷物は一旦置いて、あとで取りに》

 「うん!」


 アニィがプリスの、パルがパッフの、ヒナがクロガネの背に乗り、飛び立って邪星獣の群れを追い始めた。

アニィ達が知っている限り、一度に村や都市を襲った群れの数は、補充されたのを除けば50から100頭。

だが今回は、空の分だけでも軽く見積もって500頭以上はいる。

海面を見下ろすと、全く同じ方向に向かって魚類型の群れも進行していた。

合わせれば1000頭にもなるであろうか。

ヴァン=グァドを人類の要衝の一つと見ているにしても、やや異常な数だ。

パルが焦りの声を上げる。


 「まずいよ、早く指揮官の奴を仕留めないと! この数じゃ初動で街が滅茶苦茶になる!」

 《判ってますって! というかパル、今まさにそれ(・・)の出番じゃないんですか!?》


 プリスが指したのは、パルが昨日購入した小型の望遠鏡のことだ。

パルは弓に取り付けたそれを覗き込み、前方にいるであろう指揮官個体の存在を確かめる。

兵隊に隠れてこそいるが、一回り大きな個体を視界に捉えた。

アニィ達との距離は18ドラフラプ(900メートル)。


 「いた、多分あいつが指揮官。あたしとパッフで落とす!」

 「クルル!」


 パルを乗せたパッフが海面まで降下し、水の弾丸を吐きだして海中の魚類型を吹き飛ばす。

直後、パルが矢を5本つがえて弓を引く。海水が渦を巻いて鏃にまといつき、巨大な水の鏃を作った。

レンズで狙いを定めつつ、指揮官個体へと矢を放つ。

パルの身体強化魔術、パッフの水を操る魔術、両方を帯びた5本の矢が、指揮官個体の左右の翼の付け根を撃ち抜いた。

バランスを崩し、指揮官は海面へと落下していく。


 「グルァアアアアアアッ!!」


 更にパッフが海水を集め、一個の巨大な弾丸を作り上げた。

咆哮と共に一直線に飛んでいった巨大な弾丸が指揮官個体を直撃。

醜い絶叫と共に、頭部どころか全身が粉々に爆散した。

群れの隊列が崩れ、そのうち半数ほどが消滅した。


 《まだ残っている…他に指揮官がいるってことですね。パル、見えます!?》

 「駄目、それらしい奴は見えない! 先にヴァン=グァドに行ったのかもしれない!」

 「―――角付きは!! 奴はいないのか!!」


 続いて叫んだのはヒナであった。追い求める仇がいれば、この場で仕留めるつもりのようだ。

だが、パルが覗いたレンズには角付きの姿も映らなかった。


 「いないよ! そいつは指揮官じゃないから、単独行動してると思う!」

 「単独…! なら、そいつこそヴァン=グァドに!」

 「いるかもしれないけど、ヒナさん!」


 逸るヒナを制したのは、先頭を飛ぶプリスの背に乗ったアニィだった。


 「お願い、今はこの群れをやっつけることだけ考えて。仇討ちのことは後にして!」

 「ぐむっ…」


 無意識に刀の柄に掛けた手を、ヒナはそっと下ろした。

だが露わになった口元は、悔しそうに歯を食いしばっている。


 「そっ…そうだな…判ってるっ…!」

 「パルが空中の半分を消してくれた。空と海で指揮する奴が、もう一体ずついるはず。そいつらを探して―――」


 ヒナに気持ちを切り替えてもらおうと、アニィが言いかけたその時だった。

群れのすぐ上、1ドラーム上空を、巨大な影が通り過ぎた。

筋肉質な体形、通常の指揮官個体よりさらに大きな体格。何より真下からも見える、頭部に生えた一本角と、目元の傷跡。

ヒナが追い求める、彼女の里の民を皆殺しにした仇敵。角付きの邪星獣だ。

邪悪な目が、通り過ぎていく一瞬でヒナを捕らえた。光を失ったヒナにも分るほど、邪悪な視線であった。



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